物語る亀

ネタバレありの物語批評

映画『TAP THE LAST SHOW』感想 水谷豊のやりたいことは確かに素晴らしい!

カエルくん(以下カエル)

「さて、水谷豊の最新作のお話だけど……」

 

ブログ主(以下主)

「水谷豊って世代によって印象が変わる俳優の典型だよねぇ」

 

カエル「それ、よく言うよね。今の若い世代は右京さんのような落ち着いたインテリのイメージだけど、年配の人は若い頃の水谷豊を知っているから、今のイメージがびっくりだ……という話もよく聞くよね」

主「方針転換を上手くすることができたというのか、1つのキャラクターのイメージに引っ張られすぎているというのかは難しいところだな

カエル「……ちなみに主のイメージは?」

主「……あんまり印象にないんだよねぇ。相棒も全く見たことないし、考えてみたら水谷豊を意識して映画を見るのは初めてかもしれない。実は映画だと相棒を除くと、近年は特にそんなにコンスタントに出演していないんだよ。まあ、相棒やら舞台やらが忙しんだろうけれど」

 

カエル「偉大なテレビドラマシリーズだもんね。今作もテレ朝がバックについていたりして、水谷豊に対して足を向けて寝られないという噂も聞いたけれど、それも本当なんだろうね」

主「しかも本作は監督も務めるし、並々ならぬ気合を入れて作っているらしいからね……

 というわけで、本作の感想をスタートしよう」

 

 

 

 

 

 

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(C)2017 TAP Film Partners

 

 

1 はっきりとした長所と短所

 

カエル「この作品ってなんというか……いい部分と悪い部分がはっきりした作品だよね

主「惜しいなぁって思うよ。ポテンシャルだけで言ったら『セッション』を超える可能性があった作品だと思う。

 本作を例えるならば『セッション』+『SING』なんだけれど、それがうまい具合に絡まることができていない。味としたら2つの悪いところがそのまま出てきてしまい、いい部分はちょっと隠れてしまった印象がある

カエル「TAPダンスのシーンは素晴らしくいいんだけどさ……それ以外の部分がね……」

 

主「はっきりと言ってしまえばドラマパートは本当に酷い。

 何度も頭を抱えたし、何をしたいんだ? って言葉にでてしまったほど。1部は確かに意味のある演出、面白みのある脚本などもあったけれど、基本的に邦画のダメな部分がすごく詰め込まれていた。

 何がダメかというと、もう全部がダメ。脚本、演出、カメラワーク、役者の演技も含めて全部。ドラマパートだけ抜き取ったらこの映画はダメ邦画だと言ってしまってもいい

カエル「……ここまではっきりというのは中々珍しいかも……」

主「だけど、それをカバーしてしまえるくらいにTAPダンスが素晴らしいんだよ!

 本作では練習も含めておそらく……4、50分はダンスシーンがあるけれど、そこはもう圧巻の出来! ラストの24分の衝撃と言われているけれど、ここは確かに見る価値があるんだよ。ちょっと見せ方に文句もあるんだけど、ここだけで1800円の価値はあったかもしれない。

 だからこそドラマパートの出来の悪さがはっきりと出てしまってさ……ここで足を引っ張らなかったら、この先品は今年NO,1の大傑作邦画になれたかもしれない! それくらいのポテンシャルを感じたんだよ」

 

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本作の渋い水谷豊

(C)2017 TAP Film Partners

 

 

ドラマパートについて

 

カエル「じゃあ、何がそんなに酷いの?」

主「まずは演技がすごく軽いんだよ。まるで舞台を見ているからのようにハキハキと喋り、オーバーなリアクションをしてしまう。それは舞台ならば違和感が働かないし、それで観客を別世界に導くものではあるんだけれど、映画の……カメラのレンズ越しでさらに今作のような作風だと演技が派手すぎる。

 それはタップダンサーだけではなくて、六平直政などもそう。あんな人いる? いたとしても、ちょっと演技臭すぎるんだよ。岸部一徳は他と比べてはまだ抑えられていたけれど、やっぱり演技っぽい。みんな台本を読んでいることが伝わって来る演技で……次の瞬間に相手が何を話すのか、全てわかりきっている演技なの。

 だからリアリティがない。唯一水谷豊だけはいいんだけど、鑑賞中に『この作品は全て水谷豊を引き立てるためにあるのか?』って疑ったほどなんだよね」

 

カエル「結構厳しいことを……」

主「多分、最近ずっとテレビドラマや舞台をやっていたことの影響なんじゃないかな? 逆に自分はドラマや舞台を見ないから、この演技の差にすごく違和感があった。

 よく言えばわかりやすい演技なんだよ。派手に泣いてくれる、派手に怒ってくれるからさ、誰にでもすぐに伝わる。だけどそんなことをしてしまうせいで、観客の想像する余地を奪ってしまう。

 そしてそれが1番でていたのは脚本なんだよ

カエル「結構ゴチャゴチャしていた印象かなぁ……」

 

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オーディション、練習のシーンからタップダンスの見ごたえあり!

(C)2017 TAP Film Partners

 

脚本について

 

主「先ほど今作は『セッション』と『SING』だと言ったけれど、この2作のテーマは全然違う。セッションはジャズにとりつかれた狂気の師弟の物語であり、SINGは劇場を救うために起死回生の売れていないミュージシャンを集める群像劇になっている。

 セッションは2人だけの関係に視点を寄せて、それ以外の人はほとんど出てこない。SINGはテーマや設定は抜群にいいけれど、物語の展開が若干雑に感じられる部分もあり、群像劇としてはそこまで上手いわけではない。でもどちらも傑作だよ。

 で、本作はその2作のテーマ、つまり『師弟の物語』『群像劇』の両方を入れようとしてはっきりと失敗してしまった

 

カエル「1人1人はちゃんと出ているけれど、圧倒的なカタルシスはないよねぇ」

主「それぞれの事情を抱えるダンサーを出すのはいいんだけど、そのせいで渡部とMAKOTOの2人の関係性が弱まってしまっている印象があるし、しかもなんでもかんでも説明しすぎなんだよ! 全員を同じような比重で描きすぎている。

 じゃあその悩みがリンクするのか? タップダンスに集約するのかというと、そうでもない。確かにそれぞれの悩みは重いけれど、別にタップダンス限定の悩みでもないものが多い。それこそ舞台役者だろうが、バンドマンだろうが、チアダンスだろうが、スポーツ選手だろうが多分本作は成立してくるんじゃないかな?

 夢を追うことのリスクってどの表現でも同じだから

 

カエル「群像劇って1人1人の物語が結実し、それぞれの思いが重なってリンクしていき、大きな味を生み出すときが魅力だと思うけれど、それがバラバラで問題を解決してもタップダンスにも他の人物にも影響を与えないんだよねぇ……

 これで『他の仲間のおかげで!』とか『あのトラブルを乗り越えたから!』ということがあればまだ話は変わるのかもしれないけれど……」

「結局それぞれの事情を説明して、それを個別に解決して、最後は大団円! というのが工夫がないなって思いがある。

 あとは脚本が全てを説明してくれているけれど、圧倒的に説明過多なんだよ。それは演出にしてもそうなんだけれど、今がどういう状況か全てはっきりと説明してくれる。想像する余地を奪う脚本は邦画の特徴だけど、本作はもうこれでもか! と言うほどに活用されていてすごく鼻についた。

 特別いいセリフもなかったし……なんだかなぁって印象かな

 

以下作中に言及あり

 

 

 

 

2 輝いた点

 

カエル「ここまでは悪かったばっかり話したけれど、でも全部が悪かったわけではないんでしょ?

主「そう! 工夫されているなぁって演出もそれなりにあったのは面白くてさ。作中でおっさん3人が乗りまわす車が……自分は車に詳しくないけれど、昔のスポーツカーみたいなんだよね。オープンカーでさ。そこだけでこの3人が『昔の思い出の中を生きている』というのがすごく伝わってくる。

 あとは岸辺一徳と水谷豊が東京タワーを挟んで正面を向きながら会話をするシーンがあるけれど、ここも絵面だけは本当に良かった! 今時ならばスカイツリーを使うと思うんだよ。だけど、東京タワーを選んだというのがポイントで、今となっては少し古い東京の象徴でもあるけれど、スカイツリーが現代の若者、平成の象徴だとすると、東京タワーはおじさんの、昭和の象徴だよね。

 そこを間に挟んでの会話というのがすごく良かった」

 

カエル「そしてタップダンスのシーンは迫力満点で!

主「今回は役者の演技力よりもタップの上手い下手を基準に選んだらしいけれど、それがまさに生きた映画だったよ。

 むしろタップダンスのシーンだけを再編集して50分くらい? にまとめてくれたら自分はまた見に行くくらい! 今まで色々な映画でタップダンスが描かれてきただろうけれど、本作の迫力は多分どんな作品にも負けていない。

 正直に言えば映画監督としての水谷豊の演出やカット割りなどは疑問がすごく多くて、安っぽいドラマの映画になったなぁという印象だけど、このラストやりたいという『舞台人、役者としての水谷豊』の才能はしっかりと感じたね」

 

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圧巻のダンスシーンがあなたを待っている!

(C)2017 TAP Film Partners

 

素晴らしいタップダンスだからこそ……

 

カエル「あれ? でもそのタップダンスのシーンでも文句があるの?

主「あるよ!

 あのラストのタップダンスのシーンは確かに素晴らしいんだよ! もうそこだけ抜き取ってずっと見ていたいレベルでさ! でも、そこで中途半端なドラマパートは絡んできて、一々ドラマが入ってきたり、それまでのキャラクターがなんだかんだと口を出すのが興ざめだったんだよ。

 素晴らしいタップダンスだからこそ、ずっとそれを見ていたかったという思いがあった。ドラマとして挿入して良かったのも……MIKAのお話だけかなぁ。あとはもうほとんどいらない」

 

カエル「タップダンスの見せ方が……って話だね」

主「これは水谷豊にはっきりと言いたいけれど、この作品を見に来たお客さんはタップダンスを見に来ているわけであって、別にタップダンスを見ている観客を見たいわけじゃない。

 素晴らしい舞台を、素晴らしいダンスを見ている時に、周囲の観客を気にする? 舞台上のキャストだけに集中するでしょ? 一々観客をチラチラと見ていたら興ざめじゃない?

 だけどこの映画はそれをやってしまうんだよ……別にいいよ、観客がどう思ったかというのはどうでもいい。涙を流すシーンとかいらない。

 タップダンスを見せてくれ!

 圧倒的な完成度のタップダンスを!

 それだけのものなんだよ! このシーンはうまくやれば『セッション』も超えたかもしれないくらいの高揚感なんだよ! それがこんな形になってしまったのは……本当に残念だよ」

 

カエル「『セッション』も舞台上にカメラは向けられているけれど、観客は映さないよね」

主「あとはダンスのラストがなぁ……あれが相当のリスクの高いものだというのはわかるし、撮影が難しかったのはわかるけれど、あのような撮影方法になってしまったのがすごく残念で……結果的にはほとんど見せていないのと同じだしね、あれ。

 その前のダンスシーンが最高に良かったからこそ、演出やカメラワーク、語りすぎな脚本の粗が目立ってしまったなぁ

 

 

 

最後に

 

カエル「結構ちぐはぐな印象を持った部分が最後に救済されるということもあったかな」

主「MIKAがすっごいお嬢様なんだけれど、家は洋風なのに両親は和風趣味で、今時和服で過ごしているんだよね。このチグハグさは一体なんだ? ってここも減点対象だったけれど、タップダンスを見て納得がいった。海外生まれのタップダンスという洋のものと、和風の融合で生まれる新たな味はすごくよかった。

 本当、タップダンスは文句が一切ないんだよねぇ……

 

カエル「あとはあのラストもちょっと語りすぎだよねぇ。あれは途中の六平直政のシーンは無しにして、あのラストシーンだけにしても観客は意味が通じると思うし、その方が余韻が残るんじゃないかな?」

主「結局は語りすぎなんだよなぁ……ただMAKOTOと渡部の関係性について最後まで語らなかったのはよかったよ。あれって、多分そういうことなんでしょ?」

カエル「……うん? どういうこと?」

主「渡部がMAKOTOがお気に入りだった理由がはっきりとあったんじゃないかなぁ? それは自分に似ているとか、そういう理由じゃなくて、もっとわかりやすいものがさ。でもそれはほとんど語らない。

 もしかしたら語りまくることによってその設定を濁して隠したのかもね

 

カエル「え? どういうこと?」

主「さて、語りすぎる前に終わりにしますかぁ」

カエル「え? これで終わり!? どういうことなの!? ちょっと、え? え〜〜……」

 

 

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