物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『THE FIRST SLAM DUNK』ネタバレ感想&評価 原作知名度と人気を活かした故に生まれた『歪』な傑作!

 

今回は『THE FIRST SLAM DUNK』の感想記事になります!

 

こちらは原作既読・熱量薄目の人が鑑賞した記事になります

 

【映画パンフレット】 THE FIRST SLAM DUNK 監督:井上雄彦 声の出演:仲村宗悟、笠間淳、神尾晋一郎、木村昴、三宅健太 スラムダンク

 

カエルくん(以下カエル)

もうすでに連載終了から25年以上、しかも新規展開もメディアミックスもほぼなかった中で、すごい人気だね!

 

あんまり迂闊に触れられない作品の1つだよなぁ

 

カエル「だからこそ、ファンの熱量が高くて賛否両論な一面もあるようだけれど……」

 

主「ここに関しては今回の主題じゃないし、余計な口は挟まないでいくけれど……これだけ難しい作品を、どのように映画化するのか。

 そこに注目していきたいね。

 それでは、記事のスタートです!」

 

 

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感想

 

それでは、Twitterの短評からのスタートです!

 

 

なるほど、これは原作ファンを中心に熱中するのもよくわかるね!

 

カエル「公開前は声優などを中心に悪い評価も多かったですが、公開すると一転して、褒める意見が相次いでいます!」

 

主「声優騒動は……まあ、ここで語ることはないか。

 少なくとも、褒めるべき作品だったと思う。

 監督=原作者というのがどうなるかと思ったけれど、これは確かに井上雄彦にしか作れない作品になっていただろう。

 Twitterでも書いたように、ボクは原作は十分認めるけれど、でも好きではない、という評価なんだけれど……それでもグッとくるシーンもあるし、ファンならば特にそうだろうね」

 

作家性がとても重要とするならば、今作ほど作家性に溢れた作品も他にないよね!

 

本当に井上雄彦ってバスケへの情熱がずば抜けている人なんだなぁ……と再確認したというか

 

主「原作を読んでいても、描きたいのはバスケへの情熱だけって感じでさ。

 インタビュー漫画の『絶望に効く薬』というオススメ漫画があるけれど、この中で井上雄彦のもあるんだけれど、ただバスケが好きで、バスケをやっていたい、触れていたいという気持ちが伝わってくるインタビューだったんだ」

 

 

そのバスケへの愛、熱量がまさに発揮されて、こちらにも伝わってくるような作品だったね!

 

だからスラムダンクファンであればあるほど、否定が難しくて思いが深くなるんじゃないかな?

 

主「この後語るけれど映像技術的にも最高峰だと思うし。

 しかもかなり特徴的な、他に真似ができない造りだけれど、それも良かったと思う。声優も問題なし……強いて言えば木村昴が相変わらず歌うような演技をしていたのが気になるけれど、それは好みの問題だしね。

 今年の12月に現れたダークホースとして、とても注目されているし、熱量が伝わってくる作品だよ

 

(C)I.T.PLANNING,INC. (C)2022 SLAM DUNK Film Partners

 

最も面白く、完璧なスポーツ漫画の1つである原作

 

まずは原作の面白さや、映像化の難しさについて語っていきましょうか

 

おそらく最も面白くて完璧に近いスポーツ漫画の1つなのではないだろうか

 

 

カエル「お! すごく高評価じゃない!」

 

主「自分が原作を読んだのは〇〇年前だけれど、その時はなんか肌に合わなくて8巻くらいで止まったんだよね……ちょうどミッチーが暴れるヤンキー漫画っぽいところ。

 で、今回の映画化に備えて一気読みしたけれど、なるほど、これは名作だと感じたよ

 

どこら辺が名作ポイントなの?

 

単純に、名勝負をそのまま熱量高く漫画化できているからだよね

 

主「すんごく極端な意見だけれど、スポーツ漫画を面白くする方法はあるんだよ。

 それは名勝負を何度も何度も描くこと。

 逆転に次ぐ逆転、まさに奇跡と呼ばれるような試合を描いて、それを読者に共感させれば、それは最強に面白いスポーツ漫画になる

 

カエル「……え、いや、それができたら苦労しないわけで。

 FIFA W杯カタール大会の日本代表がドイツとスペインを倒したのも、漫画だったら『やりすぎ』というような展開だったし……」

 

主「そうなんだよ。

 普通は名勝負を描こうとするとリアリティがなくなったり、あるいは逆に陳腐化してしまい読者が冷めてしまう。

 実は漫画における名勝負とは、リアルの大逆転劇をそのまま描けばいいというものではない。

 だから漫画では……それこそバスケ漫画ならば『黒子のバスケ』とか、あるいは『キャプテン翼』『ドカベン』なんかもそうだけれど、現実ではあり得ない特殊能力や必殺技が出てくる。

 これも漫画ならではの面白さではあるわけだ」

 

 

 

だけれど『スラムダンク』はただ単に名勝負を、熱く描いただけだと

 

最もシンプル、故に最強にして到達点と言える漫画だよね

 

主「その意味では『スラムダンク』は、スポ根ものとは若干異なるのかもね。もちろん、ヤンキー文化との融合で根性論みたいなところはあるけれどさ。

 だけれど、だからこそ映像化が不可能な作品になってしまった。

 ”試合をただ熱く、愛を込めて描けばいい”って、普通は不可能だから。

 誤魔化しが効きづらいんだよ。

 井上雄彦だって、これが大好きなバスケだから描けた。じゃあ野球やサッカーで同じことをしろって言われたら無理なはず。だって興味の度合いが異なるから。

 だから『スラムダンク』という作品は、シンプルな作品ゆえに、一人の作者がその競技に熱意を込めて描いたから完成したのであって、それを他人が映像化するのは、かなり難しいんだよ」

 

 

 

 

映像表現について

 

映像表現に関してはどうだった?

 

セルルックCGとしては、おそらく日本最高峰、同時に写実的に見せるスポーツアニメとしても世界最高峰の作品なのかもしれない

 

カエル「おお、素晴らしい評価ですね!

 今回はうちは実は比較対象となる作品があって、それが2017年に発表され、第90回アカデミー短編アニメーション賞にも輝いた『Dear Basketball』です」

 

 

こちらも手書きで描かれたバスケのシーンが印象的な、見事な短編アニメーション作品だね

 

主「かなり制作陣は今作を意識していたのではないか? と思うほどに『Dear Basketball』は優れた作品で、個人制作ということもあって線が荒々しい部分がありながらも、それが味わいとなっている。

 そして肉体の躍動感、ボールの軌道、揺れるネットなども含めて、とても素晴らしい作品に仕上がっているんだ

 

もちろん短編5分の作品と長編のCGアニメを単純比較はできないけれど、比べてどうなの?

 

どちらも甲乙つけ難い作品に仕上がっていた

 

主「CGのクオリティはとても高くて……例えばアメリカのCG、特にディズニー・ピクサーのCGはキャラクターを写実的にするのではなく、言うなれば人形を動かすみたいな方向で進化してきた。

 それに続いていたように日本では白組がそのようなCG表現を行い、国内ではトップクラスのスタジオになる。

 一方では2022年は『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』などがそうだったけれど、”漫画のタッチをそのままCGにして動かす”という、セルルック調のCGアニメが躍進を果たした年だとも言えるんだ」

 

 

だけれど『スラムダンク』はリアル調の絵柄・物語なわけだよね

 

だからこそ、とても難しいところに挑戦したとも言える

 

主「CGでよく言われるのは『不気味の谷』だけれど、やはり人間に近ければ近いほど映像的には難しくなると思うんだよ。特にアメリカのような人物すらもCGで作れるリアルな表現の方向ではなくて、漫画のキャラクター表現のCGでね。

 だけれど今作はそれをやってのけたし、しかも時には手書き作画を駆使して、迫力があるように見せている。

 そこの違和感も少ない。

 それでいながらOPの手書きシーン、そして盛り上がる後半のあの演出で観た人には伝わると思うけれど、あれにはボクはセンスの良さを感じた。

 ああいう演出が好きだからね。

 その意味で、CG・作画・演出・見せ方……もちろんネットやボールの重力表現、肉体的な躍動も含めてレベルが高く、現時点で日本最高峰のアニメーション表現の1つと言って差し支えないのではないだろうか。

 それこそ『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』と今作で、東映アニメーションは再注目セルルックCGアニメスタジオとして名前を挙げたい存在になったね」

 

以下ネタバレあり

 

 

 

物語面について

 

ピーキー(強力だが繊細)な作りになっている

 

ではでは、ここからは物語面について語りましょう

 

これはね……かなりの問題作であるはずなんだよ

 

うちは仕事柄……いや、仕事でもないんだけれど、アニメ映画をよく観るけれど、今作は、かなり意欲的・挑戦的な作品だよね

 

正直、1本の映画としては認められない

 

主「物語もラストの山場である山王戦をそのまま持ってきているわけだし、そもそも『スラムダンクって何?』『バスケのルールがわからない』という人には、完全に置いてけぼりなんだよ。

 そもそも漫画作品の実写化・アニメ化のメディアミックスが難しい、あるいは失敗するのは、それらの作品が”漫画原作の販売促進”という側面があるからだ。つまりファン層の拡大、初見さんでもウェルカムな作品を作る必要がある。

 そのために説明過剰になったり、あるいは10巻、30巻とある物語を2時間に詰め込んだりしなければいけないため、物語が端折りすぎなどになってしまうわけだ

 

少なくとも『スラムダンクのキャラクターを知っている』『湘北VS山王の熱さを知っている』ことは前提だよね

 

この作品は、本来入門編に必要な説明を徹底的に省いているんだ

 

カエル「今作の主人公は宮城リョータだけれど、本来は桜木花道だよってことすら知らないと、『なんであの赤髪がこんなにフューチャーされているの?』ということになってしまうよね」

 

主「だから、言ってしまえば本作は1本の”映画”ではない。

 『スラムダンクという漫画原作の1エピソード、あるいはスピンオフを劇場で公開している』というのが、最も正確な言説になるだろう。

 それが良い悪いという話ではなく、この作品を入門編にするのは難しいものがあると思うし、この作品を楽しんでいるのは”思い出のスラムダンク”という前提があることは否めないんだよ。

 だから原作に思い入れがないと……これがかなり問題のある作品になると感じている。

 だけど、だからこそ原作ファンにはこの上なく刺さる作品になっているんだ」

 

(C)I.T.PLANNING,INC. (C)2022 SLAM DUNK Film Partners

 

『物語を楽しむ』→『体感する映画』

 

今作はまさに、まるで試合会場にいるような、一体感のある作品だったね!

 

現代の映画の楽しみ方を象徴するような作品だったな

 

カエル「以前に『ONE PIECE FILM RED』の谷口監督が『現代はアトラクションのような映画を求められている』と発言していました。

 それでいうと、今作はまさに”試合会場に足をはこぶ”という意味で、体験する、アトラクションのような映画の代表例になるのではないでしょうか?

 

主「ボクは今作の比較対象として挙げたいのが、実は『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEスターリッシュツアーズ』なんだよ」

 

(C)UTA☆PRI-MOVIE ST PROJECT

 

まさに”体験する映画”として、かなり似たような立ち位置にあるんだ

 

主「この作品は『女性を中心に人気を集めるアイドル歌手のライブ会場に行く』という作品で、全編ライブシーンだけなんだ。つまり、いわゆる映画のようなストーリー進行は全くない。

 だけれど応援上映などもあって、多くのファンが足を運び、興行収入も20億円に届くかも! というくらいに大ヒットしている作品だ」

 

カエル「ふむふむ……スポーツと音楽ライブの違いはあるけれど、まさに”体験する”というアニメ作品になっているよね」

 

主「そうだね。

 話をスラムダンクに戻すと、この作品はまさに”山王戦を観に行く”という作品になっている。だから、応援上映などのスタイルが、かなりハマりやすい作品になっているはずなんだよね。

 多分、その想定はしていないと思うけれど。

 だからこそ、あの熱さをもう一度! というファンが感動するわけだ」

 

 

 

 

ファンは気にならない諸刃の剣だらけの作品

 

ふむふむ……そうなるとやはり『スラムダンクのファンに向けられた、究極のファン向けムービー』という評価になるわけかぁ

 

かなりピーキーな描写だらけであるのは、間違いないからね

 

主「ここで語る欠点とは上記の説明も含めて以下にまとめるけれど……」

 

  • 説明が少ない・話が途中から始まる
  • バスケットボールのルールの説明もない
  • 物語も薄い
  • キャラクターが整理されていない

 

本来、致命的なはずの欠点ばかりなんだよ

 

主「だけれど、そんなのは全く気にならない。

 なぜならば、本作を見に行くのが『スラムダンクファンである』ことを想定されており、その程度の情報はすでに知っていることが、前提となっているから」

 

もう1つの欠点……というか、ピーキーだなぁと思うのがバスケシーンなんだ

 

カエル「あれ、今作の売りである”リアルなバスケシーン”が、欠点になりうるの?」

 

主「この場合は強力な武器=諸刃の剣みたいなもので、欠点もあるが強力な武器にもなる。今作はそれを見事に強力な武器にしているけれど、本来は欠点であるわけだ。

 以下のシーンは映画における花形だけれど、実は扱いが難しいんだよ

 

  • スポーツ映画の競技シーン
  • アクションシーン
  • ミュージカルシーン

 

 

これらは映像的な快感は強いけれど、物語は停滞してしまいがちなんだ

 

カエル「映像的な快感が強くて、面白いからこそ、物語を進める上では扱いが難しいと……」

 

主「物語が進行しづらくなってしまうからね。

 本来はアクションシーンばかり、あるいはミュージカルシーンばかりというのはかなり難しい。

 だからそれらの場面はドラマの合間合間に挿入されるのが一般的だ。

 基本的にはドラマ > アクションなどの比重になるんだよ」

 

カエル「でも、今作は試合シーン……しかもたった1試合をほぼ全体の半分以上の時間を割いているわけだよね」

 

主「だから、今作はストーリーテリングを語るというのを、リョータの過去編にスポットを当ててはいるけれど、ほぼ放棄している。

 それでも成立しているのはなぜか?

 答えは簡単。繰り返しになるけれど、観ている観客が原作を理解して、このバスケシーンのドラマとそこにかける思いを理解しているから。

 だから結局は”原作の補完”はできているけれど、”1つの物語としての完成”というのは、原作の補完がなければ成立しない。

 それでも観客は満足する。

 こんな映画、他には全くないだろうし、真似することもできない。その意味でも特異点となる作品だろう」

 

 

 

 

最後に

 

というわけで、この記事を締めたいと思いますが……趣味じゃないというのはどういうこと?

 

完成度も認める、技術も熱意もある、あと問題なのは読み手側の感性の問題だ

 

カエル「どうしても肌に合わない、嫌いな作品は誰にでもあると思うけれど……」

 

主「……原作もそうなんだけれどさ。

 多分、ボクはスポーツ作品が嫌いなんだと思う

 

カエル「……あら、ぶっちゃけた発言。でもプロレスとかの格闘技、あるいは野球とかは好きじゃないの?」

 

主「もちろん好き。あとはフィクションで言えば『ピンポン』とか、古い例だと『あぶさん』とかはどハマりした。

 だけれどそれってストーリーを楽しんでいるだけであって、その競技そのものを楽しんでいるのとは、また違うのかもしれない。

 その点で今作の欠点としては……『バスケに興味がない人は苦痛のシーンがずっと続く』であってさ、スラムダンクを知らない人からしたら、知らない学校の試合をずっと観ているという気分になるんだろうね」

 

カエル「う〜ん……わかるような、わからないようなだねw」