カエルくん(以下カエル)
「いよいよ『四月は君の嘘』の映画が今週末公開だね!」
亀爺(以下亀)
「世間の評判も楽しみ半分、不安半分というところじゃろうな。映画化して嬉しいファンも多いじゃろうが、漫画の実写化に疑問の声も上がる……いつもと同じかの」
カエル「漫画の実写化だけで文句を言う人も多いからね。そこまでファンタジーやSF要素も少ない現代劇だから、違和感はないと思うけれど……」
亀「単なる恋愛ドラマであればそれもいいのじゃが、この作品の肝は『演奏シーン』であるからな。それがどこまでリアルな描かれておるか……
予告編を見る限りにおいては少し不安もあるがの、同じ広瀬すず主演の作品でいうと『ちはやふる』も予想に反して中々いい映画じゃったなぁ。それから、同じ広瀬すず主演の漫画原作というと『海街diary』も良かったからの、もしかしたら意外と良作の可能性はあるとわしは思うが……」
カエル「海街は是枝裕和作品だからね、漫画原作という意味合いは弱いかも。問題はキャラクターをリアル寄りにするのか、漫画寄りにするのかだよね。そういうところで浮いちゃったりするから……
で、今回は漫画版の、原作の『四月は君の嘘』について語っていこうかな」
亀「原作も終了しておるからの。ラストについてのネタバレも込みで語っていくが、そこは了承してほしいの」
1 恋愛作品の『壁』
カエル「これは以前別の記事でも話したよね」
亀「簡単にまとめると、携帯電話が普及し、これだけ連絡手段が多くなった上に恋愛におけるタブーが少なくなった現代において恋愛における壁がなくなってしまったことによる作劇の難しさについて語るかの」
カエル「……もっとわかりやすく話してよ」
亀「物語を作る上で、その目的を妨げる壁の存在は重要じゃ。恋愛作品というのはその多くが、二人の気持ちが成就するまでを描いた作品群であるがの、極端なことを言うと10秒で終わってしまえる作品もある」
カエル「……まあ極端すぎるけれど
『好きです』
『嬉しいわ』
キス
の流れだけでも終わってしまう話だからね」
亀「そうじゃの。恋愛作品が成就するまでを描くのであれば、世の中に恋愛はいくらでも溢れておるが、そこまで劇的な恋愛ばかりではない。
『二人の気持ちは惹かれ合うが結ばれない』という状況に観客はドキドキし、そして二人を応援するのが普通じゃ」
カエル「……なんか恋愛を語る亀爺が気持ち悪い」
亀「うるさいわ!
しかしの、ここで重要になるのが『二人が結ばれない理由』じゃ。例えば『ロミオとジュリエット』は家柄というものがネックとなり結ばれることがなかった。あとは身分の差なども中世では多いかの。
それから、現代だと不倫であったり年の差、変わったところではジェンダーの壁、つまり同性愛なども最近は増えておるの。
しかし、現代ではそれは壁になりにくくなりつつある」
『死』や『病気』が壁になる時代
カエル「そうかもね、身分の差なんて言われてもそもそも現代の日本に身分制度がないし。ヤクザの子供、とかならわからないでもないけれど、下手すると職業差別や人権問題になりかねないし、最終的には駆け落ちって手もあるからね」
亀「それだけ良い社会になったとも言えるがの。物語としてはその壁のなさにヤキモキするもんじゃ。
そうなると、現代社会において『二人の恋愛が成就しない理由』を探すわけじゃが、それがあまりない。ないからこそ、どれも似た様なものになってしまう」
カエル「それが『死』や『病気』というわけだね」
亀「そうじゃの。今『君の名は。』が大ヒット中の新海誠作品も必ず男女を二つの世界に分けてきたがの、中には別れた理由がよくわからん作品もある。
現代の恋愛ものにおいて重要なのは『納得出来る結ばれなかった理由』じゃが、死と病気というのは誰にでも起こり得るし、そして分かりやすい理由となるからの。二人の恋の障害として非常に便利な存在じゃ」
カエル「一時期の恋愛作品ブームの時もすごかったもんね」
亀「あとは分かりやすい『お涙頂戴ストーリー』にもしやすいからの。純真な少女や若者が死んでいく、というのは感動する童話や、アニメじゃとKey系のお約束でもあるからの」
草食系男子の流行
カエル「これも恋愛物語に重要なの?」
亀「例えばじゃ、今作の有馬公生がナンパ野郎じゃったらどうじゃ?
『かおりちゃん、今度俺とデートしない? 好きだよ、病気? 関係ないさ、付き合おう』
なんてすぐに言ったら、1巻で恋愛成就じゃ。そうなるとその先をテーマにして、ドロドロの恋愛劇になっていってそれはそれで面白いじゃろうが、この作品向けではあるまい」
カエル「確かにね。だから恋愛に関して消極的な草食系男子が重要なんだ」
亀「そうじゃの。この作品は一応月刊少年マガジンで連載されておったらから、少年向け漫画というのは間違いないじゃろう。そうなると『くっつきそうで、明らかな両思いだけどくっつくない』という絶妙なバランス(別名、都合のいい距離感)を維持するためには、草食系男子と積極性のある女子、という組み合わせになるんじゃろうな」
2 音楽漫画として
カエル「でも、四月は君の嘘って恋愛が主軸なのは間違いないけれど、そこに音楽の要素が絡んでくるわけじゃない」
亀「この時は『のだめカンタービレ』のヒットもあったし、月マガでいうと『ましろのおと』もあったからの。『BECK』も終わっておったじゃろうし、もしかしたら、音楽マンガを月マガが欲していた時期かもしれんの。
クラシックということを考えれば、そこまで突飛なアイディアではないの」
カエル「実際、音楽って漫画向きなのかな?」
亀「う〜む……どうじゃろうな? 当然のように音は聞こえてこんし、スポーツ漫画のように描写でカバーするというのも難しいからの。『音が聞こえる漫画』というのは素晴らしいじゃろうが、そこまでいく作品はそうそうない、作者の技量が問われるじゃろうな」
カエル「だからクラシックなのかな?」
亀「それはあるかもしれんの。これが『BECK』などであればどのような音楽を奏でているのか、全く予想もできんが、クラシックなら曲名を聞いて調べればすぐに出てくるという利点もあるかもしれんの」
カエル「作劇としてはどうなの?」
亀「悪くはないと思うぞ。それこそ、井川絵美や相座武士などの幼馴染のライバルも作りやすいし、そことの勝負という要素もある。
さらには運動系だと病気持ちの女の子は応援するしかないが、クラシック音楽を一緒に弾くというのであれば、その女の子も主人公の横に立てるからの。
そういうところを考えると、病気もののクラシック音楽の相性はいいかもしれんの」
3 母の肖像
カエル「この作品のテーマだよね、母からの離別は」
亀「むしろ、かおりとの恋愛以上に母からの離別に尺を取り、しっかりと描いておったの。
どうじゃろう、やはり有馬くんも多くのマザコン男と同じように、かおりの中に母親を見ておったのかもしれんの」
カエル「……かおりに?」
亀「そうじゃな。病気持ちで髪の長いクラシック少女。昔の、病気が発覚する前の母親もあそこまでスパルタではなかった。じゃが、病気があるからこそ、その焦りがあのようなスパルタな……ある種の虐待とも言えるよな指導に走らせたんじゃろうな。
そこに現れたのがかおりじゃろ? かおりは……病気の辛さも感じさせない、天真爛漫な少女じゃ。そこに、かつての母の面影を載せたのかもしれんな」
カエル「出会った時は病気のこと、一切知らなかったけれどね。読者はすぐに感づいただろうけれど」
亀「恋愛作品において『なぜ惹かれたのか』ということを問いただすのは意味のないことじゃよ。そんなのは『恋愛ってそういうものだから』の一言で片がつくものじゃからな。
そこは恋愛作品の楽な部分でもあり、難しい部分でもあるがの」
カエル「……自分で言い出したくせに」
4 ラストについて(劇場版はどうなるか?)
カエル「結局さ、こういう病気ものだと、あのラストでどっちに転ぶかわからないというところがポイントだよね」
亀「……そうじゃの。正直、どちらに転んでも賛否はあるかもしれん。元気になって生き残っても長くは生きられんかもしれんし、亡くなってその喪失感に耐えられない、こんな選択をした作者は嫌いだ! という気持ちも、まぁわからんではない。
わしは、漫画とアニメが同じ時期に完結すると聞いた時に『これは別々のラストを描くのでは?』と思っておった、きちんと原作通り終わらせたの」
カエル「そこは難しい判断だよね。一番大切な部分の改変にも関わってくるからさ、どちらがいいかってことは、それこそ読者や観客によって委ねられてくるから」
亀「じゃからの、わしは今回の映画版は、正直なところ『助かって終わり』でもいいと思っておる」
カエル「差別化はできるよね。実写ということもあって、すごく安っぽくなると思うけれど」
亀「安っぽいし『結局ハッピーエンド主義かよ』なんて言い出すかもしれんがの、これだけメディアミックスを行っているんじゃ、一作くらいはそんな作品があってもいいと思うがの。
それよりも、じゃ。今回は絵も動けば音楽もつく。クラシックの演奏シーンは誤魔化せんぞ。アニメもアニメ的演出と絵の美しさで魅了した作品じゃからな。ここにかかる期待は非常に大きいの」
カエル「……そう考えると実写化に伴ってクリアしなければいけない課題もそこそこある作品だね」
亀「それでも、まだ大分作りやすい作品じゃろうがな」
最後に
カエル「大雑把ながら四月は君の嘘について振りかえってみたけれど……」
亀「この作品完結後、作者の新川直司は女子サッカー漫画を描いておる。今の所病気ものになる要素はないし、明るくて面白い作品じゃから、中々こちらも楽しみじゃの」
カエル「月マガも最近、また面白くなってきたね。看板作家たちが次々と新連載を始めているし、そのどれも面白いし」
亀「これから先も楽しみな作品が多いの。特に『さよなら私のクラマー』『龍帥の翼 史記・留侯世家異伝』(9月17日発売)はまだ1巻と始まったばかりじゃから、今からでも全然遅くないの。
どちらもオススメの漫画じゃな」
カエル「……最後は宣伝しておしまいだね」
亀「ちなみに、映画の感想記事もアップ予定じゃ(多分日曜かな)今週は楽しみな映画が多くて大変じゃの」
カエル「さらに宣伝を重ねてきた……」