今回は『100日後に死ぬワニ』のアニメ映画版である『100日間生きたワニ』の感想レビューになります
すでに大喜利が始まっている作品だね
カエルくん(以下カエル)
「まあ、みんな色々と言いたくなる気持ちはわかるけれど、ちゃんと観た上でレビューして欲しいなぁ、というのが、1アニメ映画ファンとしての意見ですね」
主
「その点で言えば、うちは面白おかしく語ろうということはあまりないので、ご了承ください」
カエル「それでは、早速記事のスタートです!」
感想
それでは、Twitterの短評からスタートです!
#100日間生きたワニ
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2021年7月9日
普通の凡作
アニメの持つ映像的な魅力に乏しくスカスカ感が目立ってしまった
最初の3分くらいかなぁ…予告がここを中心にしたのも納得
演技も情報量が少なく物語も弱い、というか100ワニの映像化で1番に思いつく内容か
ただボロクソ罵るほどでもなく明日には忘れてしまうタイプ pic.twitter.com/oiCBcoGSNW
普通の駄作寄りの凡作かなぁ
カエル「色々と言われている作品ではありますが、とりあえず、先入観無視は無理ですけれど、アニメ映画をたくさん観ている身としては、そこまでボロクソにいうほど酷いものではなかった……というか、探せばもっと下はいくらでもあるよ、というレベルではありました。
ただ150館クラスで公開されているし、悪い意味で目立ってしまったから、遊ぶのは問題があるとしても、批評として叩かれるのは仕方ないのかも……」
主「アニメ映画に何を求めるのか、という点だよね。
あくまでも”映画”であることに拘るのであれば、やっぱり一定ラインの作画力・あるいはストーリーラインは求められるだろう。
そして、この映画はそこをクリアすることができていない。
会話シーンが多いものの、片方は後ろ向きで口元を見せない……よく言えば作画枚数を減らす工夫、悪く言えば手抜きがあまりにも多すぎた。
ツイッター連載の終了が昨年3月、そこから約1年で映画公開ならば、急ピッチに進めているだろう。そして、そこまで人数を割かず、既存の力のあるスタジオも使わないで可能になるクオリティは、ここが限界だと思う。
その意味では、よく頑張った。
テレビアニメにだったら、ちょいちょい見るレベルではあるんだけれどね。だけれど、劇場の大きなスクリーンでこのレベルっていうことは……非難は免れない気がする」
映画の特殊性でもあるけれど、誰もが認める大傑作も、とてもつまらない作品もどちらも1900円なんだよね
同じ土俵に立ってしまうから……この映画を観るならばもっといい映画・アニメがたくさんあるよ、とは言ってしまうかな
カエル「なんか、こう、よかった面とかはないの?」
主「色彩は良かったんじゃない?
原作を尊重した絵本のような塗りであり、繊細なものではないけれど鮮やかでとても綺麗だった。特に春の桜のシーンとかは綺麗だなって思った。
この映画も徹頭徹尾ダメなわけではなくて、最初の3分間かなぁ、予告でも使われている春の桜のシーン、つまりワニくんが死んでしまうシーンだけれど、そこは良かったんだよ。といっても、絶賛するほどではないけれど、普通に見れる。全てが悪いわけじゃない。
あとは音楽も少ないけれど、楽曲として気が抜けるような、悪いものではなかった。
劇場でかかる劇伴としては、悪くない。
だから、問題は映像表現(特に動き)と物語、ということになるのかもしれないね」
ふくだみゆき監督について
今作はふくだみゆき・上田信一郎共同監督・脚本の作品です
特にふくだ作品として見ていこうと思うんだよね
カエル「あれ、上田監督は?」
主「……自分は上田監督って苦手なタイプなんだけれど、今回に関してはプロデューサー的な役割だと思うんだよね。自分で企画を持っていったという話だけれどさ、アニメをやったことない人が、何を監督したのかがよくわからないんだよ。動きを見ているとプロデューサーに近いし、監督よりも、Pの方が向いていると思う。
おそらくアニメ関連は『こんぷれっくす×コンプレックス』を制作したこともある、ふくだ監督の采配が大きいのだろうな、と思っている」
『こんぷれっくす×コンプレックス』は中学生の男女が脇毛を起点として、交流を深めていく青春・恋愛ドラマです
相性はあるだろうけれど、賞を獲得したこともあってアート寄りのアニメーションの分野では結構高く評価されていたりするんだよね
カエル「この作品でふくだ監督は監督・脚本・アニメを担当しています。
ちなみに編集・プロデューサーは上田信一郎であり、やっぱりここでも登場してくるというね。ほんとはP気質なんじゃないかなぁ」
主「この作品、アニメーションの絵の作りに関しては何も面白くないよ。
全く動かないし、自分は半分無気味の谷に入っているんじゃないかなぁ……と思う。半分個人制作のような、小規模アニメーションだから許されるけれど、大規模な商業アニメだったら、徹底的にブーイングされるだろう。
だけれど、脚本を高く評価する声はとてもよくわかる。
脇毛が生えるという現象を成長の過程と捉え、脇毛が濃い=大人の証と受け取る。そして人がコンプレックスとしている部分が、他の人には魅力であることを描いているわけだ。
好みではないけれど、物語の切り口や語り口はとてもいいね。
あとは声優の演技も……声優声優しているわけではないけれど、等身大の中学生らしさがあって、アニメーションというよりは、ラジオドラマとして聞きたい作品だった」
ふむふむ……それが100ワニにも絡んでくると?
多分、全く同じなんじゃないかなぁ
主「本来、100ワニ……というか、ふくだ監督の持ち味は脚本なんだよ。
アニメ的な映像表現が飛び抜けている人じゃない。だけれど、独自の切り口ができる人。だから、今作のような商業アニメの監督をしても、映像的な満足感を得ることは難しい。原作つきで旦那と共同監督とはいえ、その意味ではコンプレックスの時よりも脚本では後退している。
確かにアニメは動きが全てではない。
だけれど、”動かない作品を魅せる”ということは、とても難しい。
それだけのレイアウトの緻密さなどが求められるけれど、その力は今作にはなかったし、そこに拘る時間もスタッフもいなかったのではないだろうか」
日常をアニメで描くことの難しさ
じゃあ、物語はいいということ?
……いや、よくはないと思うよ
カエル「後半は映画オリジナルストーリーだったけれど、それが斬新な切り口だったかというとそうではないよね。
多分、100ワニを映画化するにあたって、1番最初に思いつくやり方というか……」
主「欠点を言ってしまうと、100ワニに関してはそもそも映画に向かないよね。
少し前まで”日常系アニメ”って言われていて、アニメで日常を描くことが可能なように思われていた。だけれど、あれって普通の日常を描いていない。あれはアニメキャラの異常とも言える濃密な日常を描く作品なんだよ。
本当の日常をアニメで描こうとしたら、それが一番難しい。
よく言われることではあるけれど、日常芝居がアニメーターも1番苦労するって話でさ……派手なアクションなどができない分、しっかりと違和感なく魅了できる動きを作るのも、それだけのレイアウトを作るのも難しいんだよね」
この映画は”日常”を描けていない、と
描いてはいるんだけれど、それが観客に伝わらない
主「原作の100ワニの記事でも書いたけれど、あの漫画の何が凄かったかって『100日間連載を続ける』ってことなんだよ。そしてそのワニの日常と、読者の日常をリンクさせる。Twitterという発表の場にとても合致した作品だったわけだ。
そのあと100ワニ亜種のような作品は山ほど生まれたけれどさ、完結したのはどれだけあるよ?
しかも、ちゃんと毎日更新した人はどれだけいる?
その試みが優れているわけで、物語やキャラクターが優れていたわけじゃない。
100ワニのその後の失敗の1つが、キャラクターにそこまで惹かれていた人は少なかったということじゃないかな」
そして、その日常が映画サイズには合っていないと
映画で日常を描くって、1番難しくてできないことだと思うんだよね
カエル「普通の物語って日常からの脱却、あるいは特別な事件が起こるものだよね。
1時間、2時間で平凡な日常を見せるって……実写だとジム・ジャームッシュとかがやっているけれど、アニメだと誰がやるだろう?」
主「多分、退屈な日常を描くのに1番成功したのは押井守の『スカイ・クロラ』だけれど、もう規模感も作画クオリティも比較にならないしね。
日常系アニメの映画版だって、どこかに旅行に行ったり、あるいはコメディだったりと演出している。
”日常の中の小さな幸福”を観客と共有する。
そんな難しいことを本気で描くならば、もっと練り込まないと無理。
そしてそれを描くには工夫も何もかも足りず……作画・物語ともにただのスカスカの作品になってしまったということだな」
声優陣について
声優についてはどうだったの?
悪かったと思うよ
カエル「……あら、役者を集めた声優陣が、そこまで一刀両断とは」
主「だからさ、ここも難しいんだよ。
さっきも言ったようにこの映画で求められているのは”日常的な演技”なんだよ。
で、役者はそれに答えようとしているけれど、すでに演技練習などをこなしている時点で”日常・普通のひと”とは大きくかけ離れてしまっているわけだよね。
そして、本職声優ばりのキャラクター演技もしていない。だから、物語そのものも、キャラクターも映像もスカスカなのに、声の演技もチグハグでスカスカになった」
カエル「さっき挙げた『こんぷれっくす×コンプレックス』のように、等身大でリアルな中学生の演技ならば、また違っただろうけれど……この映画はワニとかの物語で、リアルなワニって何? ということになるよね」
主「だから、すんごい難しいバランスだよね。
日常を重視する演技を、特殊な訓練を受けている俳優たちにやらせて、しかもあてる対象はワニとかのキャラクターだっていうね。
自分はカエル役の山田裕貴は……これは褒め言葉だけれど『いいウザい演技』をしていたと思うんだよ。だけれど、これは彼だけキャラクターに近い演技をしていたからだとも思う。
じゃあ、その役者の日常感を増すためならば、映像や演出がもっと力を発揮するべきだけれど、それもない。
せめて音響監督が指導すべきだとも思うけれど、それもほとんどなくて……多分EDクレジットにもいなかったんじゃないかな?
役者も戸惑ったんじゃないかなぁ……というのは、自分の憶測だね」