物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『スリービルボード』感想&考察 なぜ『3枚』の看板なのか? ここに隠された意味とは? 後半ネタバレあり

カエルくん(以下カエル)

「アカデミー賞関連の作品が次々に公開される時期になりました!

 日本でも全作品公開してからだと、もっと盛り上がるんだろうけれど……」

 

ブログ主(以下主)

「まあ、日本で全作品公開される頃には発表もとっくに終わっているんだろうけれどね」

 

カエル「アメリカで1番いい映画を決める賞だから、注目度も高いしもっと興行的に盛り上がると面白いんだけれどね」

主「……う〜ん、アカデミー賞ってアメリカで1番いい映画を決める賞なのか?

カエル「え? そこから疑問なの?」

主「いや、単純な話でさ『良い映画』って色々な基準があるわけじゃない?

 それこそ面白い、泣ける、感動する、倫理的、メッセージ性や社会性が強いとか、いろいろある中で、アカデミー賞というのは『ハリウッド映画界が世界に向けて最も発信したいメッセージを含んだ作品』に贈られる賞なわけですよ。

 で、ハリウッド関係者の9割が民主党支持者層と言われている中で、うがった見方をするとどんな映画がアカデミー賞を受賞するのか、なんとなく想像ができてしまうというね」

 

カエル「……つまらない物の見方をしているわけだね」

主「それでいうと、まだ全然アカデミー賞ノミネート作品を見れていないけれど、本作は作品賞本命だと思う。

 そしてデルトロが監督賞をとって、多分バランスを取るんじゃないかな?」

カエル「……まだほとんど作品も見ていないのにそこまで言いきるとは……

 では、アカデミー賞の中でも最有力候補の呼び声高いスリービルボードの感想記事になります!」

 

 

 

 

 

スリー・ビルボード

 

作品紹介・あらすじ

 

 世界中の映画祭にて最高賞や脚本賞を受賞し、アカデミー賞の作品賞最有力候補の呼び声高い作品。

 舞台などでも高く評価されており、映画デビュー作である『ヒットマンズ・レクイエム』で脚本の賞を獲得し『セブンサイコパス』などでも監督と脚本を務めてきたマーティン・マクドナー監督が本作も監督・製作・脚本を担当する。

 主演はフランシス・マクドーマンドが娘の復讐に燃える母親役を演じており、アカデミー賞主演女優賞にもノミネート、また助演男優賞には署長役のウディ・ハレルソン、

因縁深い警察官役のサム・ロックウェルもノミネートしている。

 

 

 娘が非業の死を遂げたのにもかかわらず、警察の捜査は難航していた。そのことに憤りを覚えた母親のミルドレッドは、街の片隅にある3枚の看板に警察に対する抗議の文章を掲載した。

 それに対して警察や地元住民からの怒りの声もあり、ミルドレッドは徐々に孤立していくことになる。しかし、物語は予想に反する展開へと向かう……

 


『スリー・ビルボード』予告編 | Three Billboards Outside Ebbing, Missouri Trailer

 

 

 

 

 

1 感想

 

カエル「では、いつものようにTwitterの短評からスタートです」

 

 

主「う〜ん……やっぱり個人的には『アカデミー賞』という名前に振り回されてしまった感もある。

 いや、抜群に『上手い』映画ではあるんだよ。

 ただし、うますぎる。

 それが嫌味のようになってしまったようにも感じた部分はあるかなぁ」

カエル「それって映画の見方としてはどうなの?

 歪んでいない?」

主「歪んだ見方だと思うよ。

 本作は確かにとてもつもなくうまくて、しかも見ごたえもある。そしてメッセージ性も豊富であり、確かに『アメリカ映画界の意思』を伝えるアカデミー賞にも相応しい内容である。

 だけれど、それが強すぎて、賞レース狙いのようにすごく見えてくる。ここ近年は差別や偏見を扱った映画がアカデミー賞には非常に強いからね」

 

カエル「う〜ん……それって褒めているの? 貶しているの?」

主「映画としては間違いなく褒める

 完成度は非常に高いし、物語も所々で刺激的なシーンを入れてエンタメ性も確保しながらも、見終わった後は『楽しい』以外の複雑な感情を受けるようにできている。

 確かに褒めるべき映画だし、先進的だし、いい映画なのは間違いない。だから最初に語ったとおり『アカデミー賞』の名前に振り回されているのは観客である自分なわけで……」

カエル「逆に言えばそれほど多くの思いを起こさせるくらいに上手い映画でもあるんだね」

 

セブン・サイコパス(字幕版)

 

マクドナー監督について

 

カエル「このマクドナー監督って、そこまで有名な監督ではないようだけれど……どんな監督なの?」

主「自分のこの映画を観る前にちょっとだけ予習をした程度だけれど、元々イギリスの舞台演劇ではかなりの重鎮らしい。

 そして脚本がとても上手い。

 自分はNetflixに入っていた『セブンサイコパス』だけ鑑賞したけれど、この作品は日本の映画評価サイトではそこまで高評価ってわけではないんだよ。ただし、それはダメな映画というわけではない。

 むしろ、その逆だ」

 

カエル「逆ってことは……とても上手いのに評価が低いって事?」

主「自分の言葉で言うと『不細工な映画』『歪な映画』って似ているようだけれど、全然違う。不細工な映画は単純に『できの悪い映画』と言えるわけで、本来は1→2→3という手順を踏むはずが1→5→2という風に滅茶苦茶なのが不細工な映画(できの悪い映画)だと思う。

 で、マクドナー監督の映画は歪なんだよ。

 つまり手順として、映画としては順当にできているけれど、その方向性がおかしいとでもいうのかな?

 1→Ⅱ→三と間違っていないけれど、やっぱり変というか……」

 

カエル「今作もかなりの重いお話なんだけれど、実はコメディ映画でもあるんだよね。

 まあ、正直笑いどころなのかわからないブラックユーモアばっかりで、僕は劇場ではクスリもしなかったけれど、笑っている人もいたね」

主「この手の映画だったら、もっとシリアスに作るのが王道なのにそうはしないで、しかもアクション映画のような長回しなどもあって、音楽の合わせ方もかなり攻めている。

 それは『セブンサイコパス』も同じで……観客の予想を裏切りながらも、期待は裏切らないとでもいうのかな?

 ただ、セブンサイコパスはちょっとやりすぎたけれど、今作はメッセージ性なども含んでいる分、観客の期待に応えられる映画に仕上がっている」

 

 

マクドナー監督が愛する日本人監督

 

カエル「で、マクドナー監督のフィルモグラフィーを語る上で大事な人って誰なの?」

主「それがこの人!」

 

ラストシーン 北野武

 

カエル「日本が世界に誇る名監督、北野武だね。

 武映画は日本よりもヨーロッパの方が評価されている傾向があって、イギリス人のマクドナー監督がファンなのはわからないでもないけれど……」

主「自分はマクドナー監督のフィルモグラフィーを見ていると、確かに武の影響を強く感じるんだよね。

 かなりのグログロテイストでもあるんだけれど、どこかしら笑えるブラックユーモアを混ぜている部分だったり、その人間味に満ちた物語とか……

 今作の、特にラストシーンなんて武映画ぽいと思わない?

 

カエル「そこは個人の思いだけれど、でもマクドナー監督自身がとても強い影響を受けているって公言しているんだよね。しかも、どの作品が〜ではなくて、その映画全てに影響を受けているというほどで、セブンサイコパスの中でも武映画の『その男、凶暴につき』のワンシーンがそのまま使用されているほどで」

主「その目線で見ると結構発見があるような気がしていてさ……確かにバイオレンスなことをしているんだけれど、どこか馬鹿馬鹿しい部分もあって、でも精神的にガツンとくる描写もある。

 この両者の物語を見比べてみると、見えてくるものは多いと思うよ

 

カエル「脚本が上手い監督がリスペクトする武映画かぁ」

主「セブンサイコパスは明後日の方向に行った気もするけれど、本作はその方向性を明日くらいに調整している。それが現代社会の情勢と見事に合致した結果がこの作品となっている。

 変な話かもしれないけれど、この監督の作品は確かに歪だけれど、すごくうまく作られた歪さであり、脚本も冒険をしているようでもあるけれど、実はとても地に足がついたものでもある。

 この両者が共存する監督もそうそういない。この辺りはネタバレありのパートで後述します。

 この歪みも武っぽいんだけれど……それはとりあえず置いておこうか」

 

 

 

 

2 ミズリー州という場所について

 

カエル「今回の舞台になるのがミズリー州ということだけれど、なぜここを選んだのかな?」

主「アメリカの本当にど真ん中と言ってもいいぐらい、中西部に位置するのがミズリー州である。

 この州は人口、面積ともにそこまで大きすぎもせず、一方で小さすぎるわけでもないんだけれど……実は結構面白いところでもある

 

カエル「野球好きには田口壮が所属していたカージナルスや、野茂が最後に所属したロイヤルズが有名かな」

主「人口比率は白人が8割強と非常に多く、その次が1割ほどを占める黒人、アフリカ系である。まあ、圧倒的に白人ばかりの州の1つでもある。それでも別にこの州が特別多いわけでもないようだけれどね。

 で、面白いのが……ここは大統領選挙の激戦区でもあるんだよ

カエル「大統領選の? 白人が多いと共和党系って印象だけれど……」

 

主「この州は激戦区としても有名で、しかもミズリー州が指名した候補は当選する可能性が非常に高い。先の大統領選でも結果的にはトランプを選んで当選している。

 つまり、極論を言えばこの州の動向というのはアメリカ全体の動きに絡んでくるわけだ

カエル「もちろん他の州も大事だけれど、この州を獲得すれば当選が一気に近づくというデータがあるわけだからね」

主「その政治的にもほぼ中立と言えるような、揺れ動く州を舞台にこの『人間の本性』を描いた作品が制作されたというのも意図があることだろう。

 もちろん、本作は差別や人種問題を取り入れており、それもまたミズリー州では大きな意味を持つ。

 2014年には丸腰の黒人男性が白人の警察官に射殺され、無罪になったことで暴動も発生している。(マイケル・ブラウン射殺事件)」

 

カエル「ああ……この映画とも密接に関係してくるね」

主「そのような土地を舞台に選んだこと、これはとても上手い選択だよね。マクドナーの脚本というのはこういう部分でも光っている」

 

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作中でも印象的な赤い色の看板

(C)2017 Twentieth Century Fox

 

演出の注目点

 

カエル「本作を鑑賞するにあたってどこに注目をすればいいの?」

主「ズバリ『色』の演出です」

カエル「……色?」

主「もちろん刺激的な物語であったり、カメラワークなども注目して欲しいけれど、そういった部分は動の演出だとするならば、この作品の静の演出の見所は色の演出である。

 ここに注目していると、かなり多くの思いが見えてくる。

 それとこれも王道だけれど、やはり光と影の演出。これもいい味を醸し出していた」

カエル「ふむふむ……

 これはネタバレありのパートで再び解説だね!」

 

以下ネタバレあり

 

 

 

3 宗教的な演出について

 

カエル「では、ここからネタバレありで考察といきますが……まずさ、何度も言うけれど、マクドナー監督のどういうところが『脚本が上手い』という根拠になるの?」

主「まあ、これはいつものことではあるけれど、この映画でも重要なところが日本人には伝わっていないような気がしている。

 本作は明確にキリスト教を意識した宗教映画でもあるんだけれど、それを多くの日本人が気がついていないんじゃないかな?

カエル「うちではおなじみの宗教と映画の関係性だね」

 

主「アメリカの……海外の映画を見るときはこの視点があるのとないとでは意味合いが大きく変わることもある。

 例えば本作では『スリービルボード』つまり『3枚の看板』が重要な意味を持っている。では、この3という数字に意味はあるのか?

 もちろんあります! 以前にも話したけれど、3というのはキリスト教では神聖な数字なんだよね。

 三位一体という父(神)と子(信徒)と聖霊の3つを示す数字でもある。また、イエスの誕生の際に訪れたのは東方の3賢者であり、これもやはり3が用いられている」

 

カエル「だから3枚の看板なんだ……確かにちょっと神様に責められているような気がすると、警察も後ろめたさが生まれて嫌がるのもわかるかも……」

主「さらに言えば本作は監督では3作品目の長編映画でもあり、ここでもやはり3が出てくる。あとは主に3人の役者の物語とかね。アカデミー賞も3人の役者が選ぶばれるとか、かなり3に縁の深い映画でもある。ここでこのような宗教的な映画を作ったということは……どうだろう、偶然の可能性もあるけれど、でも自分は狙っていると思う。

 監督は3作目の長編だから『スリービルボード』を製作したんだよ

 

ポスター/スチール写真 A4 パターン1 スリー・ビルボード 光沢プリント

 

 

署長の決断

 

カエル「あんまり直接的に語るのもなんだけれど、この映画では署長はある重要な決意をするよね」

主「あのシーンを考えて欲しいけれど、場所は馬小屋の中であった。

 一般的に馬小屋と言えばキリストが産まれた場所でもある。

 そのような聖なる場所で、署長はある大きな決断をした。その決断もまた賛否が激しくわれるだろうけれど……ここで言いたいのはあの行為は『罪』であることだ。絶対に許される行為ではない。キリスト教では絶対に禁止されている行為を彼はしてしまうんだよ」

 

カエル「あれは難しい決断のシーンだったよね……意外性にも満ちていて、考えさせられるものでもあって……」

主「ここで重要なのは『罪を犯した署長』ということだ。そして、その視点で語るとこの映画は罪人がたくさん出てくる。それこそ主人公のミルドレッドもそうだし、悪徳警官のディクソンもそう。

 どうだろう、名前つきでそれなりの出番がある人で罪を全く犯していないと言える登場人物って……広告業を営むレッドくらいなんじゃないかな?」

 

カエル「小さいジェームズなどもある罪を犯すしね」

主「その人間が裁くことのできない罪について語った映画でもあるんだよ」

 

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この一連のシーンが本当にすごい!

(C)2017 Twentieth Century Fox

 

色の演出

 

カエル「先ほど注目してほしいと語った色の演出だけれど、これはどう意味なの?」

主「本作で1番注目してほしいのは『赤』なんだよね。

 これは印象に残る場面ではかなり多用されていて、例えば看板は赤い背景色に黒い文字で描かれている。この真っ赤な看板がかなり深く印象に残るよね。

 そしてそれは多くの場面で使われていて、例えばミルドレッドの服の色は赤である場合は多い。

 もちろん、この映画における赤は炎の色……つまり自分の娘を焼き殺したことによる、憤怒の色でもある。

 彼女がどれほど強く怒りを持って行動しているのか、というのはこの赤色によってわかるわけだよ」

 

カエル「中盤の見せ場である火事のシーンなどでも、真っ赤な火が燃え上がるのが印象的だったね……」

主「この演出が最も力を発揮したのが後半のシーンだと思っていて……実はさ、後半は赤い色が少ないんだよね。ミルドレッドの衣装も赤がほとんど使われなくなり、映画全体からかなり減らされていた。

 ここで赤い色が消える=憎しみが癒えるということもできる。

 でも、やっぱり全てで消えるわけではない。後半でミルドレッドが真実を告げる手紙を受け取る時に、背景は夕焼けの色になる。これは彼女が怒りを全て捨てたわけではない、という意味になる」

 

カエル「じゃあ、やはり憎む心は失っていないわけだ……」

主「そうだね。でも同時に注目してほしいのはミルドレッドが娘のためにお供えした花なんだよ。

 最初は真っ赤な赤い花だった。これは復讐の感情を抱いていることを表している。だけれど、後半に花を植えるときには色とりどりの花になっているんだよね。ここで彼女がこの事件や担当した警察官たちに複雑な感情を抱いていることを演出で語っているんだ」

 

 

 

 

4 本作のテーマとは?

 

カエル「では、ここからはさらに核心に迫っていくけれど、ズバリこの映画のテーマってなんなの?」

主「もう単純に言ってしまえば『罪と赦し』の映画でもあるんだよ。

 ただし、その罪と赦しは単純なものではない。実はこの映画が語ること、それは『人では裁けない罪を犯した人への赦し』だと思うんだよね」

カエル「また神様が出てくるんだ」

 

主「この映画は何度も語るけれど、宗教的シンボルが印象に残るように、しかしさりげなく使用されている。

 

 『3つ』の言葉で憤怒の炎を燃え上がらせたミルドレッド。

 馬小屋で衝撃の行動であり、最大の罪を犯す署長。

 そしてマイケル・ブラウン射殺事件を連想させるディクソン。

 

 他にも赤い看板に罪を犯したチャーリー、嘘をついたジェームズ、それからミルドレッドの店に勤める黒人女性も罪人である。では、なぜそんな罪人をたくさん出したのか?

 それはこの映画のテーマに直結しているからだ」

 

カエル「それが『罪と赦し』なんだ」

主「そう。神を否定したミルドレッドがその自分の中の怒りに目を向けて、他の人のことを知り、そして赦す……それはもちろん他の人もそうだ。

 キリスト教ではこの映画に出てくる中で最大の罪はやはり署長なんだよ。だけれど、その署長の言葉はより多くの人に響くし、しかも3枚の看板に対しても粋な計らいをする。これは『神を裏切り、そして神を信じる』という矛盾するような行為だとも思った。

 でもさ、それが赦しなんだよね」

 

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この後のシーンも笑いどころなのかもしれないけれど、自分は笑えなかった……

(C)2017 Twentieth Century Fox

 

レッドの存在

 

カエル「この映画で唯一……というと大袈裟だけれど、罪を犯していないと思われるレッド君についてはどう思うの?」

主「先ほども語ったけれど、赤というのはこの映画では重要な色である。

 そしてその赤色を名前にもつ彼は、かわいそうだけれどこの映画ではある重要な役割を果たすことになる。

 それは登場人物たちの怒りを受け止める役だ。だからミルドレッドは半ば脅迫するように看板を使い、そしてディクソンは恐ろしい行動に出た」

 

カエル「ディクソンとレッドが再会するシーンは結構ウルっとくる名シーンだったよねぇ」

主「あのシーンで初めてディクソンは自分の中にある怒りというものと向き合った。彼の最大の欠点は署長も指摘するように短気なところであり、その象徴があの時のレッド君である。

 その憤怒と憤怒がぶつかり合った結果があのレッドと再会した時のディクソンの状態なのである。

 ディクソンはなんと言われたのか?

 『愛すること』についてだったでしょ?

 愛というのは宗教用語です。

 アガペー(神の愛)など宗教でも重要な意味合いを持つ言葉である。これを言われた時に、彼の中で赦しや救いが生まれたんだよね」

 

カエル「罪人が罪人に愛を教える映画……かぁ」

 

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本作の主人公はやはりこの2人ということになるのでしょう

(C)2017 Twentieth Century Fox

 

あのラストシーンについて

 

カエル「じゃあさ、あのラストシーンはどう解釈する?」

主「あれで終わるとは思わなかったからちょっと気を抜いていたところもあるんだけれど、記憶が正しければあのシーンで赤い色がなかったんだよね。

 だから、この映画はあのラストではあるけれど、やはり憤怒に彩られた彼らの思いは救われたんじゃないかな?

 途中で『光の演出が大事』って語ったけれど、この映画のミルドレッドの影に注目すると彼女がどのような存在かよくわかると思う。だけれど、その影が最後はなくなって、赤もなくなった。

 それがこの映画の最大の答えなんじゃないかな?」

カエル「感動的なラストだね……」

 

主「この映画が重要な意味あいをもたらすものとして、警察官のバッジがある。中盤でディクソンはバッジをなくすけれど、ある瞬間にバッジを見つける。その時、彼は再び警察官に戻ったのだろう。

 そして、そんな彼に辛い通告をした存在が黒人だけれど、この人は確かに罪のない善人として描かれている。ここは『差別主義者の白人を黒人が排除する』というエンタメ性や快楽性を込められてもいるけれど、それだけじゃない。

 今のアメリカで最も重要な話題の1つでもある差別。それがこの映画の根底に重要な意味を与える」

 

カエル「もちろんブラウン事件もあるとは思うけれど……」

主「この映画において『差別主義者の白人』が準主役のように扱われたのは、この罪と赦しのテーマをアメリカ人全体に届けたかったからだよね。

 彼はあのラストシーンの後、また罪を犯すかもしれないし、犯さないかもしれない。でもそんな彼らでも、赦しの時はあるんだよ。

 これは今のアメリカ人……特に時として差別をしてしまった白人などの社会的強者の人種に対する赦しと祈りでもある

 

カエル「『悔い改めよ、神の国は近づいた』か……」

主「本作は人間の弱さを愛しながらも、その弱さに癒しを……赦しを与えた映画なんだよ」

 

 

 

 

最後に〜ここまで褒めておきながら〜

 

カエル「あれ? でもさ、なんかこの内容だと大絶賛じゃない?

 だってここまで批判ポイント1つもないじゃない?」

主「だからめちゃくちゃ上手い映画だって言っているの。もちろん嫌いなわけじゃない。

 ただ、このうまさが鼻についただけ

カエル「え〜? ここまで書いておきながらまだ文句を言うの?」

 

主「やっぱりさ、その技術を見せつけすぎなんだよね。

 もっと隙がないと! まあ、アメリカ人にはブラックユーモアもあってそれが隙になるのかもしれないけれど、自分はブラックユーモアとして受け止められなかったし。

 あとはさ、やっぱりアカデミー賞ノミネート作品という思いもあるかも……わざわざ小さい人まで用意して、多様性などをアピールしまくったのが鼻についたかな」

カエル「……個人的な思い? ここまで書いたことって過去に大絶賛した『聲の形』とかとそこまで変わらないのに……」

 

主「でもさ、ここまで言っておきながらなんだけれど、自分はこの作品がアカデミー賞を受賞したら喜ぶと思う。

 それだけの作品だし。

 今のアメリカ映画界が全世界へのメッセージとしてこれほどふさわしい映画もそうそうないよ」

カエル「他の映画も早く見てみたいね、というところで今回の記事を終えます」

 

 

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