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物語る亀

ネタバレありの物語批評

当て屋の椿 12巻の感想 鳳仙の過去は決着、そして椿の過去へ!

  当て屋の椿の新刊が発売したのでその感想を書いていく。個人的には2巻の時点から好きな作品で、楽しみにしている作品だが12巻で95万部って漫画としてどうなんだろう? 少年漫画の桁違いの売り上げを見ているから、青年誌の売り上げってよくわからんのだよなぁ……

 1巻はこちら。

 

当て屋の椿 1 (ジェッツコミックス)

当て屋の椿 1 (ジェッツコミックス)

 

 

 

 1 『夜鳴く』編終了

 主人公の鳳仙の過去と因縁を描いた夜鳴く編が、この巻で1つの区切りを迎えた。

 11巻にて母の不貞と父の一家心中、その中で唯一生き残った鳳仙の過去が明らかになったが、今巻でそれも1つの決着を迎える。それはやはり、この作品らしく悲しいラストになってしまった。

 

 簡単に11巻の内容を振り返ると、御用絵師の父を持つ糸葱ともに絵師の家に訪れた鳳仙だったが、そこにいた御用絵師の秋海はすで狂人とかしていた。それでも誰かがその素晴らしい絵を描き上げている。

 その実質的な秋海の絵を描いていたのは柾という男だったのが、ある日の晩に柾は惨殺されてしまう。狂人とかした秋海の家ではそういうことが時折起こり、誰が殺したからわからないが、鵺という化け物が殺したという伝説も生まれる。秋海自身も自ら弟子に傷を負わせたりと、正気の沙汰ではない行動をしているために、より事件は混迷を極める。

 そしてその鵺が正体を現したところで11巻は終了。

   

 鵺の正体とは秋海の息子であり、糸葱の弟である白茅だった。

 その手は骨が剥き出しとなり、両の掌がなくなっているから腕の骨が露出している。その姿はまさしく異形のものであるが、元々白茅がそうなってしまった原因はその身に宿る圧倒的な業と才能であった。

 初めて筆を持って描いた襖絵は、あまりの迫力に卒倒し、その日の夜に腹を切る者が現れるほどで、秋海もその才により狂い、狂人とかしてしまった。それほどの才能の裏には、一休でも有名な『絵の中に虎を閉じ込める』を実際に行おうと、猫を惨殺するほどの強い執念と観察力があったからに他ならない。

 

 このあたりの話は2巻に収録されている『浄瑠璃心中物語』とほぼ同じ構成をしている。例えば圧倒的才能を持つ絵師(2巻では人形師)のモチーフにしていたのは死体であるという共通点や、福寿と糸葱という2人の女の業というものはほぼ同じだ。

 その最大の違いがあるとすれば、そこに鳳仙自身があまりにも濃く関わっているか否かということだ。

 私はこの作品で1番好きな話はこの『浄瑠璃心中物語』なのだが、どことなく心中の美しさがある2巻に比べて、今回の夜鳴く編はバトル要素が絡んでしまったからか、その美しさは影を潜めてしまった。

 

monogatarukame.hatenablog.com

 

 

2 女の業

 この作品でよく挙がるテーマが『人間の業』だったりする。

 その中でも特に多いのがやはり『愛』に関する業だ。主人公、鳳仙の過去に出てくる母親は可愛らしく美しい女性であったが、不貞をし、父に惨殺されるその間際、必死に生き残ろうと幼い鳳仙に縋り付き、何としても生き残るために信じられないような行為を始める。

 その際の出来事がトラウマとなり、鳳仙は女性の中に美を見るよりも、醜悪な業を見えてしまうようになった。だが、逆にそれが鳳仙の絵を上げて、春画師としての名を大きく上げることになった。

 そういう意味では鳳仙もまた、自らの壮絶な経験を持っているからこそ名を挙げた絵師の1人と言える。

 

 そして女の業だが、糸葱の中に眠る業が特に良かった。

 鳳仙と再会し、その春画師としての腕前の高さに目をつけた糸葱は過去の好意もあって、次の『秋海』としていて欲しかった。実際に糸葱の絵師を見る目は相当なもので、柾にしろ白茅にしろ、その描く絵は見事なもので御用絵師という名前をペテンがとしても守りきることに成功していた。

 だが、彼女の本心は「あえたのが嬉しくて 甘えたくて あなたをここで飼い殺そうとしたの」という非常に強い独占欲だ。

 

 これは2巻の福寿と同じで、福寿の場合は恋人である八葉の死の際に

「私なら捜し出す 髪の一本だって 誰にも渡さないのに」

という強い執着をみせた。この2人の中にある執着というものは同質のものではあるが、しかし糸葱には圧倒的にその量が足りなかった。

 福寿の場合はその巾着袋に毒を忍ばせ、殺した上で、もしかしたら心中することすらも考えていたことに比べて糸葱にはそこまですることはできなかった。

 これが絵師でありながら、鳳仙たちほどの絵を描き上げられなかった原因なのだろう。

   

3 守ろうとしたもの

 秋海は自らが息子という才能の塊であり、化け物を生み出したことを理解していた。だが、例え化け物であろうともそこいるのは息子である。秋海は家を守られなならない立場である上に、さらに息子を守らねばならぬという矛盾を抱えてしまっていた。

 糸葱は家を、家名を守ろうとしていたが、そこに鳳仙を巻き込んでしまうことに対する抵抗感があった。そして弟も守りたかった。

 こういった歪みがこのお話を彩っていたのだろう。

 そのラストはとても悲しいもので、結局のところは誰が救われたわけでもない。当て屋の椿という作品は救われない話が多いが、今回もその1つとなった。

 「本当ってのはね 本来の道筋 あるべき姿って意味なんだよ」

 この椿の言葉が心に残る。

 

 当て屋の椿は結構お話がグチャグチャとしていて、感想記事や考察向きではないと思う。何せ訳わからん部分が多いし、説明しているようであんまりしていない場面も多々あるからだ。

 だが、人間の内面ってのは本来そういったもので、理路整然とした物語では語れない魅力がある。

 私はこういった作品が12巻も発売していることが非常に嬉しい。

(それが吉原という裸体とまぐわいを描くのに都合よく、女性の裸体が毎度のように現れるからだとしてもね)

 

 次回からはいよいよ椿の過去に迫る過去編。

 また半年ほど待つとしよう。

(でもあのバトル要素はいるのかな? 主人公サイドでバトル要因がいないと思うが……)

 

当て屋の椿 12 (ジェッツコミックス)

当て屋の椿 12 (ジェッツコミックス)