カエルくん(以下カエル)
「この映画は『どくとるマンボウ』シリーズで有名で、北杜夫が原作を書いた作品だよね。教科書にも出てくる斎藤茂吉の息子で、娘さんも作家の」
亀爺(以下亀)
「元々は児童文学として発売されたのもので、もう40年前に発売された本じゃな。当時はドラマ化もされるなど、それなりに注目を集めた作品じゃの」
カエル「意外と最近こういう映画なかったかもね。児童文学からスタートした、子供も楽しめる実写映画がさ」
亀「エンタメ重視の洋画などがその役割を果たしているような気がするの。つい最近だと、デスノートで小学生の子供が来ておったが……どうじゃろう、こっちの方が楽しめるのではないか?」
カエル「ちょっと前だと山崎貴監督の『ジュブナイル』とかもあったけれど、子供向けはアニメばかりになっちゃった印象があるね。特撮作品もテレビで大人気のシリーズ以外はあまり作られないし」
亀「残念ではあるが、仕方ないのかもしれんの。少子化が進む中では、CGなどをふんだんに使った実写というのは、採算が合わないのじゃろうな」
カエル「その中ではこの作品が一矢報いるか!? ということも注目されるかな?」
亀「その意味でも注目かもしれんな。それでは感想記事を始めるかの」
1 子供と大人の交流
カエル「まずはこの設定だよね。ダメダメな叔父さんと優秀な子供という設定がいいよね!」
亀「男の子の成長には、本人を含めて4人の人物が必要という説がある。誰だか、わかるかの?」
カエル「え? 成長する本人の男の子、あとは両親と……兄弟とか?」
亀「男の子、父、母、そして母方の伯父と言っておる人がおったの。おそらく、海外の学者であったと思うが……誰であったかは忘れてしまったかな」
カエル「母方の伯父なの?」
亀「そうじゃよ。もちろん、これは理想の話で、必ずしもこうでないといけないということではないが……その理由を説明するとするかの。
両親はわかると思うが、男の子の成長に必要なのは『もう一人の大人の男像』ということになる。ここで父親とソリが合わない、もしくは父親と性質が違う場合に、もう一人の大人の男像としての伯父という存在がいると、その子の成長に大きな選択肢が生まれるわけじゃ」
カエル「なんで母方に限定しているの?」
亀「父の兄弟じゃと、生活環境は基本的に同じだから根本的な価値観などは似通ってくるじゃろ? それでは父と違う『大人の男』にはならん。だから生活環境も全然違う、母方の伯父という話になるんじゃろうな。
これがおじいちゃんとかだと、今度は年が離れすぎているから参考にならんということか」
カエル「その意味でいうと、この作品は……父方だね」
亀「じゃが、父とは全く性質の違う叔父じゃろう? その意味では、この男の子の成長には理想の叔父さんだと思うがの」
クスリと笑えるコメディ
カエル「そんなに深いお話があるわけでもなく、大きな山場があるわけでもないけれど……クスクスと笑える場面が詰まった、いいコメディだったよね」
亀「その笑わせ方も他人を小馬鹿にしたり、下品な下ネタではないというのが好感を持ったの。それこそ、子供が見ても大人が見ても楽しめる一作になっておる。
この映画は基本的に『子供から見たダメな叔父さん』という視点で語られておる。だから叔父さんの突飛な行動や、ダメダメな行動が、子供目を介して批評されるという面白みに溢れておるの」
カエル「だいたい、3分に1回は必ずクスリとするシーンが入っていたという印象だよね」
亀「哲学者ではあるが、ぐうたらでほとんど働かない叔父さんというのを観察しているだけで面白い作品じゃの」
カエル「なんとなく叔父さんの雰囲気もあって『馬鹿よ貴方は』の平井ファラオ光を連想しながら鑑賞した人も多いんじゃないかな? あそこまでブラックではないけれど、どうしようもなさというか……」
亀「もう少し公開が遅いか、ブレイクが早ければこの役はファラオに来ていたかもしれんの」
おじさん
ファラオ
やっぱり似てる……!!
役者について
カエル「今回の役者についてだけど……主演の叔父さん役の松田龍平はすごく合っていたよね!」
亀「なんじゃろうな? あのぐうたらで、どうしようものないニートのような存在でありながら『実は大物なのでは?』と思わせる風貌というのは、なかなか出せるものではないと思う」
カエル「そうだよね。この叔父さんのキャラクターがないと、一切生きてこない作品だもんね」
亀「今回の子役は、いかにもな子役演技ではあるし、他の役者も大体『演技らしい演技』ではあるのだが、今作ではそれで正解じゃな」
カエル「リアルテイストの追求みたいな作品じゃないもんね。是枝裕和のような子役の素を映し出した素晴らしさ! みたいなものはないけれど、だからこそ一層『ダメな叔父さんと賢い子供』の対比がうまくいくというか」
亀「他の役者も下手をすれば過剰な演技なのじゃが、それが作品全体にいい方向に機能していたのではないかの」
2 作劇的な世界観
カエル「いつもだったらネタバレコーナーだけど、今作はネタバレというほどのネタバレもないしね」
亀「そうじゃの。大体予告編の通りの展開じゃし、それがほぼストーリーの8割くらい説明しておる。いや、それでいいのではないかの? この映画で大どんでん返しなど、誰も望んでおらんじゃろうからな」
カエル「じゃあ、詳しい感想というか、考察をしていくけれど……」
亀「まず、目に付いたのが『作劇的な世界観』じゃの。本作の時代設定はおそらく現代なのじゃろうが、ところどころに懐かしい雰囲気に溢れておった。
例えば家族が暮らす家など、今であんな家は結構な年数が過ぎておるじゃろ? 木造の家に住む一家など、そこまで多くもないじゃろうな」
カエル「女の子の口調なんてまさにそうだもんね。
『私は嫌でしてよ』とか『〇〇なんじゃないでしょうか?』みたいな、昔のお嬢様言葉みたいな使い方をしているね」
亀「だから、子役演技なのじゃが、それがあまり気にならん。口調自体がリアリティがないのだから、演技もリアリティがなくて正解じゃの。とにかく、この作品のコメディというのは、少し古臭いからこそ、クスリと笑えるものに溢れておった。
じゃが、少しだけ苦言もあるかの」
カエル「苦言?」
亀「古風な世界観を出すときはいいのじゃが、本屋などの最近の施設と思われる店などにいくと、途端に浮いてしまうんじゃよ。そこだけが現代じゃからの。
それがうまくできておらんように感じたの。そのあとの古本屋などは、うまくできておったのじゃがな……」
ハワイに行って
カエル「好きな人を追いかけてハワイに行くわけだけど……」
亀「この作品は派手な場面というのがないから、大きな場面転換となるとここかの。ほぼ2部構成じゃし、ある意味では『かったるい』と言われるような作品かもしれん。
このハワイまでに向かう珍道中なども面白いのじゃが……そこは割愛するとするかの。言葉で説明するものでもないしの」
カエル「あんな方法でハワイに行こうとするとは……おそらく、前代未聞だよね」
亀「そしてハワイに行った後からじゃが……ここからは……う〜ん、いいところが削がれてしまった印象かの」
カエル「そう? クスクス笑えるシーンはたくさんあったけれど……」
亀「笑えるは笑えるのじゃが、それがイマイチ伸びてこない印象かの。
それまでのレトロな雰囲気が一転して、ハワイに行くことで削がれてしまった印象がある。そこがうまく統一できておれば、また面白かったのじゃろうが……」
カエル「まあ、間延びした感もあるかな?」
亀「結局のところ、この作品は110分もやっては長すぎた、ということではないかの? アイディアはいいし、雰囲気作りも成功しておるが、大きなドラマもない中でそれだけの長時間を持たせられるものは、特にない。
これが90分であったなら、いろいろと評価はまた変わると思うがの。少し映画ということを意識してしまったのか、間延びしてしまったの」
3 万人に受け入れられやすい作品
カエル「でもさ、教育的な面もあって、中々よかったよね」
亀「普段はああいう教育映画のような面というのは嫌うのじゃが、今作は子供向けじゃし、それこそ『親が子供に向かって諭している』ようなシーンじゃからな。これでいいと思うぞ。
そこもまた、児童文学らしさに溢れておるしの」
カエル「あとは……あの叔父さんのキャラクターかな」
亀「ラストの選択も含めて、あの叔父さんというのは非常にいいキャラをしておるからの。確かに飄々としておるし、実際どうしようもなくだらしない部分も多々あるのじゃろうが……
実はどこまで計算で、どこまで本気なのか全くわからん。実は何も考えておらんようで、かなり奥底まで考えておるかもしれんからの」
カエル「そうだよねぇ……ハワイ編最後の場面とか、天然なのか計算なのかよく分からないし」
亀「その意味では昼行灯のような奥深さもあり、少年漫画であれば高い人気を誇るであろうな」
あるか続編!?
カエル「でも、この話ってやろうと思えばいくらでも続編を作れるよね」
亀「問題があるとすれば子役じゃろうが、それは何代目という風に変えていくのも話題性があるかもの。ある意味では『相棒』における、今回の相棒は女性だ! というのと同じで、おじさんの兄弟はたくさんいて……ということもできんではないからの」
カエル「それこそ役は同じでも問題ないしね」
亀「最近、こういったキャラクター先行型の映画作品というのもないしの。少し前まで『釣りバカ日誌』や『男はつらいよ』があったが、今となっては……」
カエル「そう考えると、売れそうな予感もあるけれどなぁ……釣りバカみたいな凸凹バディ物でもあるし、男はつらいよみたいな部分もきちんとあるし、しかも子役でしょ?
色々な要素を詰め込んでいるよね」
亀「時間を少し短くして、テレビで度々放送しながら続編をコンスタントに作るのに向いておると思うがの。ファミリー層に受ける、名シリーズになりそうじゃな。
こういう作品は『面白すぎない絶妙さ』も求められる。あまりにも第1作が良すぎると、どうしてもそれが基準になってしまい、続編は辛くなってしまうからの。
本作はその意味でもこの課題をクリアしていると思うぞ」
カエル「決してつまらないわけではないよね。なんていうんだろう……サザエさんやちびまる子みたいな感じっていうのかな? 覇権アニメ(面白さNo,1のアニメ)では絶対ないけれど、やってたらなんとなく見ちゃうって感じ。
まあ、この作品の売り上げ次第なんだろうけれどね」
最後に
カエル「じゃあ、最後に、何かある?」
亀「しかし、この映画を見ると誰でもあの名言を思い出すの」
カエル「……あ、あの名言ね。本当はこの記事のタイトルもそうしようとしたけれど、他のブログと被ったからやめたっていう」
亀「そう……
『これでいいのだ!』との。
実際、力強い言葉での、ギャグとしても成り立つし、そこに独特の悲哀を感じさせる、素晴らしい名言じゃの。この映画にぴったしじゃ」
カエル「それにしても……『男の子を育てるには二人の手本となる大人』か……もしからしたら亀爺と主が僕にとってのそうなのかな?」
主「おい! 亀爺! あんたまたアニメを勝手に消しただろ!」
亀「レコーダーをいっぱいにしておるのが悪い。だいたい、見ないならすぐに消せばいいではないか」
主「後で見るんだよ! 時間ができたらまとめてみようと置いておいたのに……」
亀「そのいつは、いつ来るんじゃ? 未来永劫訪れないではないか……」
カエル「……うん、多分勘違いだな」
なんとなく入れておきます