物語る亀

ネタバレありの物語批評

実写映画『心が叫びたがってるんだ(ここさけ)』感想 アニメ版と比べなければ、まあ……

亀爺(以下亀)

「ここさけの実写版が公開されたの」

 

ブログ主(以下主)

「まあ、確かに題材は実写向きというか、やりやすそうなところではあるけれどね。変なファンタジー要素やSF要素もないしさ」

 

亀「漫画からの実写化が定着して久しいが、アニメからとなると意外と少ないかもしれんな」

主「しかも人気を博したのがたった2年前でしょ?

 それで早くも実写化して、夏に公開するわけだから……かなり攻めているよね。まだ感動も残っているだろうし、熱が完全には冷めないうちに実写化して話題を作りたかったのかな?」

亀「それに成功しているのかは……よくわからんの。

 初日だというのに、そんなに大きくない劇場を割り当てられておったわい。まあ、この夏もまた注目の映画が目白押しでそちらに大きな劇場を取られてしまったのもわかるがの。

 舞台挨拶などの特別興行もあるじゃろうが……」

 

主「朝一の回で、舞台挨拶のライブビューイング付きの回に行ったけれど、そんなに人は入っていなかったかなぁ。

 同じくライブビューイングが付いている『リリカルなのは』の新作はチケットが取りづらい状況になっていたけれど、これもファン層の違いかね?」

亀「宣伝もそんなにしておらんのかもしれんの。

 ちなみに当ブログではアニメ版の『心が叫びたがってるんだ』なども記事を書いておるから、そちらもぜひ参考にしてい欲しい。

 約1年前くらいの記事じゃから、今見直すとまた違うものがあるかもしれんがな」

主「一応本作の印象を少しでもクリアにするために、アニメ版を見返したりするようなことはしなかったけれど……それでも印象には残っているからねぇ。

 それじゃ、記事を始めるよ」

 

 

 

blog.monogatarukame.net

 

 

実写映画「心が叫びたがってるんだ。」オリジナルサウンドトラック

 

1 感想

 

亀「ではまずはネタバレなしの感想といくが……まあ、アニメ版を見ている人にはネタバレもクソもないじゃろうがな、初見の方のために一応な。

 Twitterでの短評はこのようになっておる。

 

 

 酷評に近いの」

主「酷評ではないけれど、絶賛は絶対にできない。

 もちろん、自分がアニメ版のファンだということもあるし、どうしても比べてしまう部分があるからなんとも言えないところはあるよ? 映画単体とみたら……毒にも薬にもならないかなぁ。

 まあ、凡作って印象かな

亀「あのここさけの感動を! と煽っておるが、それには失敗しておるというわけじゃな」

 

「この実写版とアニメ版を見比べてもらえば、いかに邦画においてアニメと実写のレベルの違いがあるのかということがわかってもらえると思う。

 自分がアニメが好きだというのもあるけれど……日本の場合は実写のレベルとアニメのレベルが全然違う。もちろん、トップレベルの作品になるとそこまで差はないかもしれないよ? 良心的な作品、いい作品も実写、アニメを問わずにあるのは当然だ。

 だけど平均点について考えたら、残念ながらアニメの方がずっと高い。エンタメ性もあり、作家性もあり、芸術性もあり、工夫もあって……なぜ世界に通用する映画がアニメばかりなのかがはっきりとわかる。

 本作には邦画の、特に大作や大規模公開邦画のダメなところがたくさん詰まっている

亀「元々アニメ版が名作と評価の高いものじゃから、このような評価になるのは致し方ないのかもしれんがの……」

 

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キャストは似ている人を集めてきたなぁ……という印象
(C)2017映画「心が叫びたがってるんだ。」製作委員会 (C)超平和バスターズ

 

『心が叫びたがってるんだ』とはどういう作品か?

 

亀「ではここで少しアニメ版の『心が叫びたがってるんだ』がどのような作品として受け止めているかという話をするとしようかの」

主「この映画では2つの側面がある。

 

 恋愛を中心とした高校生の青春パート

 成瀬順を中心とした、他人に心を開くパート

 

 簡単に言うと、この2つの面があるんだよね。もちろん、これらが密接に関わっているのは言うまでもないことだけど……

 で、自分は本作において重要なのは後ろの方、つまり成瀬順のトラウマを克服物語の方だと思っている

 

亀「冒頭の物語や今作の主人公は成瀬順だということを考えても、彼女が抱えるトラウマを乗り越えて坂上や母親への思いを全て打ち明けて人間として成長していくと物語じゃな。

 そこに本心を打ち明けるということで坂上の思いなども組み込んだドラマとなっておるわけじゃしの」

主「本作のキャッチコピーで『最高の失恋』みたいなことが書いてあるけれどさ、そういう部分はこの映画の本質ではないと思うんだよね。

 恋愛はあくまでも青春ドラマとしての1つの見所でしかない。もっと重要なところがあるんだけれど……残念ながら実写版はそこが薄くなってしまった。ミュージカルとかさ、そういうところばかりが注目されるけれど、1番重要なところが減ってしまった印象だな。

 だから本作は『ここさけ』のストーリーや上っ面び部分をそのまま実写化しただけにしかならない。そしてこの作品で最も重要な要素が、全てなくなってしまっているというのが痛恨だね」

 

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結構クラスメイト(モブ)の子も可愛い子が多いです

(C)2017映画「心が叫びたがってるんだ。」製作委員会 (C)超平和バスターズ

 

 

 

 

『ここさけ』は誰の物語か?

 

亀「これは当然成瀬順と坂上拓実を主人公とした物語じゃろ?」

主「そういうことじゃないんだよ!

 アニメ版は長井龍雪、岡田麿里、田中将賀の3人がメインスタッフだ。いわゆる『とらドラトリオ』とも言われているし、長井龍雪はヒット作を連発している現代のアニメ名監督、岡田麿里は賛否溢れる個性のある脚本を書き、田中は『君の名は。』などのキャラクターデザインなども手がけた注目のアニメーターの1人だ。このトリオが組んだ時に『とらドラ』や『あの日見た花の名前を……』などの傑作を次々を生み出している。

 じゃあ、この3人の中で誰の作家性が色濃く出た作品かというと……それは岡田麿里なんだよね

 

亀「賛否はあるがあれだけ個性のある脚本を書ける人というのはなかなかおらんからの。

 その独特の言葉使いであったり、性的な描写……本作でいうと冒頭の『お城のようなラブホテル』だったり、あの花でいえば『アナル』というあだ名の女の子であったりと絶妙な下ネタを入れてくるの」

主「他にもドロリとしているから岡田は嫌いだ、という人がいるのもわかるんだけれどさ。でも、本作は間違いなく『岡田麿里の物語』として成立している。

 秩父で暮らしていた引きこもりの少女であった岡田が、自分の表現をして長井龍雪などと出会うことによって、母親との和解を図る……それはまさしく岡田が歩んできた道のりでもある」

亀「それは以下の本にも載っておるの。

 ここさけの物語を読み解くうえでは重要な1作じゃな」

 

学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで

学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで

 

 

主「だけど、この実写版は岡田麿里は関わっていないみたいだ。

 だからこそ本作の抱える……脚本のちょっとジメッとしたところ、暗いところが全てなくなってしまった。ある意味ではすごく見やすくなって、多くの人に受けれ入れられやすくなったとも言えるかもしれない。

 でもさ、それによって味がなくなってしまった。その代わり増えたのが……説明台詞だったり、回想だったりさ。まあ、邦画でいうところの『わかりやすさ』ってやつだよね。

 観客を馬鹿にしているとしか思えない部分。

 だから、本作はすごく味気ない印象だね。辛味のない麻婆豆腐、苦味のないサンマ……そんなものだよ」 

亀「好き嫌いはあるじゃろうが、そっちの味を楽しみにしてきた人には物足りなさを感じるものかもしれんの」

 

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原作よりの風貌だった中島健人

(C)2017映画「心が叫びたがってるんだ。」製作委員会 (C)超平和バスターズ

 

キャストについて

 

亀「ではキャストについて語っていこうかの」

主「……まあさ、相手がアニメだからしょうがない部分もあるけれど……実写化した時の味が全くないような印象があるんだよね。

 さらに言えば演出と演技プランが合っているとは思えない。これはキャスト云々の前にさ、様々なものがうまくいっていないんだよ。

 これは邦画でよくあることだけど、衣服があまりに綺麗すぎて新品だというのがすぐにわかる。制服が綺麗だからさ、コスプレ感が出てしまう。特に街並みがレトロで古めだからこそ、その差がすごく気になる」

 

亀「細かいようであるが、細かいところだからこそその差が気になってしまうということじゃの」

主「本作って学芸会のお話なわけだよ。地域交流会の素人ミュージカルのお話で……ここで下手すると『学芸会演技』って呼ばれかねないものになってしまう。

 でも、見事に学芸会作品になってしまった。

 キャストに関しては感心する人はほとんどいなかったかなぁ……ただこれは演出の問題もあるし、脚本自体が味気ないチープなものだし、アニメ版が相手だし、という色々と不利な状況ではあるからなんだけれど……でもまあ、そんなものだよ。

 声質はちょっと似ていると思ったけれど……それぐらいかな」

 

亀「ちなみに今作の監督である熊澤尚人はこの先『ユリゴコロ』なども控えておるようじゃが……」

主「作家性はそっちに重視して、こちらはひたすら原作のコピーとエンタメ性に特化したという印象だな。

 まあ、単なるスイーツ向けの恋愛映画にしたのは近年の若者向け邦画を考えると当然のことなんじゃないの?

亀「……辛辣な意見じゃな」

主「いや、一応理解を示してはいるんだよ? そりゃプロデューサーやスポンサーが求める『売れる』映画ってこういうものらしいし。

 その意味では理解を示すけれど……観客満足度は一切上がらない、映画業界衰退の1つの原因だと思うけれどね。監督や作り手だけの問題ではないと思うんだよなぁ」

 

以下ネタバレあり

 

 

 

2 序盤について

 

亀「では、ここからはネタバレ込みで話していくとするかの。

 まずは序盤じゃが……本作のアニメ版は序盤を絶賛じゃったな」

主「そうだね。

 山の上のお城=ラブホテルという子供と大人では認識の違うものを見事に描写して、純粋な子供とそうではない大人の認識の違いをあらわしている。ここで昔の可愛らしくて活発だった子供時代に、トラウマを抱えるほどの傷つくような経験を観客に納得するように作っているんだよね。

 じゃあ、本作はというと……」

亀「すっごくさらりと流しておったの。

 時間にして3分くらいであったのではないか? もちろん実際の時間は時計を見たわけではないからわからんが……すっごく短かった印象があるの」

 

主「しかもさぁ、エグ味をなくしているからこの描写の生々しさも減っているんだよねぇ。導入としてここでグッと掴んでくるほどのうまいものだったはずなのに、上っ面のものでしかないからなぁ……

 この時点で『あれ?』って気分だった」

亀「誰にでも見ることができるようにしておるのじゃろうがな……」

主「そんで現代に話が移ってくるわけだけど……ここから先もあまり良くない。

 まず先ほども言ったようにコスプレ感があるし、お話の流れがかなり唐突だしさ。先生もアニメ版だと藤原啓治の演技力もあってどこまでが計算で、どこからが本気なのかわからないような不思議な先生だったんだけれど、実写だとただのサイコパスなようにも見えてくる。まあ、これは役者のイメージもあるのかもしれないけれど……」

亀「別に変なところがあるわけではないんじゃがな」

主「アニメの内容をそのまま持ってきてもダメだということの好例になったんじゃないかな?」

 

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この4人の並びを使いたかったのもわかるけれど、これ順番逆だよね?

(C)2017映画「心が叫びたがってるんだ。」製作委員会 (C)超平和バスターズ

 

ミュージカルシーンについて

 

亀「本作の1番の花形であるミュージカルシーンについてじゃが……ここもイマイチじゃったかの」

主「いや、おかしくはないんだよ。確かにさ、これは町の舞台であり、学芸会みたいなものなわけだ。そんなにクオリティが高すぎたらおかしいと言えばおかしい。

 だけどさ……ミュージカルの序盤、順が来るまではアニメ版の演出そのまんまのミュージカルシーンが行われるけれど、これがあまりにも魅力がなさすぎてねぇ……

 本当に学芸会なんだよ。いや、設定上それはおかしくないよ? 衣装もチャチイのもその通り。だけどさ、映画としてのカタルシスってものがあるでしょ?

 

亀「それがアニメと実写の最大の違いかもしれんの。

 アニメであれば作画技術であったり、演出で町の公民館を世界一の劇場にすることもできる。あまりにもレベルが高いものであっても、そんなに違和感はない。

 しかしこのような実写映画になってしまうとその力がおかしなものになってしまうのかもしれんな」

主「う〜ん……

 アニメ版は作画技術も素晴らしく良かったからなぁ……どうしてもそちらと比べてしまうと、絵の力も全然違う。明らかに2段、3段落ちるものになっている。

 そう考えるとさ、今作の1番の持ち味であるこのミュージカルシーンもカタルシスが全然ない。

 しかも音楽がアニメ版と全く一緒だから比較すんなよ! 別物だよ! とも言えないわけ。

 そんなの、同じ楽曲なんだから比較するに決まっているじゃん!」

 

亀「ここでオリジナル曲を使ってもここさけらしさは無くなってしまうかもしれんし、中々難しい話かもしれんがの」

 

 

 

 

3 アニメ版との違い

 

亀「では、ここでアニメ版との違いについて語っていこうかの」

主「やっぱり1番目につくのは野球少年、田崎の描写はすごく増えたよね。むしろ今作は坂上よりも田崎の方が目立っていたかもしれない。でもさ、こうやって実写で見ると……あの感情の変化であったり、周囲の思いというのが結構唐突なようにも思えてくるのがちょっと残念だよね」

亀「あれもアニメ的なものだったのかもしれんな……

 野球部のことが描かれたことによって、田崎の思いというのがより明確になった印象じゃの。あとはアニメ版では唐突に感じられた最後の発言も、この映画では全て納得いくものになっておった

 

主「ずっと味方していたしねぇ。

 あとは前述の通り、多くの生々しい描写はカットされていたね。田崎が駅で菜月をナンパ? するシーンも全カット。アニメ版では文化祭の日のゴタゴタの原因をクラスメイト全員が知って『え? あれってあの2人のゴタゴタが原因なの?』という言葉もあるけれど、それも主要キャストの4人のみが真実を知るようになっていた。

 あとはあのお城のシーンでの『足が臭い!』もなし。あのセリフがグッときたんだけどなぁ……生のセリフって感じがして」

亀「それがなくなったことによって大分見やすい物語にはなったが、引っ掛かりのない物語になったとも言えるの」

 

主「あとはミュージカルシーンも最後の王子様とお姫様のシーンもさ、2人のお姫様だったのが王子とお姫様のシーンになっていて……あれは2人のお姫様だからこそグッときたのもあったんだよなぁ……

 こういう改変が行われていたけれど、まあ、個人的には悪い改変だった。でも意図はわかるし、やりたいことには納得はする」

亀「それでも文句をタラタラいうわけじゃから、実写化は難しいの」

主「元々が無理なことだったのかもね。

 でも酷評する映画ではないと思う。オススメもしないけれど、これよりひどい映画はまだまだあるし、アニメ版が名作だから比べれられることはあるけれど、多分単体で見たら……『まあ、こんなもんじゃない?』ってレベルに収まっているんじゃないの?」

 

 

 

最後に

 

亀「というわけでここさけのレビューじゃったが……これから先もアニメの実写化は続くのかもしれんの」

主「ここさけでこのクオリティになるなら、あんまり期待しないな。

 個人的には原作を改変してもいいと思う。それが実写化の意義だしさ、アニメとは違う売りを出していくぞ! ってことも重要だから。アニメ→実写映画という映像作品から映像作品へというのは難しいんだよ。

 どうしても比べれられるし。

 その意味では擁護する部分もある。だけど、正直、今の邦画の『分かりやすくて売れる映画の方程式』とでもいうべき、分かりやすくて説明台詞満載で恋愛たくさん、回想シーンもあってアイドル役者を起用して……だったら、何をやっても面白くならない」

 

亀「映画をあまり見ない一般層には受けるのかもしれんがの」

主「別に大作邦画が全部ダメとは言わないよ? 絶賛した映画も今年もあるしさ。

 だけどアベレージは低いよなぁ……」

亀「アニメ云々関係なく、今年の良い邦画は小規模ばかりだということじゃな」

 

 

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