前回の『築地ワンダーランド』にて、築地の魅力を語っていた『NOMA』のレネ・レゼビ氏が5週間限定で東京に店を構えるまでを描いた『ノーマ東京 世界一のレストランが日本にやってきた』が公開されたので、その感想を書いていく。
なお、いつも出てくれているカエルくんは外出中、亀爺はスッポンの解体作業があるために見に行っていないので、この記事も私ひとりで書いていこうと思う。
普通のブログってこういう書き方なんだなぁ……
半年くらい前まではこの書き方をしていたが、最近では対談形式が多いので勝手がわからない……
なぜ対談形式にしたのか? ということは……今回は主題ではないので、悪しからず。
なお、この記事は『食事系ドキュメンタリー3部作』の第2章にあたる。
『築地ワンダーランド』
『ノーマ東京 世界一のレストランが日本にやってきた』
『カレーライスを一から作る』
の3作である。理由は公開時期が似ていることと、そして何よりも私が鑑賞した日付が近いことである。それ以外に理由は……ない!
だが、おそらくこの3作を見たという人も日本に100人もいないと思うし、さらに記事にまとめた人は誰もいないと思われるので、その意味では希少性は非常に高いと思われる。(需要は知らん)
では感想記事に入る。
12/10公開『ノーマ東京 世界一のレストランが日本にやって来た』予告編
1 この映画をどう見るか?
最初に言わせてもらいたい。
私はこの映画で、少し拍子抜けしたところもある。
なぜならば、私はこの映画を『1流のシェフが試行錯誤しながら、日本の四季に触れて料理を完成させていく過程を描いた映画』だと思っていた。
そしてそれは、言葉の上では確かにその通りなのだ。おそらく、誰もが納得する説明になると思う。
だが、私が期待していたのは『料理という世界最短の寿命を持つ芸術作品』の方であって、それを作る『シェフの努力や人間性』というのは、実は期待する部分と少し違っていた。
この作品は後者がメインである。
いや、むしろほとんどの同じようなドキュメンタリーは後者であると言ってもいいだろう。
しかし、私にとってこれはなぁ……と思わされたのは、出てくる料理のカットが少ないことだろうか。例えば『二郎は鮨の夢を見る』であれば、合間合間に小野二郎が握った芸術品のような寿司が出てくるし『築地 WONDERLAND』では、一生の仕事として獲得してきた知識と経験を基に買った魚などの美しさ、そしてそれを調理した料理に心を奪われる。
だが、この映画は趣旨を考えてみれば当たり前の話かもしれないが、完成した料理は中々姿を現さない。そりゃそうだ、料理が、コースが完成するまでの話なのだから。
では、この映画は期待はずれなものだったのか? と問われると……もちろん、そんな馬鹿な話はないのである。
命を賭けた仕事
なぜ世界一の名誉を得ているにも関わらず、東京に期間限定で店を出すのか?
そこは当然の疑問であろう。なにせ、そのまま同じように作っていれば、自ずと結果はついてくるのである。世界的名店が東京にだしたところで、映画で公開されて宣伝になったところで、すでに予約で一杯なのだからむしろ断る手間が増えてしまうだけではないだろうか?
何よりも、金銭的な見返りが大きいとは全く思えない。
レネは語る。
『いつもの手順を変えろ、そうでなければ日本に来た意味がない』
この言葉から窺えるのは挑戦する精神だろう。
いつものマンネリからの脱却、そのリスクの高い試行錯誤の果てにこそ、自分の追い求める理想があることを知っているのだ。
2 支えるスタッフたち
そのレネを支えるスタッフたちもまた、気概をもった精鋭たちばかりである。
ストレスに弱く、アレルギーの薬を飲んでいる者もいれば『プライベートは空っぽ、だけどそれでいいの』と語る女性もいる。
1日20時間も地下にこもり、新メニューの試行錯誤を繰り返す日々。それが報われることばかりであれば、誰もが納得がいくだろうが、実際は99%失敗だと語る。
そしてようやく形になりかけた時、レネが到着すると『君たちは本当に試行錯誤していたか? 作り続けていたら成功しただろう?』と容赦なく叱り飛ばしてしまう。
側から見ていると非常に厳しい環境である。ブラック企業なんていうレベルではない。
だが、彼らには信念があるのだ。
『レネの元で必ずいいものを作り上げる』という信念が。
きっとスタッフも語っているように、彼らはどこかおかしいのかもしれない。
だが、その『おかしな部分』こそが、レストランの名声を揺るぎないものにしているのもまた事実であろう。
理想の職場
この直前で『ブラック企業なんてレベルではない』と語っておきながらなんだが、この環境はまさしくクリエイターにとって『理想の職場』でもある。
上司であるレネが一人ひとりの個性をきちんと見極めて、その資質や才能を最大限発揮できるように配慮し、さらに試行錯誤を繰り返しながら良いものを作り上げるということを認める風土がある。
失敗を恐れず、リスクを恐れず、チャレンジすることを奨励している。
そんな職場だからこそ、スタッフもやる気に満ちて『恋人と別れてもソースのことしか考えらない』というほど、仕事に没頭してくれる。
料理人というある種の職人軍団であり、芸術家が、その人生をかけても表現したいものがこの職場にはあるのだろう。
3 『上司』としてのレネ
いつもとは違い『仕事論』という観点からこの映画を見てみよう。
自己啓発本のようなことはあまり好かないが、仕事を行う上で効率よく部下を動かす、ということに興味がある人も、この映画は深く突き刺さるはずだ。
まず、レネは確かに威圧感がある。ある種の緊張感を人に与えながら仕事をするタイプの上司だろう。おそらく、優れた料理人に共通するものであり、そうでなければ多くの料理人をまとめあげることは難しいだろう。
しかし、その手法が特徴的なのである。
レネは罵倒をしない。
料理の試食の際、白子を使ったフライを作り上げた部下に対して『これはうちのメニューでは使えないだろう』とバッサリと切りすてる。
だが『フィッシュアンドチップスのような、フライとしては斬新だし面白い』ときちんとフォローを入れることを忘れない。
私などはこの描写だけで、自分の理想とする料理像がきちんと決まっていることにも感動したし、さらにいえばその理想像とかけ離れたものを作ってもきちんと賞賛する姿勢を持っているというだけで、素晴らしいと激賞してしまうのだ。
世の中には自分の思い通りに部下が動かなかっただけで、ボロクソに罵倒する上司も少なくない。その試みがどれほど面白かろうが、仕事として結果につながらなければ意味がないという。
それはそれで正解なのだが、レネは『99パーセントの失敗から成功に繋がる』 ということをよく知り尽くしているのだろう。
だからこそ、部下を罵倒することをしなかった。
部下を見る目
確かに一部のシェフには厳しい目を向けて、時には注意する場面もある。少しは声を荒げることもある。
だが、彼はその部下達をしっかりと見つめて、評価をしているわけである。
それぞれの性格、得意分野、個性……そういったものをまとめ上げて『チーム』として作り上げようという意思を感じる。
それが最も感じられたのがバスのシーンである。
やってきた後発組を迎え入れて、ハグを交わし労をねぎらった後、彼が自らバスの中を点検して忘れ物がないか確認をしている。それこそ、もっと下の……一番下の使いっ走りにさせればいいことである。
だが、それを自分でやる姿を見せることによって、部下たちは感じ入るものがあるのではないだろうか?
『部下が上司に奉仕をする』というのはある意味では当然のものとして受け入れられるだろう。
しかし『上司が部下に奉仕する(フォローする)』ということをどこまでできるだろうか?
これもまた、世界一のレストランを作り上げた理由なのかもしれない。
レネ関連のグッズもいっぱい! 少し調べただけ色々出てくる!
4 食事系ドキュメンタリーとして
さて、私はこの映画を『食事系ドキュメンタリー3部作』の2作目としても位置付けているが、ではどのように語ることができるだろうか?
食の流通、目利きなど素材の専門家を扱った『築地ワンダーランド』
世界一の料理人として腕をふるう職人の努力を描いた『ノーマ東京 世界一のレストランが日本にやってきた』
そして、食べることの意義、その苦労を問う『カレーライスを1から作る』
という位置付けになる。
レネの技術は紛れもなく世界屈指のものである。どのレストランを世界一とするのかは単純に言うことはできないが、レネはその候補に入るであろうことは疑いようがない。
だが、そのレネの技術も『築地』などの目利きなどが運んでくる食材がなければ、料理をすることができないわけである。
もちろん、レネは自分で色々と探しまわる足を持つ。だからもしかしたら、最後は自給自足で始める可能性も0ではない。
だが1杯のカレーライスを作るのに9ヶ月かかるように、そしてそれが必ずしもうまくいかないように、レネの技術というのはその下にいる幾人もの『縁の下の力もち』の上に成り立っているのだ。
世界一のレストランであるし、その名声は揺るぎないものであろう。
我々はどうしてもその『名声』や『技術』に注目してしまうものであるが、その下には陰に日向に活躍する人たちと、人知れずに命を失っていく食材たちがいることを意識しなければならないだろう。
最後に
レネは『完璧な未熟さが完璧』という哲学を抱いている。それは熟しきらない白いイチゴを見ても、明らかである。
この映画のラストは少し尻切れとんぼのように終わることもあり、観客からは『え?』という言葉も漏れた。
確かに終わり方としては不自然なものではなかったが、それにしても呆然として少しだけ固まってしまったのも事実である。
きっと、この映画は白いイチゴなのだろう。
レネの掲げる『完璧な未熟さ』を追求した結果、少しばかり熟さずに映画が終わってしまったような気もするが、これもまた映画の味なのだ。
私の口には少しばかり酸っぱいものだったが、これもまた味として記憶していきたいものだ。
カエル「……最後とか決まった! って気がしているでしょう?」
主「……うるさい。お前も食っちまうぞ!」
カエル「ベェーだ! この映画では毒を持っているから、食われないもんね!」
主「……カエルは鶏肉みたいな味がするって本当かな?」
カエル「で、主はどの料理が一番食べたかった?」
主「やっぱり鶏肉だけど……あのエビと蟻の組み合わせも面白いし、ニンニクの葉も興味深い……というか、なんでこういう試みをもっと早く誰も教えてくれないのかね?」
カエル「まあ、予約取れないだろうけれどね」
主「……それにしても、すきやばし次郎の息子さんの方、結構どの映画を見ても出てくるのね。
こういうドキュメンタリーには欠かせない人だなぁ……」
進化するレストランNOMA(ノーマ)―日記、レシピ、スナップ写真
- 作者: レネ・レゼピ,清宮真理,平林祥,小松伸子,武部好子,春田麗華
- 出版社/メーカー: ファイドン
- 発売日: 2015/02
- メディア: 大型本
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