物語る亀

ネタバレありの物語批評

テレビ業界は衰退していくだけなのか? 映画『We love Television?』と萩本欽一から考える

カエルくん(以下カエル)

「では、今回はドキュメンタリー映画である『We love Television?』から、日本のテレビ業界の未来について考えてみよう! という企画です」

 

亀爺(以下亀)

「この映画を見ておらんでも理解できるような記事になるように、頑張っていこうかの」

 

カエル「実際、この映画を見なくてもどんな作品なのかはなんとなく想像できると思うんだよね。

 萩本欽一は誰もが知る有名人だし、監督は『電波少年』などの土屋敏男だと聞くと、テレビ界を作ってきた人たちの映画だというのがわかってもらえるとも思うけれど……そう言って今の若い子たちがどれだけわかるのかなぁ?

 もうアラサーくらいじゃないのわからないのかも……」

亀「電波少年だって終わったのは何年も前の話じゃし、しかも夜もそこそこ遅い時間にやっていたテレビ番組じゃから、いい子は寝ておったじゃろうしの。有吉はともかくとして、なすびや坂本ちゃん、ドロンズを知る10代がどれほどおるのか……」

 

カエル「テリー伊藤がテレビの演出家だと聞いても、どんなテレビを担当していたのかってのはわからない人も多いよね。単なるタレントにしか見えないし……」

亀「それも時代の流れを象徴することなのかもしれんの。

 では、少し萩本欽一などの解説を加えながらテレビ業界の未来とこの映画について語っていくことにするかの」

 

 

 

誰も知らない、萩本欽一。 We Love Television?

 

作品紹介・あらすじ

 

 テレビ業界での伝説を残す『視聴率100パーセント男』とも呼ばれる萩本欽一から、その奥義を学ぼうと日本テレビのディレクターとして『電波少年』などを制作した土屋敏夫がテレビ制作の裏側を撮ったドキュメンタリー。

 テレビができていく過程と欽ちゃんの独特な発想法などにより、伝説的な男の考え方などを暴いていく。

 

 2011年の冬、土屋敏夫は車から降りる萩本欽一に突撃していき『視聴率30パーセントの番組をまた作りましょう』と提案、その言葉に感激した欽ちゃんはそれを快諾して2人は番組制作を始める。

 70歳を超えても精力的に動き続けるその考え方の底にあるものとは一体なんなのか? 

 そして視聴率30パーセントは達成できるのだろうか?

 


映画『We Love Television?』予告

 

 

 

 

 

1 感想

 

カエル「では、まずは感想はこちら」

 

 

カエル「まず、映画としてはどうだったの?」

亀「まあ、普通のドキュメンタリーじゃな。

 ドキュメンタリーとして人間の奥深さに入っていくとか、驚愕の真実が明らかになるということはない。

 ただ、今テレビ業界で密着取材をして映画になるタレントがどれだけいるのか? と考えると……おそらく北野武と萩本欽一、タモリくらいかもしれん。それだけの実績とインパクトを持つ芸能人は現代ではそうそうおらんのでな。

 その意味ではドキュメンタリーとして今年を代表する作品ということはないかもしれんが、テレビや時代を代表する1作ではあるのかもしれんの」

 

カエル「……う〜ん、微妙な評価だね」

亀「ただ、これは監督の土屋敏夫がテレビ出身というのも大きく影響をしておるのかもしれん。社会に対して強く訴えかけるというよりも、萩本欽一という人間を映しだそうという試みは成功している。

 しかし、その奥にあるもの……つまり監督の思想性などというものはそこまで感じない。例えば同じドキュメンタリー監督であれば、森達也作品は強烈なメッセージ性が感じられるし、原一男は大どんでん返しを見せてくれる。演出にキレがあるとでもいうのかもしれん。

 ただし、それはテレビだと主張が強すぎるのか、どのテレビ局もそのような作品はほとんどないの

 

カエル「テレビ番組を語る時って、だいたいタレントや出演者の話になって制作するスタッフの個性の話って全く話題に上がらないよね」

亀「その個性はノイズになってしまうということかもしれん。

 今作は土屋敏夫という有名なテレビマンが制作していることもあって、まだ個性は感じられるのじゃが、映画としてはそこまで強いとは思わなかったの。

 ただし、予告編の作り方はめちゃくちゃ上手いがの。

 さすがは一流テレビマン、人呼ぶ映像がどのようなものか熟知しておるわ」

 

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本作の主役である欽ちゃんの様々な顔が観れる作品

(C)2017 日本テレビ放送網

 

萩本欽一という伝説

 

カエル「僕なんて、欽ちゃんは仮装大賞の人ってイメージでしかないんだけれど、何がそんなにすごかったの?」

亀「今のテレビ業界の多くを作った人じゃな

カエル「……どういうこと?」

 

亀「有名なところでは素人を使ったテレビ番組を始めたのもそうだし、手持ちのマイクではなく、服に刺すピンマイクをテレビ業界導入したのも萩本欽一と言われておる。

 司会者の隣にアシスタントを置いたりなどというのもそうじゃの。他にも様々なお笑いの用語であったり、現在のテレビ業界の基礎を作り上げた存在である」

カエル「……あれもこれも欽ちゃんからなんだね」

亀「天下を取る人、注目を集める人というのは、その多くが何かを始めたり開発した人にがなるもんじゃ。

 例えば、今からYouTuberになろうとしたってヒカキンにはなれん。なぜならば、その世界の『第一人者』じゃからな。ということはYouTuberがやってこなかった新しいことを始めなければ、天下を取ることはできんのじゃよ」

 

カエル「そういった創意工夫が重なって視聴率100パーセントという前代未聞の伝説が生まれたわけなんだね……」

亀「時代がよかったのもあるじゃろうが、なぜそんなことができたのか? というと、飽くことのない探究心の結果じゃろうな。

 現に今、欽ちゃんは駒澤大学に通っておる。この学び続ける姿勢、それをテレビに還元し続ける姿勢こそが数々の成功の源となっておったのじゃろう。今でも何か新しいことをしようと考えておることは、まさしく驚愕であるの」

 

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舞台装置にCGを使ったり新しいことをしていく姿勢が時代を作る

(C)2017 日本テレビ放送網

 

先人の教え

 

カエル「こういったレジェンド級の人たちの色々な言葉を考えるのって大事なことだよね」

亀「どこの誰が書いたかもわからない自己啓発本を読むくらいならば、徒然草の1冊でも読めばいい。その方が何万倍もためになる。1000年近く存続し続けた人生指南書など、世界を探してもそうそうないからの。

 若い時はあまり気にしないかもしれんが……古典であったり、偉大なる先人の言葉というのは非常に重要なことが多いのに、最近の若者はそのような者を見ようともせず……」

カエル「……なんか、お爺ちゃんの説教になっているような……」

 

亀「今作でもそれは同じじゃな。

 例えば有名な話であるし、今作でもその描写はあるが『稽古でやったことをそのままやらせない』ということを話しておる。つまり稽古や練習で完成させることなく、さらにその先を作る余地を残しておくということじゃな。

 これは歌舞伎と同じ練習法であって、稽古はほんの数日間、読み合わせも数回しかしない。これが可能なのは何回も本番を行う舞台であること、そして彼らが一流のプロフェッショナル集団であるからじゃが……」

カエル「欽ちゃんはなんでそんなに作り込まないの?」

 

亀「これはドラマや映画などを見るとわかるのじゃが、若手や下手な役者ほど次に相手が何を言うのかわかっているために、すでに構えてしまっておる。だからお芝居感が強く出てしまったり、あとは『頑張った感』が出てしまうのじゃな。

 お客さんが頑張ったと言ってしまうこと、それはプロとしては失敗じゃからの。

 本当にうまい役者はアドリブと台本の違いがわからん。

 例えば樹木希林などは自然体すぎて、全てアドリブなのでは? と思わせるほどじゃな。

 役者で大事なのは観客に感情移入させることであって、与えられた台本をその通りに読むことではないからの

 

 

 

 

2 これからのテレビ界とその終焉

 

カエル「では、ここからは映画の内容から離れた話になっていくけれど……

 この映画が公開された日の真裏では、あの元スマップの72時間テレビがネットで放送されていたんだよね。必然的に舞台挨拶に上がった土屋監督や、同じ日テレでバラエティ番組を作っていた菅さんなども語っていたけれど……」

亀「まず、この現状を考える前に見て欲しい映画がある」

 

ニュー・シネマ・パラダイス (字幕版)

 

カエル「ザ・名画である『ニュー・シネマ・パラダイス』だね!

 実は鑑賞したのはここ最近だったんだけれど……」

亀「この映画は少年、青年、壮年の3世代にわたって物語が紡がれておる。まず映画が娯楽の王様であり、劇場に人が押しかけていた少年時代を体験し、そして青年時代に大きな歴史的な事情に翻弄され、壮年期において衰退する映画文化と、そして残された思いに感動する……映画愛に溢れた大傑作じゃの」

カエル「でもさ、なんでこの話題でこの映画を急に出してきたの?」

 

亀「『テレビが淘汰したもの』を映した名作じゃからな。

 日本もアメリカも、世界中で1950年代というのは映画の黄金時代と言われておる。名画がたくさん公開されて、映画館の数自体も非常に多かった。

 『娯楽の王様』と呼ばれて、戦争も終わって平和な時代になり、誰もが映画という文化を愛しておった時代じゃな」

カエル「当時は映画館でニュース映像なども流れていて、新聞と映画で社会情勢を知っていた時代でもあるんだよね」

 

亀「しかし、それが一変したのがテレビの登場である。他にもこの時代を描いた作品では有名なところで『3丁目の夕日』があるがの、本作の中で冷蔵庫の普及により仕事がなくなっていく氷屋が映されておる。

 社会情勢の変化だけでなく、文化的な進歩であったり、技術の推進により過去の文化は衰退していく……残念じゃが、当然のことでもある

カエル「車ができて人力車や馬、牛、馬車などがなくなったのと同じだよね……新聞からラジオや映画に、そしてテレビに娯楽の王様は変化していったんだね」

 

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監督を務める土屋敏男

(C)2017 日本テレビ放送網

 

業界の衰退にいかに抗うのか?

 

亀「わしは今回の72時間テレビをめぐるテレビの報道などを見て、日本のテレビ業界は……そして日本人は何も変わっておらんことを確信した。

 どこもかしこも報道することなく、また報道しても『まあ、大丈夫でしょう、脅威ではないでしょう』という態度を崩してはおらん」

カエル「積極的に報道して『これは時代が変わるかも!』と語るテレビ番組はなかったんじゃないかな?」

 

亀「結局、日本は第二次大戦の日本軍と何も精神性は変わっておらん。脅威となる存在……あえてこの表現をするが敵に対して侮るような態度をとり、真剣に向き合おうとしない姿勢などが敗北の1つの要因じゃろう。

 楽観的な見方などが大きな犠牲につながった……これはあの大作映画でも語っておったの。

 今はまだそこまで脅威ではないかもしれん。しかし、それがいつまでもそうなるとは限らない……むしろ、コンテンツが充実してきて、さらにその存在を多くの人が認識した時に窮地に陥るのは目に見えておる

 

カエル「日本のテレビ業界ってちょっと異常で、視聴率が30パーセント以上と海外だと考えらないくらいの高視聴率の番組があるけれど、これって新規参入を法律で許していないからで……地上波番組がせいぜい10局くらい? しかない先進国ってほとんどないんじゃないかな?」

亀「結局のところ、既得権益に1番しがみついておる業界じゃからな。

 そこに現れた『ネット』という大きな敵に対して、既得権益が通用しない敵に対しての対抗策など一切ないんじゃろうな」

 

 

 

 

3 視聴率の下落とネット

 

カエル「しかもその日って『めちゃイケ』『とんねるずのみなさんのおかげでした』などの長寿番組が終わることが発表された日でもあるんだよね……

 看板番組だけれど、それも視聴率が上がらないということで……」

亀「映画からテレビに娯楽が移り変わっていた時、なぜ映画は負けたのか? といえば話は簡単じゃな。家にいて、テレビを買えば安価に見ることができる……つまり『手軽』『安い』からじゃ。

 そしてニュースなどはテレビに移行していった。

 では現在は? そのテレビに該当するのがネットじゃろう。むしろ時間が拘束されらない分、好きな時に好きな番組を観ることができると考えたら、テレビよりも手軽になっていく」

 

カエル「もちろんすぐに、ってわけではないけれど……その影響は徐々に出ているよね……」

亀「それまでは既得権益に守られてテレビ業界の需要という大きなパイを地上波テレビ局を中心に分け与えていた。しかし、今はそのパイ自体が小さくなっておるのじゃから、視聴率は伸び悩む。

 暇つぶしの手段としてのテレビは役割を徐々に終えようとしておる

カエル「テレビって、映画とかと違ってすごく熱心に1秒も見逃さないように観るものではないと思うんだよ。料理しながら、ご飯を食べながら、スマホをいじりながら……そういう『ながら見』して、適当に観る人の方が多いんじゃないかな?」

 

亀「文化が徐々に衰退しておる例はいくらでももあって、その1つが『地図』じゃろう。今ではカーナビやスマホの普及により、地図を書籍として買うということはめっきり減った。

 ニュースなどもスマホで知ることが多いじゃろうし、何よりもしがらみが少ない。あの事務所の人は出してはいけない、思想的にこの発言は批判しなければいけない……そう言ったしがらみが多いからこそ、そこにうんざりしておる視聴者もたくさんいる。

 テレビが自由でない、視聴者がうるさいから……そういうタレントやテレビマンもたくさんいる。では、はっきりと言わせてもらうがの、大手タレント事務所のゴマスリをしておるのはどっちじゃ?

 自分たちが作り上げた既得権益であったり、慣例やタレント事務所との付き合いなどのしがらみによって縛られて動けなくなっているのは、果たして視聴者の責任なのかの?

カエル「……なんかすごい怒ってる?」

 

亀「『視聴者がうるさいからだ』とか、『文句を言うならやってみろ』というのはプロとして問題発言だとわしは思うがの。

 それは別としても……電子書籍が登場した当時、出版業界はその脅威性を侮っていたいた人もいたり、逆に脅威に感じていた人もおった。

 しかし、結果を見れば誰も彼もが的を見誤っていた……本当の敵は『スマートフォン』であり、『スマホゲーム』じゃった。

カエル「電車やバスに乗っていると分かるけれど、今や本を読んでいる人もほとんどいなくてみんなスマホをいじっているもんね……」

亀「移動中の時間つぶしの道具……そういった大きなパイはスマートフォンなどに奪われてしまったわけじゃな。

 このように敵を侮ったり、戦うべき相手を間違えると一気に衰退する可能性もあるのじゃよ

 

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今作でも重要な立ち位置の河本準一

腕のある芸人だが、ネットに嫌われた芸能人の1人かも

(C)2017 日本テレビ放送網

 

 

テレビ文化の終焉を見た?

 

カエル「本作は萩本欽一にピックアップしているけれど……なぜか2011年の話でもあるんだよね。公開するかもわからないけれど、それでも編集を続けていた土屋監督の執念ということもできるかもしれない」

亀「……うがった見方かもしれんが、これはこの映画で唯一の監督の意図を感じるの

カエル「意図?」

 

亀「劇中でもあるのじゃが、2011年は地上アナログ放送が終わった年でもある。1つのテレビの大転換期であるの。

 そこで昭和のテレビを……地上アナログ時代の象徴的人物でもある萩本欽一を起用してテレビを作ろうとしたこと、映画を撮ろうとしたこと、それはテレビの歴史の大転換を描いているのかもしれんの。

 そしてあの姿を撮ることにより、その衰退と終焉を描いたようにも見えた」

カエル「それでも諦めずに新しいテレビを作り続けようとする萩本欽一もまた鉄人などを通り越して、狂気すらも感じるよね」

 

亀「ネットとテレビは対立軸でもあり、共存できる存在でもある

 今では一般的なTwitterであるが、吉田尚記というラジオ局の日本放送のアナウンサーがTwitterとラジオを連携した番組を始めておる。おそらく、あの時点では世界初の試みじゃ。今となってはテレビ番組も導入し、視聴者の声を集める上ではどこも行っている。

 このようにうまく付き合えばテレビはまだまだ新しいことができる存在でもあるのじゃが……既得権益に守られて、守りの姿勢に入った業界だと難しいのかもしれんの」

 

カエル「映画上映後に、その日は土屋敏夫と菅賢治のテレビマン同士の舞台挨拶があったけれど、菅さんが『日テレ以外は個性がない』と発言していて、少し驚いたんだよね。

 多分、世間ではテレ東ぐらいしか個性がないと感じている人が多くて、日テレらしさって言いたいものもわかるけれど、でも多分そこまで意識していないと思うんだよ

亀「内部にいると分かり辛いことなのかもしれんの。

 実はもっと大きな大変革を求められているかもしれん。それは中にいる人間と外にいる人間では認識が当然違うし、どちらが正しいというものでもないが……お客さんの声をどれだけ聴き、どれだけ無視するのか。それがこの先、より問われるのかもしれんの

 

 

 

 

最後に

 

カエル「本作で印象に残ったのが、欽ちゃんってことあるごとに『運』を連呼するんだよね。すごくオカルトのようだけれど、最後の最後まで神頼みをしてでも成功を掴み取ろうとして……」

亀「しかし、その姿勢は運だけではない。例えばみんなが休んでいる日に仕事をするというのは、神様が見てくれるからだと語っておったが、それほどまでに仕事に情熱を傾けている人間が最後は成功するということでもある。

 

 みんなと同じことをやってもトップにはなれんからの」 

 

カエル「素人さんを選ぶ基準も運なこともあって……すごい話だよね」

亀「誰もついていけん独特の感性を持ちながら、厳しくもあり、そして愛嬌がある……それが萩本欽一の成功の理由かもしれん。

 もうすでに過去の人なのかもしれんが、年老いても変わらぬ姿勢にこそ学ぶべきものが沢山あるんじゃろうな。

 わしも古くから見ている身として、やはり共感してしまうところがあるわい」

カエル「……亀爺って今いくつなの?」

亀「さて? 徳川家茂は見たことがあるが……」

カエル「……ふわふわしている上に、家茂って何代目だかわかりづらいし……」

 

 

 

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