カエルくん(以下カエル)
「では、この激戦区の3月1日の幕開けにふさわしい、今年の主役級の映画の1つとも言えるかもしれないシェイプ・オブ・ウォーターの感想記事になります」
主
「デルトロかぁ……パシフィック・リム2の監督から降りちゃったもんなぁ」
カエル「まだ製作総指揮にはいるけれどね。それこそ、どことなくリドリー・スコットみたいなタイプの監督になるのかなぁ?」
主「自分で撮る作品と製作総指揮に回る作品の両方がある監督だよね。それに今のハリウッドではオタク系監督のトップとも言えるかもしれない。
親日家で人気もあるし、日本に来たら中野や秋葉原に行くんでしょ?
本当、筋金入りのこっち側の監督だよね」
カエル「そんな人がハリウッドで高い評価を受けるからわからないもんだよね。
考えてみると日本の映画監督でそこまでアニメなどに影響を受けているオタク系監督ってそんなにいないかも? 庵野秀明だって元々はアニメ監督だからちょっと違うし……」
主「そういう資質がある人はアニメや漫画業界に方に行っちゃうというのもあるのかもしれないけれどね。強いて言うならば……山崎貴が若干アニメっぽい作品も作っている印象だけれど。
これだけ漫画の実写化がありながら、失敗と言われてしまう作品が多いのも、そう言った漫画やアニメの文化に造詣が深いスタッフが少ないのも要因の1つなのかもしれない、となんとなく今思ったよね」
カエル「では、そんな世界を代表するオタク監督の最新作について記事のスタートです!」
作品紹介・あらすじ
『パンズ・ラビリンス』や『パシフィック・リム』などで魅力的な怪獣やクリーチャーを造形してきたギレルモ・デル・トロが監督、脚本、製作を手がけて、ベネチア国際映画祭で金獅子賞を獲得し、アカデミー賞の多数ノミネートなど高い評価を受ける作品。
主演のサリー・ホーキンスがセクシーな姿を披露することでも話題であり、R18指定を回避するためにモザイク処理を行ったことでも賛否が出ている。
(作品自体には大きな影響はない程度)
1962年のアメリカ、政府の研究機関で清掃員として勤務する喋れない女性であるイライザは水中で活動する魚人のような『彼』を目撃する。心惹かれて、少しずつ交流を深めていくのであるが、彼はあくまでも研究対象であるためにひどい扱いを受けてしまう。
その様子に心を痛めたイライザはなんとかして救出してあげたいと奮闘することになるのだが……
1 感想
カエル「では、まずはいつものようにTwitterの短評からスタートです!」
#シェイプオブウォーター
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年3月1日
いやー、いいわー
じんわり沁みてくるお話
自分が大好きなものに近いからこそ愛したくなる傑作!
色気や演出も素晴らしいものの、愛の深さに強く惹かれる作品でした
そんなに深いことは言えないけれどデルトロ、ゲーム好きなのはよくわかったよ
主「いいねぇ……デルトロらしい作品に仕上がっているよ。
本作はアカデミー賞でも主要部門を含めて多くのノミネートを果たしているけれど、それも納得出来る作品に仕上がっている。演出、音楽、演技、脚本、特殊メイクなどに至るまでどれを取っても一級分であり、そのどれもが見事に調和している。
かなり癖はある作品なのは間違いないけれど、でもとりあえず見ておくべき作品には仕上がっているんじゃなかな」
カエル「結構グロテスクな描写であったり、エロチックな部分もあるけれどそこから目を背けることなくしっかりと描いているよね」
主「特にR18から下げるためにあるシーンでボカし処理もされていたりするけれど、それほどまでに過激……というと語弊があるか。でも直接的な性の描写があったりする。でもね、これがまたいい味を出しているんだよ。
あとは何と言っても水の描写がとても美しくて、それが幻想的な世界観をより強化することに成功している」
カエル「他にもタップダンスを披露するシーンとかもあって、エンタメとしての面白さも感じるシーンも多かったかなぁ」
主「グロテスクな描写では思わず目を背けたくなるようなシーンもあるけれど、そそれと同時に幻想的な場面を描くことによって、その魅力が引き立つようになっているね」
彼のお腹の中には何が入っているのかな?
典型的なアメリカ人オタクのような風貌の彼が大好きです!
デル・トロという男
カエル「今回監督を務めたのがデルトロだけれど、有名なのはモンスターに対する愛がとても深くて、しかもオタクということだよね」
主「デルトロは本物のオタクでさ。確かに見た目はあの体型だし、あのお腹の中にはオタク知識が詰まっているんだろうな、と思わせるほどのトトロ体型ではある。だけれど、彼の知識の幅広さはもはやオタクという言葉を超えてインテリの領域へと入っている。
インタビューでも『オタクは2種類いる。エンタメ的な娯楽を楽しむ者と、スタートはそこからだけれど、興味がある分野を次々と調べていくタイプだ。そして僕は後者だ』というようなことを語っていたけれど、確かにその通り。彼の映画を見ているとその幅広い知識に驚かされることも多い。
オタクたるもの、デルトロのようにありたいと強く思うよ」
カエル「日本の作品に深い愛情を抱いている、親日家でも有名だね」
主「これもインタビューで答えていたけれど、今回のクリーチャーには葛飾北斎を参考にしているという。そう言われてみると、確かに浮世絵ってかなりグロテスクだったり、クリーチャーな表現が満ち溢れている要素もあるよね。
それから春画なんてエロチックなだけではなくて、中には『愛と死』についてしっかりと向き合った作品もあって、デルトロの幅広い知識と愛に驚かされる」
カエル「他にも三島由紀夫、江戸川乱歩、小泉八雲などの日本文学者やオスカーワイルド、ヴィクトル・ユゴーなどの世界的な文豪、モネなどの画家であったり、漫画だと楳図かずおや伊藤潤二の名前も上がっていたね」
主「それこそ江戸川乱歩や楳図かずおなどの影響はとても強く感じる。この世界観に近いことを描いてきた、単なる綺麗なだけのお話は作らない作家たちだよね。
もちろん映画やおとぎ話への造詣も深いし、この幅広い知識が交わって生まれる独特な作品たちの魅力が満ちていると言えるだろう」
デルトロが影響を受けた? 作品
カエル「で、この作品を語るときに、色々な作品を比較対象にすることができるわけで……それこそ過去作では『パンズ・ラビリンス』を挙げる人もいるだろうし、作中に登場した映画を挙げる人も多いだろうけれど……」
主「その中で自分が注目するのがこの作品です」
カエル「えっと……映画じゃないよね? PS3で発売されたrainを参考に挙げるの?」
主「この映画に1番にている作品は何か? と訊かれたら、自分は間違いなくrainだと答える。
多くの映画好きが映画からの影響を指摘するだろうけれど、デルトロのオタク知識は特定の分野だけに限定したものではないからね」
カエル「……この見方をするのが自分だけだろう、という差別化も含めての選択だろうけれどさ……
簡単にこのゲームについて説明すると、実はかなり短いゲームでもあって、真面目にプレイすると多分4時間ほどで終わってしまう作品なんだよね」
主「調べたところデルトロがrainについて言及していることは全く見当たらなかった。だけれど、rainってデルトロが映画化に関わっている『ワンダと巨像』や、大好きだと公言している『ICO』と一緒に語られることも多いゲームなんだけれど……多分、デルトロも知っていると思うんだよねぇ」
カエル「全くの憶測です。
本作の最大の特徴は『主人公が透明人間であること』で……プレイヤーも彼がどこにいるのか、全くわからない。だけれど、雨に濡れるとその輪郭が浮かび上がるという独特のゲーム性が話題を呼ぶ作品でもあります。
あとは主人公の少年とヒロインの少女が全くどのような姿をしているのかわからないというのもポイントかなぁ」
主「さらに言えば、独特な造形のモンスターが多く登場する作品でもあり、そして今作の世界観であったり、美術設定、音楽などが非常にシェイプ・オブ・ウォーターに似通っているんだよね。
それから『モンスター(敵)から逃げる作品』という意味でも同じだし、水の情景なども一緒で……しかもラストも真逆だけれど、似通っているんだよ。
どうだろう? デルトロは相当この作品から影響を受けていると思うんだけれどなぁ」
本作の装丁はでも美して惚れ惚れとしてくる……
演出の見どころ
カエル「今回、演出の見どころをあえて挙げるならばどこだと思う?」
主「う〜ん……正直、今回はそこまで深いことは言えそうにない。
なぜこのような演出にしたのか? ということを見抜くことができなかったというのもあるんだけれど……もちろん、幻想的な世界観も見どころの1つではある。
でも、個人的に深く印象に残ったのがカメラワークなんだよ。この作品、ほぼカメラがずっと動きっぱなし。固定カメラで役者の顔を撮ったり、場面を撮るということがあまりない。
それも激しく動くということではないけれど……最初に正面から撮ったと思ったら滑らかに上昇していったりとか、ひっきりなしにカメラが動く。ああ、こういう演出をするんだ……って勉強になったね」
カエル「それから、何といっても役者たちの演技ですよ!
正直に言えば主人公のイライザを演じたサリー・ホーキンスは決して美しい人ではなくて、アメリカならどこにでもいそうなおばちゃんでもある。でも、彼女がとても美しく見えるシーンも多々あるんだよね」
主「今回はヌードを披露するんだけれど、それが全く見苦しくないどころか、美しさすら感じるように撮られている。
彼女がどれほど必死にモンスターである魚人を想っているのか、その美しすぎるほどの愛情にとても強く心を揺さぶられるような映画でもあるね。
でも自分が絶賛したいのは、今回ライバルのような立ち位置になるマイケル・シャノン!
彼の演技が1番の見所ではないか? と思わせるものだった」
カエル「特に後半のシーンは迫力があって……一切目が離すことができなくなっていたね」
主「これだけ顔の演技が素晴らしい映画というのも中々ないよなぁ……と感じたな。
雨が降りしきるシーンがあるけれど、その影響もあって『ブレードランナー』を思い出したほど。あれも顔の演技が素晴らしい映画だけれど、今作もそれに負けないほどの顔を描くことに成功している。
この色気と顔こそが、本作の魅力だと感じたね」
祝! アカデミー賞受賞!
カエル「そしてデルトロは本作にてアメリカアカデミー監督賞と作品賞など4部門での受賞となりました!
これで名実ともにハリウッドの歴史に残る監督であることを証明した形だね!」
主「これはとてもめでたいなぁ……
特にメキシコで怪獣たちを愛し続けた少年が、映画の都でトップの賞を獲得したということ、それだけでもドラマ性があるよね。特にデルトロって多くの映画好きに愛されるキャラクターだからさ、感激の声もすごく大きいね」
カエル「あの見た目からしていかにもアメリカのオタクって人が受賞したからねぇ」
主「でもデルトロはオタクというよりも、深い教養を持ったインテリだと思うけれどね。
これは授賞式の時町山智浩も泣いていたけれど、このようにモンスターが出てくる映画がアカデミー賞に輝いたこと、これに意味がある」
カエル「日本アカデミー賞の『シンゴジラ』もそうだけれど、こういった特撮的要素がある作品はどこか下に見られていることもあって……それが高い評価をされたこと、それが素晴らしいという話だね」
主「実際には、本作はモンスター映画というよりは文芸映画寄りな印象はある。
ただし、本作の受賞によって『モンスター映画は賞レースで評価されない』という固定概念は突破された。それこそマーベル映画であったり、ホラー映画のような……娯楽性の高い作品でも撮り方次第で賞レースに勝てるかもしれないという可能性が出てきた。
もちろん、穿った見方をすればメキシコ系の対する政治的配慮の結果や、究極のマイノリティについて描いて映画でもあり、障害、同性愛などに対する配慮もバッチリという賞レースむけの作品だったこともあるかもしれない。
でも、たとえそうだとしても歴史が変わったこと……これは重要なことだと高く評価したいね」
以下ネタバレあり
2 古い映画への愛
カエル「今回強く感じたのが、古い映画への愛がとても強い作品だったね。作品自体が1960年代という設定で、まだ冷戦中ではあるけれど、その時代やちょっと前の映画がたくさん出てきて……」
主「『某大規模公開ラブロマンス映画』にも見習って欲しかったねぇ。これが白黒映画に対する愛が詰まった作品だったし、その意義もあった。これは白黒映画でないとできない作品でもあるんだよ。
もちろんこの作品自体は色のついたカラー作品であるけれども、作中作は白黒映画である。この2つが相対することによって『現実のカラーと理想の白黒』という対比ができるようになっている。
そう考えると本作は白黒映画に対する憧憬の強い作品でもあって、最近そのような作品を多く鑑賞しているというデルトロの思いがしっかりと出ているね」
カエル「たくさんの映画が登場してけれど、特に本作は『美女と野獣』に対するアンチテーゼを含んでいるという話も印象に残るなぁ」
主「もちろん、それは同感で本作はエログロをしっかりと描き出すことによって、美しいだけじゃない恋愛をしっかりと直視している。こう言っちゃなんだけれど、ディズニーの描く恋愛なんて、おとぎ話の中だけの世界だ。
だけれど、デルトロが描くカラーの世界では恋愛は決して良いものだけではない。
例えば、本作では様々な形の愛が出てくるけれど……それがことごとくうまくいかない」
カエル「それこそイライザは障害を抱えているし、リチャード・ジェンキンス演じるジャイノルズは同性愛者だけれど、その恋愛はうまくいかない。そしてストリックランドの恋も敗れてしまい、ゼルダの夫婦仲も決していいとは言い切れないんだよね」
主「現代の多くの物語、特にアメリカの映画であったらこの手の人たちの恋愛はうまくいくのが普通だ。
同性愛者、障害者、黒人……どれもアメリカでは差別という視点からすると弱者側の描かれ方をすることが多い。ディズニー映画などはどれもこの視点に注意しながらえがいるが、本作では過酷な現実を描くことに注目している」
カエル「その現実と理想の対比と『現実と映画』や『カラーと白黒』に投影したわけだね……」
主「昨年大きな話題になった『ララランド』もそうだけれど、この手の描き方をするとハリウッドは高い評価を下す傾向にある。やはりアカデミー賞の投票する資格を持つ人たちは映画好きだけだし、年配の人も多い。このような映画に対して言及する態度を見せるだけでも、コロリといってしまう部分もあるだろう。
アメリカでの批評家が絶賛する理由の1つにも、この古い映画への言及というのは間違いなくあるだろうね」
サリーホーキンスの演技に惚れ惚れして『世界一の美女』に見えてくる……
現実と夢の物語
カエル「本作の最大の特徴ってどこだと思う?」
主「やはりこの『現実と夢』の対比にあるんじゃないだろうか?
これもいつも語ることで代わり映えしないけれど……映画っていうのは幻想であり、嘘なんだよ。
物語のほとんどは嘘です。だけれど、嘘に価値はないのか? というとそれは違う。嘘だからこそ輝く時もあるし、それはある種の救いにもなる。
最後はあのような結末になったけれど、そこには救いすらあった。過酷な現実では生きていけない魚人ですらも、海の中ならば生きていけるものでもある」
カエル「ある意味ではデルトロらしいオタク賛歌でもあるのかもしれないね」
主「海の中の美しさであったり、自分の理想の世界の中に入っていくこと……そこには救いがある。
本作が示したあれは、またララランドとは違う『映画と現実』の関係性を表現しているんだろうな」
最後に
カエル「今回はかなりあっさりとした記事になりました」
主「う〜ん……語ることが少ないんだよなぁ。
それはある意味では映像に頼った映画的な映画だということもできるかもしれない。自分は細かく何か色々というべきメッセージ性などには気がつかなかったけれど、でも好きか嫌いかで問われるととても好きな映画でもあるんだ」
カエル「本当は深く考察していくともっと色々と出てくるような作品でもあり、他の人の感想や考察記事で『おお……すごい』となることも多いね」
主「自分はあんまり気がつけなかったのがちょっと悔しいけれど……でもとても好きな作品です。
今年の中でも屈指の話題作なので、ぜひ劇場へ向かってはいかがでしょうか?」
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