物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『ムーンライト』ネタバレなしの感想 祝! アカデミー作品賞受賞!

カエルくん(以下カエル)

「今回はこの記事を書いている日がアカデミー賞の発表日ということもあって、アカデミー賞作品など8部門にノミネートされている『ムーンライト』のネタバレなしの感想記事を書いていくんだね」

 

ブログ主(以下主)

「最速試写会に当選したので、その感想などを。

 いやー、でもくじ運が非常に悪い自分が当選したってことは、あまり応募数が多くなかったってことなのかね?

 非常にありがたいです!」

 

カエル「今回は当然ながらネタバレなしで、この作品の見どころなどを紹介していこうか

主「……結構難しいよなぁ。一応予告編にも目を通したり、映画.comの情報などを見てから書いていくけれど……どこまで語っていいのか、というのがね」

カエル「特にこの作品はすごくネタバレなしが難しいんだよね」

主「なんというか……ネタバレって何? っていう映画でもあるんだよ。映画.comのあらすじを読んでも『そこまで言っていいんだ』という思いもあって……結構語るのが難しい作品だと思う。

 その意味ではこのブログ向きな作品だとも思うけれど……さて、どのように語るかな?」

 

カエル「あと、あまり悪いことはいいません。

 ただ、これは試写会だから、ということもあるけれど、アカデミー賞作品賞ノミネート、脚色賞などを獲得しているということもあるので、悪い作品ではもちろんないよ! 褒める部分が多いというのも大きいよ!

主「こういうことを言わなければいいのかね。

 でもこれで試写会の案内がいっぱい来ないかなぁ……来ないよなぁ……

 どんな映画でも時間が合えば行きますので、ぜひ!

 

 

 

 

 

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あらすじ

 

 マイアミを舞台に、自分の居場所とアイデンティティを模索する少年の成長を、少年期、ティーンエイジャー期、成人期の3つの時代構成で描いたヒューマンドラマ。マイアミの貧困地域で暮らす内気な少年シャロンは、学校では「チビ」と呼ばれていじめられ、家庭では麻薬常習者の母親ポーラから育児放棄されていた。そんなシャロンに優しく接してくれるのは、近所に住む麻薬ディーラーのホアン夫妻と、唯一の男友達であるケビンだけ。やがてシャロンは、ケビンに対して友情以上の思いを抱くようになるが、自分が暮らすコミュニティではこの感情が決して受け入れてもらえないことに気づき、誰にも思いを打ち明けられずにいた。そんな中、ある事件が起こり……。

(映画.comより)

 

 

1 監督について

 

カエル「今回の監督はバリー・ジェンキンスだけど……日本人には馴染みがないんじゃないかな?」

主「自分がそんなに映画に詳しくないのもあるけれど、日本で公開される長編映画はこれが初めてみたいだね。

 そもそも、長編映画自体がこれが2本目で……それで作品賞を獲得するんだから、たいしたものだわ。

 ラ・ラ・ランドのチャゼル監督ほどではないけれど、まだ37歳と若い監督なんだよね。その意味ではチャゼルと合わせて、映画界の新しい波を象徴したかったということもあるんじゃないかな?」

 

カエル「ニューヨークタイムスも『見るべき20人の監督』の中に選んでいるしね」

主「これで一気に伸びると思うけれど……日本人には難しいかもね」

 

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ジェンキンス監督。かっこいい!

 

 

役者について

 

カエル「今作は役者についても語りづらいんだよね……

主「作品説明にもあるけれど、本作は少年期、青年期、成人期の3世代にわたってお話が続く。その1世代ごとに役者は当然変わるから、誰かがすごいということは語りづらい映画でもあるんだよねぇ……」

 

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アカデミー賞にノミネートされた母親役のナオミ・ハリス

(C)2016 A24 Distribution, LLC 

 

カエル「アカデミー賞ノミネートには助演女優賞にナオミ・ハリス、では助演男優賞にマハーシャラ・アリが受賞したけれど……」

主「う〜ん……語りすぎるとネタバレになるけれど、確かに素晴らしい。素晴らしいけれど、結構独特な映画で……

 こう、如何にも助演賞だ! というものではないんだよね。これが本作を語ることの難しさであり、トンデモなさでもあるんだけど……」

カエル「それも実際に見て欲しいね。

 え? って目が点になることまちがいないから」

 

 

 

 

2 なぜこの映画がアカデミー賞作品賞か?

 

カエル「じゃあ、なんでこの映画がアカデミー賞作品賞に輝いたのか? というお話だけど……まずさ、あのラ・ラ・ランドと間違えました、というハプニングはあったけれど、それほどまでにラ・ラ・ランドが有力だったということだよね。

 実際、ラ・ラ・ランドとムーンライトの2択という見方も多かったし

主「ラ・ラ・ランドは『映画について語った映画』ということは感想記事でも批評記事でも語っている。それは確かに素晴らしいけれど、やっぱり『現実を語った映画』ではないんだよ。

 そしてムーンライトは『現実を語った映画』なんだということが大きい。

 実は結構重いテーマを含んだ作品なんだけど、それって監督の実話も大きく取り入れているんだよね」

 

カエル「麻薬とか、黒人社会の闇なんかも感じさせるよね……」

主「その意味では『映画の意味』ということを問われる映画でもあるし、アカデミー賞だったということでもある。

 楽しいよ、ハリウッドは夢の都だよ、という作品であった『ラ・ラ・ランド』はやっぱり夢の世界を描いて、現実を……描いていないとまでは言わないけれど、やっぱり弱いよねぇ。

 その点、これはハリウッドが評価しやすい映画でもある。それこそ昨年の『スポットライト 世紀のスクープ』も同じようなもので、やはり現実にあったこと、アメリカの闇を描いたということはそれだけで評価が高くなる」

 

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助演男優賞を獲得したマハシャーラ・ハリ

(C)2016 A24 Distribution, LLC

 

 

政治的な見方

 

カエル「やっぱりこれはあるよねぇ……」

主「投票形式だから、偶然といえば偶然だけど、神の見えざる手というか、バランス感覚は素晴らしいよね。

 今回もラ・ラ・ランドを監督賞、ムーンライトを作品賞にしたことは、すごく健全なメッセージになっているよ

 

カエル「今回は色々あったからね。それこそトランプに対しての批判もあるし、黒人が締め出されたという疑念もあった。ボイコットもあったしね。

 ゴールデングローブ賞のOP映像を見たけれどさ、そこでも『黒人もいるよ』っていうセリフもあるわけじゃない? それだけ大きな話題ってことなんだろうね」

主「日本だったら『外国人(白人、黒人)もいるよ!』なんて絶対言わないからなぁ。それだけ閉鎖的だということもできるけれどね」

 

カエル「やっぱり、そこは読めちゃうよね」

主「芥川賞、直木賞もそうだし、レコード大賞、日本アカデミー賞も含めて、どの業界も賞レースというものは何らかの意図が必ずと言っていいほどあるものなんだよ。

 特にアカデミー賞って勘違いしている人も多いけれど『世界で1番素晴らしい作品に贈る賞』では必ずしもないからね。

 アカデミー賞はアメリカ人がアメリカの中の基準で、最もハリウッドのメッセージとして素晴らしいと思う作品』に贈る賞と言ってもいい。だから当然のように政治的な思惑は見えてくるし、それが賞レースに影響を与えることはあるよって話だ」

 

 

 

 

3 感想

 

カエル「じゃあ、簡単に感想を書いていくけれど……」

主「これを日本で公開しようというのは、すごく勇気があると思う。

 自分は短評でこう言うtweetをしているけれど……

 

 

 いい作品だよ? だけど、やっぱりお客さんがドバドバと入るような映画かというと、それは違うよなぁっていう印象だね」

 

カエル「それってどういうこと?」

主「アカデミー賞の審査員が好きそうなテーマがたくさん入っているんだよ。例えば黒人問題とか、貧困、いじめ、ドラッグ……他にも色々とある。

 それはすごく重要なテーマなんだけれど……だけどさ、日本人に『黒人問題』って言われてもピンとこないじゃない? 向こうではヘイトスピーチとか以上に注目を集めるかもしれないけれど、日本って基本的に黒人問題に関心がないし」

カエル「映画解説者の中井圭も『日本で黒人はあまり注目されていない』って語っていたしね」

 

主「その意味で、評価された部分が日本人に伝わりやすいかというと、必ずしもそうではない。だけど、見る価値がないか? というと、そんなことも当然ない。

 むしろ、個人的にはこの作品が作品賞を受賞したことは納得なんだよね

  

  

blog.monogatarukame.net

 

 

日本と真逆の作品

 

カエル「日本は何でもかんでもセリフで説明して、過剰なドラマを作って、その割に役者ばかりに何も面白みのない作品っていうのが結構多いよね」

主「テレビも映画について語るときは『役者の誰それの演技が……』ばかりでしょ? もっと深いテーマを語ることができないし、語ることがない映画ばかりなんだよ。

 ヨイショしなければいけないことも理解できるけれど、結局何もヨイショするところがないということもできるわけだ」

 

カエル「観客もわかりやすいよね。『カッコイイ!』とか『カワイイ!』って直接的な感情だから、考える必要もないし」

主「それは映画には大切な要素だけど、そこにばかり注目している節がある。

 だけど、本作はそれとは全く違くて……考えることを要求してくる映画なんだよね

カエル「え? じゃあ小難しいの?」

 

主「いや、お話自体はそこまで難しくない。日本人でもわかりやすい部分もあるし、普遍的なものを描いた映画でもある。黒人社会云々はともかく、いじめとかは万国共通なんだなぁって思いもあるし。

 なんというか……ドラマで1番重要な盛り上がりどころとか、あとは説明台詞、派手な場面を極力カットしている。だからすごく上品な映画に仕上がっているんだよ。

 普段見る映画がトンコツラーメンだとしたら、この映画はスッキリと染み渡る塩ラーメンって感じかな」

 

カエル「……その例えが正しいのかはわからないけれどね」

主「今回アカデミー賞でも『脚色賞』を受賞しているでしょう? これがすごく象徴していて……脚本と脚色の違いって、簡単に言えば『元になる台本、台詞、設計図の良さ』を脚本とすれば『アレンジ、台詞やシーンの再編集』が脚色になるわけだ。

 全く同じ原作であっても、脚色が変わると全然ちがう映画になる。カットの仕方が変わるんだよね。これは明確な区別がつけづらいけれど……本作は脚色賞を受賞している。

 これはなぜかというと、やっぱり『引き算のうまさ』が評価されたからだろう。余計な要素を削っていって、それでも残るテーマ、メッセージを鮮やかに生み出した。

 だから本作は評価が高いわけだ」

 

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瞳は語る。台詞よりも雄弁に……

(C)2016 A24 Distribution, LLC

 

 

見どころ

 

カエル「それって結構映画を見慣れない人には難しいことかもね」

主「そうだね。

 個人的な思いだけど、多くの人って『映画を観る』ことはしていても『映画を読む』ことはしていないという印象なんだよ。それは自分もそうだったから、気持ちはわかるけれど。

 『あー面白かった!』だけではなくて、なぜ面白いのか、どこが面白いのか、その作品のテーマということを『読む』ことが大事なわけ。描かれた物語などを観るだけでなく『描かれなかったものを想像する』ということが、読むという言葉の意味だと思う。よく小説でも『行間を読む』というでしょ? 大事なことは描かれないことも多いわけだよ。

 そして、本作はその『読む』という行為がすごく重要視されている。だから、見終わった直後よりも、1日後とかに感動が押し寄せてきて、ある瞬間に意味がわかる作品だと思う。

 そうなると繰り返し見ても耐えられる『強い映画』になること間違いなしだよ

 

カエル「ほうほう……なるほどなるほど」

主「あと見て欲しいのは、やっぱり役者の演技。

 今作は派手な演技というのは少ないけれど……その意味では派手な演技や演出が多かったラ・ラ・ランドと本当に真逆で……まあ、作品テイストが全く違うというのもあるんだけど。

 その姿、存在だけでなんとなくそれまでの人生だとか、抱えている思いというものが伝わってるんだよね。あとはやっぱり瞳の演技。

 特に青年期と成人期の境目にあたるシーンの瞳というのは、絶賛だよ!

 この瞳だけでこの映画は何万の言葉よりも雄弁に物事を語っている」

 

カエル「背中で語る、みたいなものか」

主「そうだね。その引き算の演技にすごく引き込まれていくから……」

 

 

ムーンライト

ムーンライト

 

 

 

 

追記 本作に対する違和感
 

主「さて、じゃあ公開されたからここから本音トークだけど……」

カエル「この作品はいくつものたくさんのテーマが含まれているよね。簡単にざっと挙げていくと……

 

 同性愛問題

 貧困問題

 ドラッグ問題

 いじめ問題

 

 少なくともこのあたりはあった」

 

主「もちろん、今作が監督などの実話を基にしているのはわかるし……これが現実だということもわかる。

 だけど……自分はこれを見て『ああ、賞レース向きだよなぁ』って冷めてしまった部分もあってさ。これもアカデミー賞候補になるという事前情報があって鑑賞したからかもしれないけれどさ」

カエル「実際に起こったことだし、確かにそれらの問題に対する見方が変わるだけどね」

主「確かにいい作品なんだけど、なんかちょっと詰め込みかな? という思いがあって。もっと素直に見ると『ああ、いい作品だなぁ』と思うかもしれないけれど、ここ最近似たように想像できる映画が……『タレンタイム』とか『静かなる叫び』の方が好きかな?」

 

 

 

最後に

 

カエル「今回は試写会ということもあって、中々語りづらい部分もあったけれど……」

主「派手な役者さんもいなければ、監督も有名人でもない。日本人に馴染みのないテーマ……これだけ揃ったから、日本でヒットする要素はほとんどないよ。

 でもさ、こういう映画がヒットしてほしいよね。

 これも中井圭が語っていたけれど、日本ではあまりにも公開が遅すぎる問題があるけれど……それはやはり洋画がなかなかヒットしないからということもある。特にこういったアクションでもない作品は特に倦厭されてしまう部分がある。

 だけど、個人的にはこういう映画こそが『映画を観る』ということの意味だと思うけれどねぇ」

 

カエル「というわけで試写会の感想でした」