今回は中島みゆきの名曲『糸』をメインテーマにした作品の感想となります!
にわかながら、中島みゆきに関しては少し思うところがあるぞ
カエルくん(以下カエル)
「それこそ、国民的アーティストの筆頭みたいなところがあるから、うかつに熱くは語れないけれど……それでも誰もが一度はとおるアーティストなのではないでしょうか」
亀爺(以下亀)
「この楽曲の名を冠しておきながら、適当な作品にしておったら、非難されても仕方ないのではないかの」
カエル「……おお、怖い怖い。
それでは、早速ですが感想記事のスタートです!」
感想
それでは、Twitterの短評からスタートです!
#糸
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2020年8月12日
すすり泣きが響く劇場内…
静寂の中で一人憤慨してしまった
「これ、やったら嫌だなぁ」を徹底的にやり抜いて泣ける作品に仕上げた空っぽ具合にストレスがたまる
中島みゆきの楽曲を使ってこのスカスカさはヤバいんじゃないかなぁ…
ただ音楽を流すのではなくせめてMVぐらいにはしてほしかった pic.twitter.com/twiXzZx1Ea
‥…残念ながら、疑問点も多々ある作品ではあったかもしれんの
カエル「そういえば、瀬々監督作品は初だったんだけれど……なんか、ちょっと思っていたのと違うというか……
いや、思っていた通りではあったんだけれど、こっちの方向にして欲しくはないなぁ‥…と思ったものが全て来てしまったというか……」
亀「まあ、こればかりは仕方ないかもしれん。
最近もTwitterで呟いておったが、映画館というのは”映画を楽しむ”為の場所ばかりではない。むろんそれが第一目的である人もたくさんいるが、中には恋人や家族、友人との遊ぶ場所以上のものを求めておらん人もたくさんいる。
そういった人たちには
- わかりやすくて泣ける
- サラリと流れて、次の行動に迎える
- 予習も復習もいらない
こういった作品が求められておる。
そして、この映画はその条件にしっかりと合致しておる。
先行上映でも、周囲の観客はしっかりと泣いておったよ」
映画に求めているものが違うと‥…
こういった作品も、映画文化を盛り上げるためには必要なわけじゃな
カエル「みんながみんな、予習が必要な作品ばっかりだとしたら、一見さんがついてこれないもんね……どれだけFateが素晴らしくても、そればかりだとダメというか‥…」
亀「その意味では、この映画はキッチリとその需要を満たしておる。
求められているのは、泣ける映画じゃから、その要求にはきっちりと答える作品になっておるし、こういったものも必要だと思う。
しかし、ワシはあまり評価できんというだけじゃな」
カエル「あんまりネタバレにならないように語るけれど、あの中盤の展開とか、本当に大っ嫌いだと何回も言っているよね‥…」
中島みゆきの楽曲の魅力とは?
うちもにわかもにわかではあるけれど、中島みゆきの楽曲はいくつか聞いてきて、特に好きなアーティストの1人でもあります
天下の中島みゆきを起用してこれか‥…と愕然とした思いもあったかの
カエル「もちろん、説明不要だとは思いますが‥…中島みゆきは70年代から2000年代にかけて、オリコンシングルチャートで1位を獲得したアーティストであり、ソロの歌手としては唯一の存在です。また、自信が作詞、作曲を行なった作品を含めると、5つの年代で1位を獲得するなど、日本を代表する歌手であることは疑いようがないでしょう」
亀「その中島みゆきの楽曲の魅力はどこにあるのか? という話じゃな。
ワシは……やはり”わずか5分弱の中に詰め込まれた人間の描きかた”にあると考えておる」
カエル「中島みゆきの楽曲は物語性が強くて、時には苦境にいる人々を応援するような、時には寄り添うような楽曲が多いよね」
亀「それで言うと、今回『タクシードライバー』と『狼になりたい』を参考に挙げようと思う。
どちらも比較的初期の楽曲ではあるが、中島みゆきの魅力がしっかりと伝わると感じる。
この2曲は、特に”人間を描く”ということに着目し、それがしっかりと果たされているからの」
カエル「タクシードライバーはおそらく深夜に色々とあって疲れ果てて酔っぱらった女性がタクシーに乗った時の心境を歌にしています。
そして狼になりたいは深夜の吉野家で夜を明かす人々と、偶然会った男性と思われる人との交流の歌です」
ふとした瞬間に出てくる、人間模様が素晴らしい楽曲たちじゃな
亀「タクシードライバーでは、以下の歌詞に注目したい。
タクシー・ドライバー 苦労人と見えて わたしの泣き顔 見て見ぬふり
天気予報が 今夜もはずれた話と 野球の話ばかり 何度も何度も 繰り返す
このサビの部分じゃ。主人公の女性に寄り添いながらも、決して器用なタイプではないために、何を話せばいいのか、わからないこともあるじゃろう。その中でもなんとか話をしようと、何度も何度も同じ話を繰り返す。
これが人間じゃな。
また『おおかみになりたい』では
ビールはまだか
なんと言ってもこの歌詞じゃな。それまでは周りを羨むように、弱々しく話しておった人が、まだビールが来ないことに激昂し、急に大きな声をあげる。これでこの人物の苦境を如実に物語るわけじゃな。
このように、わずか5分弱でありながらも、卓越した表現力と歌詞の力によって、その人生を感じさせる歌手でもあるわけじゃ」
今作で感じた大きな欠点
そんな、中島みゆきの名曲をテーマにしている作品であるけれど、色々と感じてしまった点をまとめるとどうなるの
やはり、大きく分けて以下の2点となるかの
- 登場人物の人生が見えない
- 時代ごとの中島みゆきを扱うことができていない
カエル「1つ目の”登場人物の人生が見えない”というのは、わかりやすいかもね……」
亀「本作は、その多くの描写がある種の定型的な印象を受けてしまう。
この作品の中で主人公とヒロインの2人が原因で、何か大きな出来事が発生することは少ない。ほぼこの2人は周囲に巻き込まれていく形になってしまっておる。それが不満の1つでもある。
というのはの……本来、中島みゆきが寄り添ってきた人たちは、むしろ彼らを苦境に追いやってしまった人たちのように思えて仕方ないわけじゃよ」
カエル「もちろん、絶対的な悪だっているけれど、この映画の中の多くの人はなんというか……人間としての弱さを抱えていて、色々なプレッシャーなどに負けてしまっておかしな行動をしてしまうという印象も受けたね」
亀「しかし、その弱さに寄り添ってきたのも中島みゆきなのではないかの。
確かに主人公たちは懸命に生きており、わかりやすく応援したい人物のようにも見える。しかし、描写がおざなりなせいで、それが……そうじゃな、今の時期的にも24時間テレビのような”頑張って欲しい善人”になっておる。
それはそれで、確かに多くの映画を見慣れない人のためになっている、わかりやすい造詣と言えるかのしれんが……わしは、その描き方はあまりにも軽く、むしろ人間をバカにしているものと感じてしまう」
それが如実に出たのが、名曲『ファイト』のシーンだと思います
この曲で語られている人々は、そんなに軽い人生ではないじゃろう
カエル「ラジオで送られてきたお便りを元に、多くの人々に寄り添う形で作られた楽曲であり、今でも多くのアーティストにカバーされ続ける名曲です」
亀「この楽曲こそ、中島みゆきの真骨頂の1つである。
数分の楽曲の中に、いくつもの人々の人生が語られている。そのわずか数行の中に、その人物たちの気持ちが滲んでくるようでもあった。
これが中島みゆきなのじゃよ。
それに比べて、この映画はキャラクターでしかない。
その先の、人間の気持ちを感じさせる何か……そう、行間ともいうべきかの。そういった”間”を表現することができていない。
震災まで扱っておきながら、すごくおざなりになっておる。
うわべだけのファイトになってしまっているのでないかの?」
その時代ごとの中島みゆきを捉えることもできていないと……
昭和、平成を駆け抜けた偉大なアーティストなのにの
カエル「この映画ではいくつかの中島みゆきの楽曲が使われていますが、本当にそれだけしかないのかな? という気持ちになりました。
また、これは仕方ない部分もあるかもしれませんが……
- 糸→92年に発売のアルバム『EAST ASIA』に収録された
- ファイト→1994年発表された『空と君とのあいだに』との両A面
- 時代→1975年に発表された2枚目のシングル
となっていますが……ちょっと平成を語るというのには、少ないのかなぁ……」
亀「この映画は平成30年を語ろうという意図を感じさせる。近年はそういった作品が多く公開されている印象もあり、わしはそれはそれでいい挑戦だと感じておる。
しかし、本当にこの楽曲で良かったのか?
70年代から10年代までを第一線で駆け抜けたアーティストで扱う曲がこれだけでいいのか?
確かに『空と君とのあいだに』や『銀の龍の背にのって』などはドラマのイメージも強く、使いづらいかもしれん。『地上の星』などもテレビ番組のイメージも強いの。
もちろん、今あげた超有名曲以外でもいい楽曲は山ほどある。
しかし……その時代ごとに象徴する楽曲を持つ中島みゆきというアーティストを捕まえて置きながら、この楽曲しか使わない……
しかも、何度も何度も同じ曲を選曲するセンスなどもわしは気になってしまったの」
褒めるポイント
まあ、でも文句ばっかり言ってもしょうがないので……何か褒めるポイントはないの?
ふむ……少し考えてみるかの
カエル「あ、考え込まないといけないレベルなんだ」
亀「これは冒頭の場面であるが、2人の出会いの時に怪我をした男の子にガーゼを当てる場面がある。これは系の歌詞を連想させるだったの。
まあ『こんな序盤でなんの感慨もなく消費するのか』と思ったがの」
カエル「褒めて! 褒めてください!
ほら、役者さんとか!」
亀「決して悪いとは思わなかった。
菅田将暉は真っ直ぐな演技を披露しておったしの……元々そういうのが売りの役者ではあるが。
何よりも小松菜奈は、わしが見た中では1番いい演技だったかもしれん。
特に傷心の場面で、食事を貪り食べる様子には、感動すら覚えたものじゃな。あれだけ欲しい役者さんだと口にだけ含んでカットする作品も多いが、しっかりと食べることで彼女の抱える悔しい感情も伝わってくる思いであった」
カエル「役者でいうと、竹原ピストルを起用したというのも面白かったかも。
ファイトを熱くカバーしているアーティストであったし、中島みゆきの楽曲を使った作品に出演するのは、確かに納得だよね」
何よりも、今作でMVPを与えたいのは高杉真宙くんじゃな
カエル「なんか、ここ最近さらに磨きかがかかってきたよね。まあ、役自体がとても良かったというのもあるんだろうけれどさ」
亀「あれは『最高の人生の見つけ方』の秘書みたいな役回りじゃったの。
そう言った彼の魅力が伝わってきたわい。
……しかし、それでいうと、わしの趣味の問題かもしれんが『秒速5センチメートル』の影がチラつく作品でもあるんじゃよな……しかもあれほどガツンとくるものもないのが、さらに気になったというか」
最後まで褒めで終えることができないんだね……