カエルくん(以下カエル)
「今回は漫画原作映画である『坂道のアポロン』について語っていきます!」
主
「原作もアニメ版も鑑賞済みの意見になるので悪しからず」
カエル「アポロン、いい作品だよねぇ。
青春の香りが漂うし、音楽もとてもよくてこの作品からジャズに入門したという人もいるんじゃないかな?」
主「実はアニメとジャズって最近ジワジワきているジャンルでもあって、ヨーロッパのプレイヤーであるラスマス・フェイバーが『プラチナジャズ』というシリーズを発表しているけれど、昔の作品から今の……いわゆるオタクアニメに至るまでカバーしているけれど、これが素晴らしい楽曲なんだよね。
ジャズは日本でも流行っているとは言い難いけれど、でも根強い人気があるジャンルでもあるし……それをどのように映画とミックスさせるのか、とても楽しみな作品だな」
カエル「では、映画版『坂道のアポロン』の感想にいってみましょう!」
作品紹介・あらすじ
小玉ユキの原作漫画を実写映画化。2012年にはノイタミナでテレビアニメ化も果たした人気作でもある。
監督は『青空エール』『先生、、、好きになってもいいですか?』など人気青春漫画を手がけている三木孝浩。脚本は『ソラニン』にて三木とタッグを組んだこともある高橋泉が担当する。
知念侑李、中川大志、小松菜奈の若い役者に加えてディーンフジオカ、真野恵里菜などが物語を魅力的に彩る。
長崎県佐世保に引っ越してきた薫は学校の雰囲気に馴染めずおり、屋上に向かったところ学校で1番の悪童として恐れられる千太郎と出会う。喧嘩っ早くていつもトラブルを巻き起こす千太郎だったが、彼にはドラムでジャズを奏でるという趣味があった。
千太郎の幼馴染でありクラスメイトの律子に誘われてレコード店の地下にある部屋にてセッションを始めて行う薫。その瞬間に彼の鬱屈した日々を吹き飛ばすような友情と青春の物語が幕を開けた……
1 感想
カエル「では、いつものようにTwitterでの短評からスタート!」
#坂道のアポロン
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年3月10日
まぁ、こんなものですかねぇ
物語は原作、音楽はアニメの勝利も大胆な構成によってある程度まとまってはいる
ただもっとせめて欲しかったなぁ
不満は多々あるけれど原作9巻をうまく再構成したのでは?
主「まず、自分は原作もアニメ版も読んでいるのでどうしても比較することになってしまうけれど、原作では9巻プラスエピローグも含めて全10巻という結構長い話でもある。それを2時間にまとめ、しかもそれなりに上手く再構成している手腕に関しては賞賛です。
当たり前だけれど、原作、アニメよりも尺が短い分、どのように物語を構築するのか? というのは難しい部分があって、それは上手くできていたと思う」
カエル「短評では『物語は原作の勝利』と書いているけれど全く条件が違うからね」
主「その中でまとめてはきたけれど……逆に本作の持つ魅力が薄れてしまったという印象もある。簡単に言えば80点狙いのまとまった作品を創り上げようとしているという印象かな。
で、これは鉄則でもあるけれど、80点を狙った作品が80点を超えることはほとんどない。これは勉強などでもそうだと思うけれど、100点を取ろうとすれば120点を取るくらいの努力や戦略を練らないといけない。
80点を狙って100点になることはありえないし、大体は60〜70点取れると万歳だろう」
カエル「もちろん採点表で簡単に決まるわけではないし、観客にもよると思うけれど……」
主「それでいうと本作は『主役』が誰だかボヤけてしまった」
本作の主役は?
カエル「……え? 本作の主役って誰が見ても西見薫でしょ?」
主「そういうことではなくて、結局何が描きたいのか? ということなんだよね。
アポロンの場合友情、恋愛の三角関係もあり、青春時代特有の悩みもある、さらに音楽もある。どこをピックアップして何をメインに見せたいのか? ということにより注目する必要があると思う。
自分はこの映画の『主役』は音楽だと思う。
つまり、魅力的なジャズだ」
カエル「まあ、ジャズの映画だし音楽が流れるというのは映画の魅力の1つでもあるけれど……」
主「例えば『セッション』や『ラ・ラ・ランド』のデミアン・チャゼルの作品を観てもメインは音楽なんだよ。音楽と絵だけで登場人物の気持ちを表現してしまい、問答無用で観客を……ねじ伏せる映画になっている。
それでいうと本作はセッションのシーンでアテフリではなく、実際に演奏しているということだけれど、それがメインの感動を呼ぶかというと……期待したほどではなかった」
カエル「いうほど悪い出来だったかなぁ?」
主「いや、悪くないよ。
上手い下手はわからないけれど、映画として面白く観れるシーンであるんだよ。
ただ、後もう1つが欲しかったなぁ……という印象。
音楽が主役の映画ならばもっと強く主張してこないと!
結局恋愛劇にしろ、友情劇にしろ、青春期の悩みにしろ後1歩が足りていなくて、単なる混ぜ物になってしまった印象。
何か1つ飛び抜けた主役がいたら……大きく変わって名作になれたはずだと思うけれどね」
本作の魅力的なシーンの1つであるジャズのセッションは全て演者が実際に演奏しているようです
原作とアニメ版について
カエル「では、原作について少しだけ語っておきましょうか」
主「もちろん漫画では音楽が鳴らないけれど、この作品の見どころってどこかというと……自分は『思春期特有の悩み』だと思う。
薫と千の目線で物語は語られるけれど、この2人は正反対のようでいて結構似ているんだよね。もちろん、境遇もそうだし、ジャズが好きという気持ちもそうだ。
でも1番にているのは『自分よりも他者を優先してしまう』部分にある」
カエル「自分よりも他者を?」
主「相手のことを思いやるがあまり、逆にその相手を傷つけてしまう……自己評価が低く、どこかで自分が幸せになれないと考えている節がある。
この2人は自分が幸せになるために相手を出し抜いたり、ズルをしようという発想がない。むしろ、そうなるくらいならば一歩引いて自分から相手に嫌われようとするくらいだ。
その不器用なぶつかり合いを経ながら、友情や愛情が深まっていく様子……それがとても魅力的な物語だ」
カエル「ふむふむ……ではアニメ版については?」
主「こちらも9巻の原作を1クールで消化することが難しく、かなり全体の物語としてはダイジェスト感もあって走った印象もあるけれど……何と言っても渡辺信一郎監督と菅野よう子の作曲の『カウボーイ・ビバップ』コンビですよ!
物語自体はケチはつくけれど、見せるべきシーン……特に音楽シーンではきっちりと決めてくる!
特に文化祭のセッションは近年のレベルが高いアニメの演奏シーンと比べても決して劣らない名シーンであり、すべての感情があの瞬間音と映像に載っていた。他にも『My Favorite Things』を歌うシーンでは南里侑香が……アニメ好きならば誰もが知るし、ミュージカルに出演するほど歌の上手い人があえてちょっとたどたどしく歌うなどして工夫に満ちた作品だった。
音楽とそれを魅せる演出については文句なしの名作だよね」
カエル「そんな作品が比較対象になるとなると、ちょっと映画版は分が悪いというのもあるのかもねぇ」
主「映画は映画なりの味を出せればいいと思うけれどね」
役者について
カエル「では、役者についてはどうだった?」
主「う〜ん……上手い下手以前の問題としてさ、漫画原作あるあるかもしれないけれど『キャラクター』から脱することができていないんだよね。生身の人間が演じているはずなのに『キャラクター』から『人間』になるまでになっていない。
なんというか、性格や言動などもあらかじめ作られた通りで……それがどうにも面白いとは言い難い作品になってしまった」
カエル「今回は若い役者が多かったこともあるのかもしれないけれどね。ただ全体的な美術などは1960年代っぽかったと思うけれど」
主「知念侑李、中川大志、小松菜奈に関しては文句はそこまでない。
もっと人間味が出ないかなぁ? とは思ったけれど……台本が見えている芝居になってしまったのが残念だけれど、それはまあ仕方ないとして……ディーン・フジオカも雰囲気があっていて良かったよ。
問題は真野恵里菜かなぁ」
カエル「あれ? 結構真野ちゃん好きなんじゃなかったっけ?」
主「好きだけれど、今回は百合香の役にあっていたとはどうしても思えない。
百合香って他のキャラクターよりも少し年上で、大人の魅力が漂う美少女というより美女なんだよね。アニメ版は大人の魅力たっぷりで遠藤綾が妖艶に演じていたし。
でもさ、この登場人物たちが高校生には見えないというのはしょうがないとして……実際には大学生の年齢だしね。
上記の3人と並んだ時に、1番若く見えるのが真野恵里菜なんだよ!」
カエル「あのロリフェイスはすごいよね……もう20代も半ばなのに、多分高校生の制服を着ても何も違和感なさそうだし……」
主「他の3人が少し大人びているのに対して、ロリフェイスだから先輩感があまりなかったなぁ……ここはアレンジが大胆なところもあったし、百合香は難しい役でもあるから仕方ない部分もあるけれど、ここが大きな違和感となってしまったかなぁ」
以下ネタバレあり
2 褒めるポイントもたくさん
カエル「ではここからはより具体的に物語について語っていくけれど……でも上記であれだけ色々言ったけれど、でも褒めるべきポイントもあるんだよね?」
主「もちろん!
その1つがOPでさ、自分はいつも言うけれど映画におけるOPって結構重要だと思っている。
昔の……それこそ白黒時代の映画って大体OPがあるじゃない? 監督や役者の名前が出てくる程度だけれど、それは無駄なように見えて観客を物語の世界に引き込むのに有効な手段でもある。
本作の最大の魅力は音楽であり、その力を最大限に発揮したOPでもあるんだよね」
カエル「『Moanin'』が流れながら当時の長崎、佐世保の様子がわかるけれど、ここはいいよねぇ。特にMoanin'ってこの作品を象徴する曲であり、あの特徴的なイントロからも一気に引きこまれるし、楽しい! って気持ちになるよね」
主「思わず体を揺らしたくなる曲でもあるからね。
それから楽曲の演奏を実際に演者たちが鳴らしているようだけれど、ここは確かに違和感も何もなくてかなり良かった。
正直、音楽が重要な作品なのに役者が全く弾いていないことが観客にも知られてしまうような作品も多かったから……ここをしっかりと挑んだだけでも高く評価できるんじゃないかな?
できればあと一歩のインパクトが欲しかったというのは前述したことでもあるけれど、でもここまで力を入れたことはやはり高く評価するよね」
カエル「中盤の鍵となるシーンでは明らかに『セッション』を意識している部分もあって結構挑戦的だったし、余計なモノローグをガンガン入れることもなく音楽と映像の力を信じていたしね。
『2人の王子様が喧嘩しながら戻ってきたみたい』という名言はなかったけれど……でもそれはそれで正解だったよね。
それと小松菜奈とかも元々美人さんではあるけれど、ちょっと当時のように芋っぽい部分があったりして……あまり綺麗すぎないのがすごく良かったなぁ」
主「薫と千はあの学校の異物でさ、薫の場合は綺麗すぎること、千の場合はその特徴的なルックスで『他の生徒とはぜんぜん違う』ということをアピールすることができていた。
佐世保の海なども魅力的に撮っていたし、いい描写もある映画だよ」
この千のドラムも良かったなぁ
一方で思うところとして
カエル「ではここでちょっと欠点を上げていくけれど……」
主「前述したようにキャラクターから脱することができていないんだけれど、この原因の1つとして『葛藤の少なさ』が挙げられる。
アポロンの薫ってちょっと面倒くさい奴なんだけれど、これには彼の複雑な事情と感情が入り混じるからなんだよね。
ここを1つ描写をミスすると、単なる嫌な奴になりかねない。
千太郎にしてもそうでさ、彼は乱暴者で勉強は苦手だけれどバカじゃない。むしろ彼はとても繊細であり、人の気持ちを考えて優先してしまう人でもある。
そのすれ違いってしまう繊細な描写が少なくなってしまったのが残念だなぁ」
カエル「尺の短さもあるけれど……千太郎って百合香のことを想ってはいるけれど、でもその後のこともある程度納得しているんだよね……」
主「それでいうと、淳兄と百合香もあのシーンでああいうことは絶対にしない人です!
もちろん単純なショックを描きたかったのはわかるけれど、その描写によって3人の魅力が削がれてしまったのが大きい。
あとは……アポロンって基本的に嫌な人がいないんだよね」
カエル「せいぜい西見家のおばさんと娘さんくらいかなぁ? 娘さんに関しては年相応という印象もあるけれどね」
主「実際には千太郎の父親もすごくいい人だし、松岡だっておちゃらけているようで複雑な事情を抱える生徒である。
もちろん尺の都合もあるけれどさ……その中で人間性や人生が見えてくるように演出されたら、とても素晴らしい名作になれると思うけれどね。
まあ……無茶振りなのかなぁ」
とても可愛いけれどロリータフェイスが気になる真野恵里菜……
ディーンフジオカがちゃんとした大人に味が出ているからこそ、余計にそうおもう?
大きな不満点
カエル「これはちょっと大きなネタバレになりそうだけれど……1番の不満点はどこなの?」
主「小松菜奈歌えよ!
そこは2人の王子様に囲まれて、再び戻ってきた描写でしょ?
ということはここで3人が歌わないと映画の演出として戻ってきた感が出てこないと思うけれどね」
カエル「他の2人は実際に弾いて頑張っているのに、ここで歌わないのはちょっとねぇ……歌がNGなのかもしれないけれど……」
主「そんなの知るか! って話でさ。
音楽映画だから最後は全てを音楽で表現してほしい。
そうなると、音楽の力を最大限発揮するならば、あそこで歌うしかないはずなんだよ。だけれど、それができなかった。これが本作最大の欠点。
あそこで『My Favorite Things』が一通り流れて……さらに欲をいえばMoaninやら他の曲も演奏して、何なら最後に淳兄や親父さんも入れてミュージカル風にしても良かったと思うんだよね」
カエル「いや、それはやりすぎでしょ」
主「でもさ、少なくとも『My Favorite Things』は歌って欲しかった。そこで3人の……あの頃の絆は永遠のものだよというアピールをして、小田和正にいって欲しかった!
それがなかったのが最大の不満点かなぁ……」
最後に
カエル「では最後になりますが……どうしても原作とアニメ版を鑑賞済みのために比較しながら好き放題語ってしまったね」
主「全部の面で優等生だなぁと思うよ。突出したもの美点も欠点も作らず、歪みの少ない誰でも楽しめる映画を目指している、まさしく大作邦画らしい作品でもある。
でもさ、もっと歪みがあってもいいと思うんだよね……うまく描こうとしすぎて、却って魅力のない物語になっているような気がするよ」
カエル「八方美人が1番つまらないみたいな話だね」
主「原作、アニメとそれぞれ歪みもありながらも魅力的に『これがやりたいんだ!』という思いが伝わって来る作品だっただけに、その味が薄い印象だったのが残念。でも悪い作品じゃないと思うけれどね」
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