カエルくん(以下カエル)
「今回語る映画は2017年公開だけれど、少し前だからもうほとんどの映画館が上映終了しているだろうし……ソフト化もまだだから、もしかしたら今が1番見ることのできない映画なのかもね」
亀爺(以下亀)
「しかも小規模の映画じゃから、読者の方が気になっても生殺しのようになってしまうかもしれんな」
カエル「タイトルでは『人生フルーツ』と『私はダニエル・ブレイク』について語るとあるけれど、そのほかにもすでに記事にしたハリウッド映画の『ジーサンズ はじめての強盗』と『幸せなひとりぼっち』も絡めての論調になります。
どれも似たようなテーマ……高齢者問題を扱った映画だからね」
亀「どの作品も高い評価じゃ。
Yahoo映画レビューじゃと、ジーサンズ以外は4を超えており、映画.comの評価も4近い。ジーサンズは若干エンタメ要素が強く、少しこれらの作品からは落ちるようなレビュー評価になっておるが、このブログが選定した『2017年上半期映画上半期ベスト20』では19位の評価になっておる」
カエル「それだけ聞くと微妙そうだけれど、100作以上の中からだから、TOPの20パーセントの中には入ってきているんだよね」
亀「ちなみに『人生フルーツ』と『私はダニエル・ブレイク』が鑑賞したのが7月なので上半期ランキングからは対象外、幸せなひとりぼっちは残念ながらランクインを逃しておる。
これは『ジーサンズ』を鑑賞直後だったという補正もあるかの。やはり新鮮な感動には勝てないものじゃからな」
カエル「というわけで、今回はこの4作を考えながら『映画は高齢者問題をいかに描くのか』という問題について書いていきます。
まあ、コラム記事になるのかなぁ?」
亀「……感想記事と批評記事とコラム記事の違いが全く区別できておらんがの。
それでは記事のスタートじゃ」
1 各作品の紹介
人生フルーツ
カエル「まずは人生フルーツから紹介するけれど、本作は2017年最初の傑作映画といっても問題ないだろうね」
亀「何と言っても公開開始が2017年の1月2日、月曜日じゃからの。これより早い映画はないじゃろう」
カエル「名古屋のベットタウンに50年も暮らす津端夫婦を追ったドキュメンタリー映画なんだけれど、夫の修一さんがこのベットタウンの建設にも関与しているんだよ。
そしてその変化を見守りながら、敷地に庭を設けて、そこで育てた野菜などを加工して暮らしているんだけれど……その暮らしがさ、すごく豊かなんだよね」
亀「自宅でジャムや干し物などはもちろんのこと、ベーコンなども作ってしまう。さらには90歳を迎える修一さんが非常に元気で、奥さんの英子さんと2人で餅つきをしたりと体を動かしながら生活を送っておる。
いやはや、今の日本人が忘れてしまったスローライフがそこにあるの」
カエル「この2人の信頼関係や愛情表現が本当に素晴らしくって、現在だとドラマなどには冷めてしまった夫婦関係とかも多いじゃない? あとは熟年離婚なども騒がれていて、結婚は無条件に良いものだ、という雰囲気はすでに無くなっている。
だけれど、この映画を見ると『結婚って良いなぁ』って思うんだよね。
台湾で本が出費されてサイン会に行くんだけれどさ、そこで現地メディアに修一さんが言った『彼女は僕の最高のガールフレンド』って90歳になっても言えるのが良いよね!」
亀「愛や生活の物語でありながら、人が生きるのに絶対必要なもの……特に食と住について徹底的にこだわり抜いておる。お孫さんのためにシルバニアファミリーか何かの、人形遊びのための小屋を木で作ったのじゃが……そのクオリティがとんでもなく高い!
プラスチックの質感が嫌いだから、と言っておったが、あれならば100万円だしてでも欲しい人がおるじゃろうな」
カエル「ある種の芸術作品だったよ。もちろん、2人の関係性も素晴らしいし、映画らしい展開もあったりして、今年のドキュメンタリー映画の中では屈指の作品に仕上がっているんじゃないかな?
あと、ご飯がとても美味しそうだからそれも見どころの1つ。
朝食は修一さんがご飯で、英子さんがパンだというのも手間がかかりそうだけれど、そういった1つ1つに愛情が感じられるよねぇ」
亀「『海苔が欲しい』と言われて、しっかりと炙る……それだけで全然違うが、そういうことをやってくれる家庭がどれだけあるか……味付けのりでおしまいじゃろう。
愛情表現の1つ1つが素晴らしく、見終わった後には感動とはまた違う、満足感の高い涙が流れておるじゃろうな」
私はダニエル・ブレイク
カエル「一方のこちらはケン・ローチ監督がカンヌ国際映画祭でパルムドールを獲得した作品だね。
イギリスの現状を描いた、骨太のドラマで……こちらはフィクションだけれど、でもその力強さが圧巻で」
亀「本作はもちろんイギリスの現状を描いた映画であり、日本は一切関係ない。ケン・ローチ監督も日本など露ほどにも意識しておらんじゃろう。
しかし、この映画を見ていると『これはまるで日本について語っているのではないか?』と思う部分も多々あるわけじゃ」
カエル「さすがに『デジタル以外は書類の記入や提出を認めません』というのはないけれど、徐々にそうなりつつはあるよね。紙の……アナログの重要性はあるけれど、国民番号制度などに対する不満は数年前に導入した日本とほとんど一緒だし」
亀「主人公のダニエル・ブレイクは本当に困っておるのじゃよ。決して嘘はついておらん。ちょっと堅物なだけじゃ。医者かも心臓に負荷がかかる仕事はやるなと言われておるし、大工仕事などもってのほかだと言われておる。なのに行政が『あなたは働けるので支援はできません』と言い始めるわけじゃな」
カエル「もうさ……いたたまれないんだよね。いわゆるお役所仕事と呼ばれる、遅い上にマニュアルに則った対応とかもさ……」
亀「じゃが公共機関である以上、そうならざるを得ないわけじゃ。
だから初めての町の道に迷って遅刻してしまった親子を追い返すことになってしまう。時間厳守なのはわかるが……もう少しどうにかならないのか? という思いもある。しかし、役所の職員も意地悪をしているわけではないというのがの」
カエル「あくまでも公共機関として決められた役割を果たしているだけなんだよね……ルールはルールだけれどさ。
だからこそ『私はダニエル・ブレイク』という言葉の意味がわかった時に、観客は賞賛の拍手を贈りたくなる。町の人の声に賛同するわけだ」
亀「この映画が訴えかけたものは高齢化社会と高度な情報化社会を迎える日本においても非常に重要なものじゃろう。
是非ともこの映画を見て、いろいろ考えるきっかけにしてもらいたい」
幸せなひとりぼっち
カエル「そして幸せなひとりぼっちだけれど、こちらは2017年のアカデミー賞外国語映画賞の候補にも入ったスウェーデンの映画で……わかりやすく言うと、ヨーロッパ版の『グラン・トリノ』だよ」
亀「こちらも満足度の高い作品であったの。ヨーロッパ映画らしく、派手なところがあるわけではないが静かに、しっかりと高齢者の孤独を描いておる。ダニエル・ブレイクが社会派映画で、ジーサンズがエンタメ映画じゃとしたら、こちらはその中間といったところかの」
カエル「気難しいお爺ちゃんがひとりで町の治安を守っているところに、移民の家族が引っ越してくるんだよ。
そして交流が始まって……という物語なんだけれど、実はここで色々な事実が明らかになっていくんだよね」
亀「この映画では元々親友で寝たきりになってしまった男がおるんじゃが、この2人の思いなどを知ると胸にグッとくるものがあるの」
カエル「これはダニエル・ブレイクもそうだけれど、やっぱり子供達がすごく可愛いの!
だからこそ、気難しいオーベ爺さんが少しずつ雪解けしていく様子もわかって……ほっこりする映画だよね」
亀「こちらも高く評価されるのがわかるし、高齢者問題の重要なことを描いている映画じゃの。
ジーサンズに関しては記事にしておるので、是非ともこちらを参考にしてほしい」
カエル「というわけで、今回はこの4作品と……あとは有名な高齢者を扱った映画を中心に、今の世界中の映画界がどのように高齢者問題を考えているのかを読み解いていきます」
2 共通するテーマ
カエル「じゃあ、ここから4作品の共通するテーマについて考えていくけれど……まあ『人生フルーツ』はドキュメンタリーだからちょっと毛色が違うけれど、その他の3作品にはある共通のことがあるんだよね?」
亀「まず配偶者をなくした男性が主人公だということ。
3作品とも奥さんは出てこない。全員亡くしてしまっておるんじゃな。複雑な環境にはあった人もおるが、その喪失感を強く抱えておる」
カエル「よく配偶者を亡くした場合、男性の方が悲惨だって言うもんねぇ……」
亀「この作中の登場人物の抱える配偶者を亡くした喪失感というのはとても大きなもので、やはり簡単に割り切れるものではなくてずっと引きづってしまう者もおる。
これは他の高齢者を扱った映画もそうで、それこそ前述の『グラン・トリノ』であったり、それからわしの大好きな『最高の人生の見つけ方』なども配偶者のいない男が主人公じゃ。息子などがいない、あるいは疎遠であることも共通しておるの」
カエル「孤独になりやすい高齢者をいかに描くか、という問題だね」
亀「少しコメディー要素も強い『ジーサンズ』は3人のお爺ちゃんが主人公ということもあり孤独の悲壮感はそうないが、それもグループホームのような場所に集まったりせんとどんどん孤立していくだけということじゃろう」
カエル「……そういえばお婆ちゃんを扱った映画ってそんなにないよね? こうやってみても男性が主人公の映画ばかりな気が……」
亀「女性の場合家族とうまくやったり、あるいは他人とコミュニケーションをとって孤独にはなりづらいのかもしれん。男性はどうしてもコミュニケーションが苦手な人も多いためか、孤独になりやすいからの」
『スタンド・バイ・ミー』などのロブ・ライナーの傑作映画!おすすめです
病気の有無
カエル「これもこの3作品に共通するものだよね。
ジーサンズは全員ではないけれど、1人だけ病気を抱えているし、他の作品も心臓に病気を抱えていて、そこまで無理をしてはいけないということも言われている」
亀「どうしても年をとるとそういうことにもなってくるの。
これによって、高齢者問題は『病気との戦い』であることが示されておる。これは当然といえば当然のことでもあるのかもしれんが……」
カエル「ある意味では病気ものとしての側面を抱えているわけだね」
亀「体は若い頃のように無理はできないし、しかも日に日に衰えていく。社会の目も福祉はあるが、それも万全とは言い難い。
そのような状況下でさらに病を抱えると生活に支障をきたし始める。特にこの映画に出てくる登場人物は、世代的なものもあるかもしれんがある種の技術者であった者が多い。つまり、体を使って稼いでいたということじゃ。
その体があまり動かなくなってきてしまったというのは、孤独の意識をさらに強めるじゃろうな」
カエル「どうしても『まだ無理は出来る!』とかって考えてしまいそうだしねぇ」
亀「老いと病いの問題は高齢者を取り巻く、重要な問題ということじゃな」
直接の高齢者問題ではないかもしれませんが、やはりこの映画も欠かせない、イーストウッドの名作
福祉と貧困
カエル「これはジーサンズとダニエル・ブレイクがテーマにしている問題だよね。ジーサンズはハリウッドらしくエンターテイメントとして痛快娯楽作品に仕上げたけれど、ダニエル・ブレイクはエンタメ性をなくして直視した問題で……」
亀「どちらも共通するのは『現代化の波についていけず、苦労していく』ということじゃな。ジーサンズはローン会社の複雑なシステムに翻弄され、ダニエル・ブレイクは福祉課のシステムに翻弄される。
その結果、お金をなくして衣食住も満足に取れなくなっていく」
カエル「そういった貧困の問題についてどのような選択をしたのか、ということも特徴的だよね……」
亀「あまり直接的に言及するのもなんじゃが……いや、ジーサンズはそのタイトルにもあるように『はじめての強盗』に関することをやるのじゃよ。つまり犯罪行為に手を染めるわけじゃな。
そしてダニエル・ブレイクも社会に対して大きな不満の声をあげる。その方法が……賛否があるものになってしまうわけじゃ」
カエル「でもさ、逆に言えばそこまで追い詰められてしまうということなんだよね。どれだけ『助けてくれ!』と叫んだところで、誰の手も伸びない。本来保護するべき社会が拒んでしまうわけだし、担当者だって結局は他人だから……」
亀「この問題は現実でも根が深いものとしてあって、結局は盗んだりとか、犯罪に走るしかない、刑務所で暮らすのが1番楽だと考える人がいる現実もある。何せ衣食住があって、仕事もあって、病院もあって……ないのは自由だけじゃが、自由があってもお金もなければ何もやることがないわけじゃからな。
そう考えると刑務所の方が楽なのかもしれん」
カエル「配偶者や家族がいないと高齢者の貧困問題ってどうしようもないよねぇ……働けよ! って簡単にいえるものではないし」
亀「そう考えると、高齢者問題というのはどこも根っこは同じなんじゃよ。それに対してどのようにアプローチするか、ということじゃな」
3 高齢者問題の救い
カエル「でもさ、映画は当然のようにフィクションかもしれないけれど、でも絶望感があるだけではないんだよね?」
亀「もちろんじゃ。
このフィクションの3作品とも頼れる隣人であったり、仲間がおる。ダニエル・ブレイクは同じ貧困を抱える母子家庭であり、ジーサンズは高齢者の仲間であり、幸せなひとりぼっちは隣に越してきた家族じゃ。
このように、近くに少しでも交流がある者が居れば、その困難は少しでも和らぐということを描いておる。
確かに貧困問題などを根本的に解決することはない。だが、それでも一人で苦しみ、悩むことよりはよっぽどマシじゃ。
そういった困難に対してこそ、誰かの手を借りて分かち合うというある種の普遍的な、当然とも思えることが描かれておるじゃな」
カエル「でもそれってすごく大事なんだよね。
例えばこれが若者の映画であれば、それはあまりにも当然のように描かれすぎてちょっと御説教くさくなるかもしれない。実際、ちょっと足を伸ばせば友達や仲間を作りやすいし、何よりも体が元気だし。もちろん、若者には若者特有の問題もあるけれどさ。
だけれど、高齢者問題ってすごく身近なんだけれど……映画などでは描かれにくいところがある」
亀「わしは今年に入ってこれだけ骨太の高齢者映画を見たときに『高齢者問題を抱える日本は何をやっているのか?』という思いもあった。
いや、冷静に考えてみれば『海辺のリア』なども高齢者を扱った映画といえるのじゃが……貧困などに目を向けた作品がそこまで出てきていないような気がしておった。
そこに登場したのが『人生フルーツ』じゃ。
まあ、時系列的には一番早く公開しておったのじゃが」
痴呆症の元スターという、仲代達矢の演技が光る
人生フルーツの救い
カエル「なんで今回の高齢者問題を考える際に人生フルーツを入れたの? 毛色がかなり違うと思うけれど……」
亀「人生フルーツが描いたことというのは、高齢者問題に関しても1つの救いなんじゃよ。もちろん、あのような生活を誰もが送れるわけではない。元気な体があって、土地があって、知識があって、そして配偶者がいて初めてできることかもしれん。
それでも、お金に頼らない生き方ということも高齢になってもできるということを示しているわけじゃな」
カエル「もちろん、すべてを自給自足にしているわけではなくて、電気なども通っているし、スーパーで魚なども買っているけれど、その生き方はとても豊かだもんね」
亀「高齢者問題を考えるとどうしても、上記のような問題を連想してしまう。それはもちろんその通りじゃ、むしろ人生フルーツのような生活を送れている人の方が少ない。
しかし、それでもこういう問題ばかりでは……老後が暗くなる一方じゃろう? そこに若者がいかに希望を持てというのか。
人生フルーツはドキュメンタリーじゃ。
だからこそ、物語であれば嘘くさくなるような生活が、確かにある、可能であるということの証明になっておる」
カエル「簡単ではないだろうけれど、こんな生き方もあるんだよっていう指針の1つにはなるよね」
亀「家族とともに暮らすのも1つの手じゃし、極端に言えば刑務所に入るのだって1つの手である。色々な選択肢の中から選べばいい。もちろん、初めから選択肢がないものもおるじゃろう。
そうならないためにも若いうちから選択肢を増やすというのも大事なんじゃよ。人生に正解はない。だからこそ、先行き不透明なこの社会をどのように生きるのか……それが問われているわけじゃな」
最後に
カエル「というわけで最後だけれど、結構高齢者を扱った映画も面白いんだよね。確かに派手派手な爆発とかはないけれどさ、ヒューマンドラマとして骨があって……
『最高の人生シリーズ』とかもあるしね」
亀「まったく無縁の作品もあるがの。ロブ・ライナーが監督した『最高の人生のはじめ方』はまだわかるが『最高の人生のつくり方』に関しては苛立ちすら感じたからの。
予告とまったく違う! となったし、映画の内容も色々言いたいこともあるし……」
カエル「これから先、こういう映画は増えていくんだろうね。高齢者問題ってどこの先進国も抱える重要な問題で、それを社会が受容していくのか、どこまで受容するのか、というのは年金や保険料の問題もあって議論が延々と続いているような状況だし」
亀「今回扱った4作は日本、イギリス、スウェーデン、アメリカとそれぞれ制作された場所も違う。しかし共通するものは確かにある。
それがこの先どのように変化しているか、注目していきたいの」
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