物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『スポットライト 世紀のスクープ』感想(レビュー) 神との戦い

 アカデミー賞作品賞、脚本賞を受賞した『スポットライト 世紀のスクープ』を鑑賞したのでその感想などを。

 とりあえず、いつもの一言感想を

 日本人にはわかりにくい感覚だよなぁ……

 

 

 1 マスコミと教会

 マスコミは第四の権力と呼ばれるほどに、大きな力を持っている。例えばここ最近の週刊文春がその際たるものであり、政治家、芸能人、企業家なども次々と槍玉に挙げている。

 そのやり口などに賛否はあるものの、対象が公権力の場合に関しては浄化作用があることもまた事実であり、その社会的存在価値というものは非常に大きいものになっている。

 

 この作品は教会という何千年にも及ぶ世界屈指の強大な権力を相手にしたマスコミの奮闘を描いた戦いである。つまりマスコミの相手は芸能人や首相などとわけが違う、神の僕であり、まさしく神に仇なす行為である。直接神の批判をするわけではないが、場合によってはそれに近いことになってしまう。

 日本においては大手芸能事務所すら批判することは難しく、下手に批判をしたらファンからも問題視されるだろうが、この件に関してはそんなレベルではない。日本で例えるならば皇室批判に近いか、もしくはそれ以上かもしれない。

 

 そしてこの問題をややこしくしているのが、新聞の定期購読者の53%がカトリックであり、そう考えると教会もまた大口のスポンサーだということだ。それを報道するということはどれほどリスクがあることなのか。非常に大きな問題であるが、それだけに扱いは慎重にならざるを得ない。

 これだけの大きな出来事だということを認識しているか否かによってこの物語の見方は変わってくるだろう。

 

 

2 主人公不在の作品

 さて、この作品が始まった直後にやらなければならないのが『感情移入をする相手を探す作業』簡単に言うならば主人公を探さなければならない。では誰が主役なのだろうかと探すのだが……

 

 主役がいない!!

 

 この話を見ていくと基本的にマスコミが味方サイドというのはわかるのだが、特定の個人となると主役らしい人物というのは見当たらない。強いて言うならば比較的若めの男性記者のマイク(マーク・ラファロ)か渋いおじさん男性記者のロビー(マイケル・キートン)なのだが、では主人公らしい注目を集めているかというと……う〜ん……

 確かにマイクが奮闘する様もあるし、ロビーとぶつかる描写もあるのだが、特別話の中心にいる感もない。

 

 では私は新局長のマーティ(リーヴ・シュレイバー)が主役になるのかと期待していたが……確かに切れ者ではあったものの明らかに主役ではない。

 本作の目的というのは教会の闇を暴いたマスコミを追うということであり、明確な主人公を使って追うことではない。むしろ明確な主人公に感情移入されることを嫌ったのだろう。この独特な脚本構成が評価され、アカデミー賞の脚本賞を獲得したのであれば、理解できなくもない。群像劇は作るのも難しいから。

 だが、それが面白さに繋がっているかというと……多分繋がっていない。

 

 

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3 地味な作品

 基本的に本作は非常に地味な作品になっている。もちろん派手なアクションや爆発があることを期待している人間はこの作品を見に行かないだろうが、当然ながらそういう意味ではない。

 敵がいないのだ。

 

 今回の敵は教会なのであるが、では教会が何か妨害工作をしてくるかというとそんなことはない。内部に敬虔なクリスチャンがいるかといえば、そんなこともない。何となく連載したコラムが新局長の目に留まり、何となく事件を追いかけて、何となく証拠が見つかって、何となく解決していく。

 すぐに証拠を開示するとバチカンや教会ではなく、単なる変態神父個人の問題で片つけられるから、今すぐ公開はしないと言った時には「ここから何か大きな展開が起こるのかな?」と思ったがそれも無し。

 とにかく一本調子だ。

 

 例えば爆発まではいかなくとも、新局長が反対したとか、リストラの嵐で有名な人であれば一ヶ月で記事にできなければクビを切るぞと脅すとか、匿名で非難の電話が来たりといった何らかの妨害アクションがあってしかるべきである。特に新局長はリストラで有名な人なのに、直接会ったらただの温和な切れ者というのは、だったらリストラ話を最初に出す必要があったの? と疑問に思う。

 これは確かに事実を基にした作品なのであろうが、ノンフィクションではない。『事実を基にした』という言葉には『実際にあったけれども映画として面白くするために脚色は入っているよ』という意味だろう。

 

 だとするならば、なぜより面白く作らなかったのだろうか?

 一般受けを狙って賞レースに不利になりたくなかったから?

 それとも誰かの明確な指示か?

 どうにもとんとん拍子に進む物語が予定調和にも見えるし、特に取り立てて注目する会話もなければ、場面もない。終始退屈で眠くなる映画にしてしまっていたようにも思える。100人のうち80人が70点はつける、粗が少ない優等生的映画とでも言おうか。

 

 

4 日本人向けではない題材

 残念ながらこれは映画の製作陣のコントロール外の部分でもあろうがこの作品は日本人向けとは決して言えないものになっている。

 神父が子供に対してそれだけ酷い虐待をしていたということは、確かに世界的には驚愕の事態であろう。だが、日本に限って言えばそもそもキリスト教自体が一般的ではないし、そういう聖職者が神聖なものであるという意識が低い。

 なぜならば、日本において聖職者である坊主が酒も飲めば結婚もするし、肉は食べるし生臭坊主ばかりであること多いからである。

 

 もちろん幼児に対する性的虐待が行われていたとしたら大問題だが、それは坊主だからという問題ではなく、そういう犯罪行為自体に対する怒りであって、坊主だからそれが加速するということはおそらくない。

 強いて言うならば教師であろう。教員がグルでそのような事態になっていた場合は大問題になるため、聖職者よりも教職の方が日本人には分かりやすい物語ではないだろうか。

 

 日本人の多くは無宗教だとされている。私はこの風潮に疑問符を抱えているが、明確な宗教の教義に関心がない層は確かに多く、宗教上のイデオロギーも多くの場合に問題として我々の一般生活に支障をきたすことはない。確かに一部の宗教において勧誘行為などの迷惑行為はあるが、ノリとしては客引き禁止などに近いものに感じる。

 なので日本人に教会の悪事を暴く、という内容はそんなにトンデモナイことのようには思えないのだ。

 

 全体的に悪い映画でもないのだが、印象に残らない映画であり、優等生すぎたように思う。

 

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スポットライト 世紀のスクープ カトリック教会の大罪

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