カエルくん(以下カエル)
「この週も大きな映画が目白押しなんだよねぇ。特に3月はアニメ、邦画を中心に注目作品が多かったけれど、ここに来てハリウッド映画も大物が次々と公開しているね」
亀爺(以下亀)
「春休みということもあって子供や学生向けのアニメ、邦画が多く出てきたが、特に SFアクションの大作となると久々な気がするの」
カエル「意外と今年の3月、4月って大物アクション映画が少ないみたいだよね……これなら、ちょっと遅くしてこの時期に公開しておけば! と思う大作も多かったかも。『マグニフィセント・セブン 』とか」
亀「自社内では公開時期をずらすことは当然しておるじゃろうが、どうしても競合他社とは被ってしまうからの。観客の取り合いになり、意外とこの週や月はガラガラ……なんてことも多そうじゃ」
カエル「こればっかりは読めないからねぇ……色々な行事やイベントとの絡みもあるから単純には言えないけれど、勿体ないなぁと思う作品もあるよ。これだけ面白いのに、もっと注目を集める作品があるからなぁって。
今月は大きな洋画というと……それこそ『アサシンクリード』しかないんじゃないかな? あの映画も微妙だったから、余計にこの作品とキングコングにかかる期待は大きいよね」
亀「じゃがお預けをくらった分、洋画ファンは今週ウキウキとしておるのではないかの。
それでは、感想記事を始めるとするかの」
1 ネタバレなしの感想
カエル「じゃあネタバレなしの感想だけど……なんか、結構賛否があるとかアメリカでは評判が良くないって噂だったけれど『どこが?』と言いたくなるくらい、普通に面白い作品だったよね?」
亀「もちろんもっと面白い映画はいくらでもあるじゃろうが、別に酷評するほどの映画でもないかの。知人に『パッセンジャーってどうなの?』と尋ねられたら『ああ、損はしないと思うよ。観るなら映画館だね』と言えるレベルの作品ではあると思うがの」
カエル「映像も迫力があって綺麗だったし、宇宙である意義もはっきりとあったし、映画としてしっかりと考えられた作品だよね」
亀「ただ、この映画がアメリカ人に不評というのもわかる気がするの。
これは予告編を見て貰えばはっきりとわかるがの、登場人物が極端に少ない。主人公とヒロイン、あとはロボットのバーテンダーと……まあ、そんなものじゃの。もちろん、ここまで少ない人数の映画というのはそんなに多くない。
さらに言えばこのお話は宇宙船で発生する物語であり、非常に規模は大きいが基本的には密室ものということもできる」
カエル「少人数の密室ものって結構ハードルが高いよね……」
亀「そうじゃの。よほど脚本がしっかりと練り上げられておらんと、観客が退屈してしまう。約120分間を2人、ないしは3人でずっと魅せていかねばならないと考えると、脚本、役者、演出のレベルが相当なものが求められる。
他の映画であればお話が停滞し始めた場合、誰か登場人物を出したり、あるいは既存の人物を暴れさせたり、ミスをさせたりして物語を動かすことができるが……本作は限られた登場人物を考えればそれができないからの」
カエル「そう考えるとよく挑戦したよね」
亀「決して絶賛はしないぞ?
じゃがな、この挑戦と、エンタメの面白さとしては爆発こそしなかったが、ある程度まとめ上げられたストーリーには十分合格点と言えるじゃろう」
基本はこの2人の物語
パッセンジャーより
今作のキャストについて
カエル「じゃあキャストについて語るけれど……というか、本作はキャストがすごく大事になってくるんだよね」
亀「先ほども述べたがの、このような密室劇、少人数の映画では当然のようにキャストの出演シーンも多くなる。
そのために主役、ヒロインの比重はすごく大きくなり、さらに様々な面を見せねばならない。
単なるヒーローでもなく、おちゃらけた面や落胆、怒り、チャレンジなどという様々なシーンが必要になる。それを他の映画であれば役割を振って、あるキャラクターにコメディー担当にしたりとできるが、それができんわけじゃからな」
カエル「それでいうと主演のジム役、クリス・ブラットはよくやったよね。
ちょっと仕草に可愛らしさを感じたり、人間臭さもあって……でも、その絶望感や怒りというのもよく表現されていた」
亀「若干爆発力に欠ける演技であり、すごく印象に残るかと言われるとそれはそれで微妙なんじゃが……本作における魅力の多くはクリス・ブラットの演技力によるものじゃろうな」
クリスブラットの最近の作品というとやはりこちら!
エンタメ大作としてオススメです!
カエル「そしてヒロインのオーロラ役のジェニファー・ローレンスもまた見事だったよね。特にプロポーションがすごくいいから、結構ドキドキするシーンも多くて……」
亀「観客をいかに惹きつけるかということでは、オーロラの果たした役割というのは非常に大きいの。
結構アクションをこなす役が多いこともあってか、しっかりと締まったプロポーションをしておったの。
ちなみに日本語吹き替え版は水樹奈々じゃ。これが合うかどうかは……わからんの」
カエル「でもさ、本作のMVPは何と言ってもアーサー役のマイケル・シーンだよね!
予告でもあるように、バーテンダーだけどロボットで……この演技が絶妙!」
亀「ロボットと言うよりも正確にはアンドロイドのようじゃが、それはいいとして……若干硬質的な印象を与えながらも、不気味にならない絶妙な演技じゃ。それでも、彼がいるからいいじゃないか……とはならないくらいに、どことなく不穏な空気を感じさせてロボット感を出しているという……この絶妙な演技じゃな。
特に微笑みが素晴らしくて、お客を安心させながらも話しても無駄だ、と思わせる絶妙なものじゃった」
カエル「彼がいるからこの映画は120分保ったと言う印象があるよ」
亀「いい脇役じゃったの。
それから忘れてはいけないのがロボットの存在じゃ。お掃除ロボットなども本作はたくさん出てくるのじゃが、その動きなどが可愛らしくての……まるでペットを見ておるような気分になってきたわい」
以下ネタバレあり
2 脚本について
カエル「じゃあ、ここからネタバレありだけど……脚本としては若干粗いなという印象があったかな?」
亀「つじつまは合っておるし、別におかしなことでもないんじゃがな。
ただあまりにもトントン拍子でお話が進むのと、ちょうどいいタイミングで助っ人が現れたり、妙に察しのいい主人公であったりということに違和感が若干あったは、あったがの」
カエル「『え? このタイミングで都合よくこの人が現れるの?』とか、『ここまで来たらクルーも起こしちゃえよ!』と言うツッコミどころはあるから、そういうことを気にしてしまうとこの映画って楽しめないかも……」
亀「本作が『爆発しない』といっておる原因の1つじゃの。非常に重要なトラブルが起きておるのじゃが、どうにもご都合主義に見えてしまう。
例えば主人公のジムは技術者なのじゃが、その能力があまりにも高すぎるようにも思えた。あんな最新鋭の機械について精通し、故障箇所や対策を理解しておるというのはおかしな話じゃろう」
カエル「状況も危機的なのになんとかなっちゃうのも、一応設定としては開示されているからおかしくはないんだけれど……でも『え!? そんな方法で回避できるの!?』という思いもあったかな。
あとはこの物語の大元である、トラブルの原因も納得がいくようで行かなかったなぁ」
亀「あの程度の隕石で故障しておったら、過去の航海全て故障なしというのは不可能な話じゃろう。
その辺りの狙いもわからんでもないが……スタートの時点で少し疑問符ができてしまった印象じゃの」
テーマとしての脚本
亀「ただ、この脚本はテーマやメッセージ性を強く内包しておって……それを考えると、レベルが高いものであるとも考えられるわけじゃな」
カエル「え? 御都合主義ばかりなのに?」
亀「いや、それにもきちんと訳があるのじゃよ。
まず、この映画を見て思い出すのは『トロッコ問題』じゃの。この理論は簡単に言ってしまえば、暴走したトロッコの先には2つの路線がある。片方には1人、もう片方には5人の人が線路上で動けなくなっている。もちろん、助けはない。
確実な犠牲が付きまとう上で、ではこの場合はどちらの路線を選択するのが正しいと言えるのか? という命題じゃの」
カエル「……多くの人は1人の犠牲を選ぶよね」
亀「ではさらに条件を変えてみよう。
その1人はそれなりに仲の良い友人じゃ。そうなると友人1人と見ず知らずの他人5人、どちらを選ぶ?」
カエル「……う〜ん、意見が分かれそう」
亀「さらに条件を変えてみよう、
その1人は自分の恋人じゃ。
では、恋人1人と他人5人であったら? おそらく、多くの人が恋人を守ることを選択するじゃろう。
では恋人1人と100人の他人であったら? これがトロッコ問題じゃの」
カエル「結構有名な思考実験だよね」
亀「他にも『中国語の部屋』という、コミュニケーションによる思考実験であったり、自らを救うために他の人間を犠牲にしてもいいのか? ということも問いかけられておるの。
ジムの行動やオーロラの選択には賛否が分かれるじゃろう。途中で出てきたクルーのように振る舞えるとも限らん。そう言った極限の状態における思考事件を映画で見せられたようなものじゃな」
カエル「答えがない問題だし、映画としてある程度納得できるものにしたかったからこそ、ああいうご都合になってしまったのかな?」
亀「どのような選択をしても必ず批判は付きまとう。その中では、比較的穏健な選択と言えるじゃろうな。
だからこそ、映画としての面白みには欠けるとも言えるが」
3 タイタニックと本作〜作品解釈について
カエル「でも、この映画を見て連想するのはやっぱり『タイタニック』だよね。それこそ隕石が原因で沈みゆく船とかも一緒だし……」
亀「ある一面だけを見ればそこだけしか似とらん、ということもできるじゃろうが、わしもこの映画に似ている映画を考えたらやはりタイタニックが思い浮かぶの。鑑賞中、この映画はタイタニックか……と思いながら見ておったからの」
カエル「だけど、どこが明確にタイタニックなのか? と言われるとちょっと難しくて……結局最初だけじゃない? と言われたらその通りなんだよね」
亀「いや、ワシは結構類似点が多いと思っておる。
そしてこの映画を解釈する時に、タイタニックを補助線として引くと実に多くのことに気がつく」
カエル「じゃあ、ここからは感想と離れたこの作品の解釈について話していこうか」
本作のテーマとは?
カエル「テーマというと先ほどの思考実験の他にというと……やっぱり創世記やアダムとイブのお話は連想されるよね。
つまり、本作は新天地に向かうアダムとイブの神話だということもできるわけで……」
亀「お! いい解釈じゃの。
本作で何度も繰り返されるのは『地球を捨てて新天地へ』という話じゃ。そこに絡む2人の男女……これだけで連想するのはアダムとイブじゃな。
じゃが本作には蛇なども登場しないから、この要素を語るには弱い気もするがの。あの木もわしは樹木に詳しくないからよくわからなかったが……おそらく、リンゴの木ではないはずじゃ。オリーブの木でもなさそうじゃし……そこはもうちょっと調べんとわからんの」
カエル「え? じゃあ、この映画って創世記は関係ないの?」
亀「いや、わしは関係あると考えておる。
ここで使うのがタイタニックを補助線に使うということじゃが……あの映画は全てお婆ちゃんの妄想という意見もあるの。わしもそう思っておる。真実は観客が決めるものじゃが、その方が美しいと思うしの。
ということは、この映画は一体なんじゃ?」
カエル「……まさか、全部妄想なの?」
亀「そこまでは言わん。作中では実際にあったことじゃろう。
じゃがな、オーロラは小説を書いておったろ? 後世の人のために誰も読んだことのない小説を書いて、誰かがそれを読むことを楽しみにしておる。それを考えるとこの映画のご都合主義なども全て説明がつくのじゃ」
カエル「……あ、そうか! この映画ってオーロラの小説のお話なんだ!」
亀「おそらくの。だからご都合主義のような部分も目立つ。じゃがそれは世界中の神話がそうじゃろう?
この映画は『新たな天地に向かうアダムとイブの、新しい神話』だと思う。そしてその物語を映像化したものじゃな。
ほれ、誰も読んだことのない小説を描くことに成功しておるじゃろう?
まさしく現代の創世記を作り上げることに成功したのじゃ。
そう考えると全てがつながってくるような気がしてくるの。あの宇宙船はノアの箱舟ということもできるの。
作中でも人生の機微に関するセリフが多かったし、運命や人間が生きるということをテーマにしているのは間違いないのではないかの」
カエル「でも、それを裏付ける証拠って特にないよね?」
亀「映画の解釈は自由じゃ。この物語が少し弱いように思えるのも、解釈の幅を与えるためのものじゃろう。
わしはこういう解釈があってもいいと思うぞ」
最後に
カエル「いやー、正直鑑賞直後はどうやって語ろうか迷ったけれど、意外と語れるものだね!」
亀「今作は少しばかり脚本が退屈な部分もあって、テンポよくスピーディに描いておるが、特に序盤は若干かったるくなる映画じゃからな。その意味でも爆発力はない。
じゃが、とっかかりがあまりないというだけで、決して酷評されるような作品でもないからの」
カエル「映像のクオリティもすごく高いしね」
亀「ただ、今週は邦画が大量に公開される上にキングコングもあるからの。やはり1週2週ズレるだけでも興行収入は変わったじゃろうが、そこが惜しいの。
春休みシーズンを狙いに来たのはわかるのじゃが、相手が悪かった」
カエル「興行的には少し苦しみそうかなぁ」
亀「迷っていたら見に行くのもいいかもしれんの」