カエルくん(以下亀)
「では、細田守について語ろう! 第2夜ということでサマーウォーズについて語っていきます!」
亀爺(以下亀)
「今回は細田守を語る際に絶対外せない作品と言われておる、『デジモン』とセットで語るんですけどじゃな」
カエル「今回に備えて細田守が関係したデジモンのお話をピックアップしてみたんだけれどさ……光ってあんな子だったっけ?」
細田守監督作品の記事を書くためにデジモン21話見ていたけれど、光って初登場時あんなにヤンデレメンヘラちっくだったっけ?
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2017年12月19日
しかも脚本吉田玲子だったんだね……今思うと豪華な話だなぁ
亀「単なる可愛い妹ではないのは理解しておるし、あの作品におけるタケルと光の立ち位置は特殊なものがあるというのも覚えておったが、改めて鑑賞すると中々インパクトがあるの」
カエル「しかもそれが細田監督回というのがまたね……
最近は明るい女性キャラクターが目立つ印象だけれど、おジャ魔女どれみを考えても、実は暗い女性を描いたほうがインパクトに残る作家性なのかもね」
亀「それでは一般層に深く受け入れてもらえる作品にはならんかもしれんがの。
明るい夏っぽい作品をたくさん製作していおるし、アニメの最大の稼ぎ時である夏休みに公開ということで夏アニメを量産するのもわかるのじゃが
……できれば今度は寒々しい冬の物語を大人向けに製作してほしいの。
おおかみ子供の雨と雪でさえ、まだ夏の印象があるからの」
カエル「では、そんな細田監督と夏のイメージを決定付けたとも言えるサマーウォーズについて語っていきましょう!」
1 サマーウォーズのチャレンジ
カエル「まず、サマーウォーズの公開時の細田監督の評価ってどんなもんだったの?」
亀「記憶の話になるが、一般層にも徐々に受け入れられ始めていたかの。
前作の『時をかける少女』の大成功によって、テレビ局も注目をしておった。特に日テレのジブリに対抗するアニメが欲しかったのか、はたまた時をかける少女というタイトルに並々ならぬ思いがあるのか、フジテレビが猛プッシュしておった印象があるの。
あの時もすでに『あの時をかける少女の監督最新作!』という煽りがついておったように記憶しておる」
カエル「アニメに注目していたから、というのもあるんだろうけれど、公開規模も前回の時をかける少女が公開当初が全国6館とか7館だったのに対して、サマーウォーズが127館とざっと20倍以上という注目度の高さを示しているよね。
それでも少なかったようで、映画館では連日人が押しかけて、ロングランになって大ヒット、細田守の名前を一気に定着させる作品になったと言っても過言じゃない」
亀「あの時はパンフレットも連日売り切れになっておった印象もあるしの。
興行収入も時をかける少女の2,6億円から16,5億円と大飛躍を遂げており、大ヒットラインと言われておる15億を超えてきておる。
これだけの結果を見せつけられたら、テレビ局も放っておかんじゃろう。
ここから『ポストジブリ』の先頭に立つ存在としてさらに注目を集めていくことになっていくの」
デジモンと共通する白地のデジタル空間表現
劇場アニメ冬の時代
カエル「この衝撃の大きさの背景には何があるの?」
亀「これは今でも状況はそこまで変わらんが、劇場でオリジナルアニメを公開することは非常にハードルが高かった。
もちろんジブリや宮崎駿作品、ポケモンやドラえもんなどの作品は多く公開されており、観客も集めておった。しかし、それはあくまでも『コンテンツの力』であって、そこまで育ててきた『ブランドの力』である。
これは今でもそうであるが、そのようなブランドの力やコンテンツの力があれば、作品はヒットするのじゃよ」
カエル「その中で新進のアニメ監督がオリジナルで映画を公開するというのは無謀なことだったんだね……」
亀「もちろん、この時代にも劇場でキャリアを重ねたアニメ監督はおる。
しかし押井守もあれだけクオリティの高い『イノセンス』で約10億、『スカイクロラ』は7億円とかなり物足りない結果になっておる。そして同時代の今敏などは興行的には成功したとは、中々言いがたいのが現状じゃな。
他にも片渕須直監督の『マイマイ新子と千年の魔法』は約5000万円、似たような時期の『イブの時間 劇場版』などは2000万円ほどとなっておる。
このように、押井守ほどの人物であっても興行は苦しむし、オリジナル作品やコンテンツの力を確立したとは言い難い作品はやはり苦しい戦いを強いられる現状があった」
カエル「もちろん、狙っているファン層も全然違うし、これらの作品を全て同列に語ることはできないけれど……その中でも細田守の躍進というのはとても驚きに満ちたものだったんだね」
亀「本作の最大の注目するポイントは『完全オリジナル劇場アニメ』というということじゃ。
前作の『時をかける少女』はご存知の通り、日本を代表するジュブナイル小説であり、注目を集めたのは『あの時かけの初のアニメ化』というポイントがあったことは間違いない。
時かけを選ぶという戦略が大当たりしたのも褒めるポイントではあるが、その後に公開するのが本作であるというのも大事なことじゃな」
オリジナルとして勝負するための戦略
カエル「でもさ、いくら知名度が上がってきたからといって、オリジナルで勝負するのは博打なわけだよね?」
亀「そのための保険もしっかりと打っておる。
それが細田守の代表作である『デジモン』の存在じゃ」
亀「この作品は30分ほどと非常に短いながらも、テレビ放映前でありながら当時の子供達を惹きつけるには十分なほどの影響力を与えておる。
そしてそのあと、現在にも続くデジモン人気の礎となっておる。確かに今でこそ下火な印象もあるがの、当時のデジモンはポケモン、たまごっちと並ぶほどの人気のあるコンテンツであったと記憶しておる」
カエル「今でいう『妖怪ウォッチ』みたいな扱いだよね」
亀「本作の感想よく言われるのが『デジモンみたいだった』という言葉であって……それはあのデジタルワールドの表現などに如実に現れておる。白を基調とした背景で暴れまわるというのは、細田守のお馴染みのデジタル表現である。
その背景をバックに、デジタル化したモンスター(アバター)が戦う……そしてその戦いの流れも『僕らのウォーゲーム』と似ておる。もちろん、パクリだなんだというのは筋違いじゃ。監督や演出を務めたのが同一人物じゃからな」
カエル「……ちなみに、当時この映画を鑑賞した主は『鑑賞前のワクワク感が映画を見るうちに削がれた』という感想だったらしくて……『スパイラルのOPとかでも散々見た表現だしなぁ……』と釈然としないことを語っていたね」
亀「デジモンで見たことをそのままやっておるだけのように見えるからの。確かに少し大人向けに、オリジナルとして成立するようにしておるが、結局はぼくらのウォーゲムと全く同じように見えても仕方ない。
ちなみに一緒に行った友人は『デジモンみたいで面白かった!』という感想だったということじゃから、その既視感を受け入れるか、それとも拒絶するかの関係に似ておる」
カエル「現代なら『スターウォーズ EP7』に対する反応みたいなことなのかもしれないね」
亀「当時映画ブログを運営しておらんで本当に良かったの。
これほどの挑戦心あふれる作品をけなして、影響はないじゃろうが作品に泥を塗るところであったわ」
2 本作の魅力とは?
カエル「では、背景について語るのはこの程度にするとして、この作品の魅力ってどこにあるの?」
亀「ふむ……『ネットとリアル』を対比して語っておるのがポイントの1つじゃの。
もちろん、この前からネットを舞台にしたアニメ作品は沢山あって、それこそ押井守の『パトレイバー2』『攻殻機動隊』などであったり、今敏の『バーフェクトブルー』であったり、この数年前には『.hack』シリーズなどもあった。デジモンもその1つじゃな。
本作はそう言った作品と違い、デジタルというものを誰にでもわかりやすく、しかも明るくポップな印象にするための工夫があるということじゃな」
映画『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊(1995年 押井守監督)』感想
カエル「明るくポップにするための工夫?」
亀「2009年となるとネットは相当身近な存在になっておるが、中には拒絶反応を示す人もいるかもしれん。しかし、その人達には『家族』や『親戚』の物語ということにすれば、とてもわかりやすくて親しみのある物語となる。
あの田舎の家族像は伝統的なものである。
そしてその対比として使われているデジタルやネットという新しい技術……その『伝統』と『革新』が全く違和感なく同居しておるところに、この作品のうまさがある」
カエル「ふむふむ……つまり、ある人には『家族の物語』となり、ある人には『デジタル冒険譚』と観るようになっているわけだね」
亀「この伝統と革新が入り混じっているというのも、多くの人に受け入れられる要因の1つじゃな」
これほどの田舎は現代でもそうそうないのでは?
田舎の懐かしさ
カエル「今作の舞台は田舎だけれど、それについては?」
亀「もちろん、意味はあるじゃろう。
2000年代にはアニメのみにかかわらず、昭和ブーム、田舎ブームというのが巻き起こった。それこそ『クレヨンしんちゃん オトナ帝国』の影響であったり『三丁目の夕日』のブームじゃの。
そしてジブリ、宮崎駿も田舎であったり、古い街並みを舞台にした作品が多い。このように『懐かしい』映像表現は、多くの大人に効果的に突き刺さる」
カエル「ふむふむ……」
亀「先に挙げたデジタルを扱った作品でも、その多くはSFであったり、都会を舞台にした作品が多かった。しかし、本作は人間の体は『懐かしい田舎』であり、アバターは『新世界』という2つの世界を混在させておる。
この辺りも狙っているところじゃな。
そして、他にも田舎にもネットが波及してきたというのも重要じゃろう」
カエル「田舎にネット?」
亀「先のデジモンでも有名なセリフであるが『島根にパソコンがあるわけないだろう!』という珍セリフがある。これはまだネットがそこまで一般的ではなかった時代の話じゃな。
本作でもネットに理解を示さない人もいれば、逆に侘助のように当時最先端だったアイフォンをアメリカから持ってきている者もおる。そのある種の格差があった時代も面白さを生んでおる。」
3 ネットとリアル
カエル「この映画で特徴的なのは、確かにネットやデジタルの機械など描写が多いんだよ。だけれど、それと同じくらいアナログな通信手段も出てくるじゃない?」
亀「そうじゃの。おばあちゃんの使う黒電話、手紙、そういった昔ながらのアナログな通信手段も多く登場しておる。
この手の『伝統と革新』の物語をやると、どちらかが素晴らしくてどちらかが劣っているということになりやすい。
例えば、野球の映画になるが『マネーボール』というのはそれまでの伝統的な選手を見る方法を否定している映画で、メジャーリーグに革新をもたらした男の話じゃ。
一方でアンチマネーボールともいうべき『人生の特等席』というイーストウッドが主演の映画は、逆に伝統的で人間の目を中心としたスカウトの重要性を訴えておる。
この2作は野球における選手を見抜く力の伝統と革新について描いておるが、やはり一方を悪役のように設定しておる」
カエル「だけれど、本作はその両方を生かすようにしているよね」
亀「それが面白いところじゃの。
当時の人気のSNSで会ったmixiなどは、やはりネット上の小さなコミュニティが多かった。
それを家族間、親戚の集まりに例えたというところも面白いポイントかもしれんの」
本作屈指の人気キャラのカズマ
記憶では女の子に性別変更されて放送されたバージョンもあったような……
細田守とサマーウォーズ
カエル「本作を語る上では欠かせないのが、細田監督のこの映画を作った時の状況だよね。
インタビューなどでも答えているけれど、本来は『ハウルの動く城』を作ろうとスタッフも集めていたのに、色々な事情があって監督交代、結局細田監督はジブリに裏切られる形になってしまった。
せっかく集めたアニメーターやスタッフも、全てお釈迦になってしまって『もう二度とアニメは作れない』とまで覚悟していたのに、次の作品にはスタッフが集まってくれた。その感動をこの映画に込めたんだよね」
亀「ここで細田監督の状況とこの作品を重ね合わせるとすれば、健二は細田監督ということもできるかもしれん。
暗いところでネットに向き合っていた少年が、憧れの先輩に……あえてこういうが、唆されてホイホイと田舎へくっついていく。そこで出会う人たちと、そしてネットを通じて知り合っ世界中の人たちと一緒に、世界を変えるほどの大きなことを成し遂げる。
きっかけは下心かもしれんが、大きな仲間をリアル(スタッフ)でもネット(観客)でも得たということじゃろう」
カエル「そういう見方をすると、あのおばあちゃんって……」
亀「伝統的で厳しいおばあちゃんというのは……まあ、穿ってみれば宮崎駿やジブリということもできる。そこからある種の裏切りを受けたことは、そのまま死と受け取るくらいに重い出来事であったのじゃろう。
しかし、そこからでも、その絆で得た様々なもので大きなことを成し遂げるという意味でも、細田守のキャリアを飛躍させた作品として重要な意味を持っておるの」
カエル「細田守、少年主人公の時は自分を投影している論だね」
亀「あながち間違いとも思えんがの……」
最後に
カエル「では、細田守について語ろう第2弾として語ってきました」
亀「いやいや、まだ作品自体がそこまで多くないから助かるの。
結局のところ、本作もかなりのご都合主義が詰まっており、映画としてはそれなりに難のある作品になっておる。しかし、それでも魅了してしまう映像の力などが込められた作品であるということじゃな」
カエル「あまり、このブログでは評価が高い作品ではないけれど、でも大好きという人が多いのはとてもよく分かるよね」
亀「単純な絵のクオリティだけならばとんでもなく高いがの。
最大の悪癖である話の整合性のつかなさが気にはなるが、本作から一気に人気映画監督の仲間入りをしたのは確かじゃ。
その意味でも重要な作品であり、後々リアルタイムで劇場で観たことを自慢できる作品かもしれんの」
カエル「いよいよ明日は『おおかみこどもの雨と雪』を扱います!
ちなみに一度語っている『バケモノの子』も書き直す予定ですので、楽しみにしていてください!」
亀「……今週中に終わるのか、不安になってきたがの」
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