カエルくん(以下カエル)
「……この映画を語るにおいて、このブログほどふさわしくて不適切なブログもそうそうないよね」
ブログ主(以下主)
「お前か! お前が犯人なのか!?」
カエル「ち、違うよ! 僕は人畜無害なカエルだよ! 人に危害を加えたことなんて一度もないよ!」
主「嘘をつけ! 虫を食べたことはあるだろうが!」
カエル「食事すらもNGなの!?」
主「ははは……冗談だよ。お前がカエル男なわけがないじゃないか。誰もそんなこと、疑ってないよ」
カエル「主……ぅ……グス……ありがとう、人の心の温かみが嬉しいよ……」
主「お前が妻夫木聡なわけないじゃないか! 自惚れるなよ」
カエル「そっちかい!」
主「は!? それなら自分は小栗旬!? おお……あんなイケメンだったのか……」
カエル「……コントはここまでにして、映画の感想記事を始めるよ」
1 ネタバレなしの感想
カエル「では、まずネタバレなしで感想を言っていくけれど、どうだった?」
主「一言で表すと『まあまあ面白かった』に尽きるかな。
個人的にはこういうグロい映画って苦手な部類なのよ。でもさ『3月のライオン』の実写映画を大友啓史監督が撮るわけじゃない? もちろん『るろうに剣心』である程度の評価はされたわけだけど、今作はどうかな? って思いもあったわけだ」
カエル「どちらも漫画原作だしね。しかもるろ剣とはタイプも違うし」
主「だけど、全く心配がいらなかった。うまい部分も多いよ。
最初の導入からさ、ラストに至るまで雰囲気作りも徹底されているし、絵の空気感だったり、緊迫するストーリーだったりというのも、見事に表現されていた。
まあ、中盤以降若干ダレるかな? という思いはあったけれど、2時間を超えたらほとんどの映画はそうなるからさ、あまり問題はないように思う。十分映画館で見る価値はあるよ」
カエル「最近はこのタイプの邦画が比較的ヒットしているしね」
主「『ヒメアノ~ル』『アイアムアヒーロー』なんかはR15でバイオレンスな描写もあって、結構ヒットしもんね。
ある種の……このバイオレンスというのは、売れる邦画の条件になってきているんじゃないかな? 良いか悪いかは別としてね」
グロテスク度
カエル「やっぱり気になるのはどれだけグロテスクか、ということだけど……」
主「一応本作は年齢制限はないから、上記の『ヒメアノ〜ル』などに比べると大分マイルドではある。えげつないシーンは見せすぎないように配慮されているし、作品世界を損なわないレベルでの、年齢制限を上げないように苦心しているのは伝わってくる。
でも、じゃあ子供もOKかというと、そんなことはないよ。小学生には早いんじゃないかな? 最低限中学生からだね」
カエル「結構キツイ描写も多かったよね……」
主「多分年齢制限をかけない上でギリギリの描写。これぐらいが個人的にはちょうどいいかなぁ……いや、結構不思議なんだよ。なんでこの映画がPG12にすらならなかったんだろう? って。
あ、あとテーマ性も結構重いから、単なる娯楽映画のノリで見に行くと痛い目を見るかもしれないよ。
同日公開の『きんいろモザイク』でも見て、萌えで浄化して帰ろうかなと思ったし」
カエル「……相変わらず滅茶苦茶なこと考えているんだね」
役者について
カエル「じゃあ役者についてだけど……全体的に合格だよね!」
主「特にカエル男役の妻夫木聡がとんでもなくよかった! なんていうか、ああいうサイコホラー感が出ているんだよね。妻夫木聡ってそれまで、どことなくいい人な印象のある役が多かったけれど、本作は根っからの悪人で、いわゆる『イッチャッテル』人を熱演していた。
動きも含めて、この映画に見事にマッチしてたよ」
カエル「さすが僕だ!」
主「いや、お前じゃないから!
そして主演の小栗旬も熱演だった。漫画原作作品に小栗旬が多く使われるのって、ある意味では藤原竜也と同じ理由なのかもしれないな。
つまり、藤原竜也もそうだけど、存在自体が強すぎてある意味では漫画的というか。こういうリアリティの薄い、外連味の強い作品では大きな力を発揮するよ」
カエル「主の好きな外連味だ!」
主「今回の役者がハマったのは、リアリティをある程度排除して、エンタメとして徹したことはあるだろうな。ああいう犯罪だとか、カエル男とかをリアリティのあるように描くということは、結構難しいし、それはそれで気持ち悪くなるからさ。
だから小栗旬も松重豊も……他の役者陣もリアリティよりもエンタメの、派手な演技を重視したと思う。もちろん演出も。個人的には漫画原作においてはそれが正解だと思っているから、これでいいと思うよ」
カエル「元々リアリティのある話でもないしね……」
主「あとは……野村周平などもいい味を出していたし、尾野真千子も田畑智子も市川実日子などの女性陣も美しさと魅力を出せていたんじゃないの?」
以下ネタバレあり
2 演出のうまさ
カエル「全体的にこの映画はうまいよね」
主「ツッコミどころは満載だけど、しっかりと考えられて練られているとは感じた。例えば、序盤において、どうやって作品世界に引き込むか、という問題があると思うけれど、そこを『母の痛みを知りましょうの刑』を残酷に見せることにより、一気に画面に引き込まれるよね。
最近の邦画のうまい作品は、こういう引き込み方がしっかりとしているんだよ。例えば、中盤のカーチェイスなんかもリアリティはあまりないけれど、エンタメとして機能するようにしている。『SCOOP!』の時に語ったことなんだけど、そういった部分がしっかりしていると、映画として違和感なく見られるよね」
カエル「主の語る映画としての違和感って、演出のリアリティバランスの違和感が多いもんね」
主「そう。スターウォーズやインディージョンズって、リアリティが欠片もないけれど面白いのは、リアリティバランスをエンタメに徹しているからなんだよ。だから荒唐無稽な話だったり、オカルトじみた話、SFであっても理解できる。
だけど、リアルな話で急にご都合主義やエンタメっぽい描写があるとそこが浮くんだよね。それがないように、しっかりと演出されていた」
カエル「部屋の描写とかもやりすぎなくらい凝っていたもんね」
主「そうねぇ。まあ、誰も実際の殺人鬼の部屋って見たことないけれど、そういう……『〇〇ぽい』がうまくハマった形かな。あの警察だって『太陽にほえろ』のような、今時珍しい描き方だったし」
3 構造について
デスノートと同じような構造
カエル「……これは?」
主「批判も多い作品だけど、基本的な構造は……特に途中までは『DEATH NOTE Light up the NEW world』と同じだと思うんだよね。
それをこれから説明するけれど……少しだけデスノートのネタバレもするので、それが嫌な人は4まで飛ばしてください」
カエル「じゃあ、語るけれど……まずは、どこから語るの?」
主「デスノートの基本的な流れを説明すると、まず説明から入って、混乱のあるサスペンスシーンがあり、それを追う警察と竜崎という流れがある。
で、いい具合に警察が無能だから犯人を捕まえることができない。まあ、捕まったらおしまいなんだけれど。
そしてツッコミどころ満載の頭脳戦を繰り広げて、そのうちに内部からの犠牲者が出て、警察に逆に追われる身となって、それでも敵を追いかける主人公たち、という構図だよね。
これとほぼ同じ流れなわけ。ただ、デスノートよりも一つ一つの描写が上手いし、演出なども整えられているから、こっちの方が何倍もしっかりとしているけれどね」
カエル「確かにこの作品も事件が起きて、リアルタイムで酷い事件が発生し、それを追う主人公たちから始まるもんね」
主「だけど犯人は捕まらず……しかも若干のご都合主義も感じながら、ある種の頭脳戦みたいな真似を繰り広げるわけだ。
そこも結構ガバガバでさ……ほんの少しボタンを掛け違えただけで、カエル男の目論見は失敗するんだよ。例えば、増援を呼ぶとかさ。
途中のカーチェイスのシーンも、あれ、自分が事故ったらどうするつもりだったんだろうね?」
カエル「その意味ではツッコミどころ満載かもね」
主「だけど、リアリティバランスがエンタメ寄りになっているから、そこまで気にはならない。ガバガバの推理線があって、警察内部に犠牲者があって、頭が切れすぎるくらい切れる主人公によって犯人を追い詰めて……という展開を見ても、そこまで大きな違いはないんだよね。
だけど、明らかに完成度に差があるんだよ。これは……脚本というよりも、演出とか作品世界観の統一に成功したからだろうね。
漫画原作のサスペンス、ミステリーにおける、一つの形になっているということだろうね」
カエル「原作の大きさの差もあるだろうけれどね」
まとめると
カエル「簡単にまとめると以下のようになっているんだよね」
デスノート
デスノートの事件発生、静かな始まり
↓
大混乱の外連味のある大騒動
↓
それを追う警察(ただし犯人は捕まらない程度に追う)
↓
ツッコミどころ満載の頭脳戦
↓
やがて大きな被害が! 仲間だったはずの存在も敵に!
↓
キラとの対決
ミュージアム
主人公の背景説明、事件発生
↓
犯罪に巻き込まれる被害者
↓
それを追う警察(程よく無能)
↓
ツッコミどころ満載の追いかけっこ
↓
身内にも大きな被害が! 警察も敵に!
↓
カエル男との対立
主「あとはキラが自分の信条でデスノートに名前を書き込むのに対しして、カエル男は自分の美意識で事件を起こすのも似ているな。どちらも勝手な自意識での犯罪だし」
4 ツッコミどころ
カエル「それでも逃れきれないツッコミどころも沢山あるね」
主「まずは、カエル男の犯行の杜撰さ。本当、あの計画がうまくいったのは運だよ。
確かにカエル男も強そうだけど、現役の警察官相手に素手で勝てるというのは中々だよね? 警察は銃も持っているしさ」
カエル「野村周平も警察官と思えないくらい弱そうだしね……ヒョロヒョロでさ……」
主「それから、主人公のエスパーのような勘の良さ。あれだけ勘が良かったら、さっさと捕まえられるんじゃない? 他との差をつけすぎたよね」
カエル「他の刑事との差がありすぎるよねぇ……」
主「他には、家族を探しにアパートに行く場面。あそこも運だよね……完璧な計画というには、少し無理があると思う。まあ、5分10分以内に終わらせる自信はあったんだろうけれど」
カエル「エンタメで統一してもそこは隠しきれないよね」
裁判の疑問
カエル「これは劇中ではあまり語られていないところだけど……」
主「単純な話として……確かにショッキングな事件だけど、弁護人が無罪を主張しており、結果的に冤罪だったわけじゃない? これで何人も手を下しているならばともかくこの状況で死刑を宣告されるだろうか? という疑問はあるよね」
カエル「無罪の主張も精神疾患だけなのか、よくわからないしね」
主「厳罰化が進むとはいえ、少し疑問があった。しかも一審でしょ? 精神疾患で全て片付けられるけれど……引っかかるんだよね。あと、警察病院内で自殺って、一番警察が気にしていることだからさ、それで幕引きというのがどうもね……」
事件に対する美意識
主「あと、これは美意識の問題かもしれないけれど……このカエル男が起こした事件の中で『幼女樹脂殺害事件』は、確かに美意識を感じたんだよね。
『あ、確かにこれはアートって言いたくなる気持ち、わかるかも』って。世界一美しいミイラみたいなものでさ、そういう永遠の美を追求する姿勢というのはわかるんだよ。アーティストぽいし。
だけど、それ以外の……特に今回の劇中で起こされた事件に関しては、唯一『ずっと美しくの刑』以外は、同じ犯人の犯行とは思えないんだよね。ただのサイコパスでさ。まあ、だからこそ自分の一番の傑作を汚された怒りに燃えるというのはわかるけれど」
カエル「それは原作もそうなんじゃない?」
主「アーティストとしての美意識にズレがあると思うんだよ。血を出したら、解体する方に美を感じるのか、それともグロテスクに演出する方に美意識があるのか。
ここって物語の根幹なわけじゃない? そこに違和感があったんだよね」
『カエル男』である理由
主「ぶっちゃけて言うとさ、このカエル男の起こした事件の中でも『少女樹脂殺人事件』と『ずっと美しくの刑』と、そして最後の『究極の選択』というのは美意識としてわからないでもないんだよ。
特に、日光アレルギーだから、余計に醜い自分というものを意識しているわけじゃない? そういう人が、永遠の美を求めるというのは、確かにわかるんだけど……」
カエル「あの疱疹とか蕁麻疹を指して『カエル』と自称していたわけだもんね」
主「結構、異常犯罪者って……しかもああいうアーティストって美意識が強いんだよね。自分の美学に沿って行動しているから。
例えば、サイコパスとはちょっと違うけれど、地下鉄サリン事件などのオウムだって、その多くの事件において『血が流れる殺し方』はあまりしていないんだよ。リンチとかはあったけれど、直接の犯行は毒殺などの血が流れないものが多い。銃やナイフで血を流したら、己の教義に反するから」
カエル「男はグレテスクに、女は美しく飾り立てて……というのが目的だったのかな?」
主「ああ……それはあるかもね。同性の男には『お前も同じ目にあえ!』という意識があったのか……
でも、それならドックフードの刑がよくわからんのよな……」
5 テーマ性について
裁判員制度
カエル「この作品が提示するものって、結構重いよね」
主「まずは裁判員制度に関するものだ。これだけ重い事件を一般人が裁くということが、果たして良しとするべきなのか、否なのか?
それもあるけれど、この制度の元では必ず自分の犯行が見てもらえるという確信があったことは大きいよね。これでこの犯行の動機が成り立つし」
カエル「大きな社会問題だもんね。この前も暴力団員から『よろしく』と言われたという案件もあったし」
主「裁判官や判事、弁護士のように覚悟を決めた人たちじゃないからなぁ……」
表現の自由
カエル「あとは主としてはここも語りたいものかな?」
主「この事件の根幹にはやっぱり少年A というのはアイディアにあると思う。日本における猟奇殺人、アーティストタイプの殺人の典型的な例だし」
カエル「もちろん、事件性があるものは表現の自由とは認められるものではないけれど、こういう表現しかなかった、というのは不幸なことだよね」
主「こういう犯罪に目覚めてしまう、それに異常に興奮してしまう……さらにアレルギーという疾患も抱えている。それを考えると、悲しい事件ではあるよね」
詰め込まれたテーマ
カエル「で、やっぱりここにたどり着くわけだ」
主「この作品はやっぱり、色々と詰め込みすぎなような気もする。例えば裁判員制度もそうだし、表現に関することもそうだし、あとは父と子の運命の連鎖もそうだし……
こう、話があっちこっちに散っている印象があるんだよね。
『で、結局何が言いたかったの?』ってやつ。話としてはバイオレンスな事件が1本筋としてしっかり立っているから、エンタメとして成り立つけれど……あれもこれも足された結果、よくわからない話になったんじゃない?」
カエル「勿体無いよね。どれもいいテーマなだけにさ」
主「その影響で父と子の話なんて、完全に蛇足に見えたしね……」
最後に
カエル「色々と言われている、あのラストについてどう思う?」
主「良かったと思うよ。最後もゾクリとするように終わっていてさ。
ただ、個人的に1つだけ不満があるんだよね……」
カエル「不満?」
主「この作品に限らないけれど『異常殺人をするのは全てサイコパス』という論理を便利に使いすぎじゃない? 確かに説明しなくていいしさ、楽だし、自分たちの生活からかけ離れた価値観というのも簡単に受け入れてもらえる。
でもさ……全部を全部サイコパスにすることによって『ああ、またサイコパスのせいなのね』という一つの流れというか、風潮ができてしまっているように思う」
カエル「まあね。サイコパスの定義とかって結構難しいしね」
主「もちろん、そういう物語なのはわかるけれど……便利な道具だからさ、逆に使いすぎて全部似たような味になっていない? と思う。化学調味料じゃないんだから。美味いかもしれないけれど、個性や味が失われているような気もするなぁ」
カエル「でも今週はあまり映画を見なかったんだね」
主「いや『この世界の片隅に』を見た後でこの映画を見ようとは思わないよ。あの人間賛歌、どんな状況でも人は生きる! ということを描いた名作の後に見るものじゃない」
カエル「……主は食べ合わせを気にするのか、気にしないのか全くわからないよ」
主「でも、まあ面白い映画だったよ。見やすかったし、これならある程度は『3月のライオン』も期待していいんじゃないかな?」
カエル「その答えは来年3月に!」