亀爺(以下亀)
「ようやく話題になった映画『レヴェナント』を見たのじゃな」
ブログ主(以下主)
「いやぁ……やっぱり150分超えの映画はキツイね! 自宅で見るからボケ〜っとしていられるけれど、これが劇場だったら……多分寝たね」
亀「ディカプリオがアカデミー賞主演男優賞を獲得したことでも話題となった作品じゃな」
主「そうねぇ……まあ、やっぱり話題になるのもわかるよ。結構賛否が分かれそうだけど、ディカプリオの演技に関しては満場一致なんじゃない?」
亀「豊かな自然描写なども評価が高いの」
主「あまり言いすぎるとそれだけで感想記事が終わるから、とりあえずこの程度にして……一つだけ文句があるんだよね」
亀「……? なんじゃ、早くも文句があるなどと」
主「レヴェナントって『帰ってきた人、蘇った人』って意味なんでしょ? ここに蘇りし者なんて副題をつけたら『帰ってきた人、蘇りし者』ってしつこいわ!! ってなるじゃない? 全く、何を考えたんだろうね?」
亀「……邦題に対する文句か」
1 ネタバレなしの感想
亀「ではまず、ネタバレなしで感想を言っていくとするかの」
主「まずは何と言ってもディカプリオを始めとして、役者陣の演技には脱帽だよ。真っ白い雪の中で、あれだけ肌などを晒しながらのロケでしょ? 本当はCGを使っていたりとか、見た目ほど過酷じゃないにしてもさ、その寒々しさがこちらにも伝わってきたもんね」
亀「ほぼ男しか出てこないような映画において、恋愛描写もなく終始したからの。『王子様』のイメージが強かったディカプリオの新境地というのも納得の出来じゃな」
主「舞台と時代性が見事にマッチしていたし、小物や美術を含めて『あの時代ってこんな感じだったんだろうな』って説得力に溢れていた。その説得力を生み出す一員として、役者の演技力というのは絶賛だよね」
亀「そうじゃの。匂いも伝わってきそうな汚さであったり、自然の過酷さであったりという表現が抜群に素晴らしかった。邦画が忘れてしまったことかもしれんな」
主「邦画だと多くの時代劇とか、戦時中の話とかで綺麗な服をきて、綺麗にメイクしているからね。映画としては正しいけれど、リアル感がないからさ。そこはさすがハリウッドだった」
亀「あとは自然描写の美しさじゃな。どの場面を見ても、ため息が出るような自然に溢れておったわい」
主「よかったよねぇ……画面も曇り空もあって暗めに統一されていてさ、そこも雰囲気が出ていた」
悪い部分
亀「一方で……確かに絵の美しさなども素晴らしいし、関心するような映画なのじゃが……」
主「まあねぇ……ストーリー性が弱いよねぇ」
亀「弱いというよりも、どうしてもグダグダとしてしまった印象があるの。一つ一つ場面の意味だったりというのはわかるのじゃが、あまりに話が進まんから退屈してくる」
主「画面構成とかも一貫して暗いから、絵面の雰囲気だったり、登場人物が置かれた状況がどれほど大変なものなのかというのも、よくわかるんだよ。わかるけれどさ、その画面を構成することに夢中になりすぎて、お話自体にメリハリが全くなくなってしまっているんだよね」
亀「あとは……基本的に登場人物も、キャラクターとしては少ないにも関わらず、様々な部族だったり、白人にもフランス側も出てきたりとごちゃっとしてしまった印象もあるの」
主「日本人から見ると白人陣営の違いなんて、よくわからないしね。
『フランスとアメリカは同じ白人でも別扱いなんだ』というのも理解しないといけないし、さらに今いる敵の陣営がどの陣営なのか、わかりづらかったなぁ」
亀「御都合主義の連続にも思えたしの」
主「そこは意味があるからいいんだけどね。でも、多くの観客はそこの意味が読み取れていないような気がする……というか、もしかしたら自分の妄想かもしれないけれどね」
亀「……? まあ、いいか。それではネタバレありの感想と考察を始めていくかの」
以下ネタバレあり
2 感想と考察
主「さて、ではここからはネタバレありのパートに入りますが……今回は感想と考察と、映画的の演出的な部分もごちゃ混ぜで語っていくよ」
カエル「了解じゃ。それでは始めるが……まずはスタートからの戦闘シーンじゃな」
主「この映画のうまさでもありある種の最大のエンタメシーンはこの序盤にある。美しい自然を……川を映しながら『Revenant』の文字が出るわけだ。ここで観客はこの壮大な自然に魅せられる。
そしてそこで狩りをしている最中に……銃を撃つ。これが引き金となる」
亀「ここも冷静に考えるとおかしいの。なぜこの野営地が危険だと思ったのに、息子とふたりして狩りに行ってしまったのか? ここで銃を撃たなければ、もしかしたら発見されることなく、安全に終えたかもしれんのにの……
この時点ではフィッツジェラルドが一番冷静で、主人公も隊長も判断ミスをしておる」
主「あとはこの先船で下るけれど、ここは川を間違えたのかね? 最初から川を下る予定だったなら、あんな危ない場所に行くわけないじゃない。そもそも計画の段階でミスしているよね。
まあ、道案内役がやられたのかもしれないし、ここはいいとしても、だ。まず注目してほしいセリフがある」
亀「セリフ?」
主「ライバル役のフィッツジェラルドが『一束30枚』って言っているだよね。ここでわかる人はわかる……というか、西洋人でも……一部の人はこの映画が何を意味するのかわかるんだよ。
でも、日本人にはほとんど伝わらないね」
亀「その意味は何じゃ?」
主「それは後から説明する。
そして戦闘シーンが始まり、ここで唐突でグロテスクな戦闘シーンが巻き起こる。ここで一気に観客を引きこむわけだ。エンタメとして相当優れたスタートではあるものの……ここで一番の見せ場が終わるというね。
その意味ではエンタメとしてこの作品を成立させる気は監督にはあまりなかったんじゃないかな? むしろ、深く描かれたその中身に意味が有る」
亀「意味?」
襲いかかるクマ
亀「このシーンは本当にすごかったの。ここまで徹底的に、クマに蹂躙される映画というのも中々ないように思う」
主「……ねえ、亀爺。ここでなんでクマが襲ってくると思う? 季節は冬だから、本来は冬眠しているはずでしょ?」
亀「……グリズリーの生態が日本のクマと違うか、冬眠に失敗して腹を空かせて出てきたのかもしれん」
主「まあ、そういう理由もあると思うけれど……ここで大事なのは襲いかかるのが『クマ』であるということ。これが先住民などではダメなんだよね」
亀「自然の脅威などをテーマにしているということかの?」
主「う〜ん……それもあるけれど、それなら狼とかでもいいじゃない? でも、このシーンはクマじゃないと絶対ダメなの。その理由はこれから説明するけれど……じゃあ亀爺。日本においてクマってどういう存在?」
亀「クマ? 日本においては……可愛らしいマスコット的な意味合いもあるが、怖い存在として描かれることもあるの」
主「そう。クマって世界中で『畏れ』の対象として見られていてさ、それこそ神様として崇められている地域もある。先住民にとってもそれは同じで、やはりグリズリーは神様なんだよね。
だから、ここでクマに襲われるのは、そのまま『神の試練』という意味になる」
亀「ほう……だからあれほどに滅茶苦茶にされながらも、グラスはクマに勝って『神の試練』を乗り越えるわけじゃな」
主「そう。そしてこれは大きな意味を持つわけだ」
3 大怪我からの復活
亀「ここはの……非常にご都合主義を感じてしまった場面じゃの」
主「それは我々が日本人だからであって、西洋人からするとこの話はご都合でもなんでもないんじゃないの?」
亀「……? というと?」
主「この後、グラスは息子を含めた3人と共に置いてけぼりにされる。ここはさ、個人的には一番悪いのは隊長であって、ここで見捨てるという決断ができなければ、隊全体を全滅させた可能性がある。
だから心情はわかるけれど、あの選択はさすがにないなぁ……なんて思いながら見ていたのよ。むしろ、この隊長の行動って、少なくとも自分には納得の出来ないものばかりだったのね」
亀「時に個人を見捨てて、全体を残す判断をするのも指導者の役割じゃからな」
主「まあ、それはいいとしてさ……ここで、金に釣られて残ったフィッツジェラルドによって、グラスは埋められてしまい、息子は刺されてしまう。
ここでこの作品の意味はわかったでしょ?」
亀「……? なんじゃ?」
主「……つまりさ、埋められてから復活したのは、グラスは『キリスト』だからなんだよ。
どんなに酷い目にあっても、迫害されても、神の試練があっても復活する。だからこの作品においてグラスは必ず復活をするわけだ」
亀「となるとフィッツジェラルドの立場は……」
主「それこそ金に目がくらんでキリストを売った『ユダ』だよ。ほら、先に『30枚』って言ったでしょ? これは銀貨30枚でキリストを売ったことに由来している。つまりさ、この最初の発言において『フィッツジェラルドはユダである』ということを明確に表しているわけだ」
亀「……ほお。なるほどの」
主「だからあの10人前後の隊列というのは、それこそキリストと弟子たちという意味もあると思うよ。その後で登るか降りるかという論争も、その意味で考えると『キリストの言葉を信じるか、否定するか』という審問だったんじゃないかな?
その視点がないとこの映画って、単なるサバイバル映画で終わってしまう。そうじゃないんだよ。この映画は、キリストが復活して、ユダに復讐を果たす……というか、対決する映画だから。
だから息子の死を確認した直後で、雲の奥から太陽に向かって進む描写があるんだよね。これがあることによって『神』という存在を連想させるようにできている」
先住民たちが示すもの
亀「その視点で語るとなると、先住民というのはユダヤ教徒ということになるかの」
主「そうだろうね。ダラスは唯一先住民に理解があるし、迫害される彼らを救おうとした。それは、弱者の味方をしたキリストと同じなんだよ。
先住民はこの映画ではそれなりの強者として描かれているけれど、実際は迫害されし者たちでしょ? これは、当時のユダヤ教徒と被らせてきている。
そしてダラスを見捨てた白人たちはローマ人であり、弟子たちなんだろうね」
亀「そこからは多くの試練に耐えるダラスを、キリストとして見守ればいいのじゃな」
主「そうそう。そしてユダによって騙されるローマ人たちも、キリストが復活したことに目を覚ますというわけだ」
亀「なるほどのぉ……」
主「結構宗教的なシンボルが多い映画だから、日本人にはわかりずらい映画で、ただのサバイバル映画みたいな扱いになっているもんね……」
4 ラスト付近について
亀「それではラスト付近の考察をいくがの……」
主「ここは、もうキリストVSユダの戦いなんだよ。映画的な激闘や、ユダの策謀にも負けずに戦ったキリストが、最後の戦いを繰り広げる。ここもすごい描写だよね」
亀「しかし、あのフィッツジェラルドのスナイパー技術というのもすごいものじゃな」
主「そうね……あの時代の銃であれだけの精度があるってどんだけの腕だよって、ご都合も感じたけれどさ、まあそこはいいや。
ラストの激闘の後に『復讐は神に委ねる』というわけでしょ? これで流された先にいるのが、先住民なわけだ」
亀「そうじゃの。ここで流れていくフィッツジェラルドをユダとしてみると、確かに面白いことに気がつく。
ユダというのは『その報酬で土地を買い、しかしその地面に真っ逆さまに落っこちて内臓が飛び出し、その土地を赤く染めた』とある。これは土地を欲しがり、腹を刺されて川を下るということを考えると、その死に方もよく似ているの」
主「そうね。聖書には赤い土地の記述もあるけれど、それがあの血で濡れた雪の描写なんだろうね。
そして、先住民に引き渡すわけだけど……当然のようにフィッツジェラルドはその手にかかって絶命する。だけど、ダラスは見逃されるわけだ。その理由はもちろん、映画的には『先住民の娘を助けたから』だけど、もちろん、そんな理由だけではない」
亀「ユダヤ人とキリストの関係か……」
主「そう。ここいら辺は複雑だから、あまり言及したくないけれど……キリスト自身も神の子としての面もあるけれど、元はユダヤ教の考え方のもとに生まれた救世主なわけだ。
その意味ではユダヤ人の同胞と考えてもいいし、ユダヤ人も救ったと考えてもいいけれど……その後の、ユダヤ人を迫害するのもまたキリスト教徒なんだよね。だから、あのシーンってすごく複雑な意味があるんだよ。
簡単には触れられないものがあるね」
ラストに登場する女性
亀「そしてラストに登場する女性は……」
主「もちろん、ダラスの愛した人だとは思うけれど、意味合いとしては聖母マリアだよね。マリアって、ユダヤ人とされているけれど、ここでユダヤ人のメタファーがある先住民の姿で出てきたのはそういう意味があるんだよ」
亀「なるほどのぉ……宗教的な意味合いの濃い映画だったんじゃな」
主「そう。だからこの映画って表面的に見れば『ごつい男のサバイバル復讐劇!!』ってなっているけれど、実際は『キリストの復活』を描いた映画なの。
だから『Revenant』というタイトルなわけだ。復活するのは誰か? そりゃもう、キリストしかいないよね」
亀「……邦題をつけた人間はその意味がわかっておったのかの?」
主「さあ? わかってないんじゃない?
ただなぁ……個人的には、それならグラスに復活以降人を撃たないで欲しかった。映画的には仕方ないけれどさ」
亀「それがキリストとは違いますよ、という一種の免罪符になっておるのかもしれんの」
最後に
亀「今回は中々独特な考察になったのではないかの?」
主「こういうのは調べながら、何度も何度もシーンを考察して見ないといけないからさ、家で見るのに限るよねぇ……映画館だと多分、この半分も理解できなかったんじゃないかな? 途中で寝るだろうし」
亀「宗教的なモチーフなどになるとよくわからんからの」
主「どうだろう? まだ町山智浩とか、宇多丸の評論とかを見ていないけれど……こういう解釈をした人って、おそらく自分だけなのかな?」
亀「いやぁ、町山智浩は絶対気がついておるじゃろうな」
主「だよねぇ……少しくらいはあの知識や、評論を上回りたいけれど、それは無理だろうなぁ……」
亀「あっちは金の取れる批評じゃからな。こちらは、所詮は無料ブログの戯言じゃ」
主「……どっかの出版社さ〜ん、いつでも寄稿しますヨォ!!」
亀「……この書き方をしておる限り、依頼は来ないじゃろうな。
ほれ、バカのことを言っとらんで、次の記事を書くんじゃ!!」
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