カエルくん(以下カエル)
「さて、小規模公開映画を語る週もこの作品でラストだね」
亀爺(以下亀)
「他にも見たい映画はあるが、小規模じゃから見に行くだけでも大変じゃの」
カエル「それが小規模公開映画の欠点だよねぇ。まあ、わざわざ言うまでもなく、誰もがわかりきっていることだけどさ」
亀「いい映画も多いだけにもったいないの。
まだ見ていない現在公開中の映画だと『アン・イン・ザ・スカイ』は評判もすごくいいしの」
カエル「他にも『幸福なひとりぼっち』はアカデミー賞海外映画賞にもノミネートされているしね。名作が必ずしも売れるわけではない、というのは今更語ることもないけれど、そういう作品が陽の目も見ないで消えていくのも残念だよね……」
亀「本来ならば映画を多く扱うブログとしてそういう作品も紹介したいところじゃが……」
カエル「今回はその中でも先月から観たいと思っていた作品だね。この作品も新宿だと
夜にしかやっていないから、中々見に行きづらいんだよなぁ」
亀「しかももう少しで公開も終了するからの。
さて、それでは感想といくかの」
1 オススメできるか?
カエル「じゃあざっくりとした感想だけど……結構オススメはしづらい作品なんじゃないかな?」
亀「終演後にロビーに集まった観客の会話を聞いたが『意味わかんない!』って言葉もあったからの。
隣に座っていた男の子も途中、寝ておったわ」
カエル「え? じゃあそんなに面白くないの?」
亀「いや、ワシとしたらそこまで酷評する映画でもないぞ?
もともとあらすじを見てもわかるが、そこまで派手な内容の映画でもない。良くも悪くもヨーロッパ映画という感じに溢れているの」
カエル「キャッチーなあらすじではあるけれど、結構静かなお話だしねぇ。仮に映画館じゃなくて、家で DVDで見ていたら途中で飽きて寝ていたかもなぁ……」
亀「その意味でもオススメはできないかもしれんの。
じゃが、この日に見た『人魚姫』『牝猫たち』と同じように『愛』をテーマにして、違う撮り方をして作っているということもあったのか、わしは結構楽しめたがの」
カエル「その意味でも評価に困る作品かもね。この静かな映画から何を見出すか、ということにかかっているのかもしれないね」
『愛』の形
カエル「やっぱり、この映画を語るときに大事なのは『愛の形』だよね」
亀「よく『好きなものは好きと言え!』とか『どんな愛の形でも美しい』みたいなことが言われるわけじゃな。それは誰でもいうことじゃし、現代の草食化が叫ばれる時代において、非常に重要なことじゃろう。
じゃがな、それはあくまでも前提条件があるわけじゃ」
カエル「つまり『人間であること』ということだね」
亀「そうじゃの。
例えば、同日に見に行った、公開日が近い映画でいうと『人魚姫』もテーマとしては近いものがあると思う。それは異種族との心が通じ合う瞬間を描く、というか、愛を描くというものじゃな。
それはそれでいい。それでいいのじゃが……しかし、人魚姫が成立するのは『人に近い姿をしている人魚』だからであって、それが本当にジュゴンやイルカなどであれば、やはり映画としては酷いものじゃろう」
カエル「一部ではそういう作品もあるけれど、カフカの『変身』なんて虫に変化した自分を描くことで、社会との壁を描いた作品だしねぇ。あんな人魚だったら、誰でも恋に落ちるかもしれない」
亀「その意味では『異種族との愛』というものの究極の形を描いた映画ということもできる。わしらは映画などを見た結果、異文化との共存するということについて、綺麗事のように簡単に考えているかもしれんが、実は相当な難しい問題があるということじゃろうな」
2 異文化との交わるということ
カエル「異文化との交流ってどういうこと?」
亀「例えば、良質の恋愛物語を見たとするじゃろう? そこにあるのは美しい恋愛であり、誰もが納得できるものであり、さらに誰もが憧れるものじゃ。
じゃがな、実際の恋愛はそうではない。完璧に見えているような異性であっても、必ず欠点はある。そのことを普段は考えないで、汚い部分は見えづらくしているだけじゃ」
カエル「どういうこと?」
亀「例えば、理想の異性像を思い浮かべるじゃろ? アイドルでも俳優でもなんでもいい。その異性像に熱狂している時、そこには綺麗な面しか映っておらん。
じゃがな、その裏では色々な汚い面があるはずなんじゃよ。一番わかりやすいのは、異性関係やセックスに対してガードが緩いという……いわゆる、不倫や二股などの問題じゃな」
カエル「でもさ、そういうところがすごく綺麗な人だっているわけじゃない?」
亀「じゃが、人間である以上避けられないものというものもある。
例えば、排泄などがそうじゃろう。または足が臭いとか、汗の匂いがきついとか、いびきがうるさいなどということもある。化粧を落とせばシワがたくさん浮かび上がるというのもあるし、現段階では完璧でもいつかは年をとり、そして老いていく。その時のことが見えておるのか、ということじゃな」
カエル「……普通はそこまで考えないでしょ?」
亀「そうじゃよ。恋愛は相手の綺麗なところしか見えん。恋は盲目という言葉があるが、まさしくそれでの……美しい恋愛しか見えないからこそ、恋愛というものは成り立つのかもしれんの」
愛の中に宿る『汚れ』
亀「わしがこの映画を評価しておるのは、そういった恋愛映画にありがちな、綺麗な面を排除した映画だというところじゃの。
狼に恋しておる時は確かにその見た目の美しさというものにしか目にいかんかもしれん。じゃが、実際に接してみると様々なマイナス要素もある。例えば、匂いがキツイなどというのもその1つじゃろうな。
このお話は『恋愛相手が狼』という点において大きな差別化が図られておるが、これが『都会から来た(もしくは海外から来た)異文化の男』であったり、または『田舎の純朴な娘がヤンキーに魅かれる』というタイプの恋愛物語とそう変わらんと思うのじゃよ」
カエル「まあ、狼を男の比喩であり、凶暴でありながら彼女には優しいと考えると、少女漫画とかに良くあるヤンキー像だったりするよね」
亀「これが『田舎娘とヤンキーくん』だったら格段におかしな話ではない。じゃが『狼と人間』だからおかしなことに思えてくる。
しかしの、異文化をバックボーンにある者と交流するということは、ここまでの覚悟が必要、ということをこの映画は説いておるようにも思うのじゃ」
カエル「狼を家の中で、自分の家のルールで飼うのではなく、相手のルールに自分も付き合ってあげるということの覚悟ができていますか? ということでもあるんだね……」
亀「そういうことじゃの。
だから、この映画は非常に重く『愛』について語りかけておる。
壁を作り、眺めているだけではダメじゃ。その壁を壊し、傷を負い、ともに生活していく中でどれだけ相手のことを理解することができるのか。
どれだけ相手と同じことができるのか、そしてその愛のためにどれだけのことを捨てることができるのか……そういうお話じゃろうな」
最後に
カエル「今回はサラリとした記事にするために短めになっているけれど、この映画って『ブルックリン』ともテーマは似ているような気がするよね。田舎に閉じこもって退屈な日常を送るか、そこから出て行って刺激的な生活を送るかっていうね。
田舎の男に飽き飽きとして、外の世界の男(狼、異文化)に惹かれるという意味では同じだし」
亀「もしかしたら今のヨーロッパの中で非常に重要な問いを持つ、日本にいると見えてこない問題なのかもしれんの。それこそ『好きにならずにいられない』なども似たようなテーマ性を抱えておったし」
カエル「恋愛映画の美しい面ばかりを捉えた映画が多い中で、こういうアプローチをしてきたからこそ意義がある映画なんだね」
亀「その分、面白みはないがの。
エンタメとしては『人魚姫』などの方に軍配があがるじゃろう。そもそも、この問題を理解する前に、嫌悪感が先に来ると思うのじゃよ。そうなるとどうしようもない。だから、この映画があまり評価されなかったり、面白くないという意見はわしは正解じゃと思う。
じゃが、面白くはなくても、作る意義はあった映画じゃな」
カエル「如何にも少規模公開映画って感じだね……」
オススメの『一味違った恋愛映画』です。
あんまり記事とは関係ないかも笑