今回は映画好きの中でも大きな話題を呼んでいる『ギルティ』の話題です!
しかも特別な試写会で見させていただいたので、より楽しめたよ!
カエルくん(以下カエル)
「今回参加した試写会は、イヤフォンを使用した試写会でした。
特別なイヤフォンを使って映画そのものの音と、作中で流れる電話越しの音を楽しむというものです」
主
「この作品には最高の上映だったね」
カエル「え〜っと……わかりやすく言うと”イヤフォンをしていても外の音が聞こえる”という新しいタイプを使用しています。
そのため、映画の登場人物たちの会話はそまま外の音として、イヤフォンからは電話の声がするために、実際に自分が作中の電話の音を聞いているような臨場感が味わえました!」
主「そのイヤフォンの宣伝もあるのだろうけれど、とてもいい上映だったので、ぜひとも一般の上映でも体験できるようにしてほしい……というのはさすがに無茶ぶりなの中な?」
カエル「”未知の映画体験”というのも納得だよね!
そういう特殊な上映で楽しんだこともありますが、それを差し引いても面白い映画だと思います!
今回は試写会で鑑賞したこともあって、いつも通りあまり否定的なことは言わないようにしますが、そもそもそんな否定的な意見がない作品でもあります。
あと、当然ながら核心に迫るネタバレはしませんので、そこはご容赦ください!」
主「じゃあ、記事を初めて行こうか」
作品紹介・あらすじ
警察への緊急通報の声と音だけで誘拐事件を解決する、シンプルな設定でありながらも高いドラマ性が評価されて第34回サンダンス映画祭で『sarch/サーチ』と並ぶ観客賞を受賞するなど、大きな話題を呼んだデンマークで誕生したサスペンス作品。
ジェイク・ギーレンホールが主演でハリウッドリメイクも決定している。
監督・脚本は今作が初長編作品となる若き才能であるグスタフ・モーラーが担当する。
緊急通報司令室のオペレーターとして勤務するアスガーは、交通事故の搬送の手配や事件現場に警察官を派遣するなどの応対をする日々を送っていた。そんなある日、今まさに誘拐されている女性からの通報を受ける。
犯人の目と耳を避けながら電話する女性に応対し、少しずつ所在地や誘拐の状況を探っていくアスガー。
果たして、電話から流れる音だけで事件に対処できるのだろうか……
感想
では、まずはTwitterの短評からスタートしましょう!
試写会で鑑賞
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2019年2月20日
警察への緊急通報の音声だけで進むサスペンスにも引き込まれるがそれ以上にドラマや作り込まれた脚本、演出に痺れる
試写会で観た作品は好意的な感想しか書かないが今作は本音で否定的な意見が浮かばないほどの息詰まる傑作!pic.twitter.com/4bekCRLAar #音だけの見えない事件 #ギルティ
本当に褒めるところばかりの、見事な傑作です!
カエル「試写会で鑑賞したので当然のように褒めが中心の記事にしようと思っていますが、本音で貶める部分がほとんどないような傑作でしょう!
『sarch/サーチ』はパソコンの画面だけで物語が続いていくサスペンス作品ですが、全く新しい現代だからこそできる作品になっています。
そして本作も、その特異性が目立ちながらもドラマやサスペンスがしっかりとしており映画としてオススメしたい作品になっています!」
主「正直、この映画を観る前は試写会事態に懐疑的だったんですよ。
作品名も伏せられていて『新作映画の<未体験>特別試写会』と称されていたから、日本初公開の海外の作品でも上映するのかなぁ……とワクワクしていったら、週末に公開予定のギルティかよ! とちょっとがっかりするところもあったんですよ」
カエル「今回主催する配給会社は知っていたから『あの作品かな、この作品かな』と予想もしていたもんね……
海外の映画だったら上映開始数ヶ月前に試写会を行っても不思議ではないし」
主「それでイヤフォンなんて付けられて『あ〜あ、映画が見づらいなぁ!』なんてちょっとプリプリしていたけれど、これがもう面白いのなんのって!
自分の不満なんて全て吹き飛んでしまいました」
カエル「それだけの力がある作品ということだもんね!」
本作の5つの見どころ
①サスペンスに引き込まれる!
じゃあ、ネタバレなしで見どころを紹介すると?
作り込まれた”想像力”を問われる物語かな
カエル「音声だけをヒントに色々なことを探っていく必要があるから、観客側にも大きな想像力が試される映画だよね。
映画としては声ばかりに注目してしまうけれど、例えば車の走る音だったり、天候やノイズなど多くの音が流れてくるわけで、それも重要なヒントになってくるわけだしね」
主「それらの音を頼りに犯人や関連する事柄を探っていくけれど、その1つ1つに想像力が試されていく。
そしてそれが上質のサスペンスとなり、物語にのめり込んでいくこと間違いなしだろう」
カエル「特に”音声だけ”というのは重要なことで……ラジオドラマなどのように、現場の様子も音声で説明されます。なので、現場がどのような状況なのかは想像するしかありません!
普通は現場にいる警察官や軍人の視点で物語が進行していくけれど、今作は通信を受け取る側の視点だけで進むのが面白かったね」
主「『え、じゃあ難しそう……』と思う方もいるかもしれませんが、大丈夫です!
映画としてはとてもわかりやすく、エンタメに特化しているので多くの方に楽しまれる作品です!」
②ドラマの魅力がたくさん!
そして、本作の魅力はサスペンスだけではありません!
作り込まれた人間ドラマや社会性を持った脚本が、また見事なんだよ
カエル「こういう斬新な切り口のサスペンス自体は面白いけれど、物語としては微妙……という作品を連想する方もいるかもしれませんが、そんなことはありません!
むしろ、人間ドラマとしても見所が多い作品です!」
主「この脚本の作り込みには驚いたね……
サスペンスとして『犯人はどこにいるのだろう?』『女性は大丈夫なのか?』ということに集中して鑑賞していても、それ以外の要素にもグイグイ引き込まれてしまったなぁ」
カエル「しかも、サスペンス要素などの娯楽面だけではなく、社会性やメッセージ性も抜群1
紛れもなく娯楽映画であり、多くの人を引き込むこと間違いなし!
さらに言えば、サスペンス映画などは少し過激なシーンがあるために苦手かも……という方にもオススメしたい作品となっています!」
主「特に終盤の展開には心打たれたなぁ……
ここはどうしてもネタバレに絡んでくるので軽く紹介する程度ですが、人間ドラマに注目する方でも楽しめます!」
③わかりやすく”魅せる”演出力!
音声だけで進む映画となると退屈なんじゃ……? と思われるかもしれませんが、そんなことはありません!
演出や映像作品としての魅力もたくさん!
カエル「本作は警察の緊急通報のオペレーターが主人公の作品です。なので、ほぼ全篇がオペレートルームで巻き起こるという、音声のみならず密室劇としても楽しめる作品となっています!
当然、これは相当ハードルが高いわけだけれど……」
主「いやー、本当にうまい!
この密室劇でしかも映像で見せることができないというのは大きなハンデと思われるかもしれないけれど、そんなことはありません!
ちょっと教科書通りな面もあるけれど、細かい構成だったり、1つ1つの描写が見事で、そこに注目すると飽きることなく鑑賞することができます」
カエル「えっと、じゃあネタバレにならないように演出の見所を語ると?」
主「主人公であるアスガーの心境と捜査への焦りを表すように、オペレーター室が少しずつ変化していく、その様子だよね。
それが物語と複雑にリンクして、さらに想像力を高めてくれる……だから、本作に置いて、ただ単に事件について想像するだけではなくて、その時のアスガーの心境や、自分だったらどうするか? なども考えながら観ると楽しめるのではないかな?
これはTwitterのフォロワーさんとも話していたけれど、映画製作者や物語創作者を目指す方ならば絶対に見ておいたほうがいいです。
この手のシンプルな作品が1番参考になります」
④アスガー役、ヤコブ・セーダーグレンの演技について
今作は出てくる役者も相当少ないことが特徴的です!
顔出しした役者だと……どうだろう、片手で数えられるレベルではないかな?
カエル「その中でも、オペレーターであるアスガーを演じたヤコブ・セーダーグレンが画面をほぼ9割映っているような状態で、大変だったんだろうなぁ……」
主「美女も子供も出てこない、ただただずっと30歳くらいの白人男性が映っているだけなんだけれど、演技から伝わってくる彼の事件に対する焦燥、あるいは安堵の表情や覚悟を決めた仕草などが素晴らしい。
特に大きな動きやアクションがあるわけではないけれど、だからこそ伝わってくるものがあるね」
カエル「実は細かいけれど映像的にはとても豊かな作品で、そうなった最大の理由はヤコブさんの演技にあるんじゃないかな?」
主「この瞬間に何を考えているのか?
そこに注目しながら見てみるといいかもね」
⑤キチッと練られたスケール感合う物語
本作は低予算映画としても話題を呼んでいます
スケール感を把握して、物語を広げすぎないのがいいんです!
カエル「えっと、ここは少し言葉が難しいので勘違いされて欲しくないのは、スケールが小さいというのは悪口や皮肉ではなくて、本当に褒めています!」
主「近年、スケール感の大きな大作映画がたくさん生まれてきている。
それは大作だから当然のように思われるかもしれないけれど、風呂敷や物語を大きくしすぎた結果畳むことができなかったり、無駄とも思えるシーンが続く上映時間が長い作品だって生まれてきた。
もちろん本作がワンアイディアの低予算映画というのもあるだろうけれど、下手に物語を広げずにまとめてきたというだけでも評価したい」
カエル「どうしても物語を作るとなると風呂敷やテーマは大きくしたいよね……」
主「だけれど、見応えがない作品というわけではない。
むしろ、その真逆で……本作は見応えが多く、深く人間について掘っていく物語でもあるんだ。
このスケール感でどのようにすればいい作品が作れるのか、必死に考え抜かれた作品である。
確かに1つ1つは飛び抜けたものがないかもしれないけれど、脚本、演出、音楽、役者などに工夫が満ちた結果、完成度の高い作品になっている」
1つだけ懸念
じゃあ、ネタバレしないように欠点を上げていくと?
う〜ん……ちょっとだけ気になったのは、犯人の動機かな
カエル「この映画の誘拐犯の動機だね」
主「映画として非常にわかりやすく、メッセージ性にも繋がってくる、大事な要素ではあるのだけれど……これが少し配慮が必要なものに感じられた。
例えば、近年顔に傷がある凶悪犯罪者を描くのはやめよう! という運動がある。これは顔に傷がある=極悪人という偏見を助長させるものである、というね」
カエル「他にも女性=か弱くて守られる存在、とか、あとはマッチョで金髪モヒカンのいかにも北斗の拳に出てきそうな人が悪役というのも、映像的な記号論では重要だけれど、それが偏見に繋がってはいけないよね」
主「多分、気にする人は少ないかもしれないけれど本作の犯人の動機はあまり説明が入らず、さらにメッセージ性を伝えるために最適とも言えるものではあるけれど、それが差別や偏見に繋がるのではないか? と気になってしまった。
ここはとてもセンシティブな問題だけに、数少ない苦言を呈するポイントでもある……いい映画だけれどね」
以下ネタバレあり
作品考察
密室劇をいかに見せるのか?
では、ここからは致命的なネタバレはしないものの、作中の描写も含めて言及していきましょう
今作の密室劇の見せ方がとてもうまいんだ
カエル「画面からはあんまり動きがなくて、退屈な作品と受け取られかねないけれど、実はそうじゃないってことを語りたいんでしょ?」
主「映画におけるカット割りだったり、場面変更というのは場所を変えることで観客の気分も変える、とても大事な効果がある。
他にも背景や天気が変わることで……例えば夕焼け空になんとなくノスタルジックな雰囲気を感じたり、晴れていたのが曇ったりすることで波乱の展開を予感させるなどの効果もあったりと、背景も心情表現や人間ドラマにつながっているんだ。
でも密室劇ではそれは難しいけれど……では、本作はそれをいかに見せているのか?」
カエル「まず、物事が進んでいくとアスガーの行動に出ていたよね。
序盤はみんなと同じオペレートルームにいたけれど、1人で集中して取り組むために個室に入ったり、さらにブラインドを落として完全に見えないようにしたり……」
主「この場所の変更をすることで、事件がどうしようもない状況に迷い込んでいるという演出であり、同時にアスガーの心理表現までされている。
暗い部屋の中になればなるほど、周囲を信用することができず、自分の世界に狭い視野で入っていくことになってしまう」
カエル「そして、ある程度以上まで話が進行したところでアスガーは部屋を出て行くから、そこで今までとはまた違う感情の変化が起きていた、ということだね」
主「そして赤いランプと耳のヘッドセット? の緑の光がさらにサスペンスを盛り上げている。
唯一信用できるのが音声だからこそ緑の色がつき、そこでは安心感を与える一方で、サスペンスが盛り上がるときには赤いランプがつくことで、観客に緊迫感を与える。
それは小さな変化かもしれないけれど、アスガーの表情の変化も含めて映画としての見どころを大きく作るための演出に満ちているんだ」
今作の面白さ〜人間ドラマについて〜
次に語るのが人間ドラマについてです!
今作で”犯人”とか”どのような犯罪か”というのは、メインではないんだ
カエル「え? サスペンスなのに?」
主「確かに、本作の売りは音声しか聞こえないという状況を利用したサスペンス性にある。
だけれど、そんなことは正直どうでもよくて……
例えばさ、ラストの展開にびっくりするタイプの映画や小説などはたくさんあるけれど、本当に名作といわれる作品はそこだけに注目しないと思うんだよね」
カエル「具体的な名前は言えませんが、名作と呼ばれるものはミステリーやサスペンスとしての驚きだけではなくて、ドラマとしても面白い作品も多い印象かなぁ」
主「だいたい、びっくりするタイプのオチなんて、そんなにうまくできないんですよ。
なぜならばある程度パターンは決まってしまっていて、そこから外れると唐突でアンフェアになってしまう。
だから物語に見慣れた人ほど、どのパターンか見破れてそのオチが見抜けてしまう。
だけれど本作はサスペンスの底に流れる人間ドラマがとても重厚だからこそ、例え流れやカラクリがわかっても飽きることなく観ることができるんだ」
カエル「本作に対する感想で『トリックが分かったよ〜』なんていう人がいるけれど、そういう作品じゃない! ってことを言いたいんだね」
公式の予告スタッフたちの工夫
ちなみに、いつも褒められることがないだろうけれど、今回は予告や試写会を開いた公式のスタッフたちも褒めて欲しい
主「なぜならば……試写会に参加した時にチラシをもらったけれどSNSなどで感想をあげる時も『驚愕の展開にびっくりした!』『犯人の正体が〜!』などといった表現は使わないで! と要請された。
これは『本作にはミステリー要素があるよ』ということを知られないための措置であり、最大限観客を楽しませようという工夫だよ。
いつもはヘイトばかりが集まりがちだけれど、素晴らしい工夫を凝らしたスタッフにも賞賛の声をあげてほしいな」
偏見と差別の物語〜あなたも身に覚えがありませんか?〜
じゃあ、その骨太な人間ドラマの見どころをサスペンスのネタバレ抜きで話すと?
本作は”偏見と差別の物語”になるんだ
カエル「結構濁して語るけれど、アスガーが『なぜあなたは助けを呼ばなかったのですか?』と電話相手に問いかけると『助けを呼んだら助けてくれたのかい?』という返しが来ます。
この瞬間に、観客もドキリとするんだよねぇ」
主「どうしても人間というのは偏見や差別を抱えてしまう。特に犯罪に関することであれば、なおさらだろう。
そして本作は……この尺と見せ方のために動機に関することで重要な展開があるのだけれど、そこがとてもうまいのと同時に……これはスタッフが意図しているとは思えないけれど、大きなメッセージ性を内包している」
カエル「ネタバレなしで語った”大きな懸念”のところだね」
主「単純にさ……犯人の動機って、納得した?」
カエル「う〜ん……まあ、そういうものなのかなぁ……と受け止めたけれど……」
主「それが1つの懸念なんだ。
物語としては会話だけの密室劇で誰でも理解できるような動機のために、あのようなものにした。
だけれど、これだけ……偏見に関する物語を描いた後でも、あの動機で納得してしまうと、実はアスガーが陥った罠にハマることになる。
その人物の状況や過去によって決めつけることはいけない! という明確なメッセージ性があるにも関わらず、本作はその動機において真逆のことをしてしまっている。
だけれど、そのメッセージ性を受け取ったはずの観客が、この物語に違和感を抱いていないとしたら……それは強烈な皮肉だろう」
カエル「それはスタッフも考えてないけれど、生まれてしまった予期せぬドラマかぁ」
主「人間が偏見や思い込みから脱するのがどれだけ大変か、という事を証明するいい描写だったのではないか?
その結果、本作はいくつもの重厚な人間ドラマを展開することに成功しているな」
まとめ
では、ここでまとめます!
- サスペンス、人間ドラマとして見所の多い作品!
- 音声が中心ながらも細かい演技や演出にも注目!
- ただし、犯人の動機などは若干疑問がある分、それが皮肉なメッセージ性に!
いい映画です!
カエル「本当は肝心のネタバレ込みで語りたいことがとても多いのですが、本作は一切のネタバレがない状況で見て欲しいね」
主「もう公開1週間過ぎたので肝心のネタバレは避けて語りましたが、なるべくならばまっさらな状態で見てほしい作品です!
ぜひ劇場で鑑賞してほしいね!」