カエルくん(以下カエル)
「今週公開の映画、トランボを選択したんだね。このブログでも何度か表現規制に関しては話をしていることも関係あるのかな」
亀爺(以下亀)
「話をしておるのは主に『ヘイズ・コード』の方で赤狩りではないが……どちらも50年代のハリウッドを揺るがした大規制じゃから、ハリウッドの歴史を語る上では外せない表現規制じゃの」
カエル「話に聞くだけじゃなくて、こうやって映画になるとその影響がどれだけ大きかったかよくわかるよね。でもさ、ハリウッドにしてみれば隠しておきたい恥の歴史でもあるんじゃないの?」
亀「ハリウッド全体の過ちというよりは、一部の表現規制派が旗を振って先導した事じゃからな。その過ちを認めているし、その後は表現規制によって追い出された人々が帰ってきた事もあって、今では映画にできるくらいに蟠りはないという事じゃろうな」
カエル「そこも含めて語っていこうか。それじゃ、感想スタート!!」
1 ダルトン・トランボと赤狩り
カエル「そもそも、ダルトン・トランボって一体誰なの?」
亀「ハリウッドを代表する脚本家の一人じゃ。その政治闘争などもあって、決して多作というわけではないが、代表作にはなんと言っても『ローマの休日』と『ジョニーは戦場へ行った』がある、偉大な脚本家じゃな。『ジョニーは戦場に行った』は鬱映画としても有名じゃの。
おそらく、オールタイムベスト映画を選ぶとしたら、ローマの休日は1位をとる本命と言ってもいい作品じゃろう。わしも何度も見ておるからの」
カエル「作中でもあったけれど、アカデミー賞に何度も輝くような、実力のある人だったんだね。そんな人でも赤狩りで追放されちゃうんだ」
亀「戦後直後は共産主義の波が吹き荒れておるから、世界的に共産主義の大ブームが来ておった。どうやら、本気でソ連がみんな平等で天国のような国じゃと信じておったらしいの。
映画の中でも語っておったが、共産主義という理念自体は理想のものじゃ。みんなで助け合い、困った人には手を差し伸べて、みんなで豊かな社会を目指していく。人の上に人はなく、人の下に人はない、そんな理想の社会の実現を目指しておった」
カエル「なんでその思想が弾圧されたの?」
亀「これも禁酒法導入などと同じで、実に様々な要因が複雑に絡み合っておる。例えば、当時のロシアはすでに敵国のような扱いになっており、敵の信奉する社会制度は悪という市民感情も当然のようにあった。
それとやはり大きいのは教会の影響じゃろうな。共産主義社会というのは宗教を否定する運動でもあり、現に今でも中国や北朝鮮などでは大きな意味での宗教はないとされておる。もちろん、地域信仰のような小さなものは存在するじゃろうがな。キリスト教の教会にしてみれば、面白い話ではない。
その赤狩りによって追放された中にはチャールズ・チャップリンもおる。ヒトラーを痛烈に批判して一躍アメリカのヒーローになったが、赤狩りによって追放されるとは皮肉なものよの」
2 なぜ今トランボなのか?
カエル「そんなトランボを扱った映画なんだね。なんで今更そんな人を撮ったんだろうね? やっぱりトランプ旋風などがあるからかな?」
亀「そうかもしれんの。ここ最近に限った話ではないかもしれんが、野球の黒人差別を扱った『42~世界を変えた男~』や『ズートピア』など、差別問題に警鐘を鳴らすハリウッドの映画が増えておるように思うの。これはアメリカ国民の中で、排他的な運動がすでに始まっていることに、危惧する声があるからかもしれん」
カエル「今でいうと赤に該当するのは何かな?」
亀「やはり移民やイスリムというところじゃろうな……この赤狩りの問題点は、思想の自由や表現の自由が保障されているにも関わらず、危険思想の持ち主だということでスパイということにされ、一部の思想が弾圧されたことにある。
逆に言うと、それだけ共産主義というものが脅威であったし、またハリウッドの影響が大きかったというものじゃろう」
カエル「でもさ、ローマの休日とかには共産主義を助長するようなシーンはないよね?」
亀「ないじゃろうな。深く突っ込めば、あの二人を分けたのは『家』というどうしようもないことであり、そのせいで悲恋になってしまった。『ロミオとジュリエット』のような物語と言えなくはないがの。じゃが、観客の多くは共産主義礼賛とは思わんじゃろうな」
カエル「じゃあ、やっぱりやりすぎだった?」
亀「ハリウッド全体が踏み絵を強いられていたような時代だからの。1950年代のハリウッド黄金時代は、実は赤狩りとヘイズ・コードという二大表現規制の上に成り立っておった。それに反発するように作り上げていく制作者たちの熱意が、工夫を凝らした名作を生み出していったと言えるじゃろうな」
以下ネタバレあり
3 映画としての評価
カエル「じゃあ、映画としての評価に入るけれど……悪い映画ではなかったよね。個人的に興味のあるテーマだからっていうこともあるだろうけれど」
亀「こう言う話だから相当重いのかな、と思っておったら、コメディタッチのシーンも多くて見ていて飽きなかったの。お風呂での執筆シーンなど、面白かったわい。
それから何よりもテンポがスピーディじゃったな。こんなに早く収監されて、話が持つのか? と少し不安になったほどじゃ」
カエル「ただね……これはどうしても実話ベースだから仕方ないんだろうけれど、登場人物が多すぎて、カタカナ名前が頭に入ってこない人には少し過酷すぎたよね」
亀「……そうじゃの。そればかりは仕方ないか。なにせトランボの家族や支援者、仲間や敵など、関係者は山ほどおるからの。それらをしっかりと描写しようとしたら、膨大な人数になってしまうわい。
それから、わしが気になったのは単調な脚本や演出かの。白黒時代の映画をそのまま見せてくれたり、当時のインタビュー映像などをそのまま使うなどの演出は、白黒好きには堪らないものであったが、少し一本調子すぎた気がするの。時間が過ぎるのが長く感じたのと、眠くなってしまったわい」
カエル(それは歳もあるんじゃないの?)
亀「あとは、この作品を見に行く層がどれだけ赤狩りについて興味があるか、というのも問題になるが、公開館数も決して多くはないだけに、映画に興味が有る人だけしか集まらんかの? 何も知らずにこの映画を見て、どこまで話についていけるかは少し気になったかの」
カエル「それは大丈夫じゃない? さすがにこのニッチな映画をデートで見にいこうっていうカップルとかは少ないだろうし。そんな層はワンピースとか見に行くよ、きっと」
亀「まあ、説明も多かったから大丈夫とは思うが……」
懐かしの映画や俳優がいっぱい
カエル「でも、古い映画が好きな人だったら結構喜ぶ作品かもしれないね。分かりやすいところだとゴリラのぬいぐるみとかさ、出てくる名前がジョン・ウェインとか、カーク・ダグラスとか、あとは作家だけどヘミングウェイも出てきたかな」
亀「主もそこまでこの時代の映画に精通しているわけではないが、白黒映画が好きな身としては、その名前が出るだけで面白く感じたものじゃ。いくつかはまだ知らない映画も当然のように出てくるから、それも見てみようと思ったりの」
カエル「いい作品が多そうだよね。これを機に古い映画の入り口となってくれればいいね」
最後に
カエル「しかし、まあアンフェタミンまで飲んでよくやるなぁ。日本で言えば覚せい剤でしょ、あれって」
亀「仕事をしなければ食べていけないとはいえ、明らかに精神に異常をきたしているからの。それまでの子煩悩だった姿が別人になっておった」
カエル「それだけやらないとあれだけの実績は残せないのかな……ねぇ、亀爺、いいことを思いついたんだけどさ……」
亀「……アンフェタミンは日本じゃ違法じゃ。手に入らんから主に飲ませて昼夜を問わず働かせるのは無理じゃよ」
カエル「ちぇ!! これで僕たちの商品化に一歩近づくと思ったのに……」
亀「……恐ろしいやつじゃの」
トランボ ハリウッドに最も嫌われた男 ハリウッド映画の名作を残した脚本家の伝記小説
- 作者: ブルース・クック,手嶋由美子
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