物語る亀

ネタバレありの物語批評

漫画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』既刊6巻の感想 浅野いにお……タイトルながくない?

カエルくん(以下カエル)

「今回は過去の記事のリテイクも含めて、浅野いにおの最新作のお話をするよ!」

 

ブログ主(以下主)

「記事のリテイクは大事! とはいうものの……結構面倒くさい作業なんだよね、これ」

 

カエル「漫画の場合、新刊が発売して次々と更新されるからねぇ。

 いつまでも古い話をしていても仕方ないわけで……」

主「漫画記事の難しさだよなぁ、アニメもそうだけどさ。完結するまで何年、下手すれば何十年もかかるし。だけど、語りたいものが多い作品もあるし……その都度書きたいこともあったりするしね」

カエル「漫画記事の書き方はこれからも考えていかないとねぇ。

 そして本作だけど……タイトルが長い! みんなどうやって検索しているの? 『デデデ 浅野いにお』とか?」

主「正式名称で検索している人ってほとんどいないんじゃないか? って思うわ。

 じゃあ、感想記事をスタートするよ

 

 

 

  

デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 1 (ビッグコミックススペシャル)

 

1 浅野いにおについて 

 

カエル「まずは浅野いにおについて語っておこうか」

主「イメージとしては漫画好きの中でも少しコアな層に受けているという印象があるかな? サブカル漫画家、といわれていたことがあるのを思い出すよ。まあ、現代においてはサブカルとオタクの違いってそんなにない印象だけどね。

 個人的には浅野いにおは今最も語られなければいけない作家だと思う。

 それは漫画家だけではなくて、小説家や映画監督も含めて、全体の中でもっと語られるべき人。もちろん、今でも高い評価を受けていてCMで使われているアニメのキャラクターデザインとかもしているから、結構有名だろうけれど……」

 

カエル「何がそんなにすごいの?」

主「自分にとって浅野いにおは最も『怖い』漫画家なんだよ

 この場合の怖いには恐怖感の他に、才能に畏れいるという意味も含んでいるけれどね。

 その作風もそうだし、書かれている内容の深さというものがあまりにも人間の内面……業や運命などに迫りすぎているような気すらしてくる

カエル「独特の空気感がある人だよね。若者の抱える閉塞感であったり、色々な思いを見事に切り取っていてさ……言葉にできない思いを絵にしてストーリーとして吐き出している、というか」

 

主「特に前作、『おやすみプンプン』はあまりにも深い人間描写によって支えられていて、そのラストや話の展開などがあまりにも凄かった。

 読み終わったのは数年前のはずだけど、あの当時ブログを書いていたら何万文字書いたんだろう? って思いすらある。

 自分は小説でしかできない表現をしようとする運動を『純文学』と呼んでいるけれど……浅野いにおの場合は漫画でしかできないことをやっているので『純漫画』と言ってもいいのではないかと考えているほど。

 本当の意味で映像化不可能なんじゃないかな? もちろん巻数が長いなどもあるけれど……あの独特の雰囲気であったり、空気感などは相当難しいことを要求されるはず」

 

 

おやすみプンプン コミック 全13巻完結セット (ヤングサンデーコミックス)

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『デデデ』とはどんな作品か?

 

カエル「じゃあ、全く読んだことのない人のために『デデデ』の説明をしようか。

 1番近い作品を挙げろと言われたら……ここ最近なら映画の『メッセージ』かな? だけど、その精神性は全く違うものだけどね」

主「浅野いにおの最新作は、宇宙人が東京に侵略してきたという設定のものだった。だが空に浮かぶばかりで何もしない宇宙人に対して右派の政権は徹底抗戦を主張し、宇宙人や宇宙船を次々と新兵器を持って落としていき、殺していく。そして日本中の人々は戦う姿に歓喜し、さらに強硬論が支持されていく」

 

カエル「群集心理の恐ろしさなども出ているよね……巻を進めるごとに絶望感もより強く漂ってきてさ……」

主「この作品においてその戦っている相手の姿というものは見えず、主人公の女子高生、門出とオンタンなどはニュースによってのみ戦争状態を知っているような状況だった。これは今現在の戦争と似ており、その現地に行かない限りは我々一般市民は戦争というものをメディアで知る以外に知るすべはない。

 それって他の事件でもそうで……例えば原発にしろ、実際に現地に行ったことがある人なんてほとんどいない。つまり、現代における戦争というのはテレビの中の出来事なんだよ」

カエル「作中では敵の象徴として円盤や小型宇宙船なども出てくるけれど、その状況に対して慣れてしまって『あ、また円盤だ』というシーンもあるしね」

主「じゃあ、その敵となる宇宙人はどのようなフォルムをしているのか? なども含めて読み進めてほしいね。次々と明らかになっていく敵の姿とか、見所は多い作品だからさ」 

 

以下作中言及あり

 

 

 

2 本作の特徴

 

カエル「先ほどとも重複するところもあるけれど、この作品って現代の空気感ってよく出ているよね。原発に対する賛成派(推進派)と反対派の対立構造は宇宙人や武器に対する思いによく出ているし、徹底抗戦を訴える世間とそれに反対するSHIPと呼ばれる団体の対立……特にSHIPに対する冷めた世間の目というのは、つい先日にもSEALDsに向けたものと全く同じで……

主「原発と安保法制という2つの側面、それによって対立する右と左、そして世間という国民感情の描き方……さらに言えば東日本大震災以後の日本の空気感の描き方までそっくりなんだよ。

 若者の中に存在する『退屈な日常』という閉塞感。きっと何者になれず、世間の大きな関心事すらも遊びのようにしか考えられない他人事のように受け取ってしまう感覚……こう、言葉にすると若者が悪い、みたいなように思うけれど、でもこの感覚ってすごくよく分かる」

 

カエル「例えばISが極悪非道な悪党だとは思っていても、結局は日本にはほとんど関係のない、テレビや政治家だけが考えなければいけないことだって思う人はそれなりにいると思うんだよ。それよりも今日の仕事とか、家のゴタゴタを解決したり……大切なことがたくさんある

主「人生ってそんなものだと思うんだよね。すごく大事な物事があったとしても、それが自分の人生に関与してこなければ現実感なんて湧いてこない。現実感のない出来事はやはり絵空事のように感じるものでさ……

 作中で言えば宇宙人とか、あとは原発とかよりもさ、もっと大事だと思うことっていっぱいある。それよりも友達とゲームやったり、ネットを巡回したり、恋人とセックスしたり……そういうことの方がより現実的で大切な気がしてくる。いや、本当に大事なのかもしれない。

 そんな空気感を描き出すのに見事に成功している作品だね

 

 

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それぞれの立ち位置

 

カエル「主人公のおんたん達は普通の生活を送っている。学校に行って、友達とゲームをして遊んで、恋愛をする友人達に対して煽るような言動を繰り返している。

 だけど、その平和的な友人関係の一方で、家族は徐々に変化していって、汚染されていない地域へ避難してしまったり……」

主「一方でアニキは引きこもってネットを弄る毎日な訳で、情報にはすごくたくさん触れていて色々知っているようだけど、実際は何一つとして現実に対する行動を起こさない。

 それもまた1つの現実だ」

 

カエル「そしてちょっと4巻で色々と面白い描写があったから、それに対して特筆していくけれど……」

主「4巻では新しい友達としてふたばという少女が出てくる。彼女は田舎で暮らしていたのだが、大学進学を機に東京に出てきたいと思っていた。今や宇宙人と戦争状態にある東京に行くことは親が反対していたが、ふたばは宇宙人が本当に戦わねばならぬ相手なのか?』ということを確認したかった。

 ふたば飛行機は戦闘に巻き込まれるが、何とか一命を取り留めて飛行機は着陸。しかしその攻撃の際に、山ほどの宇宙人が撃墜された宇宙船から投げ出されて落ちていく様を見てしまうわけだ」

カエル「そして大学に進学したオンタン達は、初日にふたばと出会い、SHIPという若者達で構成される左派運動家の集会が国会前であることを教えられて、興味半分でそこに向かう。すると右派の政権に立ち向かうように左派が反対集会を開いていた。

 それは誰がどう見てもSEALDsのようであり、『安保法案』を『宇宙人』に置き換えただけの演出だよね」

 

主「このおんたんの目というのは、おそらく我々一般人が多く抱く感情そのものだろう。

『こんなことをやっても世間は変わらないよ』

『頭がお花畑な連中だ』

『これが若者の総意と思われるのは困るなぁ』

というもので……やはり諦観が状況を支配している。

 ここまでの物語でおんたん達はただ遊ぶばかりでこの事件についてあまり関与してこなかったけれど、その描写がしっかりと生きてきているんだよ」

 

 

 

3 気持ち悪い空気感

 

カエル「気持ち悪い空気感がすごく漂っているんだよね……

 どうにかしないと! と誰もが思っているけれど、でも誰も行動しないような空気感。行動したらしたで、そいつがおかしいというような空気感がさ……」

主「それもそうなんだけれど……これを言うとすっごい非難されるかもしれないけれどさ……自分は東日本大震災の時の空気感って、すっごく気持ち悪かったんだよ

カエル「……それは原発がどうなるかわからないとかいう思いもあって?」

 

主「いや、そうじゃなくて……あの時はみんな一丸となって『絆』とか『がんばろう日本』とか言ってさ、自粛だなんだと大騒ぎになったじゃない。

 その『一丸になろう』という雰囲気がすっごく気持ち悪かった。普段は『みんな一丸とするようなスローガンは戦前のプロパガンダと同様である!』というような左の人達ですら反対の声をあげることなく、むしろ率先して一丸になろうとしていたんだよね。

 自分にとってその雰囲気ってすごく嫌なものだった。

『被災地は大変な思いをしているから自分たちも我慢しよう!』という人達もいたりして……それって『欲しがりません、勝つまでは』と何も変わらないよね? って思ったりもして」

 

カエル「でも! それってあの状況下では絶対的に正しいことなんじゃないの!?

主「多分そうだよ。戦争じゃないし、自然の災害だから誰も恨めないし、悪くない。あれだけの未曾有の災害だしさ……そういう雰囲気になるのは当然だとも思う。

 だけど、多分戦前も全く同じだったんだよ。大きな脅威が訪れた時に、みんなが一丸になって立ち向かおうという雰囲気が形成しやすい土壌が日本人の中にはあるんだって思い知った。

 おそらく戦前のような雰囲気になれば……同じ『正しさ』を持って国家一丸となり一億総玉砕の時代がまた来るんだろうなって思いは今でも抱えている。その精神性は日本人の中に根付いていて、誰もが正しいと思ってそれを押し付けてくる」

 

カエル「……それって左がどうのとかいう話になる?」

主「というよりも、自分は『絶対的な正義』というものが肌に合わないんだよ。だからヒーロー映画もあんまり好きじゃなくて、正義を口にして悪を倒すという行為にカタルシスをそんなに感じない。むしろ、悪だと自覚して滅び行く方がカタルシスがある。

 だけど『絶対的な正義』というものが発生して、それが蔓延した時に、それの押し付け合いになってしまうことってある。みんな大変だから自分も我慢しよう、欲しがりません勝つまでは……そういった論調になり、それを個人だけがやるならいいけれど、それを他者にまで要求するようなことになってくる。

 これってそんな突飛な話ではないんだよ。例えば近年のメディア関係だと『小保方問題』とか『佐村河内問題』もそうで、あれは一方的に小保方や佐村河内が悪だと断罪された。それはそうかもしれない。そっちの方が正しいのかもしれない。

 だけど、自分にとってはその『正しさから断罪する』というのは……やっぱり気持ち悪いんだよね

 

 

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宇宙人の描きかた

 

カエル「それってこの作品でいうとどういうことなの?」

主「本作の宇宙人って確かに言葉も通じないけれど、実際は体格も小さくてそこまで脅威には感じないような造形になっているんだよね。敵であるのは間違いないけれど、実際はコミュニケーション能力もあるようにできている。

 だけど日本は……国民感情などは徹底抗戦をむしろ支持している。お天気お姉さんが『侵略者に負けるな!』って笑顔で言ったり、子供が宇宙人を撃つお父さんを絵を誇らしげに描き、それが展示される世の中になっている。

 じゃあ、その敵は果たして残虐非道なのかというと……実際はそうとも限らないわけだ

 

カエル「徹底抗戦はむしろ政府が主張しているようだけど……」

主「ここは両方じゃないかな? 政府やメディアが煽っている部分もあるけれど、でも国民もそれを望んでいることもあって、宇宙人よりの報道や政策を発表すると国民の反発も招くことになる。

 結局、日本は民主主義社会なんだよ。国民が望んだからそういう政府になっている

カエル「あの宇宙人たちのことを知ると『果たして徹底抗戦は正しいのだろうか?』という思いも出てくるよね……」

 

主「一般的な日本人が『悪』と称して断罪した存在……それについて我々は何を知っているだろうか? ってことなんだよ。

 我々がその報道や事実を知った時、すでにその存在は『悪』というバイアスがかかってしまう。そのあとは何を言っても無駄になってしまう。だって悪党の言うことなんか信じられないから。

 だけど、悪の意見を知れば知るほど……彼らに同情するところもあるし、断罪していいのだろうか? という思いに駆られていく。それだと何を信じればいいのかわからないから、それをメディアや政府や世間に委ねて同調するということもあるかもしれない。

 それが怖いよね。自分の思考を他者に委ねるんだから」

 

カエル「……悪を断罪する怖さかぁ」

主「自分だって偉そうに言っているけれど、じゃああの東日本の時にブログをやっていたら、多分『絆』とか『頑張ろう日本』は否定しなかった。それはある程度正しいと認めていただろうし、極力触れないようにしていたと思う。同調圧力に強いとは言わないから。

 我々は『悪』について……非難される存在について何を知っているのだろうか? ということも大事なんだよ

 

 

 

 

最後に

 

カエル「いろいろと小難しい話もしたけれど、楽しめる作品なので是非多くの方に読んでもらいたいね」

主「浅野いにおの特徴である生活感の濃さというものは健在で、それがこの時代の登場人物たちをより生きているという気にさせてくれる。だからこそ、同じ状況に巻き込まれた時、自分がどの立ち位置を取るかということを選択しなければならない気になってしまい、そこに深みが生じてくる作品だしね」

カエル「浅野いにおの売りでもあるこの生活感を描き出すために、ここまでの3巻は使ったのだろうな、と思うと、ゆっくりとしながらも丁寧で面白い作りになっているんじゃないかな?」

 

主「もしかしたら完結した時に一気に読むと、また印象が大きく変わるのかもしれない。まあ、自分はそんな何年後になるかわからない完結を待っていられないので、また次巻も楽しみにしているけれどね!」