物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『009 RE:CYBORG(2012)』の感想 セルルックよりもあの人の影がちらつく作品だよなぁ

亀爺(以下亀)

「神山健治版の009も劇場で3部作で公開中じゃの」

 

ブログ主(以下主)

「そうね……神山健治監督作品ということでもあって、期間も短いし早く見に行きたいけれど、時間が取れなくてね……少し無理してでも、ファーストデーで見に行こうかな?」

 

亀「しかし、今更なぜ009なのじゃろうな?」

主「ある程度理由はわかる気もするけれどね。それも詳しくは後述するけれど……でも、今の若い世代で009に馴染みがある人はそこまで多くないだろうね」 

亀「主は009を観たことは?」

主「あるけれど、それも平成009くらいかな。しかも、結構暗くて辛い内容だしさ、当時も一応見ていたって気がする。あんまり記憶はないけれど。

 多分、009の全盛期だった人って今やそれなりの年になっていると思うんだよね。だからある意味では、往年のファン向け映画ってことになるのかな?」

 

亀「今回は2012年に公開されたバージョンの感想記事じゃが……今見ると、色々と思う部分もあるの

主「そうね……セルルックが順調? に数を増やしているけれど、歴史的に見ても、結構重要な位置付けになる作品だと思うよ」

亀「それでは感想記事を始めるかの」

 

 

 

 


【本予告編】 映画『009 RE:CYBORG』(サイボーグ009)

 

あらすじ

 

 2013年、ロンドンやベルリンなどで超高層ビルを狙った同時多発テロが発生した。平和に普通の高校生として暮らしていた009、島村ジョー(CV宮野真守)だったが、あるとき巨漢の男に襲われる。

 その男との争いの中で、失われた記憶を取り戻していくジョー。そこに空から落ちてくる一人の女性を見た瞬間、彼は全ての記憶を取り戻していた……

 

 一方、アメリカの捜査機関の一員として活動していた002( CV小野大輔)は同時多発テロの調査に当たっていたところ『彼の声』という謎のメッセージを入手するのだった……

 果たして『彼の声』とは何か? 同時多発テロの首謀者とその目的は?

 懐かしの009がCGアニメーションとして蘇る!

 

 

1 現代に009を作る意義

 

亀「さて、あらすじを見ても色々と謎が多いが……そもそも、現代において009を制作する意義とはなんじゃろうな?

 一つは往年のファン層を狙ったり、ネームバリューに期待したり……あとは東日本大震災で大きな被害を被った石巻市に石ノ森章太郎が縁が深いということもあって、震災復興の意味もあるじゃろうが……」

主「石ノ森章太郎作品をまとめた石ノ森萬画館も行ったことがあるけれど、あそこは津波被害をほぼ直撃したんだよ。酷い被害になった原因でもある、海や川のすぐ近くで、しかも中州にあるからね。津波対策で高い階に原画などは置いていたから、物自体は無事らしいけれど、長く休館していたようだし」 

 

亀「しかし、その復興の面は置いておくとしても、現代において009を描くということの意義はあるのじゃろうか?」

主「009という設定自体は、やはり古さを感じさせるものだけど、優れていると思うんだよ。例えば、特殊能力の設定とかさ、9人もいる仲間たちと、正義の味方であるとかさ。

 009の加速装置とか、002が空を飛べるとかというのは単純でありながらも使いどことは多いし、何かあればなんでもありな001の超能力で解決すればいい。これも制限付きだから、001だけがいればいいってことにはならないしね」

 

亀「しかし……今思うと、全身に武器がある004、超怪力の005はわかるし、直接戦闘能力のないが諜報で必要な変身能力のある007、海の中で無類の強さを発揮する008も地味ながら必要じゃが……006の炎を吐く、というのはイマイチ意味がわからんの」

主「当時の苦心が伝わってくるよね……他の能力ほど実用的とも思えないし。

 現代だったら003の超感覚も、それに追加でネット、サイバーテロ対策などを得意とする、という能力も加えられそうな気がする。

 この分業制だけで少しワクワクしない? しかも戦闘だけじゃなくて、諜報、調査などにも使えるし、できることの幅はすごく広いと思うよ」

 

 

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ざっくりとした感想

 

亀「ではここでざっくりとした感想じゃが……よくわからん、というのが本音かもしれんの

主「元々神山健治脚本だから、少しだけその覚悟はあったんだよ。結構練りに練った、難しい言葉も入れてくる緻密な脚本を書いてくる印象があったし、一見じゃついていくのも難しいだろうなぁ……と思ったけれど、案の定だったね。

 ただ、これは神山健治だけの責任ではないけれど

 

亀「まず事件が起きるわけじゃが、この事件の概要もよくわからんし、そもそもこの009たちがどういう状況なのかもよくわからん。

 それを説明するために、色々な説明台詞や演出は入れてくるのじゃが……それが上手くいっているかというと、それも疑問じゃの

主「そもそも、説明が説明になっていない部分も多いし、あとはこの事件の全容がわからない。だから、説明台詞が説明になっていないんだよね。

 その分、説明台詞が多いことで『物語感』が出ちゃっているし、それで虚構性というか、面白さが削がれちゃった気がする。

 あとはCGもなぁ……」

 

亀「一時期に比べると大分良くなったが、やはり手書きに比べると違和感も大きいの

主「どうしても手書きに比べちゃうけれど、なめらかすぎたり、カクカクだったりでグラフィック感が出てきちゃうんだよね……

 その意味において制作会社の『サンジゲン』の実験作のような部分が多い作品だと思う。だけど、アニメに限らず技術ってこう言う実験的な試みの上に成り立つものだからさ、いきなり完璧なものを作ることもできないし、この試みが5年後、10年後に手書きとは違う『アニメ』ができるようになるんじゃないかな?」

 

亀「日本のアニメは宮崎駿や富野由悠季のような、名監督、名作ばかり名前が挙がるが、それらも数々の、名前も残らない実験的意欲にあふれた作品の上にできているからの」

主「良くも悪くも玉石混交が日本のアニメだからね……そうやって積み上げた技術の上に成り立つのが、今の作品だし」

 

以下ネタバレあり

 

 

 

 

2 見えてくるあの人の影

 

亀「しかしの……この作品は、本当に神山健治監督作品か、疑うレベルじゃな

主「もちろん制作したのはサンジゲンとproduction.I.Gだし、神山健治の経歴や思いを知っているからこその違和感かもしれないけれど……やっぱり、あの人の影がすごく大きいよね

 

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亀「押井守じゃな

主「どういう部分に押井節を感じるかというと、まず冒頭の鳥だよね。押井作品には必ずと言っていいほど、鳥が飛び立つ描写がある。特徴的なのは『イノセンス』かな? あの作品において、鳥が飛び立つシーンから先はすごく幻想的な世界観に変異していくわけだ。

 それは最新作の『ガルム戦記』においても同じで、あれも異世界というか、別の土地に行く際に鳥が飛び立っている。鳥というのは天使の象徴でもあり、生と死の境目といういう意味があるらしいからね

 

亀「それが出てきた時、押井作品であれば『ここが世界観の分かれ目だな』と意識することができる、ある種の合図じゃの」

主「で、今回は押井作品の過去作からの引用も多々見られたわけだ。

 例えば、序盤に003がヘリから跳び降りるけれど、あれって何かな? と思ったら、おそらく『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』のセルフオマージュなんだよね。だから、物語としてはそこまで大きな意味があるかは微妙だけど……009の記憶を蘇らせるだけなら、他にも方法があるけれどこのような演出をとったわけだ。

 他にも『彼の声』というのゴーストを連想させたりね。以下に少しだけまとめるけれど」

 

003の落下シーン=攻殻機動隊の冒頭

彼の声=ゴースト

下着姿のヒロイン=草薙素子

=攻殻機動隊より

 

乗っ取られて暴れ出す

=イノセンスより

 

繰り返す日常(高校三年間)

謎の少女

夢と現実の境目

=うる星やつら2 ビューティフルドリーマーより

 

冒頭のビル群

ビルの爆破

ステルス戦闘機

ミサイルで攻撃される街

=パトレイバー

 

 

主「ざっと一度見ただけでもこれだけの類似点が見つかった。もっと注意してみれば、色々と見つかるかもしれないね。

 一つ一つは確かによくある描写だし、そこまで疑問に思う描写でもない。だけど、これだけ合わされば、自ずと見えてくるものがあるよね」

 

実験的作品

 

亀「この映画はサンジゲンという会社が計画した、壮大な実験であると思っておると語っておったの」

主「そうね。009という設定だと、色々とやることができるのよ。例えば、空のバトルもできるし、加速装置のスピード感だったり、銃撃戦や作品には出てこなかったけれど海中戦もできる。しかもサイボーグだがら、若干の硬質感があっても違和感はないだろうし。

 今回は海中戦はないけれど、それも『蒼き鋼のアルペジオ 』である程度やったからかな? って思ったり。

 その意味ではネームバリューを含めて、サンジゲンがこの作品のアニメ化を請け負ったというのは、個人的にはすごく納得がいく。シリーズ化もしやすいしね」

 

亀「そして一方では神山健治やIG側はというと……」

主「元々は押井守が監督を務める予定だったみたいね。ただ、いつものようにワガママ……というか、無理難題を言い出して揉めて、その結果脚本を書いていた神山健治に回ってきたと。

 結構押井監督版のアイディアも面白そうではあるよ。009と003以外は死亡しているとか、003は50代になっているとか……これまでの009シリーズをぶち壊す作品になると思う。だけど、それじゃ石ノ森章太郎側もサンジゲンも納得しないだろうね」

 

亀「どこまで話が進んだ段階で神山健治が監督を務めるようになったのか、正確なことはわからんが……しかし、これはこれで可哀想な話じゃな」

主「個人的にはその話を聞いて納得出来る部分もあるのよ。なんであんな説明的なのか? とかさ、そう言った部分も神山健治なりに整合性などを考慮した結果があの作品になったと思う。

 だからチグハグ感があって正解なんじゃないかな? 無理矢理体裁を整えたとすれば、だけどね。

 で、多分その際に意識したのが、過去の押井作品の踏襲だったんじゃないかな? ということ。それがIGなりの実験だったんじゃない?」

 

 

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3 作品として

 

亀「その影響もあるのか、1つの作品としてはそこまで褒められたものではないの

主「う〜ん……結構わかりにくい作品だしね。ただでさえCGという手を取りづらい表現手段なのにも加えて、これだけ色々と付け加えるとねぇ……

 特にさ、最初にすでに核ミサイルが撃たれているわけじゃない? 確かに大事件で、世界を揺るがす事態だけど、それがもうすでに起きているわけだ。さらに2発目、3発目は当然防がなければいけないけれど……どうしても1回落とされている分、緊張感は減ってしまうよね

 

亀「それに色々なモチーフに頼りすぎていて、よくわからんの。押井節を効かせておるんじゃろうが……それがうまくいっておるかというと、そうでもないという」

主「不思議だよねぇ……やっていることはそこまで大差ないはずなのに、押井守の奥深さや、人の心を掴んで離さない感じっていうのが全然ない。これが映画の演出力の差なのか、それとも思想性の違いなのか……

 結局中途半端な作品になったなぁという印象だよね」

 

亀「結局のところ犯人もよくわからんからの。神という以外にない犯人像というか」

主「パトレイバー1の時に帆場という犯人の正体が、実はエホバの証人であり、そんな人間は存在していなかった……というのが押井監督のラストだったらしいけれど、それをそのまま踏襲した形かなぁ?

 エンタメとして振るのか、映画的な実験に徹するのか、そのバランスが中途半端になったのも影響していると思う。

 ただ、続編は楽しみにしているけれどね。監督が神山健治だし」

 

 

 

最後に

 

亀「しかし、セルルックの技術力も飛躍的に向上しておるな」

主「押井さんは確かセルルックに否定的でさ『手書きでできることを CGでやる必要はない』という論者だけど……それはそうだけど、でもこういう形が何か新しいものを生み出すことはあると思うんだよね。

 だから、この実験がどうなるかわからないけれど、日本流のCGの突き詰め方として面白いと思う。どうせ、アメリカ式のCGは日本は大きく出遅れているんだし、全く違う方向で勝負するというのは手段としてとても理解できるよ」

 

亀「『楽園追放 』などもよくできたセルルックじゃったしな。キャラクターの可愛らしさ、かっこよさなども少しづつではあるが、獲得しておるように思うの」

主「日本アニメのいいところって『アニメは子供向けだけではない』というところだと思うんだよ。それが結実したのは2016年でさ、今年話題になったアニメ映画って、むしろ子供向けというよりは青年から大人向け映画に分類されるものだ。

 これがこれからの日本アニメ界の強みになると思う。どうしても、アニメって子供向けって思いがまだまだ世界的に根強いからね」

亀「その中も一つの選択してのセルルックじゃな」

 

 

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