物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『超高速!参勤交代』感想 逆転の発想の勝利!

カエルくん(以下カエル)

「今回は続編も発表された『超高速!参勤交代』のレビューだね」

 

亀爺(以下亀)

「知り合いにそれなりに面白い作品だよ、と勧められていたのじゃが、続編があるということでここで一念発起して鑑賞することにしてみてのじゃが……

 一つ、ここで言っておかねばならぬことがあってな」

 

カエル「何? いよいよ内容を覚えることができなくなってきたとか?」

亀「違うわ!! 実はここ最近、見る映画がアニメ映画に偏っておったじゃろ? しかも、押井守や今敏のような『大人向けアニメ』だったらまだ良かったのじゃが、あまりにも子供向けアニメが続きすぎてな……」

カエル「確かに『ファインディング・ドリー』やら『ONE PIECE FILM GOLD』やら『ルドルフとイッパイアッテナ』やらと、アニメ映画が続いたからね」

 

亀「そこでの、さすがに硬派な大人の映画が見たいと思って、この作品を見る前にそれをDVDで鑑賞したのじゃよ

カエル「……それって何?」

 

亀「隠し砦の三悪人もちろん、黒澤明監督のオリジナルの方じゃ」

 

カエル「……亀爺さ、それだと、あまりにも『超高速!参勤交代』がかわいそうでしょ? あの完成度がある種の基準になっちゃうんだからさ、そんな名作に勝てるような作品が今の日本で、できるわけないじゃない

亀「……確かに時代劇では中々難しいかの。そういうわけで、少しだけ『隠し砦』と比べるかもしれんが、そう大して深い意味はないとは言っておこうかの」

 

 

 

1 『安い』作品

カエル「いきなりこのタイトル!? 完全に喧嘩を売ってない!?」

亀「いやいや、むしろわしは褒めておるんじゃよ

カエル「……え? これで褒めているの?」

 

亀「黒澤明の『隠し砦の三悪人』を観てよくわかったが、あのレベルの作品を現代で作るのは非常に難しい。ロケ地がないなどの問題もあるがの、一番大きいのが何といってもあの迫力じゃ。

 祭りのシーンがあるがの、あれほどの映像から伝わる迫力というのはとても現代の映画では作ることができん」

カエル「黒澤明は『白黒映画』の魅力を余すところなく使って、カラーじゃないからこその迫力がある監督でもあるからね

 

亀「わしは白黒映画が現代で古い技法になっておることに違和感があるんじゃが、それはそれとしても、あの馬に乗って敵を追いかけるシーンの臨場感などは、現代の役者には難しいの。

 そもそも、馬に乗れる俳優がどれだけいるかの?」

カエル「超高速も明らかに馬に乗っているのが俳優ではなくて、スタントマンのような人のシーンもあったからね」

 

亀「それはもう、何というか仕方ないの。時代が違う上に、撮り方も技術も違う。今からそこを責めたところで、どうしようもあるまい。

 その意味では、わしが思うに時代劇とは『過去によって完成し、そのコピーを続けること』の方が重要な作品のように考えておったわ。

 だが、この作品はその思いを逆手に取ったの」

 

安いからこそ生きる『魅力』

カエル「映像表現で安いってそんなに嬉しいことではないよね?」

亀「本来はの。じゃが、この作品はタイトルからして『超高速! 参勤交代』というタイトルじゃ。普通に考えたらふざけておるようなタイトルじゃが、この作品が仮に……そうじゃな『蟬時雨』とか『走破坂』というようなタイトルであった場合だと、一気に駄作になるじゃろうな」

カエル「……走破坂はさすがにダサすぎるでしょ、タイトル」

 

亀「それはそうとして、このタイトルで映画を見に行った観客だったり、あの予告編を見た観客は、これが重厚な時代劇だとは誰も思っておらん。だからこそ、逆に安く見える絵作りが重要になってくるのじゃよ。

 ここはそれこそ、作中のように逆転の発想の勝利じゃの」

 

 

2 バカバカしい設定

カエル「いやいやいや、さすがにこれは貶めているでしょ!?」

亀「そんなことないぞ。例えば、今作のバカバカしさというのは画面のあちこちから漂ってくる。

 その1つが見せ場である困難を乗り切る知恵を出す場面じゃの。西村雅彦演じる、相馬が次々を知恵を使って難所を切り抜けていくのじゃが、それが実にバカバカしく、『それで本当に騙せるのか!?』と言いたくなるような設定じゃ。

 じゃが、それこそ『隠し砦の三悪人』のような機転を効かせて、人間の心理を見事につき、わざと『恩賞をよこせ!』などと暴れ始めたりでもしたら、ここまで築き上げたものがすべて崩壊してしまう

 

カエル「さすがにバカバカしすぎるのか、一部からは批判の声があるよね。『遊女が側室とかおかしい』とか『徳川将軍は友達か?』とか、『あまりにもご都合主義すぎる』とか」

亀「それは事実といえば事実じゃが、それをこの作品で言ってしまうことは、あまりにも野暮というものじゃ。チャップリンやミスタービーンのコメディーでもおかしな部分はいくつもあるが、そこを突っ込んだら負けじゃろ?

 むしろ、できればニコニコ動画などでみんなでゲラゲラとツッコミながら鑑賞するのが正しい映画といえるじゃろうな

 

アクションについて

カエル「あのワイヤーアクションなんて、そのワイヤーで吊られているところを隠そうともしないで面白かったよね」

亀「そうじゃの。ここまで安っぽく、しかも分かりやすく作ってくれたら、逆に好感が持てるものになっておった

カエル「結構激しいシーンも多いけれどね」

亀「それでも重要なシーンがわざと安く作られておるから、そのドタバタも笑えるようになっておるの」

 

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3 この作品の意味とは?

カエル「で、結局亀爺が考える、この作品の意味ってなんなの?」

亀「これはな、つまり『映画作りにおける逆転の発想を描いた作品でもある』ということかの」

カエル「へぇ! というと?」

 

亀「例えば金がないのに参勤交代しろ、という無茶振りは『金もないのに時代劇を作れ』という無茶振りと似ているものがある。特に時代劇、ヤクザ、アニメというのはテレビにおける最も費用がかかり、その割には回収の難しいジャンルとして有名じゃからな。

 今はテレビ時代劇を一切見なくなったの」

カエル「再放送とあとは大河ドラマばっかりだよね」

 

亀「先ほど挙げたような無茶振りというのは、ある種のスポンサーやプロデューサーの無茶振りと似たようなものじゃ。人数がいないのに人を多く見せろ、などの。

 懸命になんとか走ってきたら思わぬ敵に襲われたり、大名行列が来たら飛脚になって走り抜けるというのは、その都度訪れるトラブル対応について描いておるように見えた。

 つまり、本作は参勤交代を描きながらも、突貫で安く映画を作らされるという悲哀を、面白おかしく作った映画とも言えるわけじゃな

カエル「なるほどね」

 

亀「だから、これが大ヒットして『リターンズ』などと時代劇ではありえんようなカタカナ言葉を使うことになったがの、わしはこの路線で大成功じゃと思う。時代劇コメディー、なかなか愉快ではないか」

カエル「最近だと『殿、利息でござる!』も時代劇コメディーとしてよかったし、今年の邦画大豊作に続くといいね」

 

 

最後に

カエル「さて、これでおしまいにするけれど……そもそもさ、初めの話に戻るけれど、なんで『隠し砦の三悪人』を見ようと思ったの?」

亀「……なぜ、と言われてもの。シン・ゴジラがこれだけ人気があるじゃろ?

 となると樋口真嗣監督作品を見たくなるわけじゃ。では、何を見ようかといえば、ガメラはもう何度も見ておるし、ローレライと言うのも……進撃の巨人はありえんし……そうじゃ、隠し砦の三悪人をリメイクしておったではないか!

 じゃが、そうなると元の黒澤明版も見ておきたいの、という流れじゃ」

 

カエル「……もうほとんど連想ゲームだね」

亀「じゃが、さすがは名作じゃの、何度見ても面白かったわい!」

カエル「……それで感想に影響を与えていたら、世話ないよ」

 

 

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