物語る亀

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物語愛好者の雑文

通勤途中に小説を〜短編小説 餃子〜

 今回は久々に自作小説を書いて更新しますが、1000文字に満たない非常に短いショートショートとなっています。

 書いたのはおそらく2012年前後なので、今とは書き方も違いますが、たまにはこの短さもいいものかな? 

 もしかしたら、ブログ向きの分量だということで、この分量のショートショートも増やしていくかもしれません。

  テーマ『餃子』

 

 テーブルの上に餃子が並ぶ。その数、およそ五十個。これほど並ぶと見ただけでニンニクが臭ってきそうである。

「なにこれ?」

「餃子」

 向かい合った嫁がいう。まだ結婚して三ヶ月だというのに、同棲期間が長かったせいか新鮮味はなく、ずっとこんな調子だ。

 妻は黙って餃子に箸を伸ばす。

「そうじゃなくて、何で夕飯が餃子だけなの?」

「いいじゃん、手軽で」

「せめて飯ぐらいは炊けよ」

「米、切らしていてね」

 並んだ餃子を口に運ぶ嫁を一瞥して、思わず目頭を抑える。それでも鳴り響く腹の音には逆らえず、箸を伸ばした。

 口に含むと広がる甘み。

 ……甘み?

「なにこれ? 甘いけど」

「黒糖。ちなみにこれ、五種類あるから」

「全部手作り?」

「そう」

 首を傾げながら次をかじると、今度は辛さが広がる。残った半分の切れ目から中身を見ると、赤い香辛料が絡んだ白菜が見えた。

「キムチ?」

「そう」

 顔をしかめながらも再び違う餃子を放り込むたび、チーズやジャガイモが口内を踊り、極めつけはかじるとスープがあふれてきて服を汚す。小龍包か、つっこむと、うん、と気の抜けた答えが返ってきた。

「デザートはあんこの入った揚げ餃子だから」

「……それだけのために揚げ物したの?」

「うん」

「普通に飯炊いたりした方が楽じゃん?」

「うん」

 そう言いながら黙々と餃子を口に運ぶ妻。僕はひとつため息をついて餃子に箸を伸ばした。

 

 結局、妻よりも多く餃子を食べた。

 

 

 ちょっとだけ解説

 特に大きな事件が起こるわけでもない、単なる餃子をモチーフにした日常の1シーンを切り取った作品ですが、餃子というのは食べてみるまで中身が分からないというある種のギャンブル性にも富んだ食べ物であり、しかも手軽に食べられるとあってバリエーションも考えると面白い食べ物ですね。

 

 しかし、毎日代わり映えしない日常の中の1シーンを切り取ってみたかったのかなぁ、と自分の作品ながらその意図はよくわかりませんが、不思議と雰囲気は出ているような気がします。

 今後はなるべくこのような作品も交えながら、オリジナル小説の更新速度を上げるように頑張ります。

 

 前回の記事はこちら

blog.monogatarukame.net