物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『ハルチカ』感想 問題点は多々あれど、アイドル映画としては良作といえるのか?

カエルくん(以下カエル)

「皆様、いつもご愛読ありがとうございます。

 もしくは初めましての方、物語る亀の名前だけでも覚えていってくださいね。

 今回は、僕たちが登場して約半年、いよいよ、ついにこの時がきました!

 ついに新キャラ登場です!

 しかも女性!!

 いやー、わくわくしちゃうよね! いったいどんな女の子が来るんだろう? 可愛いことだといいなぁ……」

 

???「あ、初めまして……」

 

カエル「あ! はじめ……まして?」

???「今回から新しく加わった亀婆じゃ。よろしくの」

 

 

カエル「……え? 亀爺じゃなくて、亀婆なの?」

亀「そうじゃ、わしはメスの亀婆じゃ」

カエル「いやいやいや! 亀って表記だと亀爺と全く一緒だよ!? 口調すらも全く変える気がないの!?

 主が絵が描けないから口で説明すると、いつもの亀爺のフォルムにデッカい赤いリボンだけ載せたような、手抜きなんじゃないの!? これ!?」

亀「何が手抜きじゃ。これでも待望の女子じゃぞ、ほれ、もっとチヤホヤするべきじゃろ」

カエル「……なんかいつもと同じような感じがするけれど、これで感想記事を始めてみようか……」

 

 

 

 

 

【チラシ付き、映画パンフレット】ハルチカ 監督 市井昌秀 キャスト 佐藤勝利、橋本環奈、恒松祐里、清水尋也、前田航基、平岡拓真、上白石萌歌、二階堂姫瑠、志賀廣太郎、小出恵介

 


映画『ハルチカ』 予告編

 

 

1 ネタバレなしの感想

 

ハルチカシリーズって?

 

カエル「え〜っと……気を取り直して! この映画って、一部の映画ライターが絶賛していたんだよね。

 主はアニメ版の1話だけを見たと言っていたけれど、印象としては『氷菓+音楽+三角関係÷3=ハルチカ』だって言っていたよ」

亀「あの1話はなかなか衝撃的だったの。まさかそんなことが! となるような1話で、そこで『う〜む……』となってしまい、鑑賞を諦めたという経緯があったの。

 そこまで悪いとは思わなかったが、アニメも毎期50本以上始まっているような現状では、迷うようなレベルだと切らざるを得ないということもあるからの

 

カエル「特にこのブログのように映画にアニメに小説に漫画に……って結構大忙しだからね。今期もあまり見ることができていないし……

 それはそれでいいとしても、この映画を見ている時に愕然としたよね。

『え? あの三角関係全カット!?』って」

亀「この衝撃を例えるとするならば……そうじゃな、クレープの中に生クリームが入っていないかのような衝撃じゃの」

 

カエル「頑張って女子らしさをアピールしようとして失敗している感がすごいね!

 まあ、でもこれは本当に衝撃的だった。もしかしてあの要素ってアニメオリジナルなのかな? って思って原作を軽く読んでみたけれど、やっぱりその要素が入っている。

 この脚色は思い切ったよね!

 ハルチカという作品が他作品と差別化されているのはこの『三角関係』にあるんだけど、そこをバッサリ切ることで誰にでもわかりやすい物語にしてしまったというね!」

亀「ただ、それが良いか悪いかは話が変わるがの。

 おそらくこの映画を見る人は『ハルチカのファン』よりも『橋本環奈、佐藤勝利のファン』が多いじゃろう。実際、映画館も9割女性じゃったしな。役者メインなのは間違いない。

 では佐藤勝利にあのようなことをさせるか? と問われると、さすがにそれはできなかったのじゃろうが……

 わしからすると、この改変は『原作レイプ』と呼ばれかねんとすら思ったの」

 

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劇場内は9割が女性。やっぱりジャニーズは強い!

(C)2017「ハルチカ」製作委員会

 

 

この原作改変は有りか無しか?

 

カエル「結構、ここって評価が割れる気がするよね。ここを評価してしまうと、ちょっと色々と『原作と映画』の関係性について、考えないといけないような気がしていて……

 まあ、自分も原作を読んでいるわけではないし、映画化する上では絶対にカットしなくてはいけない部分も出てくるから仕方ないにしろ……このカットは『誠実』と言えるのか否か、という問題があると思うんだよね」

亀「それこそ最近は洋画の吹き替えを芸人が行うことにより、作品世界観などを崩壊させてしまうという問題もあったが……

 正直、ワシはこの作品が『ハルチカと呼べるのかどうか』というレベルの改変じゃとすら思っておる。

 まあ、ハルチカのファンでもない人間が言うことではないのじゃがな」

 

カエル「すごく難しいところに踏み込んでいるんだよね。

 映画のためならば原作の改変は許されるのか問題って絶対にあることなんだけど……

 じゃあ、この改変をすることによって映画が面白くなっているのか? というと、実はそうでもない気がする。なんというか、王道の学園アイドル映画に終始してしまった印象がある。

 それを回避するために、キャッチーなあの『三角関係』があったんじゃないかなぁ? って思いがあるんだよね。あれがあったら、この映画ってまったく違う映画になっていたはずだけど……」

亀「ここは原作ファンが判断することじゃな。

 じゃが、少しでもハルチカシリーズに触れたことがあるわしからすると、大きな違和感があったということは語っておこうかの」

 

 

 

 

全体的な感想

 

カエル「じゃあ全体的な感想に入るけれど……」

亀「俳優陣のファンは満足すること間違いなじゃろうな。隣に座っていた女の子は途中で口元を押さえながら、恍惚の表情を浮かべておったわい」

カエル「ちょっと黄色い悲鳴が上がっていたりもしたよね。橋本環奈ファンよりは、やっぱりジャニーズファンの方が多かった印象だね。

 でも、じゃあこの映画が面白かったのかと言われると……う〜ん……難しいね

 

亀「女の子をキュンキュンさせるような描写は多かったものの、では傑作かと言われるとそんなこともない。

 テンポもそこまでいいとは思えんし、なぜこれほどまでに大絶賛するのか? と少し疑問に思ったほどでもあるかの。

 いや、アイドル映画としては中々の良作と思うぞ? じゃがな、この映画は『アイドル映画』としては良作でも、映画としての評価は……う〜む、といったところかの」

カエル「悪い映画ではないけれどねぇ……

 特にここ最近、吹奏楽ではアニメだけど『響け!ユーフォニアム』が圧倒的なクオリティで描ききってしまったし、音楽を中心とした映画だと『ラ・ラ・ランド』もあるわけで……このタイミングでの公開というのは、確かに不運なところもあるわけでさ

 

亀「特にここ最近は『音』についてこだわった作品が多かったからの。響けユーフォもそうじゃったが、ラ・ラ・ランド、『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』も音楽が素晴らしいと絶賛した。

 ではこの映画は絶賛する音楽のレベルかというと……そこまでではないかの。いや、良い音じゃがな、サントラが欲しくていますぐ走り出すというレベルではない」

カエル「音楽映画だけど、音楽が普通っていうのがねぇ……映画館の音響もあるのかもしれないかもしれないけれどさ。洋画やアニメに比べて、邦画が如何に音楽に気を使っていないのか……というとあれだけど、そこまで重要視していないのか、なんとなくわかっちゃった気がする」

 

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橋本環奈も体当たり? 演技は評価が高い

(C)2017「ハルチカ」製作委員会

 

役者について

 

カエル「……今回役者について語るのはやめておこうか。炎上しそうな気がするし」

亀「というわけで軽く触れておくとすると、主演の橋本環奈、佐藤勝利、小出恵介などを含めて、そこまで悪くはなかったの。年齢を考えると十分な演技と言えるかもしれん」

カエル「もともとこの映画って『若くて可愛い、かっこいい』ことが第一に求められる役だから、別に演技力は二の次なんだよね」

 

亀「演技力があっても不細工じゃとこの映画が求めるものは描けないからの

 それから殴る、蹴るのシーンがあるが、それもよくある空振りなどではなく、しっかりと描いておるのは非常に評価が高いの。特に橋本環奈はこのあと銀魂も控えておるが、それに向けて期待感も少しは増したかの。ここまで出来るなら、まあ、『こう言う描写はNGだから無し』ってことにはならんじゃろう」

カエル「でも、じゃあ『これは日本アカデミー賞クラスだ!』と絶賛するほどでもないんだよね」

亀「これから先に期待じゃな」

 

 

以下ネタバレあり

 

 

 

2 脚本について

 

カエル「じゃあ、ここからはネタバレもありで語っていくけれど、なんていうかさ、やっぱり改変点が大きく気になる映画ではあるんだよね。恋愛映画ではないけれど、でもこの作品はある種の恋愛作品でもあるわけじゃない?」

亀「草壁を取り合うハルとチカの恋愛模様じゃの

 

カエル「そう! 同性愛のように先生を慕うハルというのも大事な要素だったと思うんだよね。それがこの作品が他と差別化されていた部分だったから! だけど、そこを除外してしまうという意図もわかるし、ジャニーズ側も許さないというのもわかるけれどさ……

 ちょっと違和感があるよね」

亀「それは置いておくとしても、脚本もいいとは思えなかったしの。

 本作は最初に仲間を集めていくんじゃが、それが1人1人をしっかりと集めていく。それはそれでいいのじゃが、やはり9人は多すぎるじゃろ? 

 そして9人集めたかと思いきや、もっと数は増えているし……『あれ? この描写は必要だったのか?』と疑問に思ったの」

 

カエル「それでいて、じゃあこの人たちの深堀が必要だったかな? と言われると微妙なんだよね……」

亀「原作にある軽いミステリー要素を入れたかったのはわかる。じゃが、そのためだけにキャラクターが消費されてしまった印象じゃの。

 しかも、その謎もミステリーというよりは、お話として普通の展開にしか見えなかったし……

 映画としてのまとまりに欠ける印象じゃった。

 あのでっかいタラコ唇はまあ、いいとするかの。吹奏楽の話じゃし、直接関係してくるが……あの老人ホームの話は必要じゃったのか? あれが後々の大きな意味を持ってくるのであれば話は変わるのじゃが……あの時だけでしか使わないならば、あれほどの尺を取る必要があるのか、謎じゃったの」

 

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こんなに人数が必要だったのか? 結構削れそうな印象だけど……

(C)2017「ハルチカ」製作委員会

 

 

全員集合するけれど……

 

カエル「結局そんなに登場人物に感情移入していないしねぇ」

亀「これだけ次々と紹介されて、誰が誰かもそこまでわかっておらんで、さて物語のスタートじゃ! と言われてもの……

 そのキャラクター達が揃って、では大きな物語を始めるのかと思いきや、別にそうでもない。モブとまでは言わんが、大きな見せ場があるわけではないからの」

カエル「1人1人にピックアップできないのはわかるよ、時間的な尺もあるしさ。だけど、あのパーカッションの檜山はいなくなって部が空中分解したくらいに、すごく重要な人物だったわけでしょ? 

 その魅力が一切見えない! 

 しかもそのあと、いるのかどうかもわからないくらいだったし……」

 

亀「あれだったら9人も出す必要が本当にあったのか疑問じゃの。

 せいぜい主人公たち以外では、部長の片桐と部長の彼女のわかばと、難聴の芹沢と……そんなもんでよかったかもしれんな。キャラクターとしては元野球部の宮本もよかったし、チューバの米沢も可愛くはあったがの」

カエル「1人1人の描き方が浅いから、これで物語を見せられてもねぇってなっちゃう。思い入れもそんなにないし、結局後半はチカの物語になるけれど、そのためにみんなが頑張るって話でもないし……

 なんというか、ドラマがとっちらかった印象だよ」

 

 

 

3 演出的失敗

 

カエル「はっきりと失敗っていっちゃうんだ」

亀「本作が評価されるのはあのラストの演出にあると思うがの。あれがやりたいのはわかるし、それはそれでいいのじゃが……そこに至るまでの過程がそこまでいいとは思えなかったの

カエル「というと?」

 

亀「リアリティラインの問題じゃの。

 本作はリアリティがあるように描かれているシーンも多くて、特に顕著なのがあの部活でのゴタゴタのシーンじゃ。話を聞くところによると、あれはアドリブで撮られたようじゃが、確かにあの長回しはすごかった。

 あそこなどはリアリティがあるように描いておるのじゃが……なんというかの、そういう描写とリアリティがない描写のバランスが非常に悪いと思ったの。

 本作は学校のお話だから、誰もが経験していることが下敷きになっておる。ファンタジーやSF映画とは違うから、あのようなリアル感のある演出は正しいと思うが……その割には所々が怪しい」

カエル「全員集合から雰囲気がガラリと変わって、あのシーンから重いお話になってくるんだけど……どうにもその爆発が弱い印象があるよね」

 

亀「それもあるがの。

 あれだけリアルなものを見せているのに、ラストでリアリティの欠片もない描写を描いても、わしはそのラストに乗る準備は全くできておらん。

 あれはおかしいじゃろ? 

 なんで急に先生も含めて音楽を奏でるわけじゃ?

 そして中庭で校長も含めて踊り狂うわけじゃ?

 もちろん、映画の演出としては『中庭で遊ぶ生徒たち』という伏線の回収というのはわかるが、それを急にやられたところでこちらとしては疑問符が浮かぶだけじゃな」

 

カエル「あれだけ『お前ら! 早く戻れ!』なんて言っていた先生も一緒になって踊っているわけだから、洗脳か集団催眠の領域ですらあるわけで……あれだけ悪く言っていた校長の笑顔が気持ち悪かったよ」

亀「ああいったミュージカルのようなシーンには危険性をはらんでいるということじゃの。リアリティのあまりない描写であるわけじゃから、急にその描写を入れてしまうと観客を置いてけぼりにしてしまう可能性もある。

 それをうまく伏線を張り、演出的に準備をしてからでないと、急に踊り始めた変な人たちになるだけじゃと思うのじゃがな……

 

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この2人の関係は重要! 

(C)2017「ハルチカ」製作委員会

 

他の問題点

 

カエル「楽器も本当に弾いているわけではないだろうしねぇ……指使いと音が一致していないのが素人でもすぐにわかって、なんだかなぁ……ってなったよ

亀「そういう描写があるだけで冷めてしまうものはあるからの。

 それから、とってつけたようにハルの設定を開示されてもの……確かに色々と語ってはいたが、どうにも唐突な印象はぬぐえなかった。これもハルに対してそこまで注目することなく、物語が進行してしまったこともあるじゃろうな」

 

カエル「その意味では構成とかはお粗末な部分も多いのかな?

 あとさ、本気になったらどの部活もしんどいけれど、吹奏楽は相当しんどい部活だと思うんだよね。練習時間は非常に長いし、体力勝負だし……

 まあ、全国大会目指そうよ! って話でもないんだけど、演奏のレベルと彼らの努力があんまり一致しているようにも見えなくてね。

 そういうところがリアリティに欠ける上に、ファンタジーに演出されてもいないポイントでもあって、どこに感情を持っていけばいいのかわからなかったかなぁ……

  

 

 

 

4 本作が描いたもの

 

カエル「ただ、単に悪い映画というわけでもないんだよね」

亀「そうじゃの。本作が描き出したテーマというのは、多くの物語では無視されがちなものじゃ。

 エンジン役のチカは他の人を焚きつけたり『好き』という気持ちを貫くことはできても、それに技術が追いついていない。だからこそ、合奏という場において他の人に迷惑をかけるような結果になってしまう。

 じゃがの、誰だって初心者の頃はあるはずなのじゃが……卒業までの3年という時間制限に加えて、コンクールという明確な期限がある中での上達というものは非常に難しい

 

カエル「多くの『初心者が頑張りました』系の物語が無視してしまうポイントだよね。経験者が何年もかけて辿り着いた境地に、数ヶ月で辿り着くってことは基本的にはありえない。あるとしたら天才だけで、物語の主人公は天才ばかりということになる」

亀「じゃが、本作のチカはそれにめげずに必死にやり抜くわけじゃな。

 それは草壁の言葉にもあったが……まあ、この台詞がまた如何にも邦画らしい『決めゼリフからの長回しのいい感じ風の長台詞』という、メッセージ性の強すぎるものではあるのじゃが、それはアイドル邦画らしさと処理すべきかの。

 それだけ頑張って物事をやり抜くという、ある意味では当たり前のことを描いたというのは、実は非常に大切なことじゃ」

 

カエル「このブログでも何度も言及しているけれど、別に下手でもいいんだよ。特にアマチュアで大事なのは『上手い下手』ではなくて『表現する』ということだから」

亀「技術というのはやっていくうちに必ず身につく。本気で毎日取り組んでいれば、今日より明日は必ず上手くなっているはずじゃ。

 その意味では始めるのに遅すぎるということは絶対にありえない、ということかの。

 まあ、実際はそうでもないんじゃがな。続けるうちに気が付かぬ間に変な技術を身につけたり、慢心したりと様々なことがあるが……それは今回の話とはずれるので割愛するかの」

 

 

 

最後に

 

カエル「でも厳しい意見ばっかり書いてきたようだけど、アイドルが中心となる映画の中でも良い方だったよね

亀「そうかもしれんの。

 ツッコミどころも多々あったが、伝えたいこともしっかりとあったしの。1作の映画としては辛い評価になるかもしれんが、決して悪い映画とは思わなかった。

 あとはハルチカという作品のファンがどのような評価を下すのか、ということになるかもしれん

 

カエル「……ちなみに、今回亀婆が登場したけれど、実際は何も変わらなかったような気がするんだけど……」

亀「いやいやいや、少し雰囲気が変わったじゃろ?

 女性特有の繊細な目線が加わったじゃろう?」

カエル「……これも下手でもやり続けることが大事ってことで丸く治らないかなぁ」

 

 

 

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どちらも辛口です

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