カエルくん(以下カエル)
「今回は人魚姫のお話だね。海ということで亀も出てくるし、ここが亀爺じゃないんだ」
ブログ主(以下主)
「亀爺にはもっと大事な作品が控えているから」
カエル「でも、この映画って公開初週じゃないよね? 気が変わったの?」
主「……今週って大作にいい映画がないんだよね。いや『マッドマックス』はあるけれど、あれも実質再上映だし……
だから今週はあまり行けていない単館系や小規模公開映画を中心に回ってみようかなって思い立った。
あとは来週宇多丸がこの映画を批評するから、先にやっておきたいなぁ、って思って」
カエル「今年は宇多丸が批評する映画を全て観るっていうのが目標だもんね」
主「なので疾走スプリンターも近々見に行こうと思います。いつかはわからないけれど!」
カエル「……曖昧だね」
主「この日は4作品劇場で見に行ってさ。『聲の形』の4回目『牝犬たち』『人魚姫』『WILD〜私の中の獣〜』の4作だけど、聲の形を除く3作が意外と浅いながらも共通項目もあったので面白かったよ」
カエル「……その3作品を全部見たっていう人を探すのは結構大変そうだけどね。
じゃあ、ここで記事を開始するよ」
1 コメディであり、アニメ的な作品
カエル「じゃあ、まずはネタバレなしの感想から行こうか」
主「実は中国映画(香港映画)を劇場で見るのって意外と初めてな気がするんだよね」
カエル「あれ? DVDでは見たことあるけれどってこと? 確かにこのブログでもあまり扱わないね」
主「韓国映画もそうだけどね。いや、別に政治的信条だとか、偏見があるってわけじゃないよ? ただ、アンテナに引っかかりにくいのと、あとは公開規模が小さいからどうしても後回しになるっていうのはあるかも」
カエル「それで、劇場では初めての香港映画ってどうだったの?」
主「まあ、面白かったよ。コメディって人を選ぶところがあるからなんとも言えないけれど、笑いどころもあったし。
ある場面で耳馴染みのある音楽が流れてさ、急に『ガンガンガンガン』って流れてきた場面では大爆笑したよ」
カエル「ギャグは多かったよね。日本とはまた違う、独特なノリのギャグだと思ったけれど……」
主「笑いって1番お国柄が出るのかもね。結構作り込み過ぎて、ひと昔前の……ドリフとかのコントを思い出したかな。今テレビで見ているのって、もっと簡略化というか、サラリとしたコントが多い印象だからっていうのもあるかも」
カエル「ドリフはセットを作ったりと大がかりだったしね。それから出てくる女優がみんな美人で!」
主「主演のキティ・チャンはカットによってはびっくりするほど美人でさ。日本で言ったら仲間由紀恵に似ているような気がしたなぁ……正統派の美人だと思うよ」
カエル「画面も華やかだったよね」
アニメ的な演出
カエル「ここはどういうこと?」
主「……実は、この作品を途中から『アニメの延長線』として見ていたんだよね。
それはコメディ要素もそうだけど、人魚姫ってタイトルからわかる通り、ファンタジー要素もたくさん入っているわけ。CGとかも使ったりね。まあ、そのCGのクオリティは当然のようにハリウッドには見劣りするけれどさ」
カエル「そこは比べれないよね。やっぱり、人魚の物語というと『リトル・マーメイド』は連想するよね」
主「そうね。さらに広く言えば古き良きディズニー映画や、カートゥーンのようなアメリカのアニメっぽい。日本で言えばTRIGGERかな。
結構エゲツないシーンもあるけれど、それをギャグとして昇華させようと頑張っている。でも、そこが個人的にはシリアスに見ちゃったから笑えなかったかな? ここで笑えるか否かによって、この作品の評価は変わると思うよ」
カエル「歌もよかったし、ミュージカルのようなパートやアトラクションを見ているような面白さもあったもんね」
主「正しく現代のおとぎ話だよ。これを実写でやらずに、アニメでやったらさらに受け入れやすかったかもしれない。最初は『なんでこれを実写でやるんだろ?』って疑問に思ったほど。
でも、この映画のテーマとかを考えると実写じゃないとダメなんだ」
カエル「じゃあ、主はこの作品は高評価なんだね!」
主「いや? 全く評価しない」
カエル「……え? なんで?」
主「もちろん、映画としては面白いし、評価する声はわかる。
だけど、この映画を褒め称えることは、この1年やってきた『物語る亀』というブログの記事を全て否定することにも繋がりかねない。
だから自分はこの作品を否定しなければいけないんだよね」
カエル「……え? どういうこと?」
以下ネタバレあり
2 人魚の意味
カエル「なんでそこまで強く否定するのさ?」
主「単純に『表現』として気に入らないんだよね。これは信条的な部分でもあるから、もしかしたらレビューや批評としては役に立たないかもしれないけれど」
カエル「……それって『中国系だから』という理由じゃないよね?」
主「……正直に言うと、その理由も少しはあるよ。だけど、それは『中国系の映画だからダメだ!』っていうわけじゃない。同じような映画をアメリカ、フランス、イタリア、インドとかが作っても同じように反対する。
だけど、中国系だからこそ、見えてくるものが多かったんだよね。テーマに気がつきやすかったというか。これがフランスとかならともかく、デンマークとかだとその国の知識が少ないから、見過ごしていたかもしれないけれど」
カエル「じゃあ、これからその解説をしようか」
主「まずさ、何度も言及されているけれど、この映画における人魚って何を象徴している?」
カエル「基本的にはイルカだよね」
主「そう。物語の起点となる『ソナーによる事故』とかっていうのは、実際に問題になっていることで、それから逃げているのが人魚ということになる。
さらに言えば、後半の人魚VS人間の戦いって、あれは完全にイルカ漁やクジラ漁をイメージしているよね。浮き輪を使ったり、爆薬で爆死させたり。
この映画がアニメではダメな理由は、ここにある。つまり、真正面からグロテスクに描けないから。この映画は『イルカ漁、クジラ漁がどれだけ残虐か』ということを描くために実写にしている。アニメだとギャグ調になるけれど、実写だとエグくなるから」
人魚の意味が指し示すもの
カエル「何度も出てきたもんね、血に染まる海とか、イルカ漁を連想させるものが」
主「それは明確に日本批判だけど、それだけが否定する理由じゃない。
ここの記事でも書いたけれどさ。
自分は『食べる』ということは人間が抱えている原罪だと思う。それは有機物を食べなければ生きていけないという、どうしようもない生物としての真理が関係してくる話だから。
だから、クジラだろうが牛だろうが、虫だろうがゴキブリだろうが犬だろうが、好きに食べればいんだよ。その命は等価で区別はない」
カエル「イルカ漁に肯定的な日本人の共通する思いだよね。イルカだけを特別視していいのか? っていうね」
主「さらにいうとさ、イルカやクジラは食べるか知らないけれど、他の魚などに関しては中国系も結構エゲツないとり方しているじゃない? 網で根こそぎ、とかさ。それで生態系が破壊されているという話もある。
『美しい海を守ろうよ!』と言いながら、じゃあお前たちはどうなんだよ!? って言い返したい思いもある。まあ、漁師が映画を作っているわけじゃないから、それはお門違いかもしれないけれどね」
3 この映画のテーマとメッセージ
カエル「そう考えるとこの映画のテーマって……」
主「明確な日本批判が含まれている。
序盤で唐突に日本語でしゃべる人が出てくるんだよ。その人は金魚とソナーの関係性を説明するけれど、かなり惨たらしく爆発する描写の説明に出てくる。じゃあ、なんでそれが日本人なのか? といったら、すごく単純な理由だよ。つまり、イルカを獲る日本批判だよね」
カエル「明らかに日本を連想されるようにできているわけだ」
主「この流れになると『反日映画は許さない!』っていう右翼的な流れに聞こえるかもしれないけれど、それは少しだけ違うよっていうことは先に言っておきたい。
もう1つのこの映画のテーマは『人魚と人間の共存』ということがある。それは台詞でも補完されていて『人間と人魚は互いに手を取らねばいけない』って長老が言っているわけ。
その『異種族同士の交流』というのがテーマにあるのは明らかだよ」
カエル「そうだよね。海に暮らす人魚と、陸に暮らす人間の交流を描いた映画だしね」
メッセージとテーマの矛盾
主「それはテーマとしてはいいの。結構よくある話だし、ファンタジーだからできることだし。金持ちが金を忘れて、真実の愛に目覚めるなんていうのは腐るほどあるお話だから。
だけどさ……すっごく気にくわないのは、この映画って致命的な矛盾があるんだよ」
カエル「矛盾?」
主「つまりさ、この映画って『異種族同士でも分かり合える!』って言いながら、明確に日本を敵視して、イルカ、クジラ漁を批判して、日本を悪役にしているんだよね。
これってさ、つまり『異種族同士でも分かり合える(日本人は除く)』に見えて仕方ないんだよ。だって、異種族間のコミュニケーションってそういうことじゃないでしょ?
虫を食べる文化があるならそれを尊重し、犬を食べる文化があるならそれを尊重する。
『それがおかしい!』ってことを言って、犬の代わりに牛や豚を食べさせることが異種族間のコミュニケーションか? 違うでしょ?」
カエル「それはそうだね。宗教の違いや民族的な伝統もあるわけだし……」
主「だから、結局この映画は『プロパガンダ映画』以外の何物でもないと思う。日本は悪いよ、イルカ漁は悪だよっていうさ。
このブログはプロパガンダを評価しない。
そこを乗り越えた先にあるのが表現であり、メッセージである、ということを何度も語ってきたわけ。それはナチス関連の記事や、聲の形などの障害を扱った映画でも何度も語ってきた。
だから、映画として面白いからこれはあり! ということはできないんだよ。これがフランス映画なら『そういう意見もあるかな』になったかもしれないけれど、中国と日本の関係を考えると国策の影がみえるよね……それが中国映画だからって先に挙げた理由」
意図はわかるけれど……
カエル「じゃあ、どうすればよかったの?」
主「だったらいっそのこと、明確に悪役を日本人にして勧善懲悪の物語にしたほうがよかった。そのほうがこっちも『明確なプロパガンダだ!』って叩きやすくなった。
ただ、こういう映画になったのは理解はできる。ビジネスとして世界的に……特に欧米では悪とみなされているイルカ漁をテーマに添えることで、そっちでヒットする可能性はあるし。
日本は捨てて、海外で勝負っていうのは選択肢としてわからないではない」
カエル「まあ、それはある意味では当然の反応だよね。中国国内では反日だって言えばある程度流行るわけだし」
主「でも、自分は大っ嫌い!
ラストで『科学者は中立的な視点を持って欲しいですね。お伽噺なんて信じないで』って言っているけれどさ……このセリフの意味がよくわかんない!
だって、日本だって中立的な視点で科学的に調査をしている。そして欧米の方がお伽噺のように聞こえる学説を発表していたりする。ということは、日本を擁護しているようにも、欧米を擁護しているのか、不明なんだよね。まあ、作品テイストからして、日本批判なんだろうけれど!」
カエル「それこそプロパガンダだよね。『FAKE』でも語ったけれど、データは読み取り方でいくらでも意味が変わるし、それこそ答えありきの結論になりかねないし」
主「しかもさ、ここまでお伽噺を続けてきて『お伽噺を信じるな!』っていうのはどうなの?
もちろん、これは彼なりのジョークだとしてしても……実は科学ではかれないことがある、お金などで買えない価値観があるよって意味だとするのが映画的かもしれない。
でも、そうなるとこの映画のテーマである『イルカ、クジラ漁の科学的な調査ではなく、可愛いから、賢いから取るのをやめましょう!』というお伽噺を信用しろって話か!
アホか! そんな話があるか!
豚も牛も鳥も可愛いんじゃ!」
カエル「……うわぁ、食のことだからすごいヒートアップしている」
最後に
主「たださぁ、ここまで色々と語ってきたけれど、これがプロパガンダの怖さでもあり、表現の怖さだよなぁって思うんだよ」
カエル「あれ? 急にヒートダウンしている」
主「自分は日本人で、イルカ漁やクジラ漁に対して関心がある、ないしはニュースで連日報道されていたらから、理解できるけれど……じゃあ日本に住んでいなかったら? というと、やっぱり『クジラやイルカを獲るのは残虐だ!』となるかもしれない。
さらに言えば、これが象や犬などだとしたら……それを擬人化して映画を作ったら、その主張にのっているかもしれないんだよね」
カエル「こういうのは信条的な問題もあるからね。イスラム教徒が豚を擬人化したり、ヒンドゥーの牛を擬人化して作った時に、どういう感想を持つかな?」
主「この映画を強く否定したけれど、これは中国系だからって話じゃなくて、他の国でも……日本が制作しても強く否定する。それは国がうんたらって話じゃないから。
そしてこれだけ強く否定しないと、別の形で現れた時に大絶賛してしまい、同調してしまうという怖さもある」
カエル「そもそも『プロパガンダは悪なのか?』という問題もあるしね……」
主「そうなんだよなぁ……『愛は金より大事』っていうテーマには否定のしようがないし『環境問題に関心を! もっと地球を労わろう!』というのも理解できるから、なんとも言えない部分かもね。それもある意味ではプロパガンダ的って言えるかもしれないし。
ちなみに『WILD〜私の中の獣』と比べると、人魚姫の方が面白いけれど、異種族との結婚という意味では弱いと思うよ。結局、あの人魚って足に障害がある人ってぐらいの不便さだし、陸では呼吸ができないとかっていう欠点もないから。結ばれようと思えば、意外と簡単なんじゃない? 人間タイプだし、美人だし」
カエル「そこも減点理由かもね」
主「結ばれない愛ってほどでもないからねぇ。まあ、色々な愛の形がある、でいいのかな?」