カエルくん(以下カエル)
「さて! 久々の小規模公開映画の話だよ!」
ブログ主(以下主)
「春休みからGWにかけて大規模公開映画に注目作品が集まったこともあって、あんまり小規模公開映画に手が回らなかったけれど……
小規模公開映画って結構大当たりか大外れかの博打的な要素もあるけれど、洋画の場合は『なんでこんなにいい映画が小規模なんだろう?』と思うものもあったりするよね」
カエル「どうしても洋画はアクションやSFが注目を集めるからね。アカデミー賞とか、そういう肩書きがあればまた変わるんだろうけれど……」
主「何回か言及しているけれど、日本の場合って1年に1回も映画館に行かない人の方が割合が多くて……映画が好きで何回も映画館に行く人がいるからなんとかなっているけれど、実際はもはや娯楽の王様ということができなくなっている。
そして1年に1回でも映画館に行く人が今回扱う『はじまりへの旅』を見に行くかというと……それは難しいよねぇ」
カエル「そうなってくるとやっぱりアクション大作映画とかが大規模上映されることになるよね」
主「映画の面白さってたくさんあるからさ、本当はアクション以外にも色々な映画を大規模上映することって大事なんだけれど、1年に1回しか映画館に行かない人をどのようにして劇場に送るのかは……映画業界が抱える悩みなのかもしれないね」
カエル「それじゃ、感想記事を始めようか」
1 ざっくりとした感想
カエル「じゃあ、本作の感想だけど……」
主「なんとなくあらすじを読んだ時は、もっとコメディ寄りなのかな? って思っていたんだよ。ヒッピー家族が騒動を起こしながらも、母の葬儀に向かうというお話だけ見ても……そしてあのポスターを見てもさ『ミスタービーン』とかのような、おかしな人が巻き起こす面白おかしい物語だと思ったら、実は結構シリアスな物語だったというね」
カエル「しかも起こす騒動も笑いに満ちたものだと思ったら、本当に警察沙汰になりかねないガチの大騒動でさ!」
主「ここをどう見るかによって、この映画の評価って変わる気がする。全てを見終えたら『なるほどな』と思うけれど、上映中は『いや、ドン引きですわ……』って思いがあったし。
だけどそのドン引きな部分がうまく使われていて、それはそれで面白かったんだけどね」
カエル「良くある『風変わり一家の珍道中!』だと思ったら面食らうよ。その意味ではポスターや予告編詐欺でもあるのかな? 結構明るいお話のように演出されていたけれど、実際はそこまででもないしねぇ」
主「これも最近ちょくちょくあった予告やポスターを見て映画館に行く層と、この映画が刺さる層が違うという問題? の1つかもしれないなぁ。
面白いし、意義はあるし、社会性も、哲学性もあるんだけれど……事前の準備が全くできていないと、印象が違うから戸惑うことになるかもね」
本作の子供たち。左からサージ(三女)ナイ(三男、末っ子)ボウ(長男)レリアン(次男)キーラー(長女、双子)ヴェスパー(次女、双子)
役者について
カエル「今回は家族の物語ということもあって、子役も含めて色々な年代のキャストが出てくるけれど、特に子供が印象に残るんだよね!」
主「今作のMVPは間違いなく子役たちでさ。
特に三女のサージ(シュリー・クルックス)が深く印象に残った! 女の子の中では1番下の子なんだけれど、チャーミングなルックスもさることながら、さらりと吐く毒舌がよくて……
しかも、今興味があることが『死』でさ。ことあるごとに死にまつわることを口にするんだよね。そのギャップが可愛らしくて!」
カエル「彼女の放つ存在感とか、素晴らしかったよね」
主「やっぱり子供勢は印象深いよ。もちろん子役の中では1番重要な次男のレリアン(ニコラス・ハミルトン)もいい演技だったし……
日本の子役はあんまり好きじゃないけれど、海外の子役は自然に見えるというか、作り物感がないから好きだね」
カエル「もちろん、主役でありお父さんのベン役のヴィゴ・モーテセンも存在感あったし、その浮世離れした雰囲気が作品世界観と見事にマッチしていて、すごく良かったよね」
主「あの派手な衣装だったり、ヒッピーな格好とかが全てこの映画にいい味をもたらしていた。
本作は『教育』と『倫理』と『常識』が大きなテーマなんだけれど、その象徴としてのベンの存在というのが際立っていたよ」
以下作中への言及あり
2 教育と倫理
カエル「じゃあ、作中に言及していくけれど……この作品の主題ってやっぱり『教育とは何か?』ということになるのかな?」
主「そうだね。街の中で学校の基礎教育を受けて暮らすことと、森の中で独自の教育を受けて暮らすこと……その差にどれだけの違いがあるのか? どちらが正しいのかを問うた作品なんだけれどさ。
この映画を見ている時、1冊の本を思い出したのね」
カエル「本? いったい何?」
主「五味太郎の大人問題」
主「簡単に説明すると、絵本作家の五味太郎が書いた教育に関する本なんだけれどさ……絵本作家が書いたとなったら、普通は『子供の初等教育のやり方』なんてものが書いてあると思うじゃない? こうすると子供はいうことを聞きますよ、とかさ。
だけど、本作は全く違う。五味太郎って自分は天才だと思うんだけれど、そのタイプは『狂人と天才は紙一重』のタイプの天才なのね」
カエル「というと、この本ってベンのような教育法について語っているわけ?」
主「五味太郎は『学校なんて無意味だから通わなくてもいいよ』と語っているんだよね。
『近くに住んでいるから適当に集められた集団で学ぶことに、なんの意味があるの?』って。そこに住んでいるからって半ば強制的に集められて、1日8時間以上の拘束を、何年もやらされて、臨んだわけでもない勉強をさせられる……
大人がそんなことを政府や自治体にやられたら暴動モノでしょ? だけど、子供には簡単にやってしまう……これは確かに考えてみればおかしいことだ。
それを言うだけじゃなくて、実践もしていて……子供が2人いるんだけど、長女は高校中退、次女は中学を中退しているらしいんだよね。まあ、中学中退はできないから、実際は卒業はしているんだろうけれど。もちろん、本人が辞めたいから辞めたらしいし、家庭科などの好きな授業だけは出たらしいけれど……」
カエル「それは実践するのはすごいことだよね……」
森の中の生活は結構過酷……
学校の意義
主「だけどさ、そもそも論をいうと……学校に行くことの意味ってなんだろう? って話でさ」
カエル「それは勉強を学んだり、集団生活を学んだりすることじゃないの?」
主「本作のように家でいろいろと教えられるなら、勉強は理由にはならないんじゃないかな?
自分は学校の役割って学歴が必要になるもの……つまりサラリーマンや公務員、あとは医者とか弁護士とか、そういう組織の中で生きるには重要な修行の場になっていると思う。つまりさ『サラリーマン(組織人)養成学校』でもあるんだよ。
だけど職人とか、漁師、農家とかって別に学校に行く必要があるかというと、必ずしもそうではないんだよね」
カエル「学歴が必要な職業ではないよね」
主「そう考えると、ベンの教育法って間違ってはいないわけだ。
よく勘違いされる『義務教育』の意味だけど、これは『子供が教育を受けたいと思ったら教育を受けさせる義務を親が負っている』という意味であって『勉学は子供の義務である』という意味ではない。
子供は権利を有しているだけで、それを行使する必要はない。
だから不登校児って言葉はおかしいといえばおかしいわけ。権利を放棄しているだけなんだからさ」
カエル「そういう考え方は一般的ではないよ」
主「でも……時代が違うかもしれないけれど小学校を出て社会に出て、立派な職業についた人もいるわけじゃない? 池波正太郎とかは小卒だけど、江戸文化などに関して深い洞察力を持っている。
じゃあ、学校に行かないことってそんなに悪いことなの? ということになってくる」
カエル「その辺りの『教育と倫理』についても本作のテーマだよね」
眉を潜めてしまう問題行動もちらほら……
集団生活と学校
カエル「ベンの教育方法って間違いではないということなのかな?」
主「自分は間違いだとは思わないよ。
集団生活云々っていうけれどさ……学校に送られて好きでもない先生や大人たちの言うことを聞かせられて、何の役に立つのかもわからないまま勉強を教えられて、貴重な若いうちの時間を浪費してしまう。
そんなことはおかしい! と思う人が現れても、何の違和感もない」
カエル「う〜ん……」
主「例えば『あなたの子供を会ったこともない他人に1年間任せろ』って言われたら、難色を示す親だっているでしょう? 学校ってそういうことを平気でしてくる。だけど『学校に勤める教師』と言うだけで何となく信用してしまう。
自分が学生時代の頃を思い出してごらんよ。そんなにまともな大人達ばかりじゃないと思うから」
カエル「でも友達とかも……」
主「学校の友達がなんだというのさ? さっきも言った通り、近くに住んでいるからって適当に集められた集団だよ? 確かに仲良くなる子もいるけれど、いじめもあれば色々なことがある。
いじめで自殺する子供もいるけれど、そこまでして通わなければいけないものなのか? と云う問題でもある」
3 親が子供に残せるもの
カエル「でもさ、ベンの教育方法だって極端すぎるじゃない?」
主「親が子供に何を残せるのかっていう問題でもあると思うんだよね。
それは継承問題でもあるわけだけど……例えば、亀田3兄弟だったらボクシングしか教えられないからそれを教えてきた。それで世界チャンピオンになっている」
カエル「1番わかりやすいのが財産とか、地位とか、あとは職業とか家業になるのかな? それだったら何の変哲もない、普通のお話になるわけだけど……」
主「だけど、本作では『教育』と『生き残る力』を与えるわけだ。
それが親として最も重要だと考えたからであり、それを継承させてあげたいということだ。
これが森の中のサバイバル術ではなくて……例えば今ならフィギュアスケートとか、あとは野球、サッカーの熱血指導とかなら一流になる人に良くある成功秘話みたいなものじゃない?」
カエル「それがちょっと行き過ぎちゃっただけかもね」
主「行動自体には問題がないとは言わないけれど……決して間違いとは言い切れないところが、この映画のミソなんだろうな」
子供の成長と親
主「今作で面白いのは、父親に反抗するのは必ず男の子なんだよ」
カエル「……確かに反旗を翻したのは次男だったり、長男も自分のやりたいことを見つけて悩んでいたね」
主「今作における2つの挑戦……つまり『旅』と『親への反抗』なんだけれど、これって男の子の成長には絶対に必要なものだと思うわけ。
次男なんてあれは単なる反抗期と見ることもできるけれど、実はこの期間ってすごく大事」
カエル「そういえば多くの青少年の成長物語も、親への反抗だったり旅を描いているよね。有名なところでは『スタンド・バイ・ミー』なんかもその要素があるし」
主「可愛い子には旅をさせよとか、獅子は谷から子供を落とす……みたいなことってよく言われるけれど、これってその通りだと思う。男の子にとっての反抗期というのは自立の最大のチャンスなんだよ。
それまで育てられてきた環境に疑問を抱き、自分の人生を見直していく……そしてそのうちに色々なやりたいことや手法を見つけて、それを実践していく。親の元にいると、それってなかなか果たされないんだよね」
カエル「どうしても親の言うことを聞いてしまうもんね」
主「小さい頃からずっと育ててきた子供だからさ『そんなに賢いわけがない』とかって親としては思うかもしれないけれど……それは全然違う。
子供というのは親が知らないうちに成長する。
特に、男の子が成長する瞬間って一瞬だと思うんだよね。その一瞬を描いた映画が『スタンド・バイ・ミー』であったり、最近だと『シング・ストリート 未来へのうた』などに代表される青春映画だ。
これは残念なことなのかもしれないけれど、その一瞬を親が目撃することは……ほとんどないと思う。なぜならば、それは親という存在がいないからこそ、その庇護者がないからこそ起こるものだから。そこで様々な経験をして、苦難もあって、そして大人になる……
そういうこともきちんと描いた映画だよね」
最後に
カエル「思っていたのとは違うけれど、全体的には良作だったよね!」
主「評価が高いのもうなづけるし、賞レースに勝っているのもわかる。
小規模公開映画らしい、ちょっと癖はあるけれどそれ以上に教訓などがしっかりと詰まった作品だよ。
この映画を見る前に昨年公開された『グッバイ・サマー』を見ていたけれど……やっぱりこういう『男の子が成長する瞬間を捉えた映画』って大好きだな。
ただ、欲を言うと6人も子供たちがいながらも若干空気というか、そこまで個性を感じなかった子もいるから……そこだけはちょっと思うところがあるかも」
カエル「冷静に考えてみるとこの両親、結構頑張ったよね」
主「……確かに子供を6人しっかりと育てようとなると、街の中の生活よりも壮大な自然の中で自給自足で暮らしたほうが理にかなっているのかも……」
カエル「意外とリアリティのある映画なのかもね」
主「時々ならやってみたいなぁ……都会の生活に疲れた大人の憩いの場として人気が出ると思うけれど」
カエル「……定年後に農業を始めるおじいちゃんみたいなことを言ってら」
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