物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『フラワーショウ!』感想 メッセージ性の強い映画

ブログ主(以下主)

「今日の話題は映画『フラワーショウ!』か。ぶっちゃけ、この手の映画ってどれだけの人が鑑賞するんだろな」

 

カエル君(以下カエル)

「絶対メジャーな映画ではないからね。検索数を気にするならアリスのほうがよっぽどいいと思うけど」

 

主「アリスねぇ……なんか語ること少なそうだなぁ」

カエル「とか言いつつ見に行くとペラペラと5000字くらい語っているくせに。それで、今回は『フラワーショウ!』だけど他の候補はなんだったの?」

主「『疑惑のチャンピオン』『セトウツミ』『ブルックリン』あとは今週公開ではないけれど『好きにならずにいられない』とか」

カエル「……なんか、一癖ある映画ファンが喜びそうなラインナップだね。メジャーな作品で候補はないの?」

主「あるよ、『アンパンマン』が。アニメだし、興味が0な訳ではないけれど、さすがに一人で観に行くのはなぁ……」

カエル「……最低限の良識はあるようで助かるよ」

 

 

 1 実話をモチーフにしたお話

カエル「話をフラワーショウに戻すけれど、本作は実話を基にしたお話のようだね」

主「そうね。世界屈指のランドスケープ・デザイナー……日本語にすると庭師というのかね、その人の活躍を描いた作品らしい。けれど、日本では殆ど知られていないから、おそらくこの映画を見に行く観客の9割は事前情報が殆どない状況で見に行くと思う

カエル「その辺りは特に問題ない?」

主「ないよ。日本人にもわかりやすい環境問題をメインに扱った作品だし、単なる庭をつくるための奮闘記だから、予備知識や専門的知識は不要。どこまでが実話でどこから創作かは知らないけれど、映画として見るのであればそこまで気にならない」

 

カエル「主題は環境問題と主人公の成長物語ってことでいいの?」

主「その認識で問題ない。話としてはすごくわかりやすくて、田舎娘の庭師が都会にやってくけれど、わかりやすい敵に潰されかけて、偉い人には否定される。それでも家族や恋人の支援のもと必死にやっていくことで、最後は栄光を掴み取る。

 本当に王道のシンデレラストーリーだから洋の東西を問わず世界中で受け入れられる話になっていると思うよ。

 本来はね

 

カエル「お?」

 

以下ネタバレあり

 

 

2 映画の感想

主「個人的には映画に限らず表現って『よくわからないけれど面白い』作品が1番素晴らしいと思うのね。例えば『桐島、部活やめるってよ』とか『Magical Girl』とかさ、アニメで言ったら『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』もそうだったし、押井守作品、今敏作品なんかもそうじゃない。一度見ただけじゃ話の筋とか、何がすごいのかよくわからないけれど、よくよく考えると色々な解釈ができてすごく面白いってさ

カエル「ヌーヴェルヴァーグとかATGとかもその中に入ってくるんだろうね」

 

主「もちろん、面白ければ筋かりやすくてもいいんだけど。じゃあ救いようのない表現て何? と考えるとさ、それは『わかりやすくてつまんない話』なんだよね。分かりにくいなら考える余地があるけれど、それすらないから救いようがない。

 で、今作がまさにそれ」

カエル「……ぶっちゃけちゃった」

 

映像の美

主「最初の5分くらいかなぁ? それくらいは『これ、いいかも』って思った。自然の撮り方とか結構綺麗でさ、すごくそこに気を使っているのがわかる。観客もそれが主題だって知っているから、その絵の美しさで少し安心するよね」

カエル「『二ツ星の料理人』とか『二郎は鮨の夢を見る』でいう料理の映し方の美というようなものだよね。直接の主人公ではないけれど、その映画の中で主人公以上に大切なアイテムというかさ」

主「そこに美しさがないと全く説得力がないから、ここは合格」

 

カエル「じゃあ、何がダメだったの?」

主「……全部が過剰だったと言おうかなぁ」

 

『わかりやすい』物語

主「この映画ってすっごくわかりやすいのよ。登場人物も主人公の邪魔をする存在は全て悪役で、嫌な奴しかいないし、主人公サイドは善人で優秀な人間ばかり。それから頑張っているから誰かが必ず見てくれているし、救いの手も簡単に差し伸べてもらえる、とにかくわかりやすい映画」

カエル「わかりやすいのはいいことじゃない」

主「ただ、分かり易すぎるんだよね。例えるなら幼稚園児向けに圧縮した童話を、さらに圧縮したというかさ。前後関係も描写が少ない上に、人間像もあんまり描写されないけれど、とにかく悪者は退治されましたって感じ」

 

カエル「……どういうこと?」

主「脚本も演出もカメラワークも音楽も、すべてが過剰なわけ。やり過ぎなくらい説明してる。別に音楽も悪くないし、演出もその場面だけ見ると、まあアリかなって気がしてくるんだけど、その過剰な演出が全編通して続くのよ。

 映画って一本の流れがあるわけだから、盛り上がりがあれば、ダレ場もある。でもそのダレ場があるからこそ、そこで溜まった鬱憤やエネルギーを一気に盛り上げてクライマックスで爆発させるわけでしょ?

 でもこの映画は全部盛り上げちゃってる。だから飽きるんだよね。

 料理で例えたら全部メインディシュみたいなもので、腹がもたれているの。もういらないよって思っちゃう」

 

テンポが早い

主「まあ、それだけだったらまだいいんだけど、さらにテンポが早いのよ」

カエル「スピーディでテンポが良いってことじゃなくて?」

主「全然違う。テンポが良いっていうのは1シーンをきっちり描いた上で、それをポンポンと積み重ねていって生まれるリズムのことなんだろうけれど、この作品は間がない。間抜けな作品。

 本当ならばもう1つ何か描写がないといけない場面で、それがないのね。だから余計に違和感が際立つ結果になる。足し算のしすぎ」

カエル「足し算?」

 

主「そう。あれもこれもと足していった結果、テンポばかりが早くなっていって満足に解決しない間に次の描写へと行ってしまう。そして次の描写でもそんなことの繰り返しだから、もう観客は置いてけぼり」

 

キャラクターについて

カエル「キャラクターは? 魅力的な人とかさ」

主「いないよ」

カエル「……ひとりも?」

主「いない。全部物語のためのキャラクターだから。

 例えば主人公は悲劇のヒロインになっている時はまだマシなんだけど、その後のガーデニングにのめり込むシーンから後は、自己中心的な性格に様変わり。男が砂漠の緑化作業をしているけれど、それより私の庭を手伝ってと言って無理矢理押しかけていったりね」

 

カエル「……そこだけ聞くと映画にありがちな、行動派ヒロインって感じだけど」

主「ある程度は身勝手じゃないと話が進まないから、それはそれでいいんだけどさ。結構な重労働を肌を晒しながら作業していて、当たり前のように怪我をするんだよね。せめて長袖やズボンくらい履けよって。それを破って怪我したならまだわかるけど、ショートパンツで足を怪我したら当たり前だってね。

 1番酷いのはガーデニングの入り口であるゲートを作っている時だけど、主催者側の『安全基準は守ってもらう』という至極まっとうな意見を、まるでイチャモンのように聞く耳を持たないんだよね。それに対する回答が『崩れるわけがない、崩れるなら似たような石を積み上げた遺跡類はこの地上にないさ』とか『正確な数値は不明だよ』とかなわけ。

 こんなの日本でtwitterで発信しなよ。たちまち大炎上するから」

 

カエル「……あー、擁護のしようがないね」

主「それがほぼ全編にわたって、殆どのキャラクターがこのレベルの描写だから、好きになるなんて不可能だよね」

 

総論

主「結局、この映画って全てがその場しのぎのご都合主義で作られているわけ。エチオピア編もあんなに長く尺を取る必要があったのか疑問だし、ラストのパーティに入れてもらえない理由もよくわからない。全てがよくわからないんだけど、その場のシーンだけで作られて、後から適当につなぎ合わせましたって感じ。

 音楽もそうだし、演出もそう。この製作陣に何らかのトラブルがあったのでなければ、ちょっとどんな意図があったのか、問いただしたいほどの作品だよ。もっと酷いのはいくらでもあるだろうけどさ」

 

カエル「……でもこの映画って、環境問題を扱っているんでしょ? そこの問題提起とかさ、社会性とかメッセージ性とか……」

主「そこが1番問題なように思うけどね……」

 

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3 『環境問題』を提起した映画として

主「ぶっちゃけさ、日本人にはこの映画って理解が難しい映画だと思うんだよね」

カエル「……というと?」

主「『自然のような庭を作りたい』っていうけれど、それは日本人が何百年も前からやってきたことじゃない。しかもさらに言ってしまえば庭をつくるという行為が、すでに自然ではないわけよ」

カエル「それを言っちゃう?」

主「じゃあ映画の中で自然なような庭が再現できているかというと、そうでもないんだよね。そりゃ、相手のバラのベットよりはいいと思うけれどさ、明らかに優勝だなっていう魅力が伝わってこないの。もしかしたら、自然派の庭が少ない西洋ならばあの庭でも驚愕なのかもしれないけれど、日本人にはその良さが伝わりにくい」

 

カエル「でも環境問題に対するメッセージが込められているんでしょ?」

主「込められているけれどさ……まあ、やりすぎなんだよね。それがあまりにも直接的すぎるし、かなりオカルトが入っている。

 この作品ってさ、ある種の宗教映画なんだよ」

カエル「宗教映画?」

主「そう。『自然は美しいよ』『自然を守ろうよ』という教義を掲げて、それに対して一切の疑いを抱かないような宗教映画。必ず主人公にはオカルトじみたミラクルな出来事が起こるし、相手は悪人で、味方は全員善人で、周囲に迷惑をかけても教義を実行できればそれでいいっていうね。

 環境問題に対してすごく強くメッセージを発しているけれど、それがテーマとして強すぎるから、観ている側としても『はいはい』って感じなんだよね

 

カエル「環境を守るのは大事なのは理解しているけど……ていうことだね」

主「ほら、一部の環境保護団体ってもう宗教団体と変わらないじゃない。クジラ問題もそうだけど、なんでダメなのかがよくわからないけれど、ダメらしいし、数を制限しても全部ダメっていうさ。建設的な議論もできないし、自分の考えることが絶対で正しいから、あらゆる妨害行動を平気でやってくる。

 この映画の登場人物からは似たような心理を感じるよ」

 

 

最後に

カエル「ふ〜ん……予告編を見たときはそんな気もしなかったけれどね」

主「予告編はマイルドに、うまく作られていたからね。実際はかなり直接的に環境問題を訴えるだけで、映画にもなっているか疑問だね」

カエル「ちなみにさ、カエルは出てくるの?」

主「……? いや、動物はあんまり出てこないけど?」

カエル「なんだよ! 自然を扱っているならカエルくらい出してよ!」

主「……そこは評価に関係していないけれどな」

 

 

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