物語る亀

ネタバレありの物語批評

題「夜は短し恋せよ男」(コメディ作品)

 お題「風、ドーナツ、メタボ」

 

 


「お前が……キューピット?」
 私がそう尋ねると、目の前で正座をしているメタボ体型の小さなおっさんは「ヘィ」と昭和の爆笑王のように頭に手を当てて小さく下げた。

 

 ことの始まりを説明しよう。
 まず、いつも通りの時間に朝に起床すると、窓の外が明るい気がしていたので思わず寝坊したかと時計を確認すると、むしろいつもよりも早いくらいだった。ではこの冬の、部屋の中にいても息が白く曇る寒い時期に、部屋を暖かくしてくれる唯一の熱源である太陽もまだまだ登っていないはずなのにもかかわらず、この昼間のような明るさは何だろうと思い、窓を開けてみる。
 私は少し期待していた。
 きっと、UFOか何かがそこにいて、未知との遭遇が待っているのではないかと。
 そう、頭が大きくて身長は小さな生物が外から私を覗き込み『ハロー?』と言ってくれることを。できればここで出てくる生物はなるべくグロテスクな方がいい。あまりにも美しい美女のような形だと、油断したところで首の後ろから大きな口がガバッと開き、一飲みされること間違い無い。

 

 

 さて、今これを読んでいる読者諸君はこのお話はSFのような展開になると期待しているだろう。何、ついにこの作者はSFに手を出して、少しでもつまらないお話を面白くするために、ああでもないこうでもないとそう豊富でもない映画知識をひけらかしながら、オマージュに溢れた小説を書き上げてさぞやご満悦だとお思いだろう。
 安心してほしい。
 この作者はいつもと同じである。ということはこの先決してSFのような展開になることはないし、新しい試みなど一切ない。いつものように長文にまみれた、どこかで読んだような文体をパクった、もとい借りたお話になるわけである。


 何が言いたいのか? つまり、私はこの瞬間にひどく寝ぼけており、何を考えているのか自分でもわからないということが言いたかったのである。決して作者と私の同一化を図り、メタ的な視点を取り入れることで笑いを起こすことができるのではないか? とかいう小賢しい実験的的精神は皆無であるということをここで誓うし、さらに言えばしんちゃんの最新作のように、いやいや面白いけれど夢の中ならなんでもありじゃない? しかも小さな女の子が亡くなった母親を思って泣くとか反則だろう! こんなの誰でも感動するわ! というような優秀で非常に面白い1作ではあるが、夢のお話というなんでもあり空間を使った物語を作り出すつもりはないことをここで約束したい。というか、そんなに優秀な物語にはならない。

 

 つまり、何が言いたいのか?
 この物語は現実である。
 そして、窓の外にはUFOはいない。ではその光は一体何だったのかというと、なんてことはない。
 太陽である。
 サンサンサン、太陽の~ひかり~なんて爽やかな3組が歌いそうなメロディが頭をよぎりながらも、今の私が置かれている状況を色々と整理してみる。どうやら時計はまだ起床時間前を示しているようだが、太陽はすっかり昇っているらしい。
 そこで私が現時点で考える可能性は2つ。

 

 私が時空を超える能力を手に入れたか。
 もしくは時計が止まっているかだ。


 賢明な読者諸君はお分かりかもしれないが、この手の場合長編小説を書こうとするならば時空を超える能力を手に入れた方がドラマに広がりが出る。だが、残念ながら本作は短編小説である。なるべくならば1万文字以内に収めたい、ということを考えればお話はなるべく小さくまとめた方がいい。
 そう、ならば導きだされる結論は1つ。
 時計が止まっているのだ。

 

 時計を手にとってひっくり返してみると、電池が抜かれていた。はて? 誰が電池を抜いたのだろう? と思い自分の所業を思い返してみるが、考えれば考えるほどにドツボにはまる。これで昨晩酒を飲みすぎて泥酔していたならばその理由もわかるのだが、下戸であり付き合いの酒も断り、1人孤独に暮らすことが人生の最大の目標である私を誘う友人や同僚などどこにもおらず、昨日の夜もいつものようにコンビニで買ったサラダチキンスモーク味を食べて、テレビもつけずに暖房器具もない部屋で布団に包まりながら寝たのである。ちなみに、これは実話である。どこからどこまでが実話か? それは知らない。


 ここまで2000字近くも使って全くお話が進んでいないのでさっさと状況説明をサラリとこなすと、私がその時計を弄っている間に押入れの中から物音がして、そこをあけてみるとさっきのおっさんが横になって寝ていたのである。私はそのおっさんを起こすと、寝ぼけながら「ここはどこ? 私は誰?」とこちらが聞きたいセリフと返してきたので「それはこちらが知りたい」とこれ以上ないくらいに懇切丁寧な回答をすると、おっさんはゆっくりとこちらを振り向きながら「……わしゃ、もうちょっと寝る」などとふざけたことを言ったので叩き起こして正座をさせている。
 そして話は冒頭に戻る。

 


「お前が……キューピット?」
 そう尋ねると「へえ」とおっさんは頭を掻いた。何? 冒頭と少し違う? そんな細かいことを気にする読者は今すぐに江川達也の元に行け。私が目指しているのは『作家性を感じない、売れる要素を詰め込んだ作品』なのである。そんな作品が嫌いなのであれば、今すぐこのページを読むのをやめるべきだごめん嘘だからこのまま読み進めて。

 

「キューピットって……何するの?」
「へえ、本当はあなたの縁を結びに来たんでさぁ」

 おっさんはそういうとどこからともなく弓矢を取り出すと、まるで宝箱から重要なアイテムを取り出した任天堂の緑の勇者のように掲げて見せた。私はその姿に対して『トゥルルトゥルルル~』なんてファンファーレを頭で響かせながら、このおっさんを訝しげに見つめる。
 なるほど、キューピットと言われると納得する部分もある。まず、この家に侵入できたのもその少し浅黒い背中に生えた、天使の羽をというにはあまりにも汚らしい体毛、もとい天使の羽のせいであろうし、その小さなメタボな体もキューピットのイメージに合致する。さらに言えば、一糸まとわぬ状態でフルチンを晒しているのだが、確かにそれもキューピットのイメージそのままだ。だが、その股の間に私よりも遥かに立派でズルムケで真っ黒い陰毛に覆われたナニがなければ、の話でもあることはもちろんわざわざ言うまでもないだろう。

 


 さて、では話を進めよう。
 ではここから自称キューピットの言葉を延々を書きつらねていきたい。

 

「まず、最初に言っておかなければいけないのは、この作品は決して盗用でもなければパクリでもないことでござんす。もちろん、何らかの類似する作品はあるかもしれませんが、それはあくまでもオマージュのレベルでしかないということであります。
 決してこの前の日曜日に再放送が始まった森見登美彦原作で、今度アニメ映画も制作する湯浅政明が監督を務めた『四畳半神話体系』の1話からインスピレーションを受けているのではない、ということは言っておきます。
 だから、神無月の一ヶ月に神々が出雲大社に集まって何をするのかというと、それは男女の縁を取りまとめるということもまたお馴染みの豆知識であり、決して盗用ではござらんし、神無月とこの作品の季節の設定がうまくかち合わないのも苦肉の策などということでもござらん。そんなナンセンスな小説など目指してなどおらんぞ」

 

 ということである。
 まとめると、どうやら私の結婚する相手がどうにも見つからないので、本人の希望を聞きに来たらしい。


「それは運命の赤い糸というものがあるのではないだろうか?」
 私が尋ねると、おっさんは小さく嘆息を吐きながら告げた。
「そりゃ、すべての人に赤い糸があると思っているかもしれませんがね、どう考えてもそんなわけがないでしょ? 世の中には似ても焼いても食えない人間がいるように、そんな糸なんて初めからついていない人間もいる。神様だって時には欠陥品を作るんでさ、それがあなた。
 誰も彼もが運命の赤い糸を辿って『君の名は! 君の名は!』なんてことにはならないんでさ。この世界の片隅で、結婚も戦争も体験することなく、何のドラマもなくひっそりとおっ死ぬ人生もあるわけ。それがあんた」

 

 中々結構な物言いではあるが、これまでの二十数年の人生を振り返ってみたところで何一つとしていい返すことができない自分に気がついた。私は学生時代にバンドを始めて校長がバク転する空想をして、好きな女の子と荒波を乗り越えるような男どもは軽蔑していたし、カルタに情熱を燃やす美少女たちのことは遠巻きに眺めることしかできなかった。だからと言っていじめに苦しむ加害者と被害者にも『君たち、もっと楽に生きた方がいいんじゃない?』と言って慰めてあげたかったが、お前に言われたくないと返されることを恐れて、僕は耳と目を閉じ口をつぐんだ人間になろうと考えた。世の中に不満があるなら自分を変えろ? 変えられたら何の苦労もないのである。

 

 そんなバカ話はいいとして、話を本題に戻そう。
「あんたにも弱いながら赤い糸はあったんだよ。だけど、あんた子供の頃にハサミをちょきちょきやってたろ? それで切っちまったんだ。だから、これからそれを付け直さなければいけない。そのためにおいらが来たんでさ!」
 そんな威勢のいいことを言うキューピットに初めて出会ったが、ここは仕方なしとばかりに彼を連れて外に飛び出すことにした。

 

 彼が言うには私の小指には赤い糸はあるらしい。ただ、それが誰にも繋がっていないから、結び直さなければいけないわけだ。その役割を果たすのがキューピットということだが……
「それじゃあ、やるがね。まず、ドーナツを買ってくるのじゃ」
 なんだその口調は?
「ちなみにわしはポンデリングが好きじゃ」
 金髪ロリ吸血鬼みたいなことを言いやがって。
「そっちではない、黒髮のドSでキュートな二刀流の刀使いの方じゃ」
 さっきからネタが安定していないし、だいたいこのネタがわかる人間がどれほどいるのか? 本歌取りにするにしても、もっとメジャーなところからパクる……もといアイディアを頂戴しなければどうしようもないだろう。

 

 そしてドーナツを買ってきた私の小指におっさんは空中で何回かドーナツを泳がせると、そのまま口に入れてしまった。いや、いいけれどね、ドーナツそんなに好きじゃないし。
「別にわしが食べたかったわけではない。古来よりドーナツの穴というのは深淵に繋がっておってな、このドーナツの大きさと穴の直径、円周率などが赤い糸修復に最も相応しいのじゃ。古くは真田の六文銭なども、穴に真田紐を通すじゃろう? あれはドーナツを参考にしておる」
 その時代にドーナツがあったのかは知らないが、きっとキューピットがいうならば間違いない。決してお題を消化しないといけないから無理に出しているわけではないとここに誓おう。

 

 さて、それではこの哀れな存在と縁を結ばれてしまう、未来の奥方様を探すとしよう。
「して、誰がいい?」
 そうだな……できれば広瀬すずか松岡茉優あたりならば文句がないんだが。
「そうじゃの。それで、誰がいい?」
 どうやらこのキューピットは人の話を聞いていないらしい。もしくは、聞いて上で黙殺しているのかどちらかである。きっとお似合いだと思うんだがな、私の想像の中では世界一の美少年と広瀬すずが沖縄の青い海に浮かぶ廃墟で2人でおり、それを眺める松岡茉優に「そんなんお遊びや」と言われながら、カエルのお面を被った妻夫木聡が隣に森山未來と微笑んでいる姿が目に浮かぶんだが。
「……その光景は結末を知ると色々と思うところがあるが、まあこの際置いておこう。あまりネタバレしても悪いからの」

 

 キャラクターが安定しないキューピットと2人で外に出歩くと、意中の人である明石さんをこの目は捉えた。もちろん声は坂本真綾で、黒髮の乙女である文学少女である。さらに言えば結構な良い大学を卒業しているインテリでもあるのだが、文学だけでなくモチグマンというぬいぐるみまで愛するというオタク的な面を持ち合わせている。
 つまり一言で表すとインテリ系オタク美女、黒髮ロングのストレートという世界中のオタクと童貞たちが憧れる存在である。新垣結衣が小躍りしたところでこの魅力に勝てるものではない。あれは草食系童貞の星野源に自分を重ね合わせるためのドラマであるのだ。

 

「もういいかの?」
 もちろんだとも。私はキューピットに告げた。
 彼女こそが、私の理想の女性であると。

 さて、ここで本来ならば明石さんとの馴れ初めであったり、実は偶然の出会いではなくて昔からの幼馴染であるがお互いに異性には疎くあまり話したことのない仲であり、今日は2年間必死に練りに練って偶然を装い声をかけ、少しずつ距離を詰め、そして初めての2人きりのお買い物に向かうという記念日なのにも関わらず、このキューピットのせいで1時間も遅れたのに健気に自分のことを待ってくれているということを懇切丁寧に、描写とセリフを交えて書きつらねるべきであろうが今回は割愛する!

 

 キューピットは彼女に狙いを定めると、まるで芸能人を見つめた福山雅治のような目でじっくりと狙いを定めて、その矢を放った!
 一直線の彼女へと向かう。そしてその矢の先には、先ほどのドーナツが付いていた! 一応、あれも伏線だったのね。

 

 しかし、ここで賢明な読者の方はお気づきだろう。まだ3題話の最後の1つ、カゼが出てきていないことに。
 この流れが風が巻き起こるとなると、もはや答えは1つしかない。恋はハリケーンなどというが、ここで突風が吹き、その流れにのって矢は真っ直ぐに狙っていた明石さんからそれて、しかもどのような流れなのかはよく分からないがそのまま真っ直ぐにキューピットの方へと戻って行った。
 そう。もうオチは決まっているのだ。
 

 キューピットの元に突き刺さった矢は見る見るうちに小さくなっていき、やがてキューピットの中に消えてしまった。そのまま私をじっと見つめる。

 

 まるで、運命の出会いだった。
 その腹に生えた黒々とした毛はとても男らしく、ギャランドゥーなんて歌い上げてしまいたくなる。禿げた頭もセクシーだし、汚らしく伸びた髭もホームレスを連想される。そして何よりも、その素っ裸のだらしない肉体と立派な股のナニ、走ってくる警察官が吊り橋効果となって私をドキドキとさせた。頭の中ではアメージンググレースが鳴り響き、キューピットの頭にキューピーちゃんが山のように笑顔で進行している。
 私は恋する乙女のような顔を晒して彼に言う。

 

「あなただったのね?」