物語る亀

ネタバレありの物語批評

へうげもの 21巻 感想 マンガ表現の可能性を広げる旅 ネタバレ注意

 このブログを書いている現在からするとへうげものの21巻の発売はもう4か月ほど前であり、今更感想記事をあげるのもなんなのだが、やはり何度も考えてどうしても書きたいことがあるので、今回あげることにした。

 ちなみに2015年ではNo,1の衝撃を受けたのはこの漫画だった。

 

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 以下ネタバレあり

  今、私は漫画文化において最も『攻め』の姿勢を感じている漫画が『へうげもの』である。この漫画をすべての表現者、特に歴史物を扱う人には読んで欲しいとすら思っている。

 これほど型破りでありタブーをおかしながらも、表現として『未知の領域』に近づいている漫画は他にないからである。(詳しくはいずれ書く)

 

 

 21巻はいよいよ方広寺の鐘の文言が問題となり徳川がイチャモンをつけ、大阪豊臣家が立ち上がってしまった。しかし、この漫画を読んでいると徳川家康が天下を取るに最も驚異的な部分は、誰よりも長生きしたことというが、その恐ろしさがよくわかる。

 確かに前田利家、蒲生氏郷が生きていれば関ヶ原の戦いも別の形になっていただろうし、加藤清正などの有力大名も次々と亡くなっており、関ヶ原経験者で大坂の陣にも出陣した将は一体どれくらいになるのだろうか。確か半分もいなかったように思う。

 そういった有名武将だけでなく、大久保長安のような政治的な人物も次々と亡くなっているのだから、徳川による暗殺説を噂されることはある。

 

 古田織部曰く「大阪城はかぶき城と化してしまった……」というほどに大阪の城内は混迷の一途をたどる結末となってしまった。粋とかぶき、似ているようでまったく違うこの両者によって大阪が雅な文化で花開き、それにより滅亡のきっかけになってしまうという残念な結果となってしまった。国を治めるために必要なのは武力や金だけでなく、文化という見えざる力も大いにあるとこの漫画は示しているが、それすらも変えてしまう家康、恐るべし。

 しかし質素であること、最低限に研ぎ澄ました美を追求した千利休を思えば、結果的に豊臣家を滅ぼした一端を担うことになり、恨みを晴らすことができたのかもしれぬと思ったり。豊臣の文化も残っていれば大したものだったのに、殆ど現存しないとは悲しいものである。

 

 そして2015年最大の衝撃だったのはこのシーン!

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 古田織部の構え!

 このレビューを何気なしに読んでいる方は「……は?」と思われるかもしれないが、このへうげものは古田織部が試行錯誤しながら、己が望む『乙の表現』を目指している漫画である。過去の偉人が作り上げた名器というものは全て『甲のもの』であり、確かにそれは素晴らしいものであるが、織部がやりたかったのは『面白き乙のもの=超2流』なものを創作することである。

 それだけならばわかるのだが、この作者はそれに飽きたらずに自らが求める表現というものを織部とともに追求してしている!

 

 本来、時代劇や歴史物において大きなタブーとされているのが現代的な要素を取り入れることである。例えば秀吉が中国大返しの際に本能寺の変をなんで知ったかというシーンにおいて、スマホを使い始めてしまったらそれはもうギャグである。こんな描写は時代劇として認められるはずがない。

 だが、本作はそのギリギリのラインを攻め、人々を一笑に導きながらも、乙な表現を次々と繰り出している。信長、利休、秀吉の最期の場面もとんでもなく震えたものであるが、このシーンは漫画の中では展開に大きく影響しない、何でもない一場面のはずにも関わらず、これほどのトンデモナイ表現を駆使してしまっている。

 

 私はこのコマを見た瞬間に、大きく笑い転げてしまい、その次に出た言葉が『参った!』であった。これは時代劇の新天地をいく漫画だし、ギャグ要素は強いもののシリアスな歴史漫画でここまでやるとは全く思っていなかった。それが単なる悪ふざけで終わっていたら底の浅い一芸になるのだが、21巻かけて取り組んできた『本当の表現』にこちらの胸が震えるのだ。

 

 かと思えばこのギャグのシーンのみでなく、「笑うて泣いて恥をかき……意味のわからぬことにでも 興じてみよ さすればいかな立会いでも心乱れず…… 私の勝てる隙などのうなろう」という言葉を添えることにより、話が浮かずにまたしっかりと地に戻っている。

 この話の飛び方、そして着地というのは本当に尊敬する。

 

 

 これがどうしても書きたかったので発売から4か月ほどすぎたが、こうしてブログに書かせてもらった。ここから先、あとは大阪の陣を迎えるのみである。結末はわかっているが、作者がどのように終えるのか注目していきたい。

 

へうげもの(21) (モーニングコミックス)

へうげもの(21) (モーニングコミックス)

 

 

へうげもの(1) (モーニングコミックス)

へうげもの(1) (モーニングコミックス)

 

 

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