カエルくん(以下カエル)
「今週のアニメ枠は、Keyの最新映画だね」
ブログ主(以下主)
「この映画を見るために映画館に行ったら、すごいことになっていたよ」
カエル「すごいこと?」
主「君の名は。がさ、あと1時間で上映開始の回は売り切れ、その次の回もほとんど売れちゃって、前のほうしかないの。こんなに人気なんだなぁって横目に見ながら映画館に入ったのね」
カエル「やっぱり人気だね。上映館数が少なすぎるって話もあるくらいだからね」
主「そっちに入るのは普段アニメなんて見ないようなウェ〜イなカップルとかでさ、『あ、これはアウェーかなぁ』と思いながらプラネタリアンに入ったらオタクばっかの完全ホームだったから、あの瞬間の安心感は他にないよね」
カエル「そりゃ、まあ客層は全然違うだろうねぇ」
1 全体感想
カエル「じゃあ、全体の感想から始めていこうか」
主「……典型的なファンムービーみたいだと思った。多分、今作をKeyすら知らない人が鑑賞するってことは、まぁまずありえないって考えてもいい。おそらく、制作陣もそういう人を対象にはしていないと思う。
どれだけ濃いファンかはあるにしろ、少なくともKeyだったり、クラナドくらいは知っていることが推奨される作品であるということは言っておきたいかな」
カエル「まあ、君の名は。が満席だったから、こっちのアニメでいいやって人はそうそういないだろうし」
主「じゃあお前はどうなんだ? って言われそうだから答えておくけれど、もちろんクラナドやAirは知っているよ。ただ原作ゲームはやっていないし、アニメを見た程度の知識しかないし、Keyにも特別な思い入れはない人間の意見であるということは頭に入れておいてほしいかな」
カエル「じゃあ、そういう人の目線から見たらどうだった?」
主「……まあ、正直に言うとテイストが古いよね。10年前のアニメみたいだなぁと思っていたら、まさしくそうだった。鑑賞後に知ったけれど、原作の発売は2004年なんだね。そりゃ、古臭く感じるわ」
カエル「古いってどんなところが?」
主「なんというか、クラナドとかと同じような構造だし、構図だよね。
2000年代って結構こういう作品が流行していて、セカイ系と呼ばれる、世界の滅亡などと恋愛がリンクしている作品が多くあった。その時と同じ雰囲気がある。
昔Keyが流行していた時に、宇野常寛氏という炎上系評論家が『白痴的な女の子が死にそうになる場面でみんな涙を流す』って語っていてさ。ひどいこと言うなぁと思っていたけれど、まぁ、言いたいことはわかるわけよ。
白痴的はひどいから、ドジっ子とでも言おうか、そんな女の子を助けながら、健気に生き抜く様に涙を流すというのは、昔からの常套手段だよね」
カエル「童話だと『マッチ売りの少女』とか男女逆転するけれど『フランダースの犬』は似たような構図かもね」
主「生き抜くためにはマッチを売っているんじゃなくて、町の人に助けを求めたり、飯を盗むというのも手なわけじゃない? でもそういうことをせずに純粋に生き、死んでいく姿に涙をこぼすという王道といえば王道のストーリー。特に少女なんて、女であり子供でもあるから、最も庇護しなければいけない存在だから余計に涙を誘うよね」
カエル「じゃあ、男の方は?」
主「これもまた当時から今に続いてよくある形のやさぐれ系やれやれ主人公だった。世界観が荒廃した地球とか、人口が云々とかなくて学園モノだったらまんまクラナドと一緒じゃん。そりゃそうだよ、だって同じ会社が、似たような時期に制作しているから。
だから、これをあえて現代でやる意義というものが果たしてあったのかという、そういう話になってくるかもね」
以下ネタバレあり
2 詳細な感想
カエル「それじゃ詳細な感想だけど……」
主「……まあ、原作を知らない上にKeyに興味がそこまでない人間からしたら、『こんなもんかな』って印象かな。
決して悪い作品ではないよ。この手の作品で泣くって人は、涙を流すのもわかる。
だけど、そもそも、この作品って作劇として不利なんだよね」
カエル「不利って何が?」
主「簡単に言うとさ、未来のパートと過去のパートがあるけれど、ほぼメインの扱いを受ける過去のパートが全体の半分以上を占めると思うけれど、登場人物が2人だけじゃない?
するとさ、基本会話劇になってメリハリを生むのが難しくなる。何か新しい展開を生み出そうとしても、場所も人物も限定されている中では難しいよね」
カエル「そこも原作通りなんだろうね」
主「ゲームだったら基本2人で会話していてもそこまで気にならないかもしれないけれど、連続して2時間の映画にする際には一本調子になりやすい。あとは……これは趣味の部分もあるけれど、女の子がなぁ」
カエル「……少しはオブラートに包んでね」
主「もともとさ、クラナドでも好きなキャラクターって誰? って聞かれたら、杏とか智代だからさ、あんなにポワポワした女の子はだんだん苛立ってきちゃう。同じ話を何度も繰り返したり、回りくどい話し方だったりさ。あれはダメだったなぁ」
カエル「ここはほら、個人の趣味だから」
主「でもさ、ここも登場人物が限られる弊害だよね。これがもう2,3人ずつ男と女が出てくれば、1人くらいは好きなキャラクターを見つけることができるかもしれない。その子が活躍すれば後満足だよ。これは男キャラでももそう。
だけど、男1、女1だとそこで感情移入ができなかったり、好きになれなかったら後は2時間ひたすら耐えるだけになっちゃう。ここも含めて、映画向きじゃなかったのかなぁ」
目的と動機について
カエル「ここもまぁ、よくわからなかったよね」
主「登場時の星の人の行動を見たら、あそこでゆっくりするのはおかしいわけじゃない。むしろ、『しらねぇよ!』って言って、さっさと出て行く気がする。でもそうじゃなくて、話を聞いて、さらに修理までして、一緒に行こうってなるわけでしょ?
いつも言うけれど、主人公には明確な目的や動機がないと多くの観客が理解できるような作劇って難しくなってしまう。今回はそれがあまりないように感じたね」
カエル「もしかしたら原作ゲームとかにはあるのかもしれないけれどね」
主「だからさ、結局この作品はファンムービーと称するのはそういうところで……10年前くらいにゲームをやって、その感動を2時間くらいでお手軽に味わえると思えば、ファンからしたらありがたいものだと思う。それだけのファンなら激賞するだろうし。
でも個人的にはどうかなってね。ファンじゃないと、ちょっと厳しいかも……」
派手な演出
カエル「一応小タイトルにはこう書いたけれど、この作品で派手な演出ってあったっけ?」
主「ほとんどないね。
いや、配信で流した連続アニメだから、厳密には劇場映画とは言えないかもしれないけれど、最近は劇場アニメ映画のクオリティってすごく高い。テレビアニメでも『響け!ユーフォニアム』とか『甲鉄城のカバネリ』とか『四月は君の嘘』とか、すごく見ごたえのある作品もあるわけじゃない? そういう作品と比べると、ねぇ。
そして演出的に『これは見たことがない!』というような尖ったものもなかったかな?
だからキービジュアルとなるようなシーンがあまりない。ドラマにメリハリがあまりないんだよ。確かにアクションはあるよ、でも終盤で……どうだろう5分から10分の間くらいのアクションだけでは2時間観客を世界観に入り浸らせるのは難しい。
確かにプラネタリウムのシーンとかは良かったよ。良かったけれど、もっとあのレベルのシーンを何度も入れないとさ、ドラマ性が弱すぎるよね。
だから、もしかしたらこの作品が90分くらいならもう少し締まっていい評価ができたと思う。そもそも、2時間弱必要だったのかは、少し疑問かなぁ」
細かい部分について
カエル「で、細かいツッコミって何?」
主「あの世界って細菌テロが起きた後の世界らしいけれど、みんなマスクしているような世界で、雨水を飲んで大丈夫なの? とかさ。ろ過しただけで飲めるぐらいの汚染なら、あそこまで人類は衰退していないんじゃないの? って」
カエル「あの街だけ汚染されてなかった可能性もあるよ」
主「それにしてもさ、あれだけ色々と荒廃しているなかでは疑問があるシーンだったなぁ。
あとはさ、特別プログラムを映す際にそれが上映できないから言葉だけで説明だったじゃない? だけど映画ではしっかりとそこを描くわけだ。もちろん、演出意図としては理解できるよ? わかるけれどさ、だったらそのまま素直に上映しても良かったんじゃないかなぁって思いがある。
あの長老が『いてもいいよ』って言ったのに、村人の言葉でそれを撤回したじゃない? 病人だってことも知っていて、追い出そうとしていて、病気で倒れたら『大変な病気だったのでしょう』って言ったらしいけれど、それを承知で追い出そうとしていたんじゃないの? そんなことも思いつかないで、あんな荒廃した外に老人を追い出そうとしていたの?
そこのあたりの葛藤だったり、少しくらいは描写があればすんなりと引っかかることはなかったかもしれないけれど、あれじゃ描写がなさすぎるよ。
そういうことが積もりに積もって、どうにも感情移入できなかった気がするなぁ」
3 批評パート
カエル「じゃあ、この作品を評論をしていくけれど……すでに10年以上前に発売された作品だから、批評もクソもないような気もするね」
主「もしかしたらファンにとっては常識かもしれないけれど、とりあえず思ったことをつらつらと書いていくわ」
名前の意味
カエル「これは……どういうこと?」
主「未来にいる子供たちの名前って、旧約聖書のレビ記とか、そういう部分から来ているわけじゃない? レビ、ルツ、ヨフ、エズラ、エレミアとかさ。これで旧約聖書は関係ありませんとは言えないでしょう。
じゃあ、なぜ主人公『星の人』に名前がないのかもわかるよね」
カエル「え? なんで?」
主「……これはさ、つまり『神の名前』なんだよ。ヤハウェとかいうけれど、あれだって誰にも読めない名前として機能しているわけで『神の名は誰も知らない』って意味だからさ。知らないというところに意味がある」
カエル「じゃあ、あの主人公は神様なの?」
主「……う〜ん、多分、そこまではいかないと思う。そもそも、人って言っているし。
だけど、おそらく救世主の一員ではあるとは思う。モーゼとか、キリストとかそんな扱いを受ける救世主。神の子って言われるようなさ」
荒廃した世界の意味
主「そう考えるとあんな終末世界である理由もよくわかるよね。つまりさ、終末世界に突然現れた救世主が、この厚い雲上にある、我々の知らなかった世界を教えてくれた、という救世主伝説ってことでしょ?
だから星の人はありがたがられるわけで」
カエル「じゃあ星は?」
主「星はそれこそ神じゃないの? 祈るべき存在であり、人間ではどうしようもないものの象徴としての神。
だから擬似的にとはいえ、星=神という存在を伝えに来た伝道師ということでしょう」
カエル「ほしのゆめみは?」
主「それこそ天使でしょう。Key作品ってさ、一度死んだ女の子が生き返るまでがテンプレなわけじゃない。救われなかった存在が、再び命を取り戻して元気に生きる、そこに感動する人が多いわけで。
それをファンタジーにやっていたのがクラナドとかで、なんで生き返ったのかよく分からないけれど、それはそれでいい。だって、ファンタジーだから。
で、今作はSF調にロボットでそれをやったわけ。ロボットだったから説明もつくし、わかりやすいし、いいアイディアかもね。
あとは上記の神がうんたらで言えば、死と再生の象徴かもしれない。救世主ではなく、天使が復活するというのがミソかもね」
最後に
主「さて、こんなもんかなぁ? 映画しか見ていないから、生粋のKeyファンからは怒られるかもしれないけれど、とりあえずこれが感想と評論かな」
カエル「何作も見て追っかけてきたKeyファンはこの作品をどう評価するだろうね?」
主「ファン映画だからさ、自分みたいなのがべらべら喋るより、その人達が満足すればいいと思うけれどね。
それでさ、この作品を見て思ったことがあるんだけど……」
カエル「……何? 最後だから手短にね」
主「このさ、Keyのお家芸である『死からの復活』って、つまりシンゴジラ的でもあり、君の名は。的でもあるのよ。これが示すひとつの物語の作劇法としてね……」
カエル「長くなりそうだからここで終わりね!!」
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