カエルくん(以下カエル)
「この作品も考えてみればテレビアニメの劇場版なんだよね」
亀爺(以下亀)
「しかし総集編のような形ではなくて、このように全く新規の物語としてここまで作り上げるところに、レゴの人気がうかがえるの」
カエル「日本だとレゴランドがあまり評判が芳しくないこともあって、劇場映画がこれで3作品目だというのが信じられないぐらい、まあちょっと人気のあるおもちゃかな? ぐらいな認識だけれど、海外では多分もっと高く評価されているんだろうね」
亀「日本はおもちゃ大国でもあるからの。
それこそプラレールもあれば、トミカもあれば、リカちゃん人形などもあって、キャラクター物もアンパンマンやドラえもん、しまじろうなどのその年代に合わせた作品が細かくある。
海外もそれなりに数はあるのじゃろうが、いかにレゴであろうとも既存のキャラクター商品に勝つのは難しいということじゃの」
カエル「レゴのキャラクターをどれだけ知っていますか? と聞かれても、そもそもレゴにどんなキャラクターがいるのかわからない人も多いんじゃないかな?
象徴となるキャラクターがいないこと、その辺りがレゴランドの不評にもつながっているような気がする」
亀「日本はキャラクター人気がものを言うところもあるからの。ブランドと考えればどこも一緒かもしれんが……
そう考えるとレゴがこの先どれだけ受け入れられていくのか、というのは本作のようなレゴをモチーフとしたキャラクターがどこまで受け入れられるか、ということになるんじゃろうな」
カエル「ではこれからのアメリカの中心とした世界のアニメーション文化にも影響を与えるであろう、レゴ作品の新作について語っていきます!」
作品紹介
世界各国で人気のおもちゃであるレゴを用いて、2011年からアメリカ、デンマーク、日本など世界各国で放送されているテレビアニメーションシリーズの劇場版作品。
英語オリジナルでは師匠の声をジャッキー・チェンが担当しているほか、作中で重要な役どころとして登場している。ほかにも人気俳優人が声優を担当している。日本語吹き替え版はテレビシリーズと同じキャストが吹き替えを担当しているほか、出川哲朗が一人で何役も担当していることも話題に。
ニンジャゴーシティに悪の親玉であるガーマドンがいつものように街を破壊しにやってきた。街の平和を守る6人のニンジャたちはガーマドンに立ち向かうことに。しかし、リーダーのロイドにはある大きな悩みがあった……
映画『レゴ®ニンジャゴー ザ・ムービー』WEB予告【HD】2017年9月30日公開
1 感想
カエル「では、いつものようにTwitterでの短評からスタート!」
#レゴニンジャゴー
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2017年9月30日
名作傑作の多いシリーズだけど1番好きかも……!
様々な映画のオマージュを重ねながら紡がれるのは『父と子』の物語
もちろんアニメとしてもハイクオリティ
自分が見たかったヒーロー映画の姿がここにあった……
ニンジャなのに中国描写の多さはご愛嬌で笑
カエル「レゴシリーズは本作で劇場版3作品だけれど、そのどれもがかなりクオリティの高い作品として評価されている。
1作目の『レゴムービー』は奇抜な作り方もあって観客を驚かせる要素もあるけれど、そもそも『レゴとは何か? レゴだからできることとは何か?』ということに着目した大傑作! ここまでアニメでできるんだって感心もした作品だったね。
そして2作品目の『レゴバットマン ザ・ムービー』は、主がアメリカのヒーロー音痴だから正当に評価できているとは思えないけれど、世界的に有名なバットマンを起用して、しかも番外編ということで自由な発想で物語を作っていたね!」
亀「そしてその3作品目ということになるのじゃが、今作は過去2作品とは全く違う難しさが要求されたじゃろう。
1作目ということでレゴをいかに使うのか、という難しさはあるものの、自由になんでも描くことのできた『レゴムービー』に、人気キャラクターの世界観をいかに壊さずにレゴらしい物語を作るかということに苦心したであろう『レゴバットマン』の難しさももちろんある。
しかし、今作にはその2作という作り込まれた作品の味を活かしながら、テレビアニメシリーズのレゴニンジャの味を出していくのか……レゴシリーズは何を大事にするべきなのか? ということを考えなければいけないからの」
カエル「何のシリーズでも3作品ぐらいになってくるとマンネリ化したり、あるいは新しいことをやりすぎて『これじゃないなぁ』ってなりがちな印象なんだよね。その意味では本作の成否によって今後のレゴシリーズの方向性も決まってくるのかなぁ、という印象もあって……」
亀「しかし本作はレゴシリーズらしさをさらに追求した作品となっておる。もちろん、テレビシリーズを見ていなくても楽しめる作品に仕上がっておるぞ」
6人の力を結集して、たちあがれニンジャたち!
(C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.
レゴシリーズの抱えるテーマ
カエル「レゴシリーズのテーマというと、やっぱり『親子の絆』だよね。家族との関係性の改善をレゴを通じて行う、というのがいつものテーマであって……」
亀「このテーマを見つけたレゴのスタッフは素晴らしいの。
レゴブロックは歴史が古く、元々は家具などを作っていた木工所だったわけじゃな。世界恐慌などがあって様々な取り組みをしているうちに、玩具メーカーへと転身していくことになる。この辺りの波乱万丈ぶりも映画になりそうじゃな。
それだけ古い企業であり、おもちゃであるから、今の子供はもちろん、父親、祖父まで遊んであるじゃろう」
カエル「日本でも販売開始時期だなんだというのがあるだろうけれど、多分ほとんどの人が知っているおもちゃだろうしね」
亀「それだけ代々受け継がれていた遊びであり、しかもその遊び方は無限大である。これはゲームなどのような新興の……進化していく遊びでは決してできないテーマじゃろう。
そしてそれは親子間の対立を、同じものを愛するという気持ちで解消していくことになっていく。
『継承』と『自由な発想』というのは、現代的なテーマということもできるの」
カエル「あとは……レゴブロックの遊び方とも言える自由な精神とかもそうなのかなぁ。
過去作だと『え! こんな展開があるの!?』とか『これ、バットマンなのに大丈夫なの!?』というような驚きの展開もあって、子どもらしい自由な発想をしっかりと大人が映画化したような魅力に溢れていたけれど……」
亀「本作はその面は少しなくなってしまったかもしれん。もちろん、自由な発想の元で……というテーマ自体は同じであるものの、どうしても同じことの二番煎じではないことを行おうとすると、その方法が限られてしまうということもあるのかもしれんの」
凶悪な敵、ガーマドン。彼がいい味を出しています!
(C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.
アニメーションとして
カエル「そしてレゴシリーズを絶賛する理由の1つがアニメーションとしての完成度の高さだけれど……」
亀「日本においてアニメというと、どうしてもセル画のような絵で描いたものが動いたり、あるいはCGを用いたアニメが一般的であろう。しかし……例えば日本でも人気の高い『ピングー』や、あとは昔NHKなどで放送していた芋虫のキャラクターが躍動する『ニョッキ』などのクレイアニメや『チェブラーシカ』などのような人形を用いたドールアニメなどもあるの。
現在ではCGの活用によってさらにその幅が広がり、日本では『ちえりとチェリー』のようなドールアニメとCGの融合を果たした作品もある。
アニメーションとは非常に幅が広い分野である」
カエル「日本のアニメのレベルはもちろん世界屈指だし、その量に関しては世界一と言っても間違いない思うけれど、世界のアニメを見ると結構型にはまっている印象もあるんだよねぇ」
亀「わしが絶賛した短編アニメーションでは『オチビサン』という作品ではお弁当や落ち葉を用いたアニメーションが発表されておる。
安野モヨコが原作のオチビサン
余談ですがシンゴジラの作中でテレ東が放映していたアニメです
そして本作は当然のように全てレゴブロックで構成されておる。
キャラクターのみならず、背景や建物も含めての。これはもしかすると見過ごされがちなことかもしれんが、全てをレゴブロックで作り、しかもそのレベルが非常に高いというのはもっと評価されていいと思うの」
カエル「ある意味ではミニチュアを使って爆発シーンや破壊シーンを撮っていた特撮と、アニメの融合のような作品であるよね。
そして表情の変化がすごく豊かで!」
亀「記号のようなパーツで構成されている顔の表情を、誰にでもわかるような形で表現するだけではない。
今作の表情は単なる笑い、泣き、怒りなどといった単純なものではなく、その奥にある葛藤なども感じられるものになっておる。
いや、やはり本作は世界に誇るべき名シリーズであるとわしは思っておるぞ!」
以下ネタバレあり
2 テレビシリーズからの劇場版
カエル「ではここからはネタバレというか、作中に直接言及しながら語るけれど、まずは説明が見事だったね!」
亀「本作は上記のように人気テレビアニメシリーズの劇場版作品である。しかし、この映画を観に来る層……特に大人であったり、海外のお客さんの中にはそれを知らない人も多いじゃろう。
では、どのように説明するのか? というのが大事になってくるがの。
わしが一番ダメだと思うのは、単なるナレーションや文字で説明することじゃの。
もちろん、スターウォーズのように大迫力の音声とそのままシームレスに作品世界観に入ってくいくように工夫されておるようならば問題がないが、その多くはただ説明しておしまいになってしまう」
カエル「それで作品世界観にのめり込めって言われても難しいものがあるよねぇ……」
亀「しかしの、今作ではまずレゴシリーズお馴染みの実写パートから始まる。店主役のジャッキーが出てくるだけで、わしのような人間はテンションが上がるものであるが、ここで『この作品はレゴを扱った、いわば作中作だよ』というのが説明されている」
カエル「実は複雑な構造のシリーズでもあって……レゴはあくまでも遊びであり、それは現実の世界ではなくて空想や想像の世界である、ということが前提としてあるんだよね。そしてそれが重要な意味を持っていたのが過去作であって……」
亀「実はその先にある『現実の世界』というのが1番大事であるということを示している。つまり、レゴをきっかけに親子の関係改善や、コミュニケーションの手段にして欲しいというメッセージも含んでおるわけじゃな。
そして、ここでジャッキーがお馴染みのコミカルな演技や、まるでピタゴラスイッチのように1つの簡単な行動が次々と連鎖していくというルーブ・ゴールドバーグ・マシ』の活用によって子供も大人も引き込まれる仕掛けじゃ。
おもちゃや遊びを最大限に発揮した引き込みかた……これは子供向け作品として見事なものじゃとわしは思うぞ」
建物などの多くがレゴを用いている
(C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.
設定をさらりと開示
カエル「そのあとで各登場人物の紹介などもさらっと終えていくのがいいよね」
亀「6人組というのは戦隊ものの中でも決して多すぎるわけではないが、個性をつけてそれぞれの味を見せるには少し難のある人数でもある。大体戦隊ものは5人が多いが、これぐらいの方がキャラクター性などがごちゃごちゃすることなく、観客も整理しやすくていいの。
その意味では本作の6人というのは映画としては難しいところがある。もちろん、テレビシリーズを見ておれば問題ないじゃろうが、わしは少し混乱したし、改めて思い浮かべると必要だったのか? と思うキャラクターもいたの」
カエル「まあ、6人全員に見せ場があるわけではないしねぇ。本当はテレビシリーズでも初期は5人だったらしいけれど、あるキャラクターが追加されたから6人になったらしいね」
亀「今作はあくまでもロイドとガーマドンの物語である。それ以外の仲間は、賑やかしとまでは言わんが、まあサブキャラじゃの。
しかしその設定を炎、水、氷、地、雷というわかりやすい属性とともに開示してくれておる」
カエル「この5属性となると、じゃあロイドは? となるけれど……それがこの作品の肝でもあって……それは劇場で観てください!
あ、風ではないよ!」
亀「ガーマドンの息子であることを悩む描写であったり、友情なども見どころのあるものであったが、スタートで敵の襲来とともにロボットに乗ってニンジャシティを守る戦闘シーンなども見応えがあって引き込まれた。
なぜニンジャなのに中国風の世界観なのか? というのは……まあ、突っ込まんでおくか」
カエル「そしてガーマドンと対峙した時に、いかにロイドが辛い過去を送ってきたのか? というのも説明されていて……ああ、うまいなぁ、いいなぁって思いながら見ていたよ!」
亀「本作もやはり親子の象徴としてキャッチボールがキーになっておるのじゃが『誰も教えてくれなかった』という言葉はジンとくるものがあるの。
日本とアメリカ、同じ野球圏の国としてやはりキャッチボールには特別な意味があるからの」
3 実は過酷な物語
カエル「……え? 過酷な物語?」
亀「わしは途中から本作を脳内で実写のように変換しながら見ておったのじゃが……それほどまでに想像力をかきたてられた物語であるが、本作は実は過酷なことを描いている物語でもある。
例えば腕が取れてしまうシーンがあるが……あれは怪我としては非常に重いものじゃ」
カエル「レゴだから柔らかく観れたけれど、実際は戦争映画において手足を失うくらいに重く辛いことなんだよね……」
亀「他にもガーマドンには4つの腕があったりといった描写もそうであるが、本作には身体的な障害者のメタファーを感じさせる部分がある。
そしてそのテーマ性がさらに強くなったのは、ガーマドンによって排斥されてしまった人たちの描写じゃの」
カエル「あれっていかにもアニメ的な描写じゃない? 悪の帝王が使えない自分の部下を火山を爆発させることで追い出す、というのは子供ならゲラゲラ笑うところでもあって、多くの人はそれでおしまいだと思うんだよ。
でも、実はそれで排斥されてしまったキャラクターもいるという当たり前の事実を突きつけていて……」
亀「おそらくあのキャラクターたちは『競争化社会、実力主義社会から排斥されてしまった者たち』の象徴なのであろう。それらが復活して、再び牙をむく……そこには現代社会の落伍者となってしまった者たちの悲哀や恨みという者がこもっておる。
本作はもちろん子供向けの物語である。
しかし、その裏には間違いなく現代社会を揶揄するような描写がたくさん描かれており、社会性、メッセージ性の強い作品に仕上がっておるの」
考えてみるとロイドの設定もかなり重い……
その重さを感じさせないのも見事!
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ヒーロー映画として
カエル「今作はヒーロー映画としても素晴らしい作品だったよね」
亀「最近のヒーロー映画のトレンドというべきテーマは『正義とは何か?』ということにある。
ロイドの父は悪であるガーマドンである。
そして母は正義の味方であった。
その悪と正義の愛によって生まれた子供……それがロイドじゃな」
カエル「考えてみると複雑な状況だよね……どちらにつくかというのもロイドの心持ち1つで変わるというのもさ……」
亀「一昔前であればヒーロー映画における主人公は絶対的に正義だったのかもしれん。しかし、ロイドはその生まれからして正義と悪のどちらにも属する存在として描かれておる。
つまり一方的な悪を断罪するような強さだけでもなく、正義の味方を憎む存在でもないと描かれておるわけじゃな。さらに言ってしまえば悪とされてしまう者たちの悲哀もわかるし、正義や自らを信じるという気持ちもわかる存在である」
カエル「だからこそ、あのラストにつながってくるんだね」
亀「ロイドが本当に純粋なヒーローという存在であれば、あの最終兵器に効くかどうかもわからない攻撃を加えていたであろうし、ガーマドンを排除していたかもしれん。しかし、そのような困難などにおいても諦めない心であったり、相手を信じる思い、説得を続ける行動、それこそが現代のヒーローなのかもしれん。
……余談ではあるがの、今年公開した『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』にも似たような描写がある。
本物のドラえもんと偽物のドラえもんがどちらも『僕が本物だよ』と語りかけてくる。ジャイアンなどはそれに惑わされるのであるが、のび太は『僕にはドラえもんを疑うなんてできない』と言ってどちらも信じるんじゃよ」
カエル「……一方は確実に自分に攻撃してくることが確定している相手なのにね」
亀「それでも信じ続けると誓った、それまでの友情の力を信じた……
それこそが現代のヒーロー像の1つなのじゃろう。
単純に悪を倒しておしまいにしない……悪と称される者も受け入れたり、対話を続ける。
それがレゴシリーズの最大の味なのかもしれん」
カエル「それを理想論だとか、子供向けというのもわかるけれど、でもその理想こそがとても大事であり、しかも子供が生まれて初めてみるかもしれない映画だったら、やっぱりこう言うメッセージ性のある作品を見せたいよね」
亀「物語とは理想であり、願いである、というのがこのブログの基本的な考え方じゃからな。
それから、レゴシリーズは『父と子』の物語が多かったが、今作は『母と子』の関係も見せてくれたことも評価が高いの」
最後に
カエル「もちろん他にも気に入っているシーンもたくさんあって!
中盤の親子の気持ちがわかりあった時に落ち着いた曲が流れるけれど、そのシーンではやっぱり涙腺が緩むんだよ!」
亀「あそこで派手な曲にしなかったことも評価が高いポイントの1つじゃの。それからロイドの能力があれだったのも、無機物であるレゴブロックが生き物をつなぐという意味でも、非常に意義がある作品であった」
カエル「子供向けアニメだ! と言って鑑賞しない人も多いかもしれないけれど、いやいやこれは中々うまくできています!
もちろん子供も大人も誰でも楽しめる間口の広い作品なので、ぜひ劇場へ向かってください!」