物語る亀

物語る亀

物語愛好者の雑文

映画『ノーゲーム・ノーライフ ゼロ(ノゲノラ)』感想 さあ、ゲームをはじめよう

カエルくん(以下カエル)

「……あー、またラノベ原作のアニメ映画の感想記事かぁ

 色々言われやすいんだよなぁ。

 少し苦言を呈するとファンから怒られるし、褒めると『あんな作品を?』と言い出す人もいるし……普通の映画とはまた違う緊張感があるんだよなぁ」

 

ブログ主(以下主)

言いたい人には言わせとけばいい。

 そういう人は『ソードアート・オンライン』の豪華さ、今年のアニメ映画だけでなくて、洋画を含めてもトップクラスの音楽と絵の融合などを見逃していくんだよ。

『君の名は。』に負けないほどの派手で意欲的な大傑作だったよ。

 他にも『同級生』の持つ繊細さや『黒執事』のエンタメ性なども知らずに損するだけだけだから」

 

カエル「いや、でも原作かアニメ版を全部見てから行けという至極まっとうな意見もあるわけだけど……」

主「自分はそうは思わないんだよね。

 例えば、これが上下編とか第1章などだったら確かにその通り。2本で1作だから、下から見始めたら意味ないじゃんって。

 だけど、基本的に映画はその1作で完結していることが重要なわけで、予習必須というのはお客さんを限定してしまうからね。

 しかも、劇場版ってその作品への入門編としてはうってつけじゃない。自分は先の『ソードアート・オンライン』も原作、アニメ両方とも見ていなかったし、他にも『響け! ユーフォニアム』『Free!』や、あとは古いところだと『ラーゼフォン』なども劇場版から入ったけれど、面白かったよ。

 そこから入門して過去作を見たりしたし」

 

カエル「入り口としての1作ねぇ」

主「総集編とかはまさしくうってつけだよね。これ1作で大体分かるよっていうのはありがたい。全部で13話、26話もある物語をこれから見ようというのは難しいところがあるしさ。

 ファン以外が楽しめないならDVD購入特典でいいじゃない。OVAとかさ。それを劇場で公開するんだから、特別な意義があると考えるのは、少数派なのかねぇ」

カエル「これ以上語ると色々問題がありそうなので、さっさと感想記事へと入りましょう」

 

 

 

ノーゲーム・ノーライフ ゼロ 劇場パンフレット

 

あらすじ

 

 原作、テレビシリーズでは全てをゲームで決める世界に召喚された天才ゲーマー兄妹、空と白の活躍を描いていたが、本作はその6000年前の物語。

 数々の種族の神たちが唯一神の座を狙い戦争を繰り返すことで、世界は疲弊し荒れ果てていた。神を持たない最弱の種族、人間はわずかながらに生き残り、いつ終わるかわからない戦争の終結を祈るしかないような状況だった。

 その集落の若きリーダーであるリクはある日、探索に出かけたエルフの森にてエラーを起こした機械の少女シュヴィと出会う。

 シュヴィの願いは『人間の心を教えて欲しい』というものだった……

 


映画『ノーゲーム・ノーライフ ゼロ』 PV 第2弾

 

 

1 感想

 

カエル「ではここからネタバレなしの感想だけど……

 えっと、今作も初見?」

主「初見だね。ラノベアニメはあんまり見ないから。だけど映画化がこれだけ重なるというのはやはり人気がある証拠なんだろうな」

カエル「毎度のことながら、よく初見で観に行こうとするよね」

主「上記の理由に加えて、本作はエピソード0なんだよ。エピソード0の作品は本編と直接的なつながりが薄いことも多くて、しかも意外性に富んだ傑作が多い。例えばテレビアニメならば『喰霊-零-』なんてそうじゃない? あれは漫画版の喰霊を元にアニメ化しているけれど、そのエピソード0を描いているし。あ、ちなみに名作です。

 だから比較的ハードルは低いのかなぁって印象で見に行ってみた

 

カエル「……で、その感想は?」

主「絶賛です!!

 Twitterでの感想はこちら。

 

 

 鑑賞直後だから結構テンション高めだけれど、かなりの絶賛です」

カエル「まあ、冷静になって考えてみるとメアリ、カーズを引き合いに出したのはどうかなぁという思いもあるけれど……

主「やりたいこともファン層も違うからね。それは軽率だった。

 ちなみに自分はメアリはその精神性を高く評価しているし、カーズも思うところはあるけれど基本は傑作という評価。でも7月だけで考えても、まだアニメ映画の公開は続くけれど誰もがこの2作が注目作品と思っていた中で、本作が登場した衝撃というのはあまりにも大きい。

 ノーマークだったこともあるし、観る前までは記事にするかも迷った作品だけど、本作を見逃したかもしれないというのは恐怖感すらある。

 もしかしたら……夏映画ではNo,1になるかもしれない

カエル「ED曲もすぐに配信していたのを買ったしね」

主「レンタル開始を待てなかったわぁ……

 この曲についても語りたいことがあるけれど、それはまた後ほどで」

 

f:id:monogatarukam:20170719075825j:image

リク役の松岡、シュヴィ役の茅野愛衣を始めとした役者の演技も見所
あと日笠陽子はやっぱり素晴らしい
(C)榎宮祐・株式会社KADOKAWA刊/ノーゲーム・ノーライフ ゼロ製作委員会

 

ファン向けなストーリー

 

カエル「でもさ、最初に色々語ったけれど、本作はファン向けの物語ではないの?

 初見でも大丈夫?

主「いや、ファン向けな物語であることは変わらない。

 正直、設定の半分も理解できていない。なんで人類があんな状況に陥っているのか、色々な種族がいるらしいけれど出てこない理由や、襲ってくる敵が何者なのか、そもそも神様ってなんだ? なんで人間には神様がいないんだ? などといった疑問は次から次へとやってくる。

 もちろん作中で説明してくれるけれど、専門用語や特殊な単語の羅列だから初見に優しい物語とは決して言えない。これはしょうがない部分もあるけれど、前半はちょっと物語が走っている部分もあるし。

 ファンタジーを基にしたラノベだからドワーフだエルフだって言われたら『ああ、はいはい。なんとなくわかるよ』ってレベル」

カエル「ファンタジー世界を基準とした共通の文脈があるからね。エルフが出てきたら大体美形で長命で弓や魔法がうまいとか……」

 

主「なので勝手に『まあ、こういうことだろうな』っていうので脳内変換した。あとは『BLAME』に似た部分もあったし、機械との恋愛感情交じりの融和というのも昔からあるお話だから、アニメや漫画などを見慣れていればなんとなくわかる。

 すごく最近のラノベらしい作品だよ。

 序盤は特にそう。キャラクター同士の掛け合いとかも、わずかながらお色気要素が……あれはお色気って言っていいのか? まあ、でも肌色成分などもあって、最近のラノベアニメっぽいなぁという印象もある。

 あとはかわいい女の子がいっぱい出てきて、おっさんは少ししか出てこないし」

カエル「その意味では本作のことを本当に理解できているのか? と言われると微妙なところもあるけれど……」

主「そんな人でも納得してしまうような魅力があったんだよ。

 特に本作の本質的な面白さはは確かに厨二的だとも言えるし、ラノベ的でもあるんだけれど、でもやっぱりかっこいい。こういう映画は個人的にも大好きなんだ」

 

 

 

 

本作の魅力

 

カエル「その魅力ってどういうこと?」

主「あんまりアニメ映画を見ない人にわかりやすく説明すると、名作映画でいえば『スティング』だね。これは『明日へ向かって撃て!』などで有名なジョージ・ロイ・ヒル監督の作品で、アメリカン・ニューシネマの流れを汲んでいる。

 簡単にいえばそれまで規制されていた悪党などの物語を作ろう、新しい物語を作ろうという運動のことで、犯罪者や倫理的に問題がありそうなことを主人公が行うタイプのお話だ。

 『スティング』はその中でも詐欺師が主人公で、ギャングに師匠を殺された若者が復讐するためにギャングを詐欺にはめるという物語」

カエル「映画ファンなら誰もが知る、娯楽映画の歴史的名作だね」

 

主「そして近年の映画であれば1番近いのは『ローグワン/スター・ウォーズ・ストーリー』だろう。本作とローグワンは似ているところも多くて、例えば人気原作のエピソード0である点もそうだし、原作(EP4)よりも過去の話であることも同じ。

 それまでの流れを理解していないと、よくわからないことも同じかなぁ?

 こっちも前半が走り気味だし」

カエル「で、どういうところが似ているの?」

主「簡単にいうと本作は『弱者の反抗』の物語なんだよ。

 あらすじでも書いたように、本作は神話の世界の物語でもある。唯一神になるために争い合う力を持った種族たちと、神を持たないためにただ巻き込まれ、じっと耐えるしかない人間たち。

 その人間ができる最後のあがきを描いたのが本作。

 じゃあ、どのように反抗するのだろうか? というのがポイントだね」

 

以下ネタバレあり

 

 

2 前半について

 

カエル「ではここからはネタバレありで語っていくけれど、まず前半はそこまで高い評価ではないんでしょ?

主「まあ、そうだね。

 やっぱり、本作はファン向けだからさ。まずアニメや原作を読んでいない人にとっては相当難しい世界観だということは間違いない。何と戦っているのかもわからない、どうやって生活しているのか、なぜ戦いに巻き込まれているのか? という説明はあまりない。

 エルフだ、ドワーフだ……なんて言っても別に画面に出てくるわけではないんだよ。フリューゲルって言われてもなんだかわからない、エクスマキナがどうのこうの、接続がどうのこうと言われても特に明確に説明があるわけではない。

 なぜリクがリーダーなのか? 彼の指令にみんな従うのか? そのあたりの基本情報も一切なし」

 

カエル「しかも展開が結構早いんだよねぇ」

主「だから、正直序盤は『またこのパターンか』って気分だったよ。

 理解できる奴だけがついてこいって世界観とキャラクター設定。SFやファンタジーって世界観が重要だけど、現実と接点がなくなればなくなるほどそこに入り込むのは難しくなる。

 まあ、でも説明しすぎるとかえって面白みをなくすから、このバランスは難しんだけれどね。本作はファンなら知っている設定がたくさんあるんだろうし」

カエル「その説明不足をどう捉えるか、という問題かな」

 

f:id:monogatarukam:20170719075837j:image

田村ゆかり演じるジブリールもさすがの迫力

(C)榎宮祐・株式会社KADOKAWA刊/ノーゲーム・ノーライフ ゼロ製作委員会

 

圧倒的な後半のカタルシス

 

カエル「それが打って変わるのが後半なわけだけど……」

主「後半も、まあ置いてけぼりなのは変わらない。ジブリールがどういう存在なのか、強いのはなんとなくわかるけれど、どれくらい強いのか? などということは一切わからない。

 だいたいさ、神様たちの戦いを超兵器の威力で惑星を突破して……ということも初見では意味がわからないし、それで唯一神だとか、天現するとか言われても設定が頭に全然入ってこなくって……」

カエル「ちょっと待って!

 ここまで全く褒めてないけれど!

 

主「でもさ、そういうものだとも思うわけよ。

 例えば『ローグワン』を出したのもそういうものだと思うのね? あの作品単体で見ても意味がわからないじゃない?

 そもそもデス・スターって何よ? 惑星を破壊する威力の兵器とか厨二的もいいところだし、フォースだとかダース・ベイダーとかも初見じゃ意味不明じゃない?

 だけど、よくわからないけれどそういうものだと納得させてなおかつ面白い。これはすごく大事。

 その意味では本作も演出と演技に騙されているところはあるかもしれない。でもさ、映画に限らず物語で『騙す』ってすごく大事なことだと思うけれどね」

 

カエル「……それは褒めているの?」

主「絶賛だよ! 

 少なくとも今回は。整合性のあったつまらないストーリーもあれば、冷静に考えるとよくわからないストーリーの方が面白いときもある。みんな大好き宮崎駿作品だってそういう作品がある。庵野秀明なんてそういう作品を作る天才だとも言える。

 だけど、演出力でカバーされているからそれでも面白い。それは映像表現、アニメ表現としてとても高い評価に値するでしょう。

 本作の作画技術もかなり良いよ。もちろん、大型公開の劇場アニメや歴史に残るような作画とまでは思わないけれど、見劣りはしていない。

 そして役者の演技があまりにも迫真だからこそ、設定などの疑問点を無視して納得してしまう力強さがある

 

 

 

3 本作の魅力

 

カエル「そんなに絶賛する理由ってなんなの?」

主「本作は簡単に言えば『名もなき者たちの革命』の映画である。そしてそれは最も力のない人間が、知恵を使って成し遂げるというものだ。

 この戦争の原因は唯一神を決めようとする戦いであり、それによってトンデモナイ力を得ようとしていることにあるようだけど、唯一神になるということはつまり『正義の戦争』なんだよね

カエル「まあ、神様=正義の存在だからね。それこそ、これ以上の正義はいないというか……」

 

主「その彼らが正義を主張することによって大きな災厄が起こり、1番脆弱な人間はただ耐えるだけで苦しむしか道はなかった。

 だけど、そんな未来を変えようとするわけだ。その方法は『詐欺による戦争のコントロール』というものである。

 つまりさ、神様たちがすすめる『正義の戦争』に対して人間たちは『嘘による世界平和』という悪の道を突き進むことによって、『正義の戦争』の真逆のことを成し遂げようとしているわけだ

カエル「つまりある意味では『悪党の矜持』を描いた映画だということだね」

 

主「本作を見て悪党と思う人はそんなに多くないかもしれないけれど、やっていることは聖書にあるアダムとイブと知恵の実の逸話と似ている。

 知恵の実を食べることによってアダムとイブは知恵を身につける。それによって楽園を追放された2人は神の国を追い出される。

 本作も同じだよ。

 知恵をリクとシュヴィが身につけることによって、世界は改変されて神様たちの時代は神話となる

 弱者が絶対神という強者に勝つ方法は彼らの正義に付き従うことでもなく、祈ることでもなく、もちろん正面から戦うことでもなく、嘘という悪を用いて戦争をコントロールすることである。

 これこそが本作を絶賛する理由の1つ。

 だけど、もちろんそれには多大な代償が必要なわけだ

 

f:id:monogatarukam:20170719080013j:image

シュヴィの悲壮な覚悟に心が打たれる……

(C)榎宮祐・株式会社KADOKAWA刊/ノーゲーム・ノーライフ ゼロ製作委員会

 

平和のための戦い

 

カエル「リクはリーダーとして多くの仲間たちを死に追いやるような命令を下していることに悩みを抱いているし、苦悩している姿が何度も描かれていたね」

主「48人の犠牲をもってしても成し遂げることのできない平穏な日々に苦悩しながらも、それでも生き続けなければいけない。

 そしていよいよ反抗の時、彼らの戦いが始まるわけだけれど……だけどそれには非常に大きな代償がつきまとう

カエル「王道だけど、だからこそウルウルと涙腺を刺激するよねぇ」

 

主「リクは敗北じゃないって言っているけれど、やっぱりあれは実は敗北だったんだと思う。機械は道具だから命にカンストしないと言っているけれど、本当にそう思っているなら結婚もしないし、ああいう反応もしない。

 それまで仲間を死地に行けと命令していた男は、やはり最後まで仲間を死地に行けという命令しかできなかった。それこそが平和のための代償である。嘘をついてしまったことに対する罪ということもできる。おそらく、あの描写を見る限りでは……神様を信奉している側には被害はほとんどないみたいだしね。敵をも殺さずというのはトンデモナイよね」

カエル「あの終盤は涙がずっと流れっぱなしだったよねぇ」

 

主「それだけの犠牲を払って手に入れたもの、それこそが『偉大なる引き分け』であった。結局はどれほど犠牲を払っても勝つことはできなかった。だけど、その引き分けが何の意味もなかったのか? と言われるとそんな馬鹿な話はない。

 意味はあったんだよ! その引き分けがあるからこそ、この後の時代に……神話の時代が終わって本編の世界に入る。

『さあ、ゲームの始まりだ』というセリフに鳥肌がたったね。

 知能戦のゲームによって武力による戦争を終わらせたという意味でも意義のある作品だし、絶賛に値すると思う」

 

テーマソングはこちらのアルバムに収録されています 

「 ノーゲーム・ノーライフ 」コンプリートソングス「 NO SONG NO LIFE 」

「 ノーゲーム・ノーライフ 」コンプリートソングス「 NO SONG NO LIFE 」

  • アーティスト: 鈴木このみ,茅野愛衣,日笠陽子,田村ゆかり,沢城みゆき
  • 出版社/メーカー: メディアファクトリー
  • 発売日: 2017/07/12
  • メディア: CD
  • この商品を含むブログを見る
 

  

テーマ曲について

 

カエル「本作は鈴木このみの『THERE IS A REASON』がテーマ曲だけど、本作もまた素晴らしいアニソンに仕上がっていたんじゃないかな? 

 作品内容と見事にリンクしているし」

主「この曲の作詞は岩里祐穂が書いているけれど、さすがだわぁ……色々と考えられた歌詞でさ。『ニセモノの正義など棄ててしまえ』とかも本作に見事にあっている。もちろんそのままでもぐっと来るんだけれど、それ以上に技も光る一曲に仕上がっている

カエル「技?」

 

主「最後のサビの時に『愛の 愛のために進むのは』ってあるけれどさ、この曲って何度も『愛の』という言葉が続いている。もちろん、本作がシュヴィという心なき機械との愛の物語であるということも大きいけれど、この『愛の』の中には『I Know』という意味が込められている。

 本作のリクたちは『名もなき者たち』である。歴史には名を連ねない、英雄にはなれない存在でもある。だけど、その存在を知っているのが姉であるコローネであり、そして何よりも観客である。

 その名もなき英雄たちを称える歌としても『I Know/愛の』という単純ゆえに深い歌詞を選んでいる。(『愛の為に/I know to many』だという指摘もあります)

 自分はよく脚本、演出、音楽、演技、その他の様々な要素が一致した映画がいい映画だと述べているけれど、本作も間違いなくEDまで考え抜かれて全ての要素が一致した素晴らしい映画であると評価するね」

 

 

 

4 三回観て気がついた丁寧な作り

 

カエル「ここからはこの作品を3回見て気がついた点について書いていきます。

 ここまで書いたのは1回目の感想でただただ感動していたけれど、2回目でお話を理解して、3回目でなぜここまで感動するのかを考えた結果がここから先書くことです

主「いやー、3回目は冷静になってどこがうまいのか考えながら、少し引いたような感じで鑑賞したけれど、それでも鳥肌は立つし涙腺は緩むしということですごい映画だよねぇ」

カエル「やっぱりそれだけの感動をもたらす要因ってあるわけだよね?」

主「そうね。

 まずはスタートだけれど、ここ最近のアニメ映画の傑作、名作たち……具体的な名前を挙げると『君の名は。』『聲の形』『この世界の片隅に』『劇場版SAO』『夜明け告げるルーのうた』であったり、また海外のアニメ映画である『ズートピア』『カーズ』『SING』などに共通することは何だと思う?

 

カエル「え? 何だろう……それって多分アニメの特徴なんだろうけれど……」

主「それはね、OPがあるということなんだよ。

 元々テレビアニメにおけるOPというのはバンク、つまり使い回しみたいなところがある。OP、EDがバンクに該当するかは異論がありそうだけれど、30分間の放送時間のうち1分30秒×2の3分間、作画をする手間が省けるわけだ。

 それはある意味では作画の手間を省き効率を良くするための工夫だったけれど、これが映画になると別のいい効果を生み出した

カエル「映画だと別に使い回すわけではないからOPを作る意義ってないもんね……」

 

主「だけどOPがあることによって、映画の世界に没入することができる。キャラクターものの映画、例えば『名探偵コナン』を例にあげるけれど、おなじみの音楽と一緒に毎作『工藤新一が江戸川コナンに……』という説明がある。これも同じような効果があるわけだ。

 本作は明確な歌とセットのOPはないけれど、まずはアニメ版の世界を描くアバンから始まる。そして壮大な音楽が流れて『ノーゲームノーライフ ゼロ』のタイトルが出て、その暗い世界をグリグリと画面を動かしながら見せていくわけだ。

 そこで観客を映画の世界に引きづりこんで、そして派手な戦闘で一気に現実を忘れさせるわけだ」

 

カエル「なるほどね……昔の映画って大体主演や監督のキャスト名が出てきて、タイトルが出てから始まるけれど……」

主「あれって映画の世界に没入させる効果があると思う。

 実写映画でもそうだよ? 例えば『ラ・ラ・ランド』なんてOPがサイッッコウ! ってところがあるけれど、序盤でいかに観客の心を掴むかというのは非常に大事なことだから。

 今はアニメの方が実写映画よりも評価が高い作品が多いけれど、それはOPがあるということも1つの要因なんじゃないかな?

 

 

光の使い方

 

カエル「多くの人が指摘するのがこの光の使い方だよね」

主「基本的にこの作品は終末世界ということで光はそこまで強くないようになっている。ラノベアニメには珍しく画面が暗めなんだけれど、ホッとする描写ではやはり光は少し強くなるように計算されている。

 例えば集落のシーンでは暗いながらもほんのりの光が差し込んでいるし、シュビィとの出会いのシーンでは青の光が強い。青というのは寒色系だけれど、リラックス効果があるということでも言われている。

 だから2人のやり取りではほっこりするようなことがことが多く、光からも安心感を得ているという説得力につながる

 

カエル「ふむふむ……一方のバトルシーンも明るいけれど、そのシーンに関しては?」

主「バトルシーンは基本的に赤が基調なんだよ。派手なんだけれど、赤というのは興奮の色でもある。もちろん火花が散ったり、荒廃した世界だから、というのもあるけれど……同じ明るい光でも赤を基調とすることでバトルの興奮を煽っているんだ。

 もちろんここは作画や物語のセンス、そして茅野愛衣と田村ゆかりの名演技合戦も涙腺を刺激するけれど、ここでは光に注目しよう」

 

カエル「そしてラストになると……」

主「一気に真っ白な、それこそ光というべき強烈な光が画面を支配する。

 この光の演出というのがこの作品は非常にうまくいっている。最後のハッピーエンドのような感覚と、そして『どうしてこんなに悔しんだろう……?』という無念さを強調することにつながっている。

 明暗、光と影の使い方って映画の基本だけれど、最近は全てを明るい画面にしてしまう作品も実は多々あるんだよ。そうなると画面にメリハリがなくなり、物語自体に緩急がなくなってしまう。

 圧倒的な光の美しさを使いつつ、最後に……それはEDも含めて決してただのハッピーエンドでは終わらせないという気概に満ちている。

 本作は光を楽しむ映画でもあり、その効果を最大限に生かしている映画だと言える

 

 

チェスの映画〜勝利条件の発見〜

 

カエル「これはむしろ原作がうまかった部分でもあるけれど……本作はチェスじゃないと成立しないお話なんだよね?」 

主「そう。

 まず、重要なのはチェスというゲームは倒れた駒は復活しないこと。将棋との最大の違いだよね。キングさえ残っていればまだ負けではないけれど、失った駒は元に戻らない。

 それはキング=リクと考えれば当然のことだよね」

 

カエル「確かに将棋だとまた違う物語になってしまうよねぇ」

主「それに加えて、この映画で非常に重要なのは『勝利条件の発見』にあるんだよ。

 どういうことかというと……チェスの勝利条件って何?

カエル「え? 相手のキングを詰ませることでしょ?」

主「そう。そんなことは誰でもわかっている。だけれど、これが中々難しくて、素人だと将棋でもよくあるけれど、飛車角が取れるからってそっちにばかり目がいって、肝心の王を詰めないで負けちゃうパターンもあるわけだ。

 この世界の神々はそうだよね。本来、聖杯を獲得する=勝利条件であったはずなのに、いつの間にか相手の駒を削る=勝利条件にすり替わっている」

 

カエル「勝ち方を間違えているよね」

主「実はそれはリクも同じなんだよ。最初に女の子に『そんなの勝利じゃない!』って否定されるけれど、リクの戦い方は勝利条件を間違えているんだ。いつ終わるかわからない戦争をじっと耐え忍ぶというのは、勝利ではない。

 では本当の勝利とは何か? それは安寧の世界を勝ち取ることである

 カエル「ふむふむ……」

 主「これってよくあるんだよ。映画に限らず、物語でも実社会でも本来の勝利条件、達成目標を忘れてその過程にこだわってしまうことがさ。秀吉と家康みたいなもので、天下を取るのが目的であって、戦に勝つことはその過程に過ぎない……みたいな話。

 そしてリクは『本当の勝利条件』を見つける。これはまさしくゲーム的な発想でもあるよね。真正面から考えていれば見つからない答えだった」

 

カエル「それとチェスが関係あるの?」

主「……チェスってさ、引き分けがあるんだよ。

 極端な話、キング1つだけになったとしても、すっごく粘れば引き分けに持ち込むことができる。つまり『勝つ戦い』はできなくても『負けない戦い』はできるわけだ。

 この発想の転換が素晴らしい! 

 勝利条件を達成すること、敗北条件を達成させないこと、この2つが果たせれば絶対に負けないんだよ。

 それがゲームだから。

 どんなに辛い状況であろうとも、粘って粘って戦えば引き分けには持っていける。そのチェスというゲーム性と物語が一致しているんだよね。

 これはうまい! 思わず唸った部分だね」

 

 

 

 

最後に

 

カエル「いやー、まさかここまで大当たりの傑作だとは思わなかったね」

主「次の『パワーレンジャー』までのつなぎの意図で見たんだけど、完全に圧倒されたからね。もうパワーレンジャーを見ないで帰っちゃったし。

 まあ、納得していないこともあるよ? リクが6箇条を発表した時の仲間たちは何をやっていたんだろう? とかさ。ちょっと最近のラノベに多い萌え要素が強いかなぁって印象もある。

 だけどそういう不満も全て吹っ飛ばすほどの傑作だった。

 ラノベアニメでファン映画だから見ないというのはもったいないと思うほど」

 

カエル「ハードルは高いけれど、是非見て欲しいね」

主「ああ、やっぱり選り好みをしちゃダメだな……やっぱり『アンパンマン』とかも見に行った方がいいのかな? 結構作画的にもすごい映画だという話はちょいちょい聞くんだよね……意外な名作が転がっていたりして」

カエル「……さすがに幼児向けアニメはちょっと配慮しようか」

 

ノーゲーム・ノーライフ NEET Blu-ray BOX

ノーゲーム・ノーライフ NEET Blu-ray BOX

 
ノーゲーム・ノーライフ 文庫 1-9巻セット (MF文庫J)

ノーゲーム・ノーライフ 文庫 1-9巻セット (MF文庫J)

 

 

 

blog.monogatarukame.net

blog.monogatarukame.net

blog.monogatarukame.net

blog.monogatarukame.net