物語る亀

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物語愛好者の雑文

へうげもの 22巻感想と『ひょうげ』と『かぶき』に思いをはせる

亀爺(以下亀)

「……カエルよ、なんで主はあそこで膝を抱えて丸まっておるのだ?」

カエルくん(カエル)

「……そっとしておいてあげてよ。実はね、さっきトルネの外付けHDDの容量が一杯になったから交換したんだって。その時誤ってね、データが全部消えちゃってさ……」

 

亀「……となるとテレビ放映時に録画した『バタフライ・エフェクト』や『クレイジージャーニー』も?」

カエル「もちろん大好きな『ピンポン』のアニメも『SHIROBAKO』も『Fate/Zero』も」

亀「まだ5話くらい溜めていた『真田丸』や笑っていいともの最終回も?」

カエル「『ふらいんぐうぃっち』や、まだ全話は見ていない『クロムクロ』や『キズナイーバー』も、一部の夏アニメの1話も全て消えちゃった」

 

亀「……それはなんというか、そっとしておいてやるかの」

カエル「そうだね……僕たちは静かにへうげもの22巻を取り上げようか」

 

 

へうげもの(22) (モーニングコミックス)

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 大阪冬の陣、和睦へ

カエル「真田丸もそうだけど、戦国時代を扱った作品は大阪までくるともう終わりだなって気がしてくるね」

亀「そうじゃの。特に大坂冬の陣は和睦とはいえ、徳川対豊臣で言えば痛み分けじゃからな。いかに豊臣秀吉が作り上げた、大阪城という要塞が難攻不落だったのか、よくわかるものになっておるの

カエル「この真田丸も少しは大河を意識しているところもあるのかな?」

亀「さあの。じゃが、大坂冬の陣といえばやはり真田丸を用いた防御方法は有名じゃから、特に関係ないかもしれんの」

 

カエル「結局、この戦いは和睦して正解だったのか、失敗だったのかな? 一応有利にはことを勧めていたわけでしょ?」

亀「……難しいの。北條を参考にしてもわかる通り、籠城戦で大切なのはまず城内の意思が一致しておること。お互いに足を引っ張りあってはどうしようもないからの。その意味では豊臣方は既に分裂しておる。

 それに籠城戦というのは単なる引き延しの戦略でしかないからの。味方が来るわけでもなく、食料、弾薬には限りがある。一応大阪周辺の米は買い尽くしていたとしても、徳川方は補給はいくらでも可能なわけじゃからな。その意味において、北條と全く同じ失敗をしてしまったと言えるの」

 

カエル「じゃあ、やっぱりあの戦いにおいて豊臣の勝ち目はない?」

亀「……というよりも、あの状況になった時点で勝ち目はないの。『勝敗は始まる前から7割決まっている』というが、もはや幕府を作られ、二代将軍徳川秀忠に権力も譲渡済み、日本各地で要となる城などを次々と作られるなど、もう豊臣にそれを覆す力は残っていないと見た方が良かったじゃろう

 だから大阪の戦いは冬も夏も、豊臣最後の意地を見せた戦いと見た方がいいとわしは思う」

 

 

堀を埋められる

カエル「その後の交渉も結果からすると、徳川が何枚も上手だったね」

亀「この辺りは徳川の強かさを感じるの。小牧長久手の戦いの恨みをここで果たしたというか」

カエル「どういうこと?」

 

亀「小牧長久手の戦いの戦いは織田、徳川連合と羽柴の戦いじゃが、戦自体は徳川の優勢だったにもかかわらず、織田と羽柴が和睦を結んだことにより、大義名分がなくなって徳川も兵を引いた、いわば秀吉の『政治的勝利』の戦いじゃ。軍事的強者が必ずしも覇権を握るわけではない、ということじゃな。

 もちろん、大阪冬の陣では強者は徳川なのは明白じゃが、その後の政治的戦略においても勝利を収めておる。完勝、といったところかの。ここで戦力差を見極められるようならば、豊臣も滅亡しなかったじゃろうが、なまじいい勝負をしてしまっただけに見極めが難しくなってしまったの」

カエル「戦略眼のない将の集まりならば、いっそボロボロに負けて良かったかもしれないけれどね」

 

blog.monogatarukame.net

 

『ひょうげ』と『かぶき』

亀「この巻ではいよいよ織部の弟子や、後の時代の者たちが素晴らしい仕事を納め始めたの

カエル「そうだね。阿国のかぶき踊り、俵屋宗達の絵とかね」

亀「あの辺りは強く印象に残るし、勉強になるの」

 

カエル「まずは阿国に話を絞るけれど、若さがなくなってもさらに味を追求してきたね」

亀「世阿弥の書いた最初の能芸論書として名高い『風姿花伝』の中の、二十四、五という欄にある言葉を、わしなりの現代語訳をするとな、こう書いてある。

 

『この時期は若さもあって珍しい芸と人気も出るかもしれないが、それは一時のものである。確かに名人にも勝つ芸もするかもしれないが、その若さや物珍しさはいづれは失われるものだから、この時期でしっかりと練習しなさい』

 

 まさしく阿国のかぶき踊りとは、この言葉に尽きるものじゃった。若くて色気のある女子の踊りだから人々も喝采したが、年を経ると誰も見なくなる。だからこそ、古来から続く猿楽の要素を取り入れ、新しきものを作り上げたのじゃな」

 

カエル「それでも失われない意固地な意地がまた、阿国の魅力だよね。それまでどうしても好きになれないキャラクターだったけれど、この巻でまた見る目が変わったよ」

亀「ゴロツキにはゴロツキの意地がある。これは名言じゃの。阿国が立ち上がって、織部を見下ろしているコマなどは、この瞬間だけでも『ひょうげ』が『かぶき』を凌いだかもしれんというコマで、本当に良かったわ」

カエル「もしかしたら、作者の『ゴロツキの意地』っていうメッセージ性も少し含んでいるのかもしれないなって思わせられた名シーンだね」

 

俵屋宗達

カエル「こっちも大きく変わったね。それまで頭でっかちの理論派だったのに、それを大きく覆してきた」

亀「根本的に、表現とは過去にあるフォーマットを踏襲しながらも、それを否定して新しいものを創り出すもの、じゃからな。よく創造という言葉があるが、創の字には『傷がつく』という意味もある。絆創膏などがそうじゃな。

 傷をつけることも厭わず、造り上げる。それが創造の言葉が持つ意味じゃな」

 

カエル「それなら、俵屋宗達の葛藤ってまさしく『創造的』なものなんだね」

亀「そうじゃな。恩師や友の嘲笑をも跳ね除けて描き切るその創作意欲、それこそが創造的行為ということじゃろう。この話だけではないが漫画や時代劇の常識をぶっ壊して、一歩間違えたら馬鹿にされるような『ひょうげ』たシーンを創り出すなど、作者の姿勢は見習わねばならぬな

 

カエル「その結果、又兵衛が出て行っちゃったね……」

亀「……そうじゃな。これは絵描きにしかわからんというセリフもあったが、それまで下に見ていたものが一気に自分を追い越す瞬間、そして自分が見つけられない新たな表現を、他の誰かがやり遂げていく。その心理というのは推して測るべしと言ったところかの」

 

 

最後に

カエル「でも、もう冬の陣も終えたってことはもう少しで終わるってことだよね。なんだか寂しいなぁ」

亀「いつかは全て終わるのじゃよ。こればっかりは仕方ないの」

ブログ主「その通り!!」

 

カエル「わぁ!! あーびっくりした……もうデータは吹っ切れた?」

主「もう過去のことは忘れて、未来のことだけ考えていくさ! 収集物が燃え尽きてたからこそ一皮むけた、俵屋宗達のように!! さあ待てよ、未来の名作達!! わたそが次々生み出してやるぞ!!」

 

カエル「……変な宗教でも始めたかな?」

 亀「吹っ切れたというよりも、やぶれかぶれじゃの。どのみち、名作を書くにはまだまだ遠そうじゃな……」

 

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