亀爺(以下亀)
「ようやくゴジラ以外の記事を書く気になったか……長かったの」
ブログ主(以下主)
「……今週も見に行こうかなぁ、と思いつつ、夏休みもあって何かと出費も激しいからやめておいた。今月は見たい映画もすごく多いからなぁ」
亀「ゴジラが終わったと思ったらアニメ映画が続くからの……」
主「好きだから別にいいけどね。今回はその中でも、日本製CGアニメーションの新作を取り上げていくよ」
亀「……しかし、やはり猫は人気じゃの。亀が主役の作品もあるにはあるが、猫や犬ほど多くはないじゃろう」
主「地上を歩き回れる、人間の相棒だからね。子供向け映画の題材としてもうってつけでしょう」
亀「……亀が見たいのぉ……ワシが無料で出演するぞ?」
主「……次のジブリの新作が亀の話らしいから、そこまで待ってなよ」
亀「ちなみに今回は原作未見状態での鑑賞になるぞ!」
ルドルフとイッパイアッテナ 映画ノベライズ (講談社青い鳥文庫)
- 作者: 加藤陽一,桜木日向,斉藤洋
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/06/09
- メディア: 新書
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1 日本のCGアニメーションについて
亀「主は昨年も『GAMBA ガンバと仲間たち』を見に行っておったが、やはり日本のCGアニメの現状については気になるものかの??」
主「気になるね。どうしてもこの分野はピクサーが先駆者ということもあって、ディズニーを含めたアメリカが本場なのは否定できない。手書きや、テレビアニメの質については日本はまだまだ負けていないけれど、CG技術に関しては劣っていると言えるよね。
だけど、それで諦めるというのも変な話だからさ、アメリカとは違う方向性においてCGを作るということも重要だと思う。
その中でセルルックという手法もあり、そして今回みたいなピクサーのような手法もあって、これからどのように進化していくのか楽しみだね」
亀「では、少し技術的な感想もしようかの。どうしても今年公開の『ズートピア』や『ドリー』と比べることになってしまうが……」
主「やっぱりCG技術としては劣るよね。それはもう仕方ない。かける金額も違うしさ、向こうは世界規模でやっているけれど、日本はそこまでの体力はないし。
人間の描写は違和感があったけれど、これはもう日本の手書きアニメに慣れてしまったら仕方ないことかもね。
肝心のネコに関してはすごくよかったと思う。リアルなネコの動きも出ていたし、少しデフォルメ化して人間のように振る舞う場面もあったけれど、そこもアニメらしくて良かった。子供は好きなんじゃないかな?
あとは図鑑を読むシーンだとか、氷のシーンとかはいい絵だったよ。ここはすごく見れて良かったな」
声優について
亀「今回も芸能人声優がたくさんいるし、さらに共演相手が大塚明夫や水樹奈々という中で、浮いてしまう懸念があったと思うが……全体的に良かったの」
主「今回はほとんど文句ないかな。元々CGアニメーションだからピクサー等で見慣れていることもあるだろうけれど、上手かったよ。
主役のルドルフを演じた井上真央と、イッパイアッテナ役の鈴木亮平は違和感がなかった。特に鈴木亮平は声質だけなら中村悠一に似ていて、少し面白かったね」
亀「今回、その二人の演じる役はそこまで感情の揺れ幅もなく、比較的演じやすいものだと思うが、それを引いても良かったの」
主「一番難しいのが八嶋智人が演じたブッチだな。コメディもシリアスも演じなければいけないし、軽薄さの中にも魅力を感じさせる演技が必要になると思うけれど、実績もある八嶋智人だから全く問題なし。もちろん古田新太もね。
その他にもおや? と思うシーンも特になかったし、そこは安心してみていられる」
亀「全体的には子供向け映画として評価は高いじゃろうな」
主「そうだね。ここからはさらにネタバレを含めた突っ込んだとこを書いていくけれど、見に行くか迷っている人はとりあえず見に行った方がいいね。シンゴジラと違って、子供受けするか? という点に関しては大丈夫と太鼓判を押せるし」
以下ネタバレあり
2 前半について
亀「今回はこの手の映画は短い時間に収めるために序盤に走ることも多いが、あまりその雰囲気はなかったの」
主「結構テンポはいいけれど、『早い早い!!』というテンポではなかったね。子供の集中力に合わせて短い時間にまとめなければいけない分、どうしても後半に力を割きたいから前半が犠牲になる部分も多いけれど、今回はその印象はないかな。
まあ、首輪くらいつけとけよとは思ったけれど……」
亀「まずはルドルフが外に出て、トラックに乗ってしまうところから始まるが、少し無理矢理ながらもアクションも多くて、スタートとしてはまずまずだったのではないかの?」
主「結構サクサクと話が進むからさ、意外と予告編で見た部分は大体……45分くらいかな? で消化しちゃうよね。ここは意外だった」
亀「早くルドルフとイッパイアッテナを会わせたいこともあったんじゃろうし、このふたりがバディとして様々な挑戦をクリアしていく様を描くのじゃから、この判断は正しかったの。ここを長々と撮っても仕方なかろう」
中盤について
主「中盤はなぁ……結構厳しい評価になるかもしれない」
亀「ほう? それではその理由を書いていってほしいの」
主「まずさ、ネコが文字を習うという設定自体はいいよ。これは原作もそうなんだろうし、その嘘は許される。
だけどさ、その文字を習うことを勧めるイッパイアッテナの言葉が固いんだよね。
例えばさ、自分の家がわからなくなってルドルフに対して『何県何市というところに意味がある』という言葉自体は正解なんだけど、それはセリフとしてはどうなの? ってなるよね。
それから文字を覚えるということは勉強する大切さを教えているけれど、それが言葉とか思考が固いから、勉強の嫌な面が出ていると思う。子供の頃は勉強なんて嫌々やる子の方が大半だからさ、もうちょっと『楽しく』ということを強調しても良かったんじゃないかな?」
亀「イッパイアッテナのキャラクター自体はいいのじゃが、大人として描くにあたり教師のような硬さが全体的に出てしまった印象はあるの」
主「あとは原作もあるから仕方ないんだろうけれど、敵であるデビルとの対決だよね。ルドルフの目的……勝利条件は『家に帰ること』であって、デビルはどうでもいい相手なんだよ。
敵討ちに行くのはわかるけれど、それは目的と一切関係ないからさ、イッパイアッテナの決死の思いも裏切るような気がしてきて、すごく気になった。多分、原作はしっかりとそこいら辺も描かれていて、気にならない作り……というか、目的が『帰ること』ではなくて、『イッパイアッテナと暮らすこと』に変化するように出来ているんだと思う。
でも本作は時間の都合もあるとはいえ、初めから帰ることが目的なんだからさ、デビルがバスの前にいるならともかく、勝っても負けても意味のないデビルとの対決はやめて、早く帰りなよって思った」
脚本構成について
主「脚本構成自体は問題ないんだけどな。ディズニーのように、13フェイズ構造もしっかりとしてあったし」
亀「そうじゃな。『日常』があって、『事件』が起きて東京に来て、帰ろうという『決意』があって、でも帰れない『苦境』、イッパイアッテナの『助け』、『成長』があって、帰る手段が見つかる『転換』があって、デビルとの対決という『試練』があって、帰れない『破滅』、新しく帰る手段を見つける『契機』、トラックを乗りつぐ『対決(挑戦)』と帰る『排除(達成)』、そして家にたどり着く『満足』
脚本構成自体は本当にお手本通りで、ディズニーやピクサーとほとんど同じ流れに沿っているの」
主「ただ、どうにも面白くなりそうでもう一歩感があるんだよねぇ……もう一声なんかないとさ、難しいよねって言わせるものがね」
亀「時間が短いし、原作もあるとは言え、もう少し予定調和ではない、先の読めない展開か、派手な演出をすればよかったの。惜しいもんじゃわい」
主「湯山邦彦監督はポケモンシリーズもたくさん手がけているし、ベテランなことに加えてそこいら辺の手腕も熟知していると思ったけれどな……最新作のポケモンがよかっただけに、本当に惜しいことをしたよ。
制作会社のあれこれだとか、時間の都合とか外部スポンサーの意向とか、色々あったんだろうね。いかに湯山監督でも、その声には逆らえなかったか……
……と、思っていたよね。正直」
亀「……完全に裏切られたの」
主「本当に、鮮やかに騙された!!」
3 後半について
主「普通に考えたらさ、この手の映画は家に帰った『めでたし』でおしまいなんだよ。だって、そこがゴールなんだから。目的を達成したらおしまいでしょ?
スターウォーズで帝国を倒したら『良かったね』、インディー・ジョーンズで脱出したら『おしまい』……それが普通じゃない?
『えらい早く感じたけれど、これでおしまいか……』と思ったところにあのラストだよ!!」
亀「映画における興奮ポイントとして『一瞬で意味が変わる』ということがあるが、今回はまさしくそれじゃの。
この作品で一貫しておったルドルフの目的は『家に帰ること』じゃった。じゃが、帰ってみると『そこに居場所はなかった』ということになる。
つまり、この瞬間おいて今までの物語が全て覆されてしまうということじゃ!!」
主「さらに言えば、ルドルフの意味も変わる。
ルドルフという名前を持つ猫は=家を探す猫、家猫の象徴だったわけだ。小さな世界にいる猫と言ってもいい。
そしてイッパイアッテナというのは=飼い主を探す猫、野良猫の象徴だった。
これがあの場面を迎えた瞬間に、ルドルフはイッパイアッテナに変化するんだよ!! そのキャラクターが持つ意味すら変わってしまうわけ!!」
亀「むしろこの展開を生かすのであれば、その前の展開はチープであればより良いわけじゃ。その中盤が壮大なダレ場であり、しかも『子供向け』で、今まで『想定内の物語』だったことがこちらに大きな隙や油断を生むわけじゃな。
その効果は本当に大きかったの。飼い主との絆、そして飼い主を思うからこそ、身を引く旧ルドルフに涙を流すわけじゃ。この部分に関しては本当にうまい!!」
主「多分、あのままあの家にいても飼ってはくれたと思う。まさか保健所に連れて行くとかはないだろうし。でもさ、そこで身を引いて、イッパイアッテナの元へと向かうからこそこちらは感動するんだよね。
まあ、そのあとのイッパイアッテナの主人が帰ってきたり、イッパイアッテナがいる場面というのはご都合主義と言えばそうだけど、でもそれくらいは全然構わないと思うけどね」
4 ここから評論
亀「さて、では最後に評論パートに入るが……ここまで『上手い』映画とは全く思っておらんかったの。湯山監督ごめんなさいという感じじゃ」
主「特にこのブログのように、『構造が〜』とか『このキャラクターの意味が〜』『上手い下手を考えると〜』という能書きを垂れるタイプの観客には、一番効果あったと思う。
その点においても完敗だよ。素晴らしい作品を作ってくれた。色々な人に見て欲しいね!」
亀「しかし、なぜ湯山監督はこのような作品を作ったのかの?」
主「……ここからは完全に憶測による……妄想話になるんだけどさ、湯山監督の最新作のポケモン映画を『初代ゴジラだ!』と評論した自分からすると、これもまた意味がある挑戦だと思うんだよね」
亀「ほう……」
主「まずさ、わざわざ『ペット』と合わせるようにぶつけてきた。これはゴジラの一週前に公開したポケモンと同じ。そして、ペットはピクサーではないけれど、やっぱりアメリカのCGアニメ映画なんだよね……
だからさ、多分、これもまた挑戦状なんだよ。ペットとか、アメリカのアニメ映画に対する挑戦状」
亀「……戦わせるのが好きな主じゃな」
主「そう考えると、これだけアメリカのアニメ映画の技術で生まれた脚本の形に沿った物語にしたのも納得がいくんだよね。
アメリカだったら『家に帰りました、終わり』というのが普通だと思う。そりゃそうだよ、それがスタートからの目的なんだもん。ラストにおいて、目的を覆すような真似は普通はしない。
だからアメリカのアニメ映画って面白いけれど、先が読めるんだよね。『上手い!』とは思うけれど、それはテーマとか技術、練り込みの上手さであって、物語的な新境地に達しようとする『もがき』の末の『すごさ』ではない」
亀「個人の感想じゃ」
主「前もズートピアの時に語ったけれど、アメリカのやり方だと『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』も、『傷物語 I 鉄血篇』も作れないと思う。まあ、作る意味もないと思うけれど。やりたいことの方向性も違うしね。
だからズートピアもそうだけど、抜群に上手いのよ。それまでの技術と理論に裏打ちされた作品が出てくるから。これほど上手く映画を……物語を作る集団は世界にない。上手さ勝負をしても、日本に勝ち目なんかないよ、多分」
亀「ハズレはしないの。それもまた企業では大切なことじゃが」
主「もちろん、それは非難することじゃない。むしろ称賛することだ。
でも、日本は……特に今回のルドルフとイッパイアッテナに関しては、その技術の先に行こうという気概を感じたんだよね。日本らしいアニメを作ろう、アメリカとは違うものを作ろうっていうさ。
だから、今回この作品を選んだこと……そして、この作品で描くべきことは大成功だと思う。
しかも、大人には『ペットの命の重さ』というテーマを問いかけているわけじゃない。完璧だと思うよ」
亀「どこまで計算通りなのか、それとも単なる偶然なのかは全くわからんがな。
もともと原作と同じ終わり方でもあるしの」
主「まあ、いつものごとく深読みなんで。妄想と言ってもいいけれどさ」
最後に
主「しかし、これであれだね。また湯山監督によって『ペット』に対するハードルが上がってしまった」
亀「しかし、ポケモンで上がったシン・ゴジラのハードルも、むしろハードルごと粉砕されてしまったからの……さて、次はどうなるものか……」
主「そういえばさ、TOHOシネマズでルドルフとイッパイアッテナとゴジラがコラボしているじゃん。ロゴが映るやつ。あれってさ、今にしてみるとルドルフ達の絶望感が足りないよね。あんなに軽い逃げ方でどうにかなるものじゃないじゃん、シンゴジラって。
もちろん、ルドルフ達のコミカルな要素も入れたかっただろうし、情報が一切出回らなかったのもわかるけれどさ、それでも……」
亀「……もうゴジラの話題は終わりじゃ!! いい加減にせんか!!」
今週のお題「映画の夏」