亀爺(以下亀)
「年金問題も昔ほど騒がれなくなったが、解決しない大変な話じゃな……高齢化社会を迎えて久しいが、まだまだ熟成した社会とは思えないの……」
カエルくん(以下カエル)
「……今回は珍しく真面目な話題からスタートだね」
亀「わしとしても次の世代へ迷惑はかけたくないと思いながらも、現状の生活を守るので精一杯なのが実情での。全く、世知辛い世の中じゃの」
カエル「日本は年金機構がまだ機能していて、明日から急にもらえなくなるということがないからいいけれど、アメリカなんてそういう制度が企業や保険会社任せみたいなところがあるから、結構複雑な問題みたいだね。
高齢者にいつまで働いてもらうのか? っていう問題もあるみたいだし……」
亀「それこそ銀行強盗でもやって一山当てたいところじゃの」
カエル「……それって一山当てるっていうの?」
亀「それにしても、本作のように高齢者が銀行を襲うという作品が年に2、3本は毎年出てくるように思うの。コメディタッチになって笑えるものであるし、悪党ではあるが若い者が悪事を働くよりも微笑ましく、弱者が行うということで暴力的な印象が減るからじゃろうが……
それ以上に高齢者の貧困問題が世界中のどこでも問題視されているということではないかの?」
カエル「映画から見えてくる世界の事情だね」
亀「日本ではこういった作品は少なくともワシは覚えておらんが、それはもちろん犯罪に対する強い自制心があるということもあるのかもしれんが、年金機構や健康保険制度が比較的しっかりとしているということもあるのかもしれんの。餓死をする人などほとんどおらんし……」
カエル「……大丈夫? そんな真面目な話から始めて記事の中で語ることなくならない? もっとくだらない話をしておいたほうが後々楽なんじゃないの?」
亀「何を! ワシはこの映画で語ることが非常に多いのじゃ!
ではその証拠にこれから感想を色々いっていこうではないか」
映画『ジーサンズ はじめての強盗』特別映像【HD】2017年6月24日公開
1 ネタバレなしの感想
カエル「じゃあ感想から始めるけれど……思っていた以上に完成度の高い映画なんじゃない!?」
亀「この映画の予告編を見てもらえばわかるように基本は3人の名優たちが繰り広げる銀行強盗が売りのようじゃが……もちろん、それは間違いではないが、比較的コメディとしてしっかりとしており、終始笑いながら鑑賞することができる。サスペンス要素もありながら緊張する瞬間もそんなに多くなく、誰が見ても楽しめる作品に仕上がっておる。
しかし、終始笑えるだけでなくさりげない伏線が回収される瞬間なども多くてワシも唸ったわい」
カエル「すごく脚本がいいんだよね。次の展開が予想できないというか、ちょっとしたことも伏線として機能していて、後々に生きてきたり……若者に比べるとどうしても体力に劣る爺さん達が如何にして強盗をうまくこなすのか? ということが説得力があるように仕上がっていて」
亀「もちろん予期しない展開、どうなるのかわからないハラハラ感というのも脚本の魅力であるが、本作は社会批判という視点もしっかりと機能しておる。コメディには単なるゲラゲラだけでなく、社会に対する皮肉であったり、メッセージ性が含まれておるのが重要だというのがわしの持論であるが、本作はそのあたりもきっちりとしておった。
単なるゲラゲラのキャッチーな映画かと思いきや、そうでもなく奥深さを兼ね備えた見事な脚本と言えるじゃろう」
カエル「その意味では万人受けの映画って言ってもいいのかな?
先にもあげたように誰が見ても高評価をつけやすい作品だよ」
亀「とりあえず何の映画を観るのか困っているというのであれば、この映画をオススメするの。残虐なシーンもないし、銀行強盗の犯罪性を柔らかくしようと配慮されているのも伝わってくるしの」
主演の名優3人
役者について
カエル「何と言ってもアカデミー賞俳優3人の存在感だよ!
やっぱりどうしても若いイケメン俳優とか、ムキムキマッチョな人ばかりが注目を集めるけれど、本作はお爺ちゃんの魅力が満載で、枯れ専じゃなくてもその格好良さに惚れてしまうこと間違い無し!」
亀「若者の美しさや激しい動きも魅力ではあるが、このように枯れていく者の落ち着きなどもまた違った魅力を宿しておる。静かに染みる演技をしてくれるの」
カエル「パンフレットでは中央に写っていたりと、主人公のようなモーガン・フリーマンだけど、本作の主人公ってどちらかというとジョー役のマイケル・ケインのほうじゃないかな?」
亀「毎年のように何かの映画に出演しておって元気じゃな。本作では孫を思うお爺ちゃんの役どころであったが、それが板についておる。しかも体の動きも程よく年を重ねていながらも、よぼよぼ過ぎずに見苦しくないのも見事なものじゃった」
カエル「そしてモーガン・フリーマンはいつも通り飄々としたいい演技をしていたね! 実は特別に贔屓している俳優でもあって、1番最初に好きになった海外俳優ってモーガンなんだよね。だからこうして元気にしてくれているだけで嬉しくてさ!」
亀「こちらも相変わらず多くの映画に出演しており、いつも理知的な黒人の役を好演しておるの。脇役に置いておくと作品がしっかりと落ち着いて深みを増していくような気がしてくる名優じゃな」
カエル「もちろんアル役のアラン・アーキンも好演していて、この3人のキャラクター性が若干異なるんだけど、1番……なんというか、江戸っ子ぽい? 口の悪い役だけど、それでも嫌いになれない部分があったりして。そのあたりはアラン・アーキンの演技力が生きているね」
亀「もちろんその3人も魅力的じゃが、他の役者も魅力的じゃよ。
アニー役のアン=マーグレットは上記の3人よりは少しばかり若いとはいえ70を超えているとは思えないほど美しかったの。わしもあのように年を重ねたいものじゃわい」
カエル「……え? 亀爺、性別すらも超えてしまったの?」
亀「女性ならば一つの憧れなのではないかの? メリル・ストリープなどとはまた違った可愛らしいおばあちゃんであったわい。
それから何と言っても……あの人がこの映画の魅力を一気に引き立てておったな」
カエル「それがこの人!
クリストファー・ロイド! みんな大好き『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のドクだよ!
やっぱりBTTFでもそうだけど、この人のコメディ演技ってすごくいいよね。結構年取ったなぁって思うけれど、その魅力は健在です!」
亀「なんだか久しぶりすぎて最初に出てきた時は『あれ? クリストファー・ロイドはまだ存命だったかの?』と疑問に思ったほどじゃった。よく似たそっくりさんかと思ったわい」
カエル「ちょっと調べたら死亡説が頻繁に流れるらしいね……なんか10年前くらいに亡くなったという噂を聞いてそれを信じていたまんまだったなぁ……
まだまだ元気に役者をやっているよ! ちなみにまだ観ていないけれど小規模公開中の映画『アイム・ノット・シリアルキラー』では殺人鬼役を熱演中だって! こちらも楽しみだね!」
亀「ホラーは苦手だからパスするかもしれんがの」
以下作中言及あり
2 静かに紡がれる物語
カエル「ここからは作中に言及しながら語るけれど、本作は導入からいいよね。軽快な音楽が流れながら物語が始まるんだけど、それが本作の方向性を見事に表していて」
亀「物語のスタートというのはどのような作品にするかという挨拶でもあり、ここで失敗するとズルズルと尾を引いてしまうが、本作は軽快な音楽によって作品世界へと静かに没入していくことになる。
冒頭からしばらくは決して派手ではなく……特別を目を引くような何かがあるわけではないのじゃが、今作の抱えるテーマであったり、重要な要素である強盗に対する印象を柔らかくするように考えられておるのが伝わってくる。
しかし、そのうまさを誇示しないんじゃな。だからこそスルリと鑑賞できる」
カエル「結構世知辛いお話なんだよね。現代社会のおかしな風潮を笑いを交えて指摘しているけれど……座ってすぐに呼び出される銀行だとか、説明不十分で半分詐欺みたいな住宅ローン、それに年金問題と高齢者を取り巻く環境がそんなに良くないことを指摘している」
亀「仕方ないで済ますには辛い現実じゃの。
そこに突然ある事件が起こるわけじゃが、ここがこの映画の最大のミソかもしれん。これはネタバレになるので語らないでおくが……この場面がうまいからこそ映画として集中して観ることに繋がってくるし、後々に生きてくることになる」
みんなから愛されている3人
高齢者には苦労もいっぱい……
罪の意識の軽減
カエル「あのシーンの後に銀行強盗事件の説明が入るじゃない? そこがまたうまいところなんだよね」
亀「日本で言ったら3億円事件と一緒じゃな。確かにお金を取られて酷い目にあったようじゃが、銀行は保険会社からお金が降りるから被害としては全く痛くない。人的被害がなければ、結果的には問題無しじゃ。保険会社は涙を飲むことになるがの……
それが銀行強盗という重大犯罪に対する罪の意識を少なくさせることにつながってきておる」
カエル「銀行強盗は誰もが悪いことだと非難する行為だけど、その美しい部分というか……悪い部分を取り除くことで、重犯罪なんだけれど、そう感じさせないようにしていたね」
亀「あのまま銀行強盗をしてしまうと観客が戸惑うだけじゃからな。
その計画を持ちかけられた時のそれぞれの行動であったり、実行する理由などもコミカルながらもしっかりと描かれており、それも良かったの」
じっくりと練られた脚本と演出
カエル「決して大どんでん返しってわけでもなくて、すごく派手な作品でもないんだけど……それでも思わず唸ってしまうようなことが後半にあるんだよ!」
亀「この辺りは本当にうまいの。わしも『ほお! そうきたか!』と膝を叩いぞ。なぜこの3人が銀行強盗をうまく成立させたのか? などということは作中できっちりと語ってくれるわけじゃが……それが素晴らしいの」
カエル「まあ、冷静に考えるとちょっと疑問もないではないんだけど……でも映画を見ている最中は納得できてしまうものだったね」
亀「その後も様々な困難が出てくるのじゃが、それに対する対処法なども面白かったの。全てが理詰めで計算されたものではなくて、運も大いに関係してくるようなものであったが、それまでがあんまりツキのなかった高齢者たちじゃ。あれぐらいの幸せはあってしかるべきじゃろうな。
そこはご都合主義と見る人もおるかもしれんが、わしはそれくらいの幸運は許して欲しいと思うの」
カエル「あと演出も面白かったよね。犯行の様子の見せ方などをただ時系列通りにするわけではなくて、工夫を凝らしながら見せていって。
3人のが同じ画面に入るように作られたカットも面白かったなぁ」
亀「終盤の子犬のシーンなどのカメラも中々面白かったの。1つ1つが地味ながらもしっかりと考えられて、コメディとして楽しませようと意気込みを感じさせる作品じゃった」
最後に
カエル「あんまりネタバレができないタイプの作品だからこんなところで終わりにするけれど……いい作品なのでぜひ劇場で鑑賞してください!」
亀「対象年齢は10歳から100歳までじゃな。それくらい幅広い層に受ける映画になっておる。時間も90分強と比較的短いし、役者陣も豪華じゃからな。
しかもサービスシーンもあるぞ!」
カエル「……え? サービスシーン?」
亀「すっごいどきどきするような、えっちぃさーびすしーんじゃ! わしも思わず鼻血ものじゃったな!」
カエル「え、いや、あるけれどさ……
あっちの人はすごいよねぇ。何歳になっても現役だから……」
亀「わしも生涯現役じゃ! そして最後は腹上死するぞ!」
カエル「……それって名誉なことなのかな? しかも亀って腹上死なの? どちらかというと背上死のような……
いや、これ以上深く考えるのはやめとこう」
モーガン・フリーマンの出演する作品はこちら。
結構面白いです
こちらは一転して重い作品ですが、おじいちゃんが主人公の映画としてレベルの高い1作に仕上がっています
コメディのおすすめ2016年で1番笑ったかも!