今回は『るろうに剣心 最終章 ビギニング』 のネタバレ感想記事になります!
前作は褒めが多めじゃったが、さて今回はどうなることか
カエルくん(以下カエル)
「ちなみに、今回の記事は今作の基となったOVAのアニメ『るろうに剣心 追憶編』と比較した記事になりますので、ご承知おきください」
亀爺(以下亀)
「半分くらい追憶編の話をしておるの」
カエル「それくらい好きな作品なので……逆に言えば、追憶編を参考にしないと何も語れない、語りづらい作品でもあるんだよね……
それでは、記事のスタートです!」
感想
それでは、Twitterの短評からスタートです!
#るろうに剣心
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2021年6月4日
漫画原作の派手さを内包しながらも時代劇の重さと魅力を見せようと努力した跡は見受けられる
ただし追憶編の信者からするとまだまだまだまだ全体的に全てが足りない!
演出から映像的な魅力から何から、厚みがない上に流れがワンパターンに見えてしまったのが大変残念
頑張ったけどね… pic.twitter.com/x9TQpgUPdc
作品単体としては悪くないのじゃがな
カエル「今回、うちは少し特殊な見方をしているわけなんですが……それは『傑作と呼ばれているアニメ版の追憶編に対して、どこまで実写映画は迫ることができるのか?』と言う問題です。
それくらい、この作品の基になった『るろうに剣心追憶編』は傑作なのです」
亀「『るろうに剣心 最終章 The Beginning』を作品単体として見た場合は……どうじゃろう、少し評価が割れるかもしれん。
『るろうに剣心 最終章 The Final』の方は漫画原作の、大作娯楽映画としてアクションなども山盛りで、派手でわかりやすい映像が多かった。一方でそのケレン味があまり受け付けない人などもいるのであろうが……
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』は、むしろ王道といってもいい時代劇に真正面から向き合った作品である。そのために、映像面においては Finalと比べた際に、少し地味に感じる部分もあるかもしれんの」
漫画原作・アクション映画としての完成度を誇る Finalと、時代劇として暗いドラマをしっかりと魅せるBeginningというところだね
わしとしては、 Finalの方が好みであったかもしれんかの
カエル「この辺りは完全に好みじゃないかなぁ。
多分、万人が見て楽しめるのは Finalの方だと思うんだけれど、映画としての凄みを感じるのはBeginningなのかな」
亀「この辺りは後々に語るが、Beginningの方はわしからすると、もっともっとリアルで暗めに作ってもいいと感じた。
まだまだ漫画原作らしさが残ってしまっておるし、それがノイズになったが……まあ、大衆向けの大作邦画と考えると、こんなものなのかもしれんの。
悪い作品では全くないがの」
追憶編について
では、この映画にも大きな影響を与えたとされる『るろうに剣心 追憶編』について、少しだけ紹介していきます
紛れもなく、アニメ史に残る大傑作であるのは間違いがないの
カエル「原作にもある過去編である巴編を元に作られており、剣心の過去が語られています。
幕末の京都が舞台ということで、残虐な描写も多くてテレビシリーズのアニメを見ていた視聴者からは、あまりの変化に戸惑いの声も上がるのではないでしょうか。
キャラクターデザインも原作・テレビアニメ版からは大きく離れ、よりアダルトな雰囲気のデザインへと変更されています」
亀「2000年ごろというのは、今よりも様々な手法のアニメが乱立していたように思うんじゃな。というのは、デジタル化、CGの黎明期などもあって、アニメ表現も大きく変化していた頃でもある。
同時に80年代頃から既存のアニメとは違う表現を模索する動きがあり……それ自体はどの時代もあるようじゃが、よりリアルでアダルトな作品が生まれていく。
例えば『王立宇宙軍 オネアミスの翼』とか、あるいは『AKIRA』も、大人向けの劇場映画として制作されておるわけじゃな」
その中でOVAはさらに、テレビシリーズとは違って残虐な表現もできるし、一部のニッチなお客さんが相手と言うこともあって、尖った作品が多く生まれていったわけだよね
特にOVAやアニメ映画では、写実的なアニメ表現を模索する時代が続いていくわけじゃ
カエル「今ほど深夜アニメがないので、日中や夕方、ゴールデンタイムに放送するアニメが子供向け作品、OVAや映画で大人向け作品という区分けが、なんとなくされている頃でもありました。
もちろん、夕方アニメでも色々とエログロのある作品や、大人も楽しめる作品は多くあったことは言うまでもありませんが……」
亀「特に90年代から00年代にリアル志向のアニメだと『走れメロス』や、韓国で実写映画としてリメイクされた『人狼 JIN-ROH』などが浮かぶじゃろう。沖浦啓之をはじめとする、今でも第一線で活躍するアニメーターたちが、当時若い力を結集して作っていた作品じゃな。
そのリアル志向の中に、1999年発売の追憶編も入ってくるじゃろう。
全4作のOVAであり、春・夏・秋・冬と四季にそいながらも物語が作られておる」
その魅力としては、徹底的に丁寧に、写実的に作られた映像表現だよね
もはや”絵で作られた時代劇”じゃからの
亀「言葉は悪いが、テレビアニメシリーズは『絵で作られたなんちゃって時代劇』であった。原作がジャンプ漫画ということもあり、キャラクターは漫画的、歴史考証や文化的背景、美術なども詳しい人が見れば粗が多いじゃろう。
しかし、それでも全く問題がないわけじゃな。
言葉は悪いようであるが、ジャンプで週刊連載されている時代劇風の漫画以上のものはないわけじゃしの」
カエル「……まあ、そこまでガチガチに練り込まれた時代劇を、るろ剣に期待していた人もいないだろうしね。
牙突とか天翔龍閃とかを子供たちが真似したということは、それだけキャッチーであったわけで、漫画としえはこれ以上なく正しい戦略なわけだし……」
亀「しかし、追憶編はそれらを全てぶち壊した。
技名は叫ばない、人は簡単に死に、血は多く流れる。それだけ暗い物語を生み出し、キャラクターたちは淡々と話す、OVAだからこそ大人向けのアニメを生み出したわけじゃな。
わしに言わせて貰えば、ここまでの変更はもはや原作の否定じゃ。
ジャンプ漫画的であることを否定し、より写実的な時代劇を目指した……それがこの追憶編である」
それだけ写実的で挑戦的だからこそ、今でも語り継がれる名作であると……
るろ剣という作品そのものをぶち壊しているからの
亀「その影響はこの実写版るろ剣にも感じ取れる……というよりも、実写版るろ剣は明らかに追憶編の影響下にある。
技名を叫ばない、おろ〜などの過度なキャラクター表現は避けるというの。
漫画原作実写映画の成功作とも言われるるろ剣じゃが、他の作品と何が違うのかというと、わしは”追憶編がある”という、この1点だと思っておる。
つまり、漫画的・アニメ的表現を否定した映像作品である追憶編の存在が、実写映画は下敷きにしてより実写向きの映像や物語を紡ぎ上げた……だからこそ、るろ剣は成功したと、わしは考えておる」
カエル「今回はその、名作にしてラスボスである追憶編に挑んだわけだね……」
追憶編と比較した場合、全く完成度に劣るBeginning
で、ここで追憶編との比較になってしまうわけだけれど……
アニメ作品以上にアニメっぽく、漫画的であることを捨てきれなかったの
カエル「あくまでも本作は大作娯楽映画であり、多くの観客に楽しんでもらうために作られている作品だけれど……でも、それが失敗だったのかなぁ」
亀「まあ、そういうことじゃな。
例えば台詞回し1つとっても、説明的なセリフがあまりにも多い。
追憶編の場合はOVAと言うこともあり、時には観客を置いてけぼりにするような台詞回しだってあっていいわけじゃな。まあ、普通に見ておれば話の流れはわかるわけではあるが……
この映画はその説明セリフを除外することもできなかった。簡単に色々なことを話すし、それぞれの心情などを説明してくれるわけじゃな。
それが、実写版るろ剣の限界となってしまった」
カエル「……Finalの時は漫画版が大元だったから『漫画原作であるからこそ許された説明、あるいは過度な演出』を違和感も少なかったので評価していたけれど、今回はよりリアルな時代劇を目指すのであれば、それが許すことができなくなったんだね……」
亀「必要ないからの。
他にも、Finalであれば少しくらいコスプレ感があってもいいわけじゃ。
なぜならば”漫画原作のアクション娯楽大作”であったわけじゃからな。
しかし、今作は時代劇というのであれば、もっともっと等身大の服装をしていなければいけない。
それでいうと、今作の場合は色合いが鮮やかすぎるし、綺麗すぎる。それらが安物感やコスプレ感につながってしまっておるわけじゃな。
さらに言えば演技も過剰。
演出も過激。
アクションも不要じゃ。ワイヤーなどを駆使したFinalに比べると、確かに現実的な部分は増えているものの、それでもまだまだアニメ・漫画的すぎる。
その娯楽性を全て捨てなければいけないの」
ちょっと待って、それって大友監督の作家性……龍馬伝から続く、派手な演出手法とかの否定じゃない?
そうじゃ、それが追憶編を参考にするならばやるべきことじゃからな
亀「先にも述べたように、追憶編は”ジャンプ漫画原作であることを否定し、それをやめて写実的に作られた、テレビアニメに比べると小規模な客層のOVA”であるわけじゃ。
これが大作のテレビアニメであればできなかったじゃろう。
その点においては、今回の実写版はいいバランスでできたと語ることもできる……が、しかし。
その全てを否定し、その全てを破壊し、徹底的に、これでもかと時代劇にこだわる。
その姿勢が求められたわけじゃが……結局は商売主義に負けてしまったわけじゃな。
それがこの映画の……実写版の限界であると言う他ないの」
役者について
そして、役者についてはどう思うの?
頑張ってはいた……という評価になるかの
カエル「有村架純とか、結構いい存在感があったと思うんだけれどなぁ。
いや、もちろん追憶編の岩男潤子ほどの透明感というか、儚い感じは出せないだろうけれど、それでも頑張って演じていたと思うけれど……」
亀「後半の日記のモノローグシーンなどは、追憶編を参考にしてきたのがダイレクトに伝わってきた。
前提的にも岩男潤子の演技を参考にし、巴という人間をどのように演じるのか、しっかりと考えておる。おそらく、現状20代の女優で巴を演じられる役者はほとんどおらん。
それこそ……20年前の中森明菜、あれくらいの存在感がないと、なかなかできない役であるのは間違いない。そして現代は明るく活発な女性・アイドル像が人気の時代だからこそ……声優でも今の20代が巴を演じるのは不可能かもしれんの。
その中では、よく演じておったと言える」
カエル「……でも、やっぱり不満なんだ」
亀「これは役者の問題ばかりではないが、どうしてもコスプレじゃらかの。
Fainlの時はそのコスプレ感も込みで好きになったが、今作では誰も役が板についておらん。どうしても服装やら何やらが、映像から浮いてしまうのじゃな」
以下ネタバレあり
作品考察
物語について
それでは、ここからはネタバレありで語っていきます!
少し、いまいちだったところを羅列する感じなってしまうかもしれんな
カエル「では、まずは物語についてだけれど……これも追憶編とほぼ同じだと思うけれど、だめだったの?」
亀「先にも述べたように、台詞回しはあまりうまくいっておらん。
また、映画としての物語流れも……どうにも一辺倒に感じられたの。
この辺りはOVAと映画の違い……まあ、追憶編は2時間にまとめたVerもあるのじゃが、それと比較してもあまりうまくいっておらんように感じた」
OVAは以下のような4幕構成になっているよね
- 1話・春=剣心と巴の出会い、剣心の境遇と世界観の説明
- 2話・夏=京都での戦いと維新志士の日常
- 3話・秋=剣心と巴の結びついていく様を描く
- 4話・冬=ラストバトルと人間の業を描く
つまり、メリハリが自然に生まれておったわけじゃな
カエル「季節が変われば物語も変わって。序盤の2話は動乱の京都が舞台ということもあって、激しいアクションも多め。一方で秋は静かにドラマが進行していって、冬はラストということで盛り上がるというね。
ちょうどいい波が出来上がっていて、1話30分ほどだから飽きることもなかったね」
亀「実写版るろ剣シリーズに関しては、合間合間にアクションを挟むことでメリハリをつけるようにしておるが、今作の場合はアクションも……数自体は少なくないが、決してそこばかりを重視しているわけではない。
ドラマパートも非常に多いわけじゃな。
だからなのか……物語が鈍重に感じてしまい、流れやメリハリがうまくいっておらんようだったの。
この辺りはOVA→実写映画の翻訳の仕方が特殊ということもあるじゃろうし……単純にそのままやればいいというものでもないのかもしれん。
色々と難しい話じゃな」
演出面について
続いて演出面についてですが……ここが結構辛口になるのかなぁ
絵作りに関しては全くもって納得しておらん
カエル「えっと……それはTwitterの短評の方でも『全てが足りない』と語っているけれど、やっぱり映像面もそうなの?」
亀「残念ながらそうなるの。
例えば……わしが追憶編で好きなのは、1つには食事シーンがある」
こちらは春の1シーンで、少量のつまみで寂しそうに酒を嗜むシーンだね
白米に漬物、みそ、それに大根や芋の煮っ転がし……秋の1場面だけれど、とても穏やかな食事シーンだよね
亀「このように……この2枚を比べるだけでも、剣心の食事の充実ぶり(精神的な安息)が伝わってくる。
秋の食事からは、現代の食事からしても立派な夕飯だと思う。わしは憧れてしまうの。
他にも四季の描き方が美しいのも特徴的じゃ」
色合いが鮮やかだし、季節の移ろいを強く感じるよね
亀「そして実写版の話に戻るが、残念ながらこのような視点があまりない。
いや、美術に関してはしっかりと作り込まれていると感じたが……残念ながらもっと先にあるもの、つまり四季の美しさなどをはじめとした、文化・自然の深みというものがない。
そしてそれは同時に、キャラクターの思想の薄さにもつながってしまう」
カエル「思想の薄さ……」
亀「うむ。
この時代は誰もが騒乱の中で、それぞれの純粋さのなかに”凶なる正義”を混ぜ合わせながら、戦っているわけじゃな。
徳川の世を守り太平の時代を築くため、あるいは開国して新たな世を築くため、そのどちらが正しいということもできない難しい時代を生き抜く。そこには思想があり、そこから言葉が生まれる。
残念ながら、わしは実写版に関しては、その思想性の弱さを感じてしまった。
だから辰巳のセリフはほぼ同じにも関わらず、全く軽く感じてしまった。
役者は”演じて”はあるが、そこに重みがない……つまり演じる、偽物であることが感じられてしまったわけじゃな」
カエル「でもさ、戦闘シーンの血の表現などは、すごくよかったじゃない?」
亀「そういった単発的なものではいくつかあるのじゃが……全体で見ると、非常に弱い。
これが実写だからなのか、はたまたわしがアニメ版を好きすぎるのかはわからん。おそらく、その両方であろう。
しかし……今作からは実写化の限界を感じてしまったというのが、正直なところであるの」
最後に
この記事の締めといきましょう
ボロクソのようではあるが、悪い作品とは思っておらん
カエル「あくまでも追憶編が大傑作すぎた、ということですねぇ」
亀「比較してしまうのは、より写実的なことを目指した以上、本来アニメ以上に写実的な実写が、アニメに近づいていることに対して色々と感じてしまったこともある。
その意味では韓国版の『人狼』に近いものにあるかもしれん。
これもまた、漫画・アニメ原作の実写映画の難しさであり、面白さであるの」
カエル「たださ、漫画原作実写映画を、ここまでA級映画にしたという功績も同時に語れないとね」
亀「失敗作ばかりのように語られやすいが……それもまた乱暴な話であるが、今作はそうではないからの。
その意味では意義があったし、面白いシリーズであったな」
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