カエルくん(以下カエル)
「今月1番の注目作である『リズと青い鳥』の先行上映会のチケットが取れたので、一足お先に作品を鑑賞してきました!」
主
「本当……嬉しかったなぁ……試写会は全滅したからね」
カエル「今回は先行上映会で観た作品の感想をネタバレなしで語っていきますが……作品の脚本やシーンに対する言及はないですが、どのような映画なのか? ということは監督の過去作や、キャラクターデザインなどから考察しています。
結構踏み込んでいる部分もあるので……ネタバレなしではありますが、それでも何も知らずに劇場で観たい! という人はここで引き返してください」
主「ネタバレなしだけれど、ある意味ではネタバレよりもっと酷いことしているかも……
最初に語っておくと劇場で観るべき映画でもあり、劇場で観なければいけない映画でもあります。
この映画は1つの事件なので……是非とも公開したら劇場へ向かってください!
あと、テレビアニメシリーズを見ていないくても大丈夫、ユーフォシリーズのターゲット層である男性よりも、女性の方が深く響く作品だと思ったので、安心して劇場へ!」
カエル「では記事のスタートです!」
作品紹介
『映画 聲の形』などを手がけた山田尚子監督が、京都アニメーション製作の人気テレビアニメシリーズ『響け! ユーフォニアム』の新作映画。
今作ではテレビアニメシリーズの主人公たちではなく、テレビアニメ2期に登場した鎧塚みぞれと傘木希美を主人公に添えている。
脚本を務めるのは吉田玲子、キャラクターデザインには西屋太志など聲の形の主要キャストが集結。
キャストもテレビアニメシリーズから続投するほか、本田望結が本作で登場するリズと青い鳥の一人二役を演じることでも話題に。
1 感想
カエル「では、いつものようにTwitterの短評から始めましょう!」
#リズと青い鳥
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年4月4日
言葉にならない、と誰もが口にするのも納得な作品
感情を動きや映像で表現するという難易度の高いことをさらりとやってのける
情報量がとてつもない上に受け取り方も多種多様、アニメだからこそできる表現満ちている
山田尚子と京アニは化け物か!?
実写超えた情報量かも…… pic.twitter.com/ZJ5UPVIur9
主「間違いなく1つ言えるのは、山田尚子のフィルモグラフィーの中でも、特にとてつもない作品ということだね」
カエル「ネタバレなしで語るのも難しい作品だよね……
そもそもこの映画を言葉にすることができるのだろうか? と言う思いもあって……」
主「それを言葉にするんですけれど!
そうだね……今作はとても緊張感が漂う作品である。まるで居合抜きの達人と向かい合っているようなもので、気を一瞬でも抜いたらすぐに切られてしまう……そんな緊張感が終始漂っている。
それだけ絵の持つ力が強いということだ。
山田尚子と観客の真剣勝負だよ」
カエル「ふ〜む……居合抜きの達人と向き合ったことがないからわからないけれど……」
主「実際、自分は結構疲れたよ……それはこの記事を書くために演出の意図などを考察しながら観ていたこともあるけれどね。
本当に繊細な作品で、ここから少しでも余計なことをすると全部が台無しになるようなバランス感覚の上に成り立っている。
またとんでもない作品を作ったなぁ……とポカ〜ンとしながら鑑賞していたよ」
カエル「作画や演出に興味がある人、また実写でも役者の演技に興味がある人は必見の作品に仕上がっています!」
本作の主人公2人の感情表現に注目!
山田尚子監督について
カエル「あまりアニメは知らないよ、もしくは山田尚子監督って誰? という人に軽く説明すると……なんて言えばいいのかな?」
主「10年後には間違いなくアニメ界の中心にいる人物であり、また邦画界を含めた映像作品全般で突出した存在になることがほぼ確定している人です!」
カエル「え〜と……それはどういうこと?」
主「洋画ファンに説明すると、実は山田尚子監督と『ラ・ラ・ランド』でアカデミー監督賞を受賞したデミアン・チャゼルって同級生なんだよね。
チャゼルは早生まれだけど。
そしてチャゼルが今後のハリウッドの中心に立つ存在であると言っても誰も疑問に思わないだろうし、現に今そうなっている。
それと同じことで、山田尚子は今後日本のアニメ界の中心に立つ女性だし、例えば日本アカデミー賞のアニメーション部門で女性初の栄誉を獲得するならば、多分この人。
アニメ界の若手の象徴でもあるし、そこで働く女性の象徴にもなるであろう存在だろうね」
カエル「実際、どの作品も評価が高いので是非とも過去作も鑑賞してください!」
チャゼルと同級生……この世代は化け物ばかりか!
blog.monogatarukame.net
脚本 吉田玲子について
カエル「そして脚本は吉田玲子ですよ……この人、どれだけ仕事しているの?」
主「何がすごいってさ、ここ最近の吉田玲子脚本の劇場アニメはほぼ名作、傑作ぞろいなところがあって。
『ガールズ&パンツァー 最終章』『かいけつゾロリ ZZの秘密』『夜明け告げるルーのうた』『映画 聲の形』と、近年自分が鑑賞した中でも、年間ランキングのトップ1割に入る作品を次々と連発している」
カエル「もちろんテレビアニメも京アニの『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』や『ハクメイとミコチ』なども担当しながらだもんね……どれだけ仕事しているんだろう?」
主「ノリにのっている、多分今の日本の脚本家なら3本の指に入る存在じゃないかな?
少なくとも脚本が吉田玲子というだけで観る価値があると思う。
それほど素晴らしい作品を連発している脚本家で、山田尚子とタッグを組むと、破壊力満点の作品が仕上がる。
山田尚子の演出力や監督としての実力もさることながら、それを支える吉田玲子の存在も無視できないね。
この女性2人の力に、京アニの実力はスタッフたちが絡むことで素晴らしい作品を連発していくわけだね」
京アニの挑戦or暴走
カエル「えっと……ここでは何を語るの?」
主「京アニってさ、時々盛大にやらかす時ってあるじゃない?
常識では考えてやっちゃダメなことに挑戦するときがさ。
例えば『エンドレスエイト』なんてその1つで、同じ脚本と思われる話を8個も放送するというのは常識で考えてはありえないわけだ」
カエル「うちでは『エンドレスエイトはその演出に注目するとメチャクチャ見所があって面白い!』という結論にたどり着いたけれど、毎週毎週いつ終わるかわからない状態であれを見せられると、きついよね……」
主「ただ、それがうまくはまった例もあるにはあって……例えば『涼宮ハルヒの消失』なんて、2時間40分という超長尺なわけだよ。当たり前だけれど、アニメは全て描かなければいけないし、子供向けの面もあるから2時間以内に収める作品が多い。
その中でこれだけの長さと物語の密度がある作品を制作してしまった。
それは偉大な挑戦です。
ある意味では『聲の形』も同じでさ、障害をテーマにした上で、さらにいじめ描写から逃げることなく、勧善懲悪になっていない物語なんて日本では勇気ある表現だ。これも1つの挑戦だと言えるし、あとは自社で原作を集めて小説化して、後々アニメ化というのも挑戦だよね」
カエル「いろいろとアグレッシブな会社だよね」
主「そして、本作もそのスピリットは発揮されています。
それが観客にとって……そして興行にとって吉と出るか、凶と出るかは自分でもはっきりわかりません。
消失の時も2時間40分なんて劇場の回転率も悪いし、流行るわけない! と思ったけれど流行ったし。
それだけに部外者の自分もドキドキの作品でもあるということは伝えておきたかったかな」
特に注目して欲しい部分として
カエル「では、特にリズと青い鳥で注目して欲しい部分はどこになるの?」
主「う〜ん……全部」
カエル「……は? 全部?」
主「今作って90分と短い物語なんだけれど……さっきも語ったように緊張感がある作品なのね。
その作画や演出に力もさることながら、音楽ももちろん素晴らしい。
ユーフォって音楽映画だけれど、その説得力を最大限発揮するために素晴らしい音楽を披露してきた。自分もテレビアニメ版のサントラを買って、何度もリピートして聞いているけれど、何回聞いても飽きないよ」
カエル「音楽の良さは保証されているよね」
主「もちろん花形のシーンもあるけれど、それ以外も本当に見所に溢れていて、そこに注目して欲しい。
演出も細かいし、それが大きな味を醸し出している。
という話になると、ほぼ全編、全てにおいて注目ポイントばかりなんだよ。
だから……身も蓋もない話をすると、全部が注目ポイントです、としか言えません……ごめんね」
2度目の鑑賞の感想
カエル「えー、音響が素晴らしい映画館である、川崎のチネチッタの舞台挨拶付き上映に行ってきて、2度目を見た感想になりますが……どうだった?」
#リズと青い鳥
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年4月21日
初回時は何を観ていたんだろ?
2回目を鑑賞して全く見え方が違うことに愕然とする
映画というか、表現としてのレベルがあまりにも他作品と違いすぎる
圧巻にして完璧な作品
主「……すみませんでした!
自分は何1つとして本作を理解していなかったことがわかりました。
正直言えば、初見時は眠気との勝負にもなっていたところもある。その映像クオリティのとんでもなさ、演出の考察をしながらも、花形のシーンをずっと待っていたところがあって……退屈な映画でもあったんだよね。
だけれど、2回目を観て愕然とした。
『これほど他作品とレベルの違う映画なのか?』って」
カエル「映画って回数を重ねてみると全然印象が違うこともよくあるとはいえ、ここまではとはね……」
主「自説だけれど、映画は3回目が1番楽しめると思っていて……初見はストーリーを追うので精一杯、2度目は伏線や演出を確認する、そして3度目で多くのことを知った上で楽しめる、というのがその理由で……
4度目以上は飽きがきちゃうからね。
本作は絶対に回数を重ねてみたほうがいい!
そして音響が絶対大事!
映画館が限られる地方の方には申し訳ないけれど、できればちょっと遠出してでも音響のいい映画館で観てください!
絶対に印象が変わります!」
2 キャラクターデザインの変化
カエル「それを象徴するのがキャラクターデザインということだけれど……まずは、テレビアニメ版のキャラクターデザインがこのようになっています」
主「あと、わかりやすいのはこのテレビシリーズ放送前に発表された PVだよね。
こちらを観てもらうとテレビアニメ版のキャラクターの方向性がわかる」
カエル「……今にしてみるとこのPVって相当あざといなぁ。なんか、テレビシリーズを観たあとだと『こういう物語だっけ?』という違和感もあるというか……久美子ってこんなあざとい子じゃないでしょ?」
主「テレビシリーズ版は『エロい』んです!
もっと言えば萌えの力を最大限発揮し、それでキャラクターの魅力を引き出しながらも、物語の力でグイグイと引っ張っていた。このPVでも中盤の久美子のスカートが翻るところ、麗奈が体育座りから足を引くところは超エロいです。狙いすぎなくらい。
では、次にリズのキャラクターデザインだけれど……1番わかりやすく麗奈のデザインを見てもらおうかな」
カエル「……結構頭身も大きく変えているよね」
主「今回麗奈をピックアップしたのは解りやすい変化が1番多いキャラクターだからだけれど、スカートの丈も長くなっている。
そしてニーソックスではないだよ。
まあ、テレビシリーズでも水色の夏服の時はニーソックスではないんだけれど、これはニーソックスというのがオタク向けの萌えアイテムだからということもある。
かなり現実に即したデザインになっているんだよね」
カエル「もちろんこれはこれで可愛らしいけれど、あざとさはなくなったのかなぁ」
なぜキャラクターデザインを変更したのか?
カエル「このキャラクターデザインの変更って博打でもあるよね。
知り合いのユーフォファンはこの変更に怒っていて『あのテレビ版のデザインが好きだったのに! 絵柄変更なんて受け入れらない!』と言っていて……
でもさ、その意見も出てくるのはよく分かるし、当然の反応でもあると思うんだよなぁ」
主「わざわざ慣れ親しんだキャラクターデザインを変更するということは、よくよく考えればおかしな話じゃない?
では、なぜ変更したのか?
それは……自分の考えだと『萌え』という記号的アニメ表現を避けたからだ」
このキャラクターデザインも非常に可愛らしいものの、多分このままだと味わいが全く違う作品に仕上がったかもしれない……
『萌え』は諸刃の剣
カエル「……萌えを避けた?」
主「萌えの持つ魅力というのは非常にわかりやすく、オタクだったら美少女表現として理解されやすい。
だけれど、実はそれは諸刃の剣でもある。
アメリカのアカデミー賞長編アニメーション部門に『この世界の片隅に』や『聲の形』がノミネートされなかった理由は色々と憶測も交えて報道されているけれど、やはり1つ大きいのはこの手の萌えの表現というのは『オタク向け』の印象が強いからだろう。
特に海外のアニメをあまり見ない人にとっては『アニメ=萌え』であり、それはすなわちオタクの玩具だと思っている人もいる。
日本だってその傾向はあるでしょ?
オタク批判や萌えは気持ち悪いってずっと言われてきたし……
『この世界の片隅に』などの作品もそう思われてしまい、オタク向けアニメだからうちらの評価する作品じゃない、と弾かれた可能性を示唆する声もある」
カエル「湯浅政明が世界で評価されるのに、日本ではあまり評価されづらいのは、この『萌え』をあまり取り入れないでキャラクターを描くから……という話もあるよね」
主「一応擁護すると、萌え表現というのは日本アニメが手に入れた大きなメリットであり、これだけ濃いキャラクター性を記号的に量産し、表現出来る要素を生み出したのはとても大きい。
でも自分も萌えに辟易としていた時期もあるから、萌えアニメを評価しない声もわからないでもない。日本アカデミー賞なども同じ傾向はあるしね。
リズに話を戻すと、この記号的でオタクに親和性もある『萌え』という便利な表現手段をあえて除外するためのキャラクターデザインの変更だった……と考えている」
ファンシーな表現もある作品で、こちらも注目!
萌えを減らしたことにより表現が広がる
カエル「それって意味があったの?」
主「記号的な物語表現に頼らないことによって、それぞれの動きでより魅力的な物語を演出することができるようになっている。
例えば山田尚子の代名詞である『足の演技』だよね。今作ももちろんそれは発揮されていて、とても多くの意味合いを含んでいる。
でも、それだけじゃない。
手、腕、歩き方、顔の表情……細かなニュアンスの違いが、さらに差となって生きてくる」
カエル「それはもちろん声優陣の演技も同じだよね」
主「それまでのユーフォシリーズというのは、萌えの魅力やキャラクターの葛藤、豪華な音楽を詰め込んだ『動』の魅力に満ちたものだった。
だけれど、本作は『静』の魅力に満ちた作品である。
それができたのは、萌えを減らしたからなんだ」
3 アニメと実写の情報量
情報量を増やす歴史
カエル「ここからは少し踏み込んで情報量について話していくということだけれど、そもそも情報量って何さ?」
主「読んで字のごとく、その表現に込められた情報の量だよ。
映画に限らず、物語の歴史というのは情報量を増していく歴史とも言える。
音のないサイレント映画
↓
音の入ったトーキー映画
↓
色の入ったカラー映画
↓
CGの多用して現代の映画
この流れも1つの映画の歴史であり、情報量を増やす歴史とも言える。
CGの技術もあって、今ではどんなSFやファンタジーの世界でも表現できるようになった。この『音』や『色』や『CG』も一種の情報量を増やす進歩の1つだと言える。
もちろん、そんなハード面の進化だけではないよ。
例えば固定カメラから手持ちカメラで揺らすことで臨場感を出す、構図に凝って意味を作る、色にこだわることで特別な意味や心理的効果を生み出すことができる。それが『演出』だよね。
ここを詳しく語るとグリフィスという映画初期の名監督に辿り着くけれど……それは割愛!
そして本作には込められている情報量がとんでもないんだよ」
山田尚子の演出がとんでもない領域まで達したのが『映画 聲の形』
詳しくは下の記事を読んでください。
聲の形は自分も深い感銘を受けました……
アニメと実写の情報量
カエル「よく情報量の話をすると実写にどれだけ近くのか? という話題になりがちな気もするけれど……」
主「実写の情報量の多さとアニメなどの情報量を比べると、どうしても実写の方が上だという思いを抱かれがちだけれど……それは必ずしもそうではない。
時にアニメーションは実写の情報量を上回る時があるんだよ。
例えば押井守監督の『イノセンス』を参考にするけれど、CGで作られた小物や世界をがとても精緻で、しかも豪華。
その結果、まるで実写よりも引き込まれてしまうような、実際にそこにあるような錯覚を受ける作品に仕上がっている。
多分『イノセンス』よりもSFの世界がリアルな作品って、邦画だったら実写でもアニメでも存在しないんじゃないかな?
この『情報量を操作する』ということが、表現の真髄なのではないか? という思いがある」
イノセンスから15年過ぎましたが、まだこの作品よりも……リアリティのあるSF映画って登場していないんじゃないですかね?
『この世界の片隅に』が示したアニメの可能性
カエル「そしてそれが最も結実したのが『この世界の片隅に』だったという話につながってくるのね」
主「片渕須直監督の試みというのは、一言で語れば『1945年の広島を再現する』ということであり、主人公のすずさんを現実に呼ぶことだった。そのために徹底した歴史考証を行い、想像ではなく史実に基づいた物語を作る。
それも1つの情報量の操作であり、その結果どの映像作品よりも『1945年の広島』を再現することに成功している。
もちろん、それは元々は高畑勲監督も目指したことかもしれないけれど、現代の技術を使えばここまでできるのか! と驚愕する内容になっている」
カエル「アニメってなんでも書けるからこそ、でたらめも描けるけれど、細部にこだわていくといくらでもこだわることができて……それが情報量に関与するんだね」
主「ただし、その情報量が多すぎると今度は観客が疲れるけれどね。
他にも宮崎駿作品の世界観やディティール、動きの細かさであったり、今敏や湯浅政明の謎の空想表現のエモーショナルな絵の快感など、情報量が濃ければ濃いほど、飽きのこない作品に仕上がる。
そして話をリズと青い鳥に戻すと、その情報量が圧倒的に多くて濃いんだよ」
山田尚子作品の方向性について
カエル「でもさ、いろいろな情報量の濃さってあると思うんだけれど、リズと青い鳥の場合ってどのような濃さなの?
『響け! ユーフォニアム』シリーズってそんなにSFやファンタジーの要素が少ない作品じゃない?」
主「だからこそ素晴らしい。
これは2016年のアニメ映画大ヒットの年に語ったことだけれど、以下のように考えられると思うんだ」
- 『君の名は。』はアニメの持つエモーショナルな快感を突き詰めた作品
- 『聲の形』は邦画のような情報量を抱えた作品
- 『この世界の片隅に』はリアルの追求を突き詰めたドキュメンタリーのような作品。
カエル「もっと簡単に言えば『君の名は。』は……一部の評論家も語っていたけれど、『バカでもわかる快感』というアニメの持つ魅力を多く獲得した作品だった。
そして『この世界の片隅に』は先ほども語ったようにドキュメンタリーのような、1945年の広島を再現したような作品だったということだね」
主「これはアニメの方向性が全く違う魅力に溢れた3作品であり、自分はこの3作品が登場した時に戦慄すら覚えた。
萌えなどのキャラクターの魅力や爆発、甘酸っぱい恋愛などのアニメの持つ魅力をたくさん内抱した『君の名は。』タイプの映画以外がたくさん登場しているからだ」
カエル「特にここでは『聲の形』を大絶賛しているよね……」
主「この3作品の中でも……というよりも、自分の少ない映画鑑賞暦の中では、実写邦画を含めても『人間を描く』ということに関して『聲の形』を超えた作品はそうそう存在しないと思っている。
複雑な感情を抱えて、本人でも制御できない人間というものを映像にし、これほどまでに深く表現できるのか……と驚愕だった。
そしてそれはリズにおいて、さらに進化したんだ」
ちなみに本作は山田尚子の過去作を見ていると色々と気がつくことがあります。
もちろん見なくても楽しめますが、作家性を楽しむのならば手にとってはいかが?
リズと青い鳥は実写を超えた
カエル「その結果、リズと青い鳥の情報量は実写を超えたというけれど……それはどういうことなの?」
主「例えばさ『😀(スマイルマーク)』『(^ ^)』を使えば誰だって『笑顔の描写で嬉しそう』と思うようにできている。目や口角が上がって、笑っているように見える、嬉しいように見える。
『😂(泣き顔)』『(T . T)』のように目から滝のような涙を流せば『泣いている、悲しそう』という風に見える。このように、アニメーションや漫画というのはかなりの記号的な表現でできている部分がある」
カエル「怒った時に額に『💢(怒りマーク)』『(♯`∧´)』などをつける、焦った時は『😅』や『(^_^;)』を流すというのもそのひとつだね。
手塚治虫などが開発した漫画的表現を、そのままアニメに持ってきている部分もあると思うけれど……」
主「でもさ、人間ってそんな単純じゃないわけ。
笑っているように見えても、その笑顔は実は内心ではムカついているとかさ、皮肉的に笑っている、あるいは苦しすぎて笑うしかない時もあるんだよ。
同じ涙でも泣き笑い、追い詰められての涙、感謝の涙……色々な涙がある。
楽しいから笑う、悲しいから泣くという簡単なものではない。
だけれど、基本的には分かりやすいからそういう演技の方向性になってしまうんだよね……」
カエル「でもさ、そんなことを言っても、その複雑な感情を映像表現で魅せるのは難しいよね……それって実写でもあまりできていないかもしれない」
主「それができる役者は実写でも相当少ないよ。相当うまい役者だけ。
そしてリズと青い鳥はその『人間の感情』を多種多様な演出と、作画の力、そして物語で表現してしまった。
記号的表現をカットしているわけだ。
そのためには萌えも邪魔なわけ。
前述のように萌えって、記号論の要素が多いから。
ただし、ちゃんと萌えの持つ『アニメのエモーショナルな快感』もセットになったキャラクターデザイン……つまり、現実的な可愛さ(萌え)のある作品に仕上がっている。
本作は観る人によって味を大きく変えるし、その描写の意味合いも変わるだろう。
鑑賞した回数に応じて受け取り方も変化する。それだけの深さを備えた、意味のわからない作品なんだよ」
思えば『映画けいおん』 の時からその挑戦は始まっていたんだなぁ……
本作と似ている作品
主「ここで1つの洋画を紹介したい……と言っても、アニメでもないし小規模公開だから知っている人も限られるかもしれないけれど」
カエル「カナダ出身の映画監督、ドゥニ・ヴィルヌーブ監督の『静かなる叫び』だね。それにしてもヴァイオレット・エヴァーガーデンの記事でもヴィルヌーブ作品が登場したし、本当に好きなんだね……」
主「この作品は2017年公開作品では1位をつけた、マイベスト級の作品だけれど……
何がすごいかというと、モノクロの白黒映画なんだよ。そしてセリフも少なくして、音楽も少なくしている。
それで何を表現したのか? というと、ちょっとした動作……歩き方や視線、すね毛を剃ったりストッキングを履いたりという動作によって、人間本来の持つ性や生きる力などを表現している。
これは引き算の演出によるものであり、白黒だからこそできる味で静の映画でもかなり難しいことをしている」
カエル「そして萌えをなるべく排除した、リズもまた同じことをしていると言いたいんだね……」
主「もちろん可愛らしくはあるけれど、アニメ的な表現ではなくて、邦画のような表現が多くなっている。
本作は引き算の演出によって、それが最大限発揮されるように計算されて作られている。
だからこそ、とてもつもない映画でもあり……同時に、自分は本作が一般公開された時の反応が楽しみでもあり、恐ろしくもあるね。
でも間違いなく1つ言えるのは、誰かにとって特別な1作になる。
だから気になっている人は絶対見たほうがいいよ。
この映画の登場は事件です」
最後に
カエル「では、ここで記事を終えるけれど……一応ネタバレなしで書いたけれど、まあこれでネタバレなしと言えるのだろうか? という内容になったな」
主「キャラクターデザインや過去作を中心にどのような物語か、抽象的に、でもわかりやすく語るようにはしたけれどね。
作品の脚本や具体的なシーンに関しては一言も触れてないから、ネタバレはしていないよ、と言うけれど……」
カエル「……怒られるかなぁ?」
主「その時になったら考えましょう。
本作はそれまでの類を見ない作品であり、日本のアニメ技術がここまで来たことを象徴する作品に仕上がっている。
そして、確信したけれど山田尚子は10年後、もっとも注目を集める映像クリエイターになっていることが間違いない。
それはアニメ界のみならず、日本の映像表現業界全てに言える事だ。
この衝撃を味わえる今のうちに、ぜひとも劇場で鑑賞してください」
リズと青い鳥をもっと楽しむために
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