カエルくん(以下カエル)
「いよいよ今週、聲の形の公開だね! 君の名は。が注目されているけれど、この作品が君の名は。の3週連続1位を落とす可能性は十分あるんじゃない!?」
ブログ主(以下主)
「今週末はシルバーウィークということもあってそのラインアップも注目映画がズラリと並んだし『BFG-BIG FRIENDLY GIANT』なんかは相当伸びるんじゃないの? それでもまだまだ伸び続けたら、本物だね。100億も達成するかも」
カエル「その君の名は。も注目度が高いけれど、それと同じくらい注目されているのがこの聲の形だね。試写の評判もいいみたいだし、すごく楽しみ!」
主「今回は映画公開に合わせて、漫画版の聲の形について語っていくとするか」
カエル「それじゃ、感想記事スタート!」
登場人物紹介
石田将也
今作の主人公。
小学校時代は典型的な『悪ガキ』タイプ。その分、周囲には人が集まり、クラスの人気者だった。転校してきた西宮硝子を物珍しさから、からかい始めるが、次第に度を超えていじめとなり、学級問題となる。
その際に人望も失い、クラスから孤立する結果となり、そのまま高校生になる。
いつか西宮硝子とやり直すため、手話も覚えるなどコミュニケーションをとれるようになったある日、ふたりは再開する……
西宮硝子
今作のヒロイン。
先天性聴覚障害を患っており、音を聞き取ることができない。先天性のため、会話も難しく、他者にはその言葉を聞き取ることが難しい。
性格は大人しく、容姿も優れているが、障害のためにクラスに馴染むことができず、将也にいじめを受けてしまい、それが問題となり学校を転校することになる。
それ以降も引っ込み思案な性格もあり、中々健常者とのコミュニケーションが取れないまま高校生になったある日、手話を覚えた将也と再開する。
1 聴覚障害について
カエル「まず、聴覚障害についてだけど……作劇的に聴覚障害ってどうなの?」
主「他の障害に比べると描きやすいと思うよ。もちろん、自主規制だなんだって話は抜きにしてだけど」
カエル「描きやすいっていうと、どんなところが?」
主「まずは、見た目に分かりにくい。
これは障害全般の中でも特に聴覚障害特有の現象でもあるんだけど、他の障害に比べるとそれが分かりづらいのね。
ほら、耳が聞こえない以外は健常者と同じわけじゃない? 特に後天性の場合は発声なども健常者と変わらない人が多いから、余計に分かりにくい。佐村河内問題が顕著だけど、あの人って科学的に難聴者とされているけれど、それでも疑われているでしょう?
人は会話をするときに前後の脈絡だったり、口の形でなんとなく言いたいことがわかるからさ……居酒屋とかでガヤガヤして声が聞きづらくても会話が成立するし。つまり『耳が聞こえない』という1点を除き、それ以外は健常者とほぼ同じでコミュニケーションも成立する」
カエル「それって作劇的にはどう影響するの?」
主「まず、視覚障害や欠損などと違うから誰でも演じやすい。映画やドラマで視覚障害や四肢の欠損を描こうとすると見た目でわかるから、役者に見た目上の工夫が求められるでしょ?
だけど、聴覚障害ならせいぜい補聴器をつければOKだから。他の障害と比較するれば演じやすい部類だよね。
あとは会話法だけど、後天的ならば会話ができて問題ないし、この作品のように先天的な場合においても、極端なことを言うと扱いは外国人と変わらないわけだよ」
カエル「外国人と?」
主「そう。英語は我々もなんとなくわかるけれど、じゃあフランス語は? 中東の言葉なんてほとんどの人がわからないでしょ?
『言語の壁』というコミュニケーションの難しさっていうのは、別に聴覚障害に限った話ではないからさ。キャラクター設定で無口なキャラクターというのも障害関係なくいるし、そこまで特別な難はないと思う」
2 『三重』の弱者
カエル「じゃあ、割と描きやすい題材なんだ?」
主「もちろん、他の障害と比較してという話で、普通の作劇よりは難しいよ。
……でも、この作品に限って言えば『三重の弱者』を描いているから、そこは難しいね」
カエル「『三重の弱者?』」
主「1つ目は聴覚障害。
当たり前だけど、障害者の描き方というのはすごく慎重にならざるをえないし、一歩間違えると炎上どころか、社会問題になってしまう危うさを抱えている」
カエル「これは分かりやすいよね。この作品の一番のポイントだし、売りでもあるからさ」
主「2つ目はいじめ被害者。
これも慎重になる案件だよね。特に10年ほど前のいじめ問題以降、世間のいじめに関する視線というのは非常に厳しくなってきている。さらに言えば、最近もいじめ関連の自殺や殺人があったばかりだし。
これがプラスされることによって、今度は『障害者に対する差別』という観点が出てくる。もちろん、いじめ自体は障害者でなくても発生するけれども、障害を抱えているということがいじめに繋がるということは容易に想像できるよね?」
カエル「そうだよねぇ。差別問題があるから、あんまりテレビとかのメディアも障害を扱わないわけで……
ここまではわかるけれど、3つ目の『弱者』ってなに?」
主「3つ目は少女という存在。
これはこの作品に限ったことではなくて、普遍的なものであるけれど子供と女性というのは、世間からしたら相当な『弱者』とされている。だから少女が酷い目にあうと、より悲劇性を増すわけだ。
これが仮に男だとしたら、また違うストーリーだったり、見え方になっていたと思う。だけど、少女だからね。あんまり乱暴なことはさせられないし、結構描き方が限定させられる」
カエル「その3つが重なっているんだね」
3 ストーリー作り方の難しさ
カエル「そうなると、ストーリーの作り方としては相当難しいものになる?」
主「……そりゃね。まず、間違いなく言えることは西宮を悪者にすることはできない。
下手な描き方をすると、問題になるからね。
障害者がヒロインになったり、主人公になることはこの先もあるかもしれない。だけど、悪役になるということは相当難しいだろうね」
カエル「コミカルな悪役ならば話は変わると思うけれど、ガチの悪役はねぇ……そうなると、『西宮が悪い』という描き方はできないんだ」
主「そう。だからこの作品で問題を起こすのは将也であり、その他の生徒達なんだよ。だから将也はその意味でも……損の多い役どころとなっている。
……個人的にはこの描きづらさが、後半足を引っ張ったかなぁって印象があるんだよ」
カエル「というと?」
主「読み切り版からハマってさ、ある程度連載されてから一気に……5巻くらいまで発売された時に1巻を読んだけれど、素晴らしくてその日のうちに残りの巻を買いに走ったんだよ。胸糞悪い話でもあるけれど、リアルな心情をうまく切り取っていると思った。
だけど高校生編以降は……将也も悪く書けないし、当然西宮も悪く書けないでしょ? そうなってくると、問題の取り扱い方が慎重にならざるを得ないから、そこが……作劇的には爆発する瞬間がなかったように思う」
カエル「爆発ねぇ。あのマンションのシーンとかは爆発したんじゃない?」
主「……基本的にこの話って典型的な姫騎士物語なんだよ。弱いお姫様を、世間の偏見や悪から騎士が守り抜くという、古典的な話。珍しいのは障害を扱ったという部分にあるわけでさ。
だけど、西宮は確かに引っ込み思案で弱い子だけど、基本的には美少女で性格もいいわけじゃない? 障害以外は完璧な美少女でさ。
明確な悪役がいるわけでもないし……特に後半は障害以外で素晴らしい作劇があったかというと、そうとも思えないんだよねぇ。美少女に好かれる系主人公なのは他の作品と変わらないし。
目的がブレた部分もあったような気がしたし、作劇的には盛り上がりに欠けた印象かなぁ。個人的には」
カエル「主は苦手そうだけどリアルな人間描写も話題だよね」
主「特に先生なんかは、本当にリアルで、胸糞悪い存在だよな。事なかれ主義で、最初はヘラヘラとしていたのに、いざ事が起こると将也を吊るし上げたりさ。本当にムカムカした。
他の生徒達の描き方も本当にリアルでさ。だからこそ余計に、その人間関係が爆発する瞬間が見たかったのかもね」
最後に
カエル「じゃあ、最後に映画版はどうなると思う?」
主「……山田尚子との相性は抜群にいいんじゃないかな?
京アニのクオリティの高さや人間描写の素晴らしさ……柔らかさとか、細かな動きで心情を伝える作画には一切の不安もないし。特に監督も『映画けいおん!』なんかそうだけど、女の子はもちろん、それ以外の人物の描き方がすごくうまい人じゃない?
だからこの作品とは相性が抜群だと思うよ。もしかしたら、あの初見のムカムカが蘇ってきて、心が抉られるかもね」
カエル「この映画も相当な話題作になりそうだね」
主「もしかしたら……今年邦画売り上げ1番は『君の名は。』になるはずだし、上映館数も70館だから売り上げでは勝負にならないと思うけれど評価としてはそれ以上になるかもしれないね。『シン・ゴジラ』と並んで、邦画界の事件として語られるような、そんな気もするよ」
カエル「さて、その主の予想が当たるのか? その答えは是非劇場で!
あ、当然漫画もいいから買っていってね!!」
主「……最後は宣伝かよ」
映画版の感想はこちら
ネタバレありの評論はこちら