亀爺(以下亀)
「いよいよ主も日活ポルノ映画に手を出したか」
ブログ主(以下主)
「……あんまり滅多なことを言うと、なんかまずいことになるかもしれないから、いつも以上に言葉に気をつけないとな」
亀「何、少し過激な性描写があるだけで、普通の映画じゃ。そこまで大きな問題もないじゃろう」
主「それならいいんだが……
意外と女性客も多いんだな。カップルで来ていたりして、何となくおじさんばっかりだと思っていたけれど、そうでもないってことがよくわかったよ」
亀「それこそ、単なるセクシーな表現がハードなだけの映画じゃからな。
基本は映画、と考えれば、欲情を煽るために制作されるセクシービデオとは訳が違う。ましてや、近年は一般向け映画でも相当ハードな作品が作られておるからの。その意識で行くと、若干面喰らうこともあるかもしれん」
主「考えてみれば最近見た『ネオン・デーモン』も、それから昨年でいうと『ヒメアノ〜ル』もR15指定ではあるものの、結構な性描写も多いんだよね。むしろ、演出が際立っているからこっちの方が危ないというか」
亀「その意味では濡れ場さえあればなんでも撮っていい、と言われる日活ポルノらしい作品かもしれんの。
それでは、そこも含めて感想を書いていくとしよう」
1 ネタバレなしの感想
亀「さて、それではネタバレなしの感想じゃが……」
主「……これが褒め言葉になるかどうかはわからないけれど、意外と普通の映画だった」
亀「普通? 濡れ場もあったのにか?」
主「いや、確かに5回くらい? もうちょっとあるかな? 激しい描写もあるよ。だけど、それが特別興奮を煽るか、エロいかと言われると……実はそうでもない。
これは最初にも言ったけれど、最近の映画って一般映画でも結構激しい描写が多いじゃない? しかもセクシービデオの場合は人の情欲を誘うために、相当な演出などもされているし、それに慣れちゃったいる部分があるんだろうね。
映画館で公開することを前提に製作しているんだから、そりゃ大人しい作品になるのは当たり前で……文芸映画を見に行った、という感覚だよ」
亀「興奮されても劇場も困っちゃうからの」
主「元々こういうタイプの映画って……文芸映画って大人しか見ないところもあるし、それこそ『ちょっと性描写の激しい文芸映画』でしかない。だから割と手軽に見れる部分はあるよ。
そうね……例えるなら一部のエロゲーと一緒。『AIR』とか『CLANNAD』とか『つよきす』とかって、元々はハードな描写もあるゲームとして発売したけれど、そういう描写もいらないってことで全年齢版も発売したじゃない? それだけしっかりとした物語があったから、ということだけど、そういうことなんじゃないの?」
亀「表現の幅が増えるなどのメリット以外にも、お客さんを釣るための装置でしかないって作品もあるじゃろうしの」
主「それを考えるとポルノ映画が衰退したっていうのもわかりやすい話でさ、現代じゃネットでいくらでもセクシーな映像が検索で出てくるし、テレビはともかく映画でもっと過激な作品もあるわけだ。
そりゃ、わざわざ小規模公開の映画館に行って見よう、って人はよっぽどの物好きだよね」
色気と艶
亀「ではあまり色気は感じなかったということかの?」
主「……これは持論だけど、男性でも女性でも脱いで興奮させるっていうのは、邪道だと思うわけよ」
亀「邪道? 何を言っておるのじゃ、当然の反応じゃろ?」
主「いや、当然の反応だからこそ邪道なわけ。そりゃあさ、イケメン俳優や綺麗な女優が裸になれば、誰だって黄色い声をあげるよ。そう『誰だって』ね。
でも、色気とか艶ってそういうことじゃないでしょ? 例えば服をまとって、首から下は手以外肌を一切露出していないのにも関わらず、醸し出される『匂い』のことを色気、と呼ぶわけだ。
裸になって、というのは単なる反射にしか過ぎない。カメラが撮るべきは反射ではなく、色気と艶なわけだよ」
亀「まあ、それはそうかもしれんの。多くの映画において男優も女優も積極的に脱ぐわけではないが、それでも醸し出される魅力もあるからの」
主「この映画に色気や艶がないって言っているわけじゃないよ? だけど、主演の井端珠里にしろ、美知枝にしろ、真上さつきにしろ、服を着ている時の方が美しいのね。色気がある。それが脱いだ時に、もっと爆発するのかな? と思ったら、そうでもない。むしろ縮小したかもしれない。
でも濡れ場の意義とかを考えたら、むしろそっちの方が正解かもしれないわけで……それを目的にしてみにいくわけではなくて、あくまでも『映画』を見に行くわけだしね。
まあ、この辺りは個人の趣味もあるかもしれないけれど、難しさを感じたね」
以下少しネタバレあり
2 映画としての感想
亀「しかし、1本の映画としては中々悪くなったの。それこそ昔ながらの文芸映画のようじゃった」
主「むしろそう言ったセクシーなシーンは全カット……だとこの映画の魅力がなくなるけれど、もっとマイルドにして規制を下げてもいいんじゃない? って思った。
3人のデリヘル嬢の映画だけど、それがいい感じで対比できていて現代における愛の形を色々とあぶり出すことができていると思う」
亀「ポルノである必要がない、というのが果たしていい評価なのか、悪い評価なのかはわからんがの」
主「まあ、文句もないわけではないんだよ。
例えばネットが途中で少し重要な役割を果たすけれど、それが簡単に炎上するとかっていうのがね……ブログをやっている身からすると、違和感があった」
亀「行為が行為じゃから、炎上する可能性もあると思うが……」
主「だってさ、あんな行為ってどこの動画サイトでも腐るほどあって、いまどき怪しい風俗情報のサイトなんかウイルスまみれも含めてたくさんあるじゃない? それが、あんなサイト1つがそう簡単に炎上するだろうか? って疑問に思う。しかもデリヘルなんだから営業にも思えるし。
炎上するのも芸のうちだし、しかもあの手のサイトの特徴としては炎上した方が稼げるんだよね。そこの描写もあるにはあるけれど……少しトントン拍子過ぎじゃない? って気がした。まあ、自分がネット媒体で発表している人間だからかもしれないけれど」
亀「ネットの扱いは個人差がありすぎて難しいかもしれんの」
主「あとは、会話があんまりいいとは思えなかった。いかにも『映画のための会話』って気がして……多分、上記の違和感ともリンクすることだけど『若い女とネットばかりやっている男の会話ってこんなもんだろう』っていう意識が見える気がする。
こんな会話するかな? こんな言葉遣いするかな? っていうのが、結構違和感としてあった」
物語の帰結
主「それは物語自体にも違和感としてあって……例えばデリヘルの扱いだけど、結構テンプレ過ぎるような気がするんだよね。確かに色々な愛の形があることを表すんだけど、なんか胡散臭い情報誌とかまとめサイトで読んだような、在り来たりな描写に終始した印象がある。
悪い映画ではないけれどね」
亀「現代の情報化社会じゃと、もっと信じられないような話がゴロゴロと転がっているからの」
主「その意味でも、少し古いかな? っていう印象。もちろん、自分も真実のデリヘル業界なんて全く知らないよ。だけど、それはこの映画を見る観客の多数がそうだと思う」
亀「衝撃の実話! 系でもないからいいのかもしれんが、物語としては少し弱いかもしれん」
主「あとはいつもいう『3つの物語が帰結した先にあるもの』という話。物語を分けるということは、それが帰結した時になにか見えてくる、というのが理想の形なわけだ。そうじゃないなら、1本道の物語の方がシンプルでいいしね」
亀「この映画は……見えてくるものがあるような、ないような……」
主「う〜ん……惜しいなぁ、って気はする。繋がりそう! って思ったけれど、それがすごく弱い繋がりで……そこも文芸映画っぽいなって思った理由かもしれない。
見終わった後に心に残るものは確かにある。強烈なエンタメを期待しているわけでもないから、これでいいといえばいいのかもしれないけれど……」
亀「大絶賛はできない、ということかの」
最後に
亀「ではこれで最後になるが、色々語りはしたが、いい映画じゃったの」
主「いい映画だよ。少し期待していたものと違って『あれ?』という思いはあるけれど、こういうことなんだってわかったら、特にガッカリ感などもないかもしれない。
何度も言うけれど、やっぱり『少し過激な文芸映画』みたいなんだよね。東京の、池袋という雑多な街で暮らす、3人の女の人生を描くという試みは見事に成功しているし」
亀「最近文芸映画もあまり撮られない、もしくは話題にならない気がするからの。その意味でも珍しかったのかもしれん」
主「だけどこの作品を見て5部作の他の作品も見てみたいなぁって思ったし、少なくともアンチポルノとホワイトリリーは見に行こうかな? って気分だよ。できれば前作2作品も見たいけれど、これはDVD待ちかな」
亀「新しい扉が開く! というものでもないが、たまにはこういう映画もいいものじゃの」