今回は『サイダーのように言葉が湧き上がる』の感想記事になります!
うちとしては、久々の鑑賞になるの
カエルくん(以下カエル)
「2020年5月に公開予定だったものが、新型コロナウイルスによる上映延期を経て、2021年の7月に公開されました!
だから、予告はずっと見ていたよ! という方も多いのではないでしょうか?」
亀爺(以下亀)
「ちなみに、うちとしては2020年の東京国際映画祭で鑑賞しているため、約10ヶ月ぶり? くらいの鑑賞となるわけじゃな。
とても楽しみにしているぞ」
カエル「というわけで、早速感想記事のスタートです!」
感想
それでは、Twitterの短評からスタートです!
#サイダーのように言葉が湧き上がる
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2021年7月23日
やはり良作
アニメでしかできない背景やキャラクター像を軸に動き回るキャラクターたちが可愛らしい
音楽も過剰に煽らずに落ち着いた印象を与える
よく言えば王道なのだが、ただし物語の弱さは気になるかなぁ…何かしらの強いインパクトは感じなかったのが残念 pic.twitter.com/258Qa7qQS7
全体的には良作なのじゃが、その域を出ない部分も見受けられたかの
カエル「えー、こちらはうちは東京国際映画祭で上映された時にすでに鑑賞していました。
その時も感じたのですが、何といっても『夏に見たいアニメ映画!』であることは間違いなくて、2020年の5月くらいから2021年の7月まで公開延期がされたけれど、それも納得の作品です!
うまいことプロデュースすれば、もしかしたら『時をかける少女』などのように、夏の定番のアニメ映画になれるかも知れない作品ではあるよね!」
亀「まず、褒め意見としては何といってもアニメ表現の魅力じゃな。
今作は音楽レーベルであるflying DOGの10周年記念作品でもあり、音楽を基にした作品を作るというプランから始まっておる。だからこそ、声優で坂本真綾や中島愛などのように、flying DOGに所属する声優が起用されていたりするわけじゃな。
それで元々バンドマンであり、音楽に対して知識も深い、イシグロキョウヘイ監督が監督を勤めて、作品を制作したわけじゃが……さすが、音楽の知識が深いことを感じさせる。
最も特徴的なのは美術じゃろう。
背景描写などが近年多いような、リアルな質感のものではなく、鈴木英人のイラストのような、シルエットを重要視した美術を参考にしたと語っておる。それがアニメでしかできない味わいにつながっておるのは、間違いないの」
近年は実写と見間違えるような、そんなアニメの絵の表現が主流になってきているよね
今作はそういったものではなく、あくまでも絵の魅力を推し出そうという作品じゃな
カエル「それでいながらも、極端にアートってわけではないんだよね。
ちゃんと見ていて面白いエンタメアニメ映画になっていて、スクリーンで上映されるべき作品になっているというか」
亀「そうじゃな。
キャラクターの躍動感も感じられるし、可愛らしい部分も多いにある。
そして群馬県のショッピングモールを舞台としているようじゃが、北関東の……あのなんとも言えない、田舎というほど田舎すぎないんだけれど、郊外の雰囲気というのがよく出ていたの。
ショッピングモールなども、直接行ったことはないはずじゃが、見覚えがあるような気がしてくるわい」
カエル「一面田んぼだらけで、そこに住宅街があって、みんなショッピングモールに買い物に来ているなんて、郊外の一般的な光景だよね。
だから、この作品ってすごくアートスティックというか、リアルとは異なるデザインを採用しながらも、きちんと親近感やリアル感を覚える作品に仕上がっているんだね」
物語と音楽について
ただ、それだけ映像表現には褒めが多いのにも関わらず、なんで『良作以上の域を出ない』という評価になってしまうの?
う〜む……良くも悪くもまとまっているからかもしれんな
カエル「取り立てて大きな粗はないけれど、同時にびっくりするような、進歩的な表現がなかったということ?」
亀「いやいや、そこまでは言わんよ。
先ほどから語るように、この絵のタッチなどの映像面に関しては、きちんと一級品じゃ。
もちろん、勝負をしておるしきちんと意義がある作品に仕上がっておる。
しかしの……なんというか、全体的に綺麗にまとまりすぎているのかもしれん。
パラメーターで言うなれば、六角形のグラフで表したら綺麗な六角形になるじゃろうが、それが少し小さく見えてしまうかもしれん。
これは90分ほどの尺とか、そういうことは関係なく、と思うがの」
カエル「う〜ん……バランスが良すぎるというのも、難しい話だねぇ」
亀「あとは、やはり物語面が若干惜しい印象があった。
好意的に言えば等身大の美しい恋愛ドラマだということもできるが、逆に言えば少しパンチが弱い印象も受けてしまったの。
このあとネタバレの項目で語ろうと思うが……色々と物語がぼやけているように感じられる部分もあり、そこが勿体無い部分かもしれん。
決して悪いとは言わんが、の」
それでいうと、音楽はどうだったの?
特徴的であり、悪くはないぞ
カエル「あれ、そこは絶賛じゃないんだ」
亀「いやいや、決して貶すつもりはない。
今回は監督がパンフレットで語っておるが、物語を煽るような形では音楽は使われていない。ただ寄り添うように、静かに鳴り響いているシーンも多く、登場人物の感情に寄り添っていた印象じゃ。
この辺りは牛尾憲輔の音楽ということもあり、非常に聞きやすいものであったの」
カエル「音楽そのものも、その使い方自体も悪いわけじゃないし、文句はないよね」
亀「しかし、強いて言えば……寄り添うような音楽であるということは、わしにはパンチが弱く感じてしまった部分もある。
特に近年はミュージカルのような、力の入った音楽シーンも多いからの。それに比べてしまうと、どうしても……という思いは出てきてしまう。
じゃが、これはこれで何か間違えているわけではない。
ただの、個人的な相性の問題じゃな」
声優について
それでは、ボイスキャストについて語っていきましょう!
今作はとてもいいバランスで演技が披露されておった
カエル「うちは決して芸能人声優=下手、というわけではないけれど、今作のようにアニメ的な要素が強い絵柄などで、しかも本職声優と混じると芸能人声優が浮いて聞こえてしまう、ということをよく語っているよね?
だけれど、今作はそんなことが一切なかったような…」
亀「この辺りはやはり声優陣が名演技を披露したということじゃろう。
主演の市川染五郎はまだ10代であるが、だからこそ微妙な年齢のチェリーを好演していた。彼の素朴な、ちょっと内気さが残る様子などを、見事に声に乗せて観客に届けることに成功していた様子じゃな。
これは素の声の良さもあるし、見事なキャスティングだったのではないかの」
そして、なんといっても杉咲花ちゃんだよね!
カエル「声優にとしては『メアリと魔女の花』での名演も印象深いけれど、今回はガラリと違う役にも関わらず、とてもいい演技を披露されていました!」
亀「うちはどちらかといえば、役者としての杉咲花はあまり相性が良くなかった部分もあるが、声優としての……叫ぶ声をあげない演技の杉咲花は、やはりとてもいい。
それこそ、天下をとれるほどの演技なのではないだろうか。
アイドル……おそらく、YouTubeなどというよりも、ツイキャスなどの一般よりはニッチな媒体で受けているアイドルという設定なのじゃろうが、そこで受けているというのもよくわかるほど、明るくて可愛らしい声で演じきっておった。
もちろん、見た目のキャラクターの可愛らしさもあるが、彼女の好演こそが、キャラクターの魅力を引き出したの」
今回はアニメ的な作品なのに、本職声優と芸能人声優の差がはっきりと出てきづらい作品でおあったよね
やはり、声のバランスがとても良かったわけじゃな
亀「これは音楽の時でもそうじゃが、極端に煽るようなことをしていなかったわけじゃな。
それは演技もそうで、映像はアニメ的な誇張表現も入るものの、演技そのものは……せいぜいフジヤマ役の山寺宏一の大きな声くらいだったかもしれん。それだけ落ち着いた……言うなれば”アニメ的なリアル”な範疇に収まっておった。
そこに実写俳優がアニメ寄りの寄せ方をしてきていて、市川染五郎も極端にアニメ声ではないものの、全体としてのバランスがとてもピシッと決まっておった。
他にも……例えば神谷浩史や坂本真綾が親の役を演じるのも、そうそうないが見事にハマっておる。こういった……言うなれば”アニメ的なリアル”を重視することによって、演技のバランスを合わせていた印象じゃな」
以下ネタバレあり
物語考察
物語の流れについて
さて、ではここからはネタバレありで語っていきましょう!
序盤は、とても良かったの!
カエル「物語が始まって、モールという舞台を特別感があるものに大きく見せるために、あの大アクションシーンがあったのが、とても良かったよね。
そこの動きとかを見ていて、すごくワクワクしていっちゃった!」
亀「実を言うと、わしとしてはここのアトラクションパートがピークになってしまった感もあるほど、そこがすごく好きじゃな。
物語の序盤ということで、作品を説明し観客を魅了する必要がある。それをモールという舞台と、人々を魅せるためのアクションにしたというのは、わしとしては高評価をつけたい。
じゃが、一方でここがイマイチだったという意見があるのもわかる気もするの。
それくらい、良くも悪くも特徴的な映像になってしまったかもしれん」
カエル「よく言えばいい掴みだけれど、悪く言えば物語の全体像に対して、アクションが派手すぎたのかなぁ」
亀「ビーバーの悪戯というのも引っかかる人はいるかもしれんの。
わしはとても好きなシーンではあるが、このままのテンションで行くわけでもなく、ここが引っ張り上げる、アップテンポという意味ではピークになってしまった印象も強いかもしれん。
だからこそ、この後のことが気になってしまうわけじゃな」
中盤以降の疑問点について
その疑問点ってどういうことなの?
う〜む……物語が、異様に変な方向にいってしまった印象もあるんじゃな
カエル「そこまで変な方向に行ったかなぁ」
亀「もちろん、破綻しているというほどではない。
本作の場合、とても作劇的に難しいのは”チェリーとスマイルの恋愛の障害がない”ということじゃ。だからこそ、王道の物語にもなっているし、それが原因で弱さを感じてしまう部分もある。
例えば、チェリーが大きな音が苦手でイヤフォンをしている少年というのは、内気な部分が大きく、大きな声が出せない人物ということもできる。
また、わかりやすいところではスマイルは出っ歯であることを気にしており、矯正器を見せないようにしているわけじゃな。
じゃが……これは別に、2人の恋愛の障害にはならん。
というか、そもそも最初からこの2人が結ばれない理由というのは何もなく、ただお互いにどう一歩を踏み出すか、というだけの問題であるわけじゃ」
2人のキャラクター付けをして、俳句とSNSを通して仲良くなっていく様は、とても可愛らしくて好きだけれどなぁ
問題は、その後のパート……つまりレコード探しじゃよ
亀「このレコード探しが物語の主軸になるわけじゃが……身も蓋もないことを言えば、このパートが弱いと思ってしまったわけじゃな。
というよりも、2人の恋愛劇を中心にするのではあれば、このパートは必要がない」
カエル「……まあ、フジヤマのお爺ちゃんも他人といえば他人だし、レコードが見つからないと恋愛できないというわけではないしね。
音楽をテーマにして、古いもの……俳句とかレコードでもその良さを伝えるという意味では、確かに必要ではあったのかもしれないけれど……」
亀「このパートを通して2人が新しいお互いの魅力や欠点を発見して、という物語ではないわけじゃな。むしろ、恋愛話としてはその前で仲が進展して終わってしまっておる。
またスマイルが例のレコードを壊してしまうシーンにも必然性を感じなかった……あれならば、スマイルのミスという形にするのではなく、元々傷が多すぎて聞けなかったなどの、保管状態の悪さを理由にするのが適切だったのではないか。
あの流れは作劇の事情を感じたし、そうとしたらスマイルが少し可哀想に感じてしまったかの
無駄とまでは言わないし、爽やかで味あいのあるパートであるが、この2人の恋愛表現を描くという意味では、少し弱さを感じてしまったかの」
古いものと新しいものが融合
でもさ、すごくいいなぁ……と思ったのが、Twitterと俳句を合わせたことだよね
お互いに短文形式の表現であるからの
カエル「とても古いものである俳句……まあ、自由律俳句が多くて、そこはちょっと苦笑してしまう部分もあったんだけれど、それがむしろ新しさがあるというかさ。
それとTwitterを合わせることで、新しい表現になっているわけじゃない?」
亀「Twitterに投稿して『誰が見ているんだか……』と思いつつも、他の人にいいねをされると、一気に心の距離が近くなったようで気になってしまう……それは現代のSNS文化を生きる人であれば、感じる部分も多いのではないだろうか。
SNSが肯定的に、2人が結びつくきっかけになっているのも、現代らしい結びつきであるの」
カエル「音楽もさ、盆踊りも『ダサいよね?』という意見もあれば、それを聞くと涙を流してしまうという思い出の意見もあって、色々な意見が古い曲でも出てくるから、その時代を超えた音楽性というのも表現されていたよね」
亀「全体的にはアップテンポに盛り上げない……それこそ、アップという意味では冒頭のショッピングモールのアクションが1番派手だったかもしれん。
しかし、ヤマザクラの曲もそうであるように、全体的には落ち着いて統制の取れた物語であった。
それがハマった人には、とても泣けるしんみりとしたいい恋愛作品に仕上がっているのではないじゃろうか。
不満点もあるように語ったが、多くの人が良作というであろう作品でもあり、この夏のオススメデートムービーでもあるの」
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