今回はテレビアニメも放送される『平家物語』について語っていきましょう!
山田尚子監督の最新作の1つじゃな
カエルくん(以下カエル)
「今回は山田監督の新作ということで、FODプレミアムでの先行配信を全話鑑賞したので、その感想記事になります。
一応歴史的な大作とはいえ、ネタバレには配慮しますので、ネタバレが嫌いだよという方はネタバレありのところでお引き返しください」
亀爺(以下亀)
「まず間違いなく言えるのは2022年の代表的なテレビアニメの1つになるじゃろうな。
うちが山田尚子贔屓なのはもちろん認めるが、それでもとんでもない作品が登場したと思って欲しいの」
カエル「それでは、記事のスタートです!」
感想
それでは、Twitterの短評からスタートです!
#平家物語
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2021年11月25日
日本の古典作品を山田尚子流にアニメとし、語り継ぐことの大切さを捉えた2022年を代表するであろう作品
誰もが知る最後がありつつもその時に向かう人々を誠実に真摯に描き一生に祝福を与える
おそらく多くの賞を獲得するであろうし、圧倒的な賛を持って迎え入れられるだろう pic.twitter.com/LYiNZBmRoC
山田尚子作品は作品を重ねるごとに作風は変化しながらも、物語は広がっていく
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2021年11月25日
卒業を描いたけいおんも別れに対してどのように向き合うのかと解釈すれば、終わりが決まっている本作もまたテーマ的には似通っている
個人の作家性が歴史的名作とうまく絡み合った好例だろう
最終回のストーリーは
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2021年11月25日
初めから決まっていたとしても
今だけはここにあるよ
君のまま光ってゆけよ
羊文学 『光るとき』
全てこの歌詞に込められている
間違いなく。2022年の中でもベスト争いに絡んでくる作品じゃろうな
カエル「圧巻だよね。
テレビアニメで全11話で、こんな作品ができるんだなぁ……とびっくりしたし。
やっぱり山田尚子監督作品としての個性も発揮しながらも、サイエンスSARUとしての個性も発揮された作品だったのではないでしょうか!
山田監督は能力も実績も間違いなし、あとの課題は一般評価……大衆の知名度だけって確信した作品だったよ」
亀「2022年の様々な賞レース関連に絡んでくるであろう作品じゃな。
こういってしまっては元も子もないであろうが……非常に評価しやすい話でもある。何せ、日本の歴史的な古典である『平家物語』を題材にしているという点でも、アニメ表現の良し悪し以前に評価したくなるじゃろう。
それでいながら、山田尚子という名前、そして何よりも作品に流れる明確なビジョンといい、まさに2022年のベスト争いに相応しい作品じゃな」
どことなく感じる高畑イズム
気が早い話だけれど、賞レースウケが良さそうってことは、いわゆるオタク受けしやすいだけの作品じゃないってことだよね
表現としての方向性は高畑勲っぽさをどことなく感じてしまうかの
カエル「平家物語自体は高畑勲さんが制作したいと熱望していたというけれど、その意味ではどこか高畑イズムを感じるというか……
古典をテーマにしたり、あるいは思想性だったり、アニメ表現の模索なども高畑さんっぽさがあるのかなぁ」
亀「わしとしては高畑勲さんの時に『かぐや姫の物語』は技術的にも予算的にも、誰もその後に続くことができない、それだけ突出しながらも独特の存在感の作品であると評価している。じゃが、もしかしたら……山田尚子がその路線になるのかもしれんな。
もちろん、高畑勲さんが追求したリアリズムと、山田尚子が追求したリアリズムは厳密に言えば方向性が違うであろうし、その後に出てきた……高畑さんの追求したリアリズムの先にある、ある種未完成とも言えるアニマ的なアニメの魅力と、山田尚子が今作で達成したこととはいうのは違うのかもしれん。
しかし……それでもわしは山田尚子は分かりやすくて、よりとっつき易い高畑さんになり始めているのではないか、という感があるの。
もちろん、それが今後どのように変化するかはわからないし、それが良いのかも悪いのかもまだ判断はできんが」
リアルなアニメの次のステージへ
その辺りについてもう少し語るけれど、山田尚子はリアルな芝居で評価された人だよね
その次のステージが今作というのは、とても面白いところじゃな
カエル「山田尚子は少女たちの青春をそのまま切り取るような……日常系の代表的な作品である『けいおん!』でのいきなりの成功、そして『たまこまーけっと』『たまこラブストーリー』を経て、うちでも大絶賛した『映画 聲の形』で、背景描写や人間模様、動きなどが実写邦画のようなリアル志向にさらに向かっていきます。
そして『リズと青い鳥』では、現在のリアルなアニメ表現としては極北とも言えるような、
まさに人の息遣いなども感じられる写実的なアニメを完成させてました」
亀「この辺りは、京都アニメーションの方向性と合致した結果じゃろうな。
『日常』なども含めて……『日常』自体はギャグ要素も強いが、より写実的なリアルに基づいた作品を志向しておったわけじゃな。
では、そこで一定の表現がなし得た次に向かったのが、その路線とは真逆にいるような、サイエンスSARUでのアニメ作りじゃったわけじゃな」
この辺りが本当に面白いよねぇ……うちは前に『京アニじゃない、山田尚子も見てみたい』と書いたことがあるけれど、まさかサイエンスSARUで制作するなんて!
ただ、この動きはとても理解できるものであるの
亀「なぜ高畑勲さんの名前を出したのかと言えば、この動きが似ていると感じたからじゃな。
高畑さんもある種のリアリティ、リアリズムの追求の次のステージでは『ホーホケキョ となりの山田くん』であったり、それこそ『かぐや姫の物語』であったり、写実とは違う世界へと向かっていった。
それが新しいアニメ表現の魅力に繋がっていくという可能性を信じて、という解釈でいいと思うが。
そして山田監督も『リズと青い鳥』の次に向かったのが、『平家物語』であったと」
カエル「例えば京アニで制作したら、この時代の過去の文献なんかをもっともっと調べて、リアリティのある作品になったかもね……」
亀「まあ、それは作画カロリーが高すぎるからできないとわしは思うが、今作も決して手を抜いているという意味ではなく、アニメの方向性としてリアルよりも動きなどを中心とした、より抽象的な快楽性を追求しているように感じられるわけじゃな」
山田監督の作家性
それって、監督の作家性に変化はあったの?
いや、わしは変わっていないどころか、むしろ強化されたのではないかと感じておる
カエル「もちろん、ここは脚本の吉田玲子、音楽の牛尾憲輔というメインスタッフの一部は、それこそ山田組とまでいったら大袈裟かもしれないけれど、続投しているということも大きいかもしれないね」
亀「いつかの舞台挨拶で『少女たちの青春や変わる心を描き続けたい』と語っておったが、今作もその心は変わっておらん。
むしろ、さらに広くなっておる。
今作のOPである羊文学の『光るとき』がまさにそうじゃな。
何回だって言うよ
世界は美しいよ
君がそれを諦めないからだよ
最終回のストーリーは
初めから決まっていたとしても
今だけはここにあるよ
君のまま光ってゆけよ
羊文学 『光るとき』
終わることが決まっている人々の、その時の状況を描いているわけじゃな
カエル「それでいうと、例えば『けいおん!』も卒業に向かう4人の物語だし、『たまこラブストーリー』もたまこともち蔵という2人の関係性を変化させるという意味では、変わることが決まっている2人の物語なんだよね。
『映画 聲の形』や『リズと青い鳥』は、その時々の登場人物の気持ちをしっかりと描き出しているし」
亀「これは山田監督がYouTubeでのインタビューでも答えているが『今回は叙事詩ではなく抒情詩として描いている』というのが、その答えであると考えていいじゃろうな」
亀「わしはOP映像に注目してほしいのじゃが、そこでは”滅びていく=終わりに向かう人々の笑顔”が映っている。毎回のこのOPを見るたびに感銘を受ける部分であるが、この表現こそが今作が成し遂げたかったことなのではないだろうか。
その意味では、やはり山田監督の映像の方向性、あるいは表現というのもは変化していない。
むしろ、過去へ向かい、さらに歴史的な古典をテーマにするということで、強化しているということもできるのではないじゃろうか」
ここから1話以降のネタバレあり
セリフで説明された今作の明確なテーマ
今作のテーマを簡単にいうと、どういうことになるのかな?
やはり、それは5話と10話の内容に絡むことじゃろうな
カエル「やはり5話からはこのセリフでしょう」
「でも私は赦すの。父上も上皇様も法皇様もみんな。赦すだなんて偉そうね。でもどちらかがそう思わなければ憎しみ、争うしかない。でも私は世界が苦しいだけじゃないって思いたい。だから私は赦して、赦して、赦すの」
こちらは徳子が話す5話の名台詞じゃな
亀「歴史的な作品とはいえ、一応ネタバレには配慮して話すのじゃが……徳子というのは平家物語の中でもヒロインのように扱われることも多い女性で、とても大事な役割を担っておる。
その徳子が”赦し”を語るという姿勢こそが、この作品の最大のテーマだと感じたかの。
この辺りは近年の京都アニメーション作品にも感じるものであり『映画聲の形』でも山田監督がインタビューで答えていたと思うが『世界が美しいことを表現したい』という気持ちに合致しているのではないじゃろうか」
カエル「下手をすると、単なる戦争絵巻になりかねない平家物語で、しかも滅びゆく側の人間が……とても強烈な運命を決定づけられている人が、このようなセリフを話すということが、とても大事なんだね……」
もう1つ、重要なのが10話のこのセリフだね
琵琶はそなたらに会ってそなたらを知った。だから見て聴いたものを、ただ語る。
これもまた、メインテーマの1つじゃろうな
カエル「ある種、文学を通してその人たちを知るということも出会いの1つなんだよね。それこそ、僕だって実際に会ったことはない……僕が生まれる前に亡くなってはいるけれど、残された書物とかで知っている作家とかに強く影響を受けていて、その人たちを知ったわけでさ。
その知った人たちの考えとかを伝えたい……それって、とても大切で人間的な、文化の根幹の1つだと思うんだよね」
亀「うむ、そうじゃな。
アニメにおいて、ただ語るというのもとても重要なものじゃ。
そして、さまざまなアレンジを含めながらもそれが成し遂げられたか否かは……おそらくわしは、成し遂げられたと思うかの」
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印象に残った話数
各演出家によって変わる味わい
今作を見て面白かったのは、これはテレビシリーズでは当然のことでもあるんだけれど、各話の絵コンテ・演出の人の個性が出た形だよね
特に今回は監督が山田尚子だからこそ、各演出家などの違いがわかりやすかった
カエル「どうしても物語を追うときには監督とか、脚本家のことを追いかけてしまって、もちろんそれもとても重要なんだけれど、テレビシリーズの場合はむしろその回を担当した絵コンテ・演出・作画監督の方が重要なのでは? と思うこともあるね。
実際に現場で詳しく指揮を取るのが演出である場合も多いし、そもそも設計図である絵コンテは……もちろん監督のGOサインもあるだろうけれど、絵コンテ担当の人が書いているわけだし」
亀「アニメは総合芸術じゃから、良くも悪くも誰がどの仕事をしたのかが見えてこないことが多い。1つの画面に何人もの人の手が加えられており、影響も大きいからの。
その点では、今回は『映画 聲の形』や『リズと青い鳥』を何度も見返して、なんとなく山田演出というものも理解してきたからこそ、各話演出の違いというものも感じられたの。
ここからは特にわかりやすく印象に残る1話・9話・10話を通して、演出について語っていこうと思うの」
1話 絵コンテ・演出 山田尚子
こちらは物語の始まりである1話であり、絵コンテ・演出は山田尚子監督が行いました!
さすが、素晴らしい出来じゃったの
カエル「元々テレビシリーズの1話は作品の方向性……つまり、映像的な挑戦とか、あるいは顔の崩しはこれくらいまで、とかの方向性を提示するために監督が自ら行うことも多いです。
今回もその意味合いもあったのでしょうが、まさに見事というほかありません!」
亀「冒頭、蝶が飛び立っていくがこの辺りの映像演出はまさに山田演出といったところか。
蝶は魂を意味する昆虫であるが、それが飛び回ることで平家物語と作品に集う魂を表している。その次に出てくる花は……わしは花には詳しくないが、これは沙羅双樹なのではないかの。
つまり飛び回る蝶・沙羅双樹で『祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり』といったところじゃろうか。その文章を映像化しているのではないかの」
カエル「まずは冒頭で一般大衆から見た平家の姿、その驕りと悪辣ぶりを見るのと同時に、その次の場面では平家側の人々がどれだけ浮かれているのかを描くという対比だよねぇ。
それでいながらも、実は清盛などにも可愛らしいというか、人間らしいところがあったりして……。
彼らが決して一般大衆と違わない、本当に驕っただけの人間らしい人間なんだと示しているね」
亀「面白いのはその後、厳島神社においてロックサウンドが流れるところじゃな。
この作品では平家物語という古典でありながらも、音楽は奇想天外なものも使われている。ここでロックサウンドを流すことによって、この作品の音楽的な幅広さを見せつけた形となっているのではないじゃろうか」
重い話も多かった前半に比べて、後半はコミカルな風潮になったよね
この辺りに切り替えもうまかったの
カエル「おそらく、後半のコミカルさは『この作品はここまでやってOKだよ』という意味なんだろうけれど、ガラリと変えてきたから余計にびっくりしたよね!
猫のようになる琵琶とかも含めて、ここで一般的な娯楽性もました印象だね」
亀「ここまではどちらかといえば歴史古典を扱ったということで、真面目な印象であったが、あのままでは……特に平家物語に興味のない視聴者などには、ついてきづらいものがあったのじゃろうな。
ここであのような崩し方をしたことによって、キャラクター表現に幅もでた。
また1話ということでメインキャラクター紹介をしつつ、最後には平家没落の原因である殿下乗合事件をも描き、次に繋げている点でも評価が高いの。
見事にまとまっている&この作品の今後を感じさせる1話じゃったな」
9話 絵コンテ・演出 竹下良平
次は一気に飛びますが、9話について語っていきます!
この辺りは竹下良平の魅力がよく出ていたの
カエル「竹下良平は近年の作品では『先輩がうざい後輩の話』のOPであったり、『呪術廻戦』の2期EDを務めた方です。
またテレビアニメでは『エロマンガ先生』の監督も務めるなど、その仕事が高く評価される若手演出家です」
亀「9話は少しネタバレしてしまうと、平家が没落していく様を描くところでも、特に名場面と名高い平敦盛の最期の場面が描かれている。
この場面は特に圧巻であり、海が煌めく様や年端のいかない少年の首をかき切らねばならない熊谷直実の苦悩をよく表している場面じゃった。
ここは『呪術廻戦』の2クール目のEDでも、海がキラキラと輝いておったが、そのような一瞬の青春の煌めきとその終わりを描き抜いたシーンでもあり、非常に見応えがある場面であったの」
10話 絵コンテ・演出 山代風我
そして第10話はサイエンスSARUの山代風我の絵コンテ・演出回になります
これまた、とんでもない才能が表れたものだとびっくりしたの
カエル「基本的に今作では山田監督がまだ比較的若手ということもあるのか、絵コンテ・演出も若い人が務めることが多いですが、Wikipedia情報で恐縮ですが山代風我はまだ28歳ごろという若さとのこと。
それでこれだけの演出ができるのだから、本当に大したものだよね……」
亀「おそらく、次世代のアニメ演出のホープと言っても過言ではないじゃろう。
この回は一眼み始めた時から他とは違うと感じられた。それは何かといえば……なんというかの、画面が生き生きしておった。まるで湯浅監督作品を見ているかのような、そんな息づかいすら感じられたわけじゃな。
もちろん、今作はサイエンスSARUの作品であるだけに、元々映像の力はとても大きくイキイキとしておったのじゃが……この回はさらに圧倒されるようなものであったの。
これから見る人はその映像の力強さにも注目してほしいかの」
最後に〜今作最大の違和感〜
ここまでずっと褒めできたわけだけれど、最後に何か弱点について語ることはないの?
……これはわしの好みかもしれんが、最終話で少し違和感があった
カエル「最後のところなので、かなりぼやかして語りますね」
亀「最終話は壇ノ浦での皆が知るラストがあり、映像表現そのものは圧巻であった。
しかしの……なんというか、あまりにも理念に強く傾きすぎていて、情が表現されていないと感じてしまったわけじゃな。
つまり、この作品の中にある理念……語り継ぐこと、赦すことを重視するあまりに、本来人が持つはずの情念が少し弱くなっているようにも感じられた。それが今作の最大の弱点なのかもしれん。
もちろん、それはそれで間違いではない。理念を貫き通すというのは、表現では正解じゃろう。
しかし、その理念を貫き通すには、徳子の状況はあまりにも過酷すぎて、少し情念が乏しいのでは、という思いもあったかの」
カエル「間違いなく2022年のテレビアニメの代表的な1作になるであろう今作、ぜひみなさんも楽しんで鑑賞してください!」
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