物語る亀

ネタバレありの物語批評

BLUE GIANT(ブルージャイアント)全10巻感想 石塚真一が生み出した『音』が頭の中で流れ出す!

カエルくん(以下カエル)

「え? このタイミングで漫画レビューの記事を書くの?」

 

ブログ主(以下主)

映画レビューもやりたいけれど、今回は漫画が先!

 読み終わった直後の今、語らないとこぼれ落ちてしまう感情がすごく大きくて……これを如何にして言葉にしようかということで、今頭はフル回転だよ!」

 

カエル「……ちなみに主は今、お腹を壊しておりテンションがよくわからないことになっています」

主「もうトイレの中にこもりっぱなしでさ、やることもないから漫画をずっと読んでいたんだけど……別の意味で出られなくなったよ! 

 これを読み終えないと、この感情の波を乗っていかないと、本作に対してちゃんとした評価を下せないとすら思ったからね

 

カエル「でもさ、主って音楽やジャズについて詳しい人だっけ?」

主「全然? むしろ無知もいいところですよ。ジャズもアニソンやサントラで使われるようなジャズなら聞いたことがあるけれど……好きなジャズの曲は? と聞かれたら『この素晴らしき世界』と答えるぐらいしか他に選択肢がないほど知らない。

 これもCMソングで知ったくらいだしね」

カエル「じゃあ、そういう人間がどのような印象を抱いたのか、という感想になるね」

 

 

 

 

 

登場人物

 

宮本 大

 

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© 石塚真一/小学館
© Shogakukan Inc. 2013 All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.

 

 本作の主人公。サックス担当。

 世界一のジャズプレイヤーになることを夢見ており、そのために毎日練習を欠かさない。頭で考えるよりも体が動いてしまうタイプ。

 3人兄弟の次男であり、兄の助けも借りながら夢を追い続けている。

 

 

沢辺 雪祈

 

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© 石塚真一/小学館
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 大とバンドを組むピアノマン。

 冷静沈着で大と違い、頭で考えるタイプ。自信家で態度も大きいが、その自信に違わぬ実力を持ち、そのピアノの腕は世界クラスのジャズプレイヤーに『早く君のバンドが聞きたい』と言われるほど。

 

 

玉田 俊二

 

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© 石塚真一/小学館
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 大のバンドの1人。

 ドラムは全く初心者であり、沢辺からは『入れるべきではない』と反対されるが、大の熱意もありバンドの一員となる。

 自信が全く初心者であることから、昼も夜も練習を続ける。

 

三輪 舞

 

 本作のヒロイン。大とは高校が同じであり、身長が非常に高く通称『デカ女』と呼ばれている。

 元々そこまでジャズに興味がなかったが、大の夢を知り仙台から応援している。

 

由井

 

 大の師匠。音楽教室を開き、子供達に指導を続ける傍らで楽曲提供なども行っている。かつてアメリカでジャズプレイヤーとして勝負をしたが、夢に敗れた過去を持つ。

 ぶっきらぼうな性格でスパルタだが大のことをしっかりと導く。

 

 

 

 

全体の感想

 

カエル「じゃあ、とりあえず第一部終了ということで、ここまでの全10巻について語っていこうとしようか」

主「Twitterでも短評をあげたんだけど……漫画において『音を詰め込む』ってほとんど無茶振りじゃない? あの2次元の平面の世界では視覚情報のみで勝負しなければいけない。

 漫画って人間の五感の中でも視覚以外には基本的にほとんど使わないという、限定されたメディアなわけじゃない?」

 

カエル「しかも音楽漫画で一番大切な『音』が出てこないのが当たり前だからね」

主「例えば映画において『音』が出てこない音楽映画というのは、まずありえない。もちろんサイレント時代にはそれもあったかもしれないけれど、トーキーが発明されて『ジャズシンガー』が流れた時点において、映画は音を獲得したわけだ。

 現代ならスマホなどの電子機器で漫画で音を出すことはできるかもしれないけれど……でも、そんな作品は自分が知る限りはまだ生まれていない」

 

カエル「その意味では『漫画で音を扱う』というのは無茶振りでもあるわけだ

主「だけど、その限られた環境下だからこそ見つかる音って絶対あると思っていて……それを証明した作品は他にもあるけれど、本作もその境地に達しているでしょう」

 

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1枚の絵だけで音が聞こえてきそう

© 石塚真一/小学館
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音楽漫画で1番大切なこと

 

主「自分は音楽漫画の良し悪しを語る際に、最上級の評価をするのが『音が聞こえて来る漫画』なんだ」

カエル「……音が聞こえる?」

 

主「そう。本来は2次元の世界に閉じ込められていたはずの音が、読者の中で鳴り響き始めた時、音楽漫画は最高潮を迎える。

 これって考えてみれば不思議な話で……例えばこの作品ではジャズを扱っているけれど、読者である自分はジャズをほとんど知らないんだよ。だけど、いつの間にか頭の中でなんとなくジャズが流れている。

 もちろん、その音は作者の意図と正しい音とは限らない。むしろ、全く違う音であると考えたほうが正しいはずだ。

 だけど、ある瞬間に『読者が音と出会う瞬間』が生まれる。これが音楽をモチーフにした漫画、小説の最大の特徴だと思う訳」

 

カエル「読者が音と出会う瞬間……?」

主「これは持論なんだけど、物語って……表現って作者が書き上げた瞬間に完成するものではないんだよね。それを読者などの受け手が受け取って、読んでもらって解釈して初めて成立するのが表現であって……

 物語は単なる触媒でしかなくて、読者の人生経験とか嗜好に沿って色々と姿を変えるわけだ。

 だから明確な音ではなくて、読者の中の何かを呼び覚まして、音が生まれる……それって究極の漫画表現の形の1つだと思う」

 

 

 

 

大の成長

 

カエル「本作は大の成長物語でもあるよね」

主「ここがまた計算されていて素晴らしくて……正直、1巻の時は『なんか微妙な漫画だな』って思ったのね? 石塚真一の前作にあたる『岳』が1巻からすでに抜群に面白くて、人生の機微や自然の厳しさをしっかりと描いていた。

 その衝撃に比べると1巻の描き方がそんなに素晴らしいとは思わなかったんだよ

カエル「さっきの言葉を使うと『音が聞こえてこない』ということか……」

 

主「だけどそれも徐々に音楽演奏シーンも迫力を増していき、10巻において圧倒的な音楽シーンを描ききった。

 大たちの演奏がうまくなるにつれて、その画力も上がっていって……それが作者の成長なのか、あるいは元々抑えていたのかわからないけれど、何よりの説得力につながっているよね」

カエル「演奏がうまくなる=絵の向上だと、大の成長がわかりやすいね」

 

主「あとは大が出会う人々も一緒に成長していって……特に雪祈と玉田の成長物語でもあってさ。

 その成長も『人生万事塞翁が馬』ともいうべきものであって……10巻の衝撃もあるけれど、それすらも成長の糧にしそうな3人に……大の姿に、すごく感動した

カエル「あの展開はすごいよね……さすがは石塚真一だと思ったよ」

主「岳であれだけ過酷な現実を描いた作家だから、これくらいのことは当然なのかもしれないけれど……すごく思い切ったよねぇ。

 ドイツに舞台を移すけれど、日本編の締めとしてももちろん、これから先へのさらなる期待が増す一方で後々が恐ろしくなる10巻だったよ」

 

 

 

 

最後に

 

カエル「さて、久々の漫画レビューだったけれど……」

主「いやー、これほどの作品に出会ったのは久々だったからね! 仮にこの漫画が8巻で終わりであれば、漫画大賞を2度目の1位を石塚真一が獲得することもありえたと思う。

 神様に愛された、漫画の才能だよ

カエル「激ハマりしているね……」

 

主「自分が『ラ・ラ・ランド』で臨んだのって、実はこういうお話だったんだよね。ジャズに人生のすべてを賭けて、たとえどれだけ辛い目にあっても、そのすべてを糧にして成長していく物語……

 まあ、向こうもそういう物語といえばそうなんだけど、本作はさらに上を行ったんじゃないかな?」

カエル「どちらも傑作だから、同じジャズものとして楽しんで欲しいね」

 

 

続編は舞台を移してドイツに!

こちらも期待が高まります!