今回はテレビシリーズでも高い評価を受けた『甲鉄城のカバネリ』の新作中編? の感想記事になります!
総集編映画から1年半くらい過ぎてからの新作になるのかなぁ
カエルくん(以下カエル)
「あれだけの作品がオリジナルシリーズで作られたということでも驚きだよね!
『進撃の巨人』と本作がウィットスタジオの看板ということになるだろうし、荒木哲郎監督の代表作といえるんじゃないかな?」
主
「ちなみに、本作は劇場では2週間限定公開ですが、Netflixではすでに世界中で配信されています。
でも、できれば劇場で見て欲しいなぁ……
カバネリのテレビシリーズも、当然初出はノイタミナだからテレビアニメなんだけれど、総集編も劇場クオリティでグリグリと動き回って驚いたし」
カエル「総集編だけでも劇場で見る価値は大いにあるよね。
しかも今回はほぼOVAのような、番外編って扱いにはなるんだろうけれど、テレビシリーズよりもクオリティが上がっているのでは? と思うシーンも満載だし!」
主「そういえば、ネトフリ版も少し観たけれど、冒頭の描写が劇場版ではなかったような……
多分上映時間の関係とかもあるのだろうけれど、できれば完全な形で見せて欲しかったかなぁ。
それでもやっぱり劇場で特別価格1500円くらいを支払ってでも見る価値はあると思います!」
カエル「では、もう既に賞賛モードですが感想記事のスタートです!」
作品紹介・あらすじ
2016年4月からフジテレビ系列の”ノイタミナ”枠で放送されていたオリジナルアニメ『甲鉄城のカバネリ』の新作となる中編作品。劇場では2週間限定上映の他、Netflixでも公開されている。
テレビシリーズに引き続いて荒木哲郎が監督を勤める他、今作では脚本も担当する。テレビシリーズでは脚本を務めた大河内一楼が構成、キャラクター原案に美樹本晴彦
総作画監督に江原康之、音楽に澤野弘之などのおなじみのスタッフが勢ぞろいする。
キャストには畠中祐、千本木彩花、内田真礼などの他、今作オリジナルのキャラクターである大名、景之役に三木眞一郎が起用されている。
近代へと移り変わり、蒸気機関などが発達した極東の島国・日ノ本(ひのもと)ではカバネと呼ばれる蘇る死者たちとの対決を行っていた。日ノ本の要であった甘鳥幕府を失ったため、それぞれの生存圏を防衛するべく幾つかの勢力圏に分かれていた。分厚い装甲に覆われた蒸気機関車『鋼鉄城』に乗る主人公、生駒たちは北陸の要衝”海門(うなと)”にいた。
5年前にカバネによって落とされていた海門を取り戻し我が物にしようとする北陸連合軍と共同作戦を行い、奪還しようとしていたのだが……
劇場中編アニメーション『甲鉄城のカバネリ 海門決戦』 本PV2
感想
では、Twitterの短評からスタートです!
#カバネリ
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2019年5月10日
おいおいおいおい!
これは良いよ! 元々世界観とアクションか高く評価されたけれど劇場だとさらにその美しさが際立つ!
最後までお客さんを飽きさせない工夫かあり満足度も高し!
カバネリ特有の欠点もあるけれど1エピソードとして見所に満ちた作品
ネトフリもいいけど劇場でも観てほしい pic.twitter.com/vv6nYRU1N8
荒木哲郎、ここにあり! これは今年屈指のアクションアニメ作品となるのでは!?
カエル「いやー、もちろんシリーズものの続編であり、中編ということもあって単純に他の映画と比べることはできないけれど、これほどの作品に仕上がっているとは驚きだよね!」
主「……特にここ最近、デジタル化以降の日本のアニメって実はかつてないとてつもないレベルに達しているんじゃないの? って気がしている。
つい先月も大絶賛した音楽シーンの圧倒的な魅力を打ち出した『響け! ユーフォニアム』に、同じくテレビアニメ&Netflix配信でバンド表現の圧倒的な音楽シーンを誇る『キャロル&チューズデー』や、さらにアクションでは『鬼滅の刃』もテレビシリーズとは思えないものだったし、それ以外にもハマったもの、ハマらなかった作品も含めてレベルが物凄く高い作品が多くなっている。
これだけのものがほぼ毎月のように量産されていき、またこれから公開される作品たちを考えると……日本のアニメ作品ってとてつもないレベルにあるのではないか? と思わせるな」
カエル「特に本作は誰もが『アクションが素晴らしい!』と認めているもんね。
無名ちゃんの可愛らしさと、スピード感あふれるアクション描写が見どころです!」
主「また、ラストのEDでは衝撃の映像もあり、そちらもクオリティの高さに驚く内容になっています!」
荒木哲郎の要素が濃い作品へ〜生駒のキャラクター性〜
あれ? テレビシリーズも荒木監督なんだから、この言い方はおかしいんじゃないの?
……なんというか、カバネリは荒木哲郎のエッセンスがすごく濃い印象なんだよ
カエル「元々アクションが見応えのある作品を中心に活躍されているし、アニメが好きな方には知られた監督だったよね?」
主「……カバネリってさ、良くも悪くも現代的ではないんだよね。
というのは、主人公の生駒がまず現代的ではない。
直情的で熱血漢で、正直に言うと見ていてイライラしてくるようなタイプでさ」
カエル「まあ、現代的というとなろう系ではないけれど、ちょっと斜に構えていたり、沈着冷静だったりするのかなぁ。そもそも、美樹本晴彦のキャラクターデザインだって、もちろん現代でも通用はするけれどマクロスなどの印象が非常に強いから、どことなく全体的に昭和にも見えてくるというか……」
主「作品自体が時代劇であり、また特殊なスチームバンクの世界観を採用していることからもキャラクターデザインの独特な部分などは、決定的な古さを感じさせないんだけれど……そもそも、映像表現が新しいしね。
だけれど、生駒の性格がなぁ……ここをどう受け取るかによって作品全体の印象が決まってくる」
カエル「正直、評判のいい主人公ではないよね。しかも熱血漢だけれど圧倒的な力を持つわけでもなく、知識や考える力もあるけれどカリスマ性もなく、周囲の人がついてこないし……
今作も無名ちゃんのほうが主人公しているように感じたかなぁ」
主「生駒のキャラクターに関しては荒木監督自身がアニメスタイルの中で『俺がそういう人間だから、似たようなキャラクターになった』と語っている。この後結構自虐続きの話になるんだけれど、やっぱり荒木監督の意志や思いが詰まった作品になっているんだよ」
カエル「本人が『基本的にキモイ奴だから……』とか語っているもんね。そこまで言われるとこちらも何も言えないというか……」
主「でもさ、自分は荒木監督作品は好きなんですよ。
絵コンテや演出をされた『ガングレイブ』『フタコイオルタナティブ』『ブラックラグーン』とかも好きだし『学園黙示録』は特にハマった。エロスとバイオレンスの組み合わせやバランスが見事だった。
どこかしらに陰湿さがある作品が多い印象だけれど、それはそれで味となっている……けれど、オリジナルで作った時にはそれが良くも悪くも出てしまったのかな、という印象」
本作の脚本の難しさと納得のいく作りへ
今作ではテレビシリーズで脚本を務めた大河内一楼は構成に、脚本には荒木哲郎監督がクレジットされています
やっぱり、それもあって荒木成分が濃い作品なんじゃないかなぁ
カエル「実際のところは荒木監督が脚本を担当されたことは初めてなので、脚本家としての荒木成分が何なのか、ということは難しいところがありますが……」
主「この作品を作る際に難しい条件がいくつかある。
- 物語を完結させてはならない
- 全体の物語の邪魔にならない作品へ
- 初見さんにも通じやすい配慮を
- ファンが納得する作品作り
この作品で終えるのであれば、もちろん大きな物語上の発展をさせてもいい。
だけれど、今作を見る限りでは間違いなくここで終わらない。
まだまだ続くし、いくらでも続けられるように作っている。
となると、2番につながってくるわけだ」
カエル「つまり、この作品を見なくても……仮に2期が作られるときに、1期しか観てなくても通じる物語ってことだね。
最近だと『サイコパス』の劇場版がそのような作りだったかなぁ」
主「以前にも語ったけれどカバネリの最大の問題……これはゾンビ物全体の問題だけれど”勝利条件がない”ということがある。敵はほぼ無限大に湧いてくるゾンビであり、親玉がいるわけでもない。生き残るにも”いつまで生き残ればいいのか”という問題がある」
カエル「例えば”倒すべき巨悪”がいたり、あるいは”終戦まで生き残る”などの勝利条件はないわけだもんね」
主「ゾンビと意思疎通ができて……という案などもあるだろうけれど、少なくともカバネリの中ではそのような勝利条件が未だに提示されていない。兄様を倒そうが、今作の敵を倒そうが、対カバネ戦の大勢には全く影響がない。
結局は”俺たちの戦いはまだ続くエンド”にならざるを得ないわけで、その中でどのような物語としてのオチ、そしてカタルシスを与えるのかというのが問題となってくる。
その中で本作は……結局物語は進んでいないし、大筋では何かが解決したわけでないけれど、でも納得の出来る物語となっており、またテレビアニメとしてこの先を続けることができるということになっている」
カエル「そして初見さんにも優しい作りになっているし、ファンには接待が過ぎると思うほど嬉しいシーンが山盛りだったしね」
主「そこも含めてバランスも見事。
色々と欠点がないわけではないけれど、でもカバネリらしさと見やすさを兼ね備えており、また映像としての見所も豊富。
脚本までコントロールしたからなのか、荒木監督らしさを感じさせる上にサービス精神旺盛な作品になっているし、その代表作といえる作品に仕上がっているようにも感じられたな」
以下ネタバレあり
作品考察
映像のメリハリ
では、ここからはネタバレありで語っていきます!
今作では映像のメリハリがしっかりとしていたな
カエル「終始、無名劇場だったよね!
一応エンドクレジットでは生駒が1番上だけれど、作品としては無名が主人公なんじゃないの? っていうほどの大活躍!」
主「冒頭では『ターミーネーター2』などでもおなじみのリロード方であるスピンコックを披露しながら、危機的状況でゆっくりと歩くことで圧倒的強者感を演出。その後は『進撃の巨人』ばりのワイヤーアクションなどの急な動きでさらに魅了している。
こういう冒頭で観客に圧倒的なアクションで作品の魅力を伝えるのを自分なんかは”ハッタリを効かせる”なんて表現するんだけれど、今作ではそのハッタリが最高。
スタートの静かな雪の中の後の、カバネリらしいアクションに一気に引き込まれる」
カエル「踊るように銃を使うシーンだけでも、初見さんに本作の見るべきポイントをわかってもらえるもんね」
主「他にも序盤の無名と鰍(かじか)が微笑ましい会話をするシーンでは色味を淡くしており、表情や仕草なども記号的表現が増えている。無名が慌てて釈明するシーンは腕が増えるように描写されているけれど、これはシリアスなアクションシーンでは絶対にできない表現だ。
こういうところでシリアスとギャグのメリハリがついており……このような表現はテレビシリーズだとなかったように記憶している」
カエル「そもそもそんな余裕が皆無だし、ここまでアットホームな作品だっけ? とちょっと驚いたかなぁ」
主「そのメリハリは全体的に行き届いていて、暗い夜戦のシーンが多いけれどその後には明るい朝のシーンになることで、全体的に爽やかなラストとなった印象を与えている。
このように映画、あるいは1作の中編としてどのように見せるべきか、ということを考慮しながらメリハリをつけて描かれている作品だ」
カバネリらしい? 物語の欠点
ただ、すべてにおいて絶賛というわけではないんだよね?
……カバネリって結構ガバガバなところがあるんですよ
カエル「そのカバネリらしい欠点を箇条書きにしていくとこのようになります」
- 生駒を中心とした主人公サイドの魅力に欠ける
- 指導者層に大きな問題あり
- カバネの万能すぎる設定
主「だいたいこのあたりになるけれど、1番最初の主人公サイドの魅力という点に関しては生駒の熱血漢が空回っているということなどに共通してくる。
結局、本作は無名を前面に出すことでエンタメ性などを出しているけれど、生駒にしろ菖蒲にしろ何かをしたのか? と言われると……そこまでのことはしていない」
カエル「全く何もしていないわけではないんだけれど、大活躍とは言い難いのかなぁ」
主「ただ、これはこれで英断だと思っていて……生駒があんまり動き回るとそれはそれでウザくなりがちになってしまう。カバネリはテレビシリーズ後半の兄様もそうだけれど、キャラクターが爽快感を与えるようにはなっていないのが欠点といえば欠点。
ただ、群像劇としてみた場合は悪くないんですが……
そしてさらに問題なのが指導者層の問題だ」
カエル「カバネリに限った話ではないのかもしれないけれど、指導者層が有能な作品って最近そんなに見ていないような……」
主「本作でも物語を動かすために指導者層がかなり無能に描かれているけれど、その思考の根拠が表されたとは思えない。
なぜ急に夜戦を開始したのか? という点においても具体的な説明はなく、ここまで長年の戦闘を終結させる作戦を破綻させるような行為……特に夜戦という人間にとって不利と思われる戦いを決行する理由がない。
これは菖蒲もそこまで有能な指導者ではないんだけれど、今作では檄を飛ばすくらいの活躍だからその粗が目立ちにくくなっている印象だな」
カエル「まあ、言ってしまえばご都合主義っぽい部分だよねぇ」
主「この辺りがガバガバといえばそうなんだけれど、でも圧倒的な映像表現と夜戦と戦闘終結後の美しい朝焼けからの描写のメリハリなどでカバーしているとも言える。
また、これも難しいところでさ……有能な指揮官ばかりが出てくるのが果たしてカバネリらしいのか? とか、色々と考えてしまうなぁ」
本作が示したテーマについて
この作品を物語として高く評価するテーマってどこになるの?
”カバネリ”という存在に対して言及したところではないか?
カエル「生駒はカバネリという、人間でもカバネでもない存在になった時に”それでも人間だ!”と強く宣言するキャラクターだよね。
一方で敵である景之はカバネの大将になって指揮をとるという、まったく別の道を選ぶわけだね」
主「言うまでもなく、ここは生駒と無名、景行と深雪は対の存在として描かれているわけだ。つまり、カバネリになったとして、どちらの道を歩むのか? という問いが行われている。
今作がとても重要なことを描いているなぁ、と思ったのは”カバネ(ゾンビ)側の視点”があったところなんだよ」
カエル「カバネにも痛みや恐怖があるから襲ってくるんじゃないのか? ってところだね」
主「景行は最後には人間となり、美しい景色と雪を目撃している。このシーンでは美しい花や新芽が芽生える姿ともに、枯葉も描かれており生と死のサイクルを描き、まさしくこの作品を……人間とカバネを等しく扱い美しく描いたシーンだと感じられた。
こういった視点があることによって、次の作品への伏線やつなぎになったり、あるいは社会性のある描写となっているのではないだろうか。
また、最後の生駒と無名の様は”カバネリ”ではなく人が”人間”であるとことの証明でもある。
三者三様の恋愛描写を入れることにより、そこに差がないことを描いているのでしょう」
カエル「ふむふむ……」
主「まあ、そこもご都合主義っぽいところはあるんですけれど!
なんで雲母があんなにピンピンしているんじゃ! とか、ここまでラブラブした作品じゃなかっただろう! とか色々と突っ込みたいことはあるんだけれど、それでもこれだけの映像クオリティを見せられたら満足感が高いよなぁ」
まとめ
では、この記事のまとめです!
- 荒木監督の代表作になりうる見事な中編作品!
- 暗と明、アクションとギャグなどのメリハリがつき、美しさが際立つ映像美が見事!
- 色々と粗はあるものの、見応えのある物語に!
これは予想以上の掘り出し物でした!
カエル「ちなみに、ラストのダンスについては?」
主「ポカ〜ンとする気持ちもあったけれど、クオリティに関しては一切の文句なし!
ロトスコープらしいけれど菖蒲の長い髪の揺れ方だったり、振袖の動き、旗の揺らめきなど細かいところも快楽性があるし、アニメの持つ音楽と映像の融合というエンタメ性が非常に高いシーンとなっている。
カバネリに必要なのか? という思いもあるけれど、これが観れただけでも1500円分の価値は十分にあるのではないか?」
カエル「近年のアイドル&音楽アニメ戦国時代の中で、意外なところからとんでもない作品が出てきたね……」
主「これから先どのような展開をするのかはわからないけれど、非常に楽しみな作品です!」
YouTubeにてチャンネルを開設しました!
カバネリについても語っています!