物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『エル ELLE』『パターソン』『キングス・オブ・サマー』感想 どれも独特の味があります!

カエルくん(以下カエル)

「今回は色々と事情があって記事にはしていなかった作品を短文形式でレビューしていきます」

 

ブログ主(以下主)

「実際、どうなのかね?

 こういう形式よりも、短くても1つ1つ書いていった方がいいのかね?」

 

カエル「まあ、そこは気にしなくていいんじゃない? そもそも、それを言い出したらこの対話自体がそれなりに異色なわけだし」

主「まあ、今回語るクラスの公開規模の作品はそれはそれで扱いが難しいものがあって……大規模公開映画ほど万人向けでもないし」

カエル「2作品は中規模程度の公開規模になるのかな?

 映画好きならチェックしている人も多いけれど、そうじゃない一般の人はどれだけ観ているんだろうね?」

主「もしかしたら一般の映画をあまり見ない人と映画ファンの分岐点に映画かもしれんな

 

カエル「というわけで今回は

 

『エル ELLE』

『パターソン』

『キングス・オブ・サマー』

 

の3作品をレビューします。この3作である理由は……特にないかなぁ。記事にしていない洋画3つくらいのイメージでまとめました」

主「語りたいことがないわけではないけれど、はっきりと言ってしまえば癖があってそれが賛否もありそうな作品であり、特にエルに関しては『共感できる!』って人が全くいないであろう作品です。

 それが面白いと思うか、ついていけないと思うかで評価がはっきりと分かれるタイプではないかな?

 では、3作品のレビューを始めます」

 

 

 エル ELLE

 

エル ELLE (ハヤカワ文庫NV)

 

 

 ポール・バーホベン監督がイザベル・ユペールを主演に制作したサスペンス作品。制作国はフランスということもあり、現在のフランスの家庭事情なども風刺したような描写も多々ある。過激な性描写もあるためPG12ではあるが、子供と一緒の鑑賞は絶対に控えた方がいい。

 

 ゲーム会社のCEOを務めるミシェルは自宅に侵入してきた暴漢によって生的暴行の被害にあう。しかし、彼女は警察に行くこともせずに普段通りの生活を送っていくが、息子や愛人、近隣の住人を巻き込んで彼女の思いは次第に暴走していくことになる……

 

感想

 

 

カエル「というわけで、まずは8月公開作品の中で最も過激であったかもしれないエルの話題からだね」

主「この映画はフランスの現状をうまく風刺している作品に仕上がっている。

 フランスでは『フランス婚』と呼ばれるように、新しい家族の形や恋愛の形が……問題になっている、と言っていいのかな? 婚姻や離婚に対するハードルが高いために、正式には結婚しないで事実婚状態のカップルも多いという話だけれど、恋愛に対して人生で重きをおく国民性もあって、家族の形が変容してきている。

 もちろん、それが大多数というわけではないんだろうけれど、中にはコロコロと恋愛対象を変えてしまい、血筋で見ると父親や母親が違ったり、自由奔放すぎる親の恋愛などという問題もある」

 

カエル「この作品の登場人物たちの行動って意味がわからないんだよ。確かに生的暴行は恨むべき犯罪だけれど、ミシェルの対応が恐ろしさを感じるほどのもので……」

主「色々な恋愛の形が盛り込まれている。

 例えば息子と嫁は2人とも白人なんだけれど、生まれてきた子供は明らかに個人の血が混じっている。ここで笑う人もいたけれど、自分は一切笑えなかった。それでも息子は子供を育てるというんだよね。

 他にも不倫だったり、親子以上に年齢の離れた明らかに遺産狙いの恋愛であったり……もう本当に無茶苦茶。途中から意味がわからなすぎて、ついていくことを放棄したくらい

カエル「倫理って言葉が全く意味がなくて、バーホベンの高笑いすらも聞こえてきたよね。そしてミシェルのその後の選択というのもまたすごくて……」

 

主「普通は映画の主人公って共感性が大事なんだよ。だけれど、この映画を見て共感できます! って人はいないはず。誰一人として共感できないし、そうできないように作られている。それは本来ダメ……というと語弊があるけれど、でも決して褒められたものではない。

 でもこの映画は相当うまい映画であることもまた事実なんだよ

 

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イザベル・ユベールが美しい

(C)2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINEMA – ENTRE CHIEN ET LOUP

 

人間賛歌の『恋愛』映画

 

カエル「まずスタートがうまいよね。あんなことからスタートしたら、誰もが一気に引き込まれるか……もしくは拒否反応を示すか」

主「これは是非実際に見て欲しい。

『エーーー! マジで!?』ってスタートか始まって、だけれどそこから淡々とミシェルの日常が描写されていく。それを見た瞬間に、理解が追いつかなくなる。そしてその日常がある程度描写されたのちに、再びある描写があって……もうジェットコースターだよね。

 さすがはバーホベンだわ、と感心した」

 

カエル「見せ方が上手いよね。だからこそ、おかしいはずなんだけれど引き込まれるものがあって……」

主「改めて考えてみると、今の社会情勢だったり、世界的に異性との結婚が普通だと思われているなかで、今作のような人間描写を描き出したということが、実はとても重要なことなのかもしれない。

 自分が『共感できない』『気持ち悪い』と思っていることは、実はそれ自体が偏見であったり、ある種の壁なのかも

カエル「例えば性同一性障害や同性愛を主体とした映画ならば、美しく描いて『素晴らしい!』と激賞できるのに、倫理や常識から外れた愛をこういう形で見せられると拒否感を示すというのも差別なのかもしれないね」

 

主「本作ってある意味では究極の人間賛歌なんだよ。

 どんな関係であっても、その愛は素晴らしいという意味では、本当の意味での恋愛映画といえるのかもしれない。

 人間の……ダメなところというと語弊が歩けれど、抱えてしまった業そのものすらも讃えた、圧倒的な人間賛歌。そう考えると本作が描き上げたことの重要性というのは非常に大きいのだろう。

 なんだか、単独記事で語った方がいい気がしてきた……」

カエル「はい、次行くよ!」 

 

 

 

 

パターソン 

 

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 ジム・ジャームッシュ監督の4年ぶりの長編劇映画。

(ちなみにブログ主は初めて鑑賞します)

 ハリウッド制作だが、日本人俳優のは永瀬正敏が出演するなど(事務所には事後承諾でアメリカに行ったらしい)日本でも一部では話題になった。

 

 ニュージャージー州に暮らすパターソンは、妻と愛犬と暮らしながら、バスの運転の仕事に出かける日常を送っていた。詩を書きながら淡々とした日々を過ごす彼の日常だが、それでも毎日少しずつ何かは変化していた。

 そんなパターソンの日常を1週間を追った作品。

 

 

感想

 

カエル「お次はパターソンだけれど……正直、この映画は鑑賞した直後は『つまらないなぁ』というものだったという……

主「それは誤解がある!

 平凡な日常を淡々と描いた作品だから、娯楽作のような緩急はないし、ほとんど同じようなテンポで物語が続いていく。それでちょっと面食らった部分はある。ちょっと疲れていたところもある。でも犬がすごく可愛くて、今年のベストアニマル賞ものだったよ!」

カエル「ベストアニマルって……

 でも、この作品が面白くなったというのは事実なんでしょ?」

 

主「う〜ん……つかみどころがわからなかったというのが正しいのかなぁ。

 終盤まで意味はわからなかったんだよ。

『なんでこんな描写が続くんだろう?』という思いがあって、どのような視点で見ればいいのか全くわからなかった。だけど、終盤で永瀬正敏が出てくるんだよ。そしてそこで行われる会話を見て、ようやく見方がわかった。

 その時思ったんだよ『あ、この映画はいい映画だな』って」

カエル「ふ〜ん……じゃあ、2度目を見ればもっとわかると?」

主「多分、印象は変わらないと思う。淡々としていて、それが面白いとは思わないんじゃないかな?

 最近よくこういう言葉にするけれど、この映画は明確に『詩』なんだよ。何か人生のドラマがあるわけじゃない、そのドラマのない日常を……ちょっとした変化を見つめている。自分は物語を愛する人間だから、詩はよくわからないというのが正直なところでもある。

 でも、それが悪い映画なんですか? と問われたら、それは明確に違う。むしろ、この映画はとてもいい映画です」

 

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アダム・ドライバーと永瀬正敏、このシーンが大好きです

Photo by MARY CYBULSKI (C)2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.

 

いい映画の条件って何だろう?

 

カエル「これはもうパターソンの感想と離れてしまうかもしれないけれど、いい映画の条件って何? だってさ、主は楽しめなったわけでしょ? でもこの映画はいい映画と言える……それってどういうこと?」

主「その条件を明確に決めることはできないし、しないほうがいいんだろうけれど、間違いなく1つ言えるのは『真摯』なんだよね。すごく真剣に作品について向き合っているし、同時に観客に対して向き合っているし、監督で言えば自分自身に向き合っている。

 その真摯な態度が映画に……表現に如実に表れている。それが感じられる映画はいい映画なんだよ」

 

カエル「パターソンでいうとそれはどういうことなの?」

主「あんまり短文レビューでネタバレしたくはないけれど……今作にはノートにとても重要な意味があるのね。

 例えばさ、自分がここまで書き上げたブログを消されてしまったとする。実はブログを消すことって簡単なんだよ。ログインして、スイッチひとつ押せば全て抹消される。だけれど、その手軽さと裏腹に、1年半書いてきたこのブログの記事の内容の喪失感は計り知れないものがある。

 だけれど、それがある意味では……楽になるということもあるんだよ

カエル「楽になるの? それまでの苦労がチャラになるのに?」

 

主「ひろさちやっていう仏教系の評論家がいるんだけれどさ、その人は募金のために貯めていたお金を全て泥棒に盗まれたんだって。その瞬間に『これは仏さんの意思だ』と思って楽になったと語っている。

 実は自分が成し遂げてきた努力や結果、そのものに縛られることがある。

『人生は白紙だ。未来は無限にある』みたいなことは手垢のついた表現だけれど、実際のところは白紙じゃない。そこまでに色々なものが書き込まれている。例えば家族とか、仕事とか、しがらみがいっぱいある。

 でもそこから解放された時……本当に白紙になった時、喪失感も多いけれど、未来に向かって進む1つのチャンスなのかもしれない。

 だけれど、その白紙は本当の白紙ではない。経験はリセットされない。だからもっと先に進めるかもしれないし、もしかしたら同じことを繰り返すかもしれない。それまでの経験が足を引っ張るかもしれない。

 それでいいんじゃないか? っていうのがこの映画のメッセージだと思うわけ。この態度ってすごく真摯じゃない?」

 

カエル「じゃあ、2度目に見れば……」

主「多分すごく気にいるかもしれない。もしかしたら『やっぱりつまらないな』と思うかもしれない。でもそれでいいんだと思う。それが日常を描く意味だし……これほど真摯な作品に対して『面白い!』と嘘をつくのも何か違う気がする。

 わからなくてもいいんだよ。

 いつかわかるかもしれないから」

カエル「……適当にごまかしている気もするけれど、じゃあ次に行こう!」

 

 

 

 

キングス・オブ・サマー

 

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 2017年公開でこのブログでも絶賛した『キングコング 髑髏島の巨神』の監督を務めたジョーダン・ボート=ロバーツ監督のデビュー作。キングコングをはまったく違う少年たちの冒険を描いているが、日本的な描写であったり森の描き方などにキングコングにつながる演出が垣間見える。

 

 高校生のジョーとパトリックの親友コンビは、それぞれの親に対する不満がたまって家出を実行する。そこにビアジオも加わり、森に隠れ家を作って自立した生活を送る。騒ぎになっていることも知らずに悠々自適な生活を送る3人であったが、そこにジョーの片思いの相手であるケリーがやってきて……

 

 

感想 

 

カエル「3作品目はロバーツ監督のデビュー作だけれど、確かアップリンク渋谷でのみ公開である作品だね」

主「この映画は本当にもったいない!

 よくできている映画でさ、とても面白いんだよ。

 もっと大規模に公開して欲しかった!

 『2017年8月公開映画ランキング! 』でも4位に選んでいるし、もともと少年たちの家出と成長譚が大好きなこともあるけれど、人間ドラマとしてはキングコングよりも好きかも知れない! 

 この映画を見て、これからロバーツ監督を追いかけていこうと思ったね

カエル「どうしても日本ではキングコングの印象も強くて、日本のアニメや特撮を愛するオタク映画監督という印象だけれど……」

 

主「それはその通りだよ。高校生たちがやっているゲームが『ストリートファイター2』なんだよ。今どきスト2だよ!?

 そしてスタートなどでドラムが叩かれるんだけれど、それが明らかに日本の和太鼓を意識していて、歌舞伎っぽい動きだったり……あの辺りが『外国人の考える日本!』って感じでそれも面白い。

 他にも武器として日本刀を振り回すけれど、その描写がスローモーションだったりして見所も多い監督だな」

カエル「この作品の後にキングコングということで驚かれたけれど……」

 

主「逆にキングコングを見てから、この映画を見ると納得するところもあるよ。どちらも森の描写がすごく良くて、本作では動物……ヘビとかさ、そういう動物の描写や、例えば雫が落ちるシーンがすごく美しくて輝いている。

 これは森の中に住むキングコングという神秘を描く上でも生きているし、それがうまく噛み合っているんじゃないかな?

 

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3人が森の中でどのように暮らすのか? コメディ要素もたっぷり!

 

 

少年の成長と親子離れ

 

主「でも、本作が1番好きな理由はそこだけじゃないんだよ。デビュー作だから荒いところもあるんだけれど、それ以上に少年の成長の描き方がすごくいいんだ

カエル「最初は親子で反発しあっていたのに、徐々に雪解けを迎えて行って……というおきまりのパターンとはちょっと違うんだよね」

主「少年の成長物語というと『スタンド・バイ・ミー』とか『遠い空の向こうに』などの名作映画あるけれど、ちょっとほろ苦いところがあるじゃない?

 ただ父親や社会と反目するだけで、成長できるほど人生はあまいものじゃない。主人公のジョーはお母さんを亡くしていて父親と2人暮らしなんだけれど、父親としてもどう接していいのかわからずにギクシャクしている。それがストレスとなってしまわけだ」

 

 

カエル「だけれどある瞬間に父親と同じことをしていると気がつくよね」

主「その時に父親と自分がいかに似ているのか、ということに気がつくわけ。そして父親の心情を思いやることになる。そしてそれは自分以外の他者……親友だとか、そういう人に対して心情を想像していくことになっていくんだよ。

 そしてそれは親の側も同じなわけ。いつまでも子供だ、守らなくては、いろいろと口を出さないと、と思っていた子供がいつの間にか大人になって、立派に成長していく。

 ジョーと父親が『親と子』でありながらも『男と男』になるんだよ。それがすごく良かった」

 

カエル「青春時代ってちょっとほろ苦い体験もあって、その当時は憤ったり、悲しんだりした時もあるけれど、それも思い返すといい思い出になったり……」

主「秘密基地ごっこなんて誰でもやったことがあると思う。それを高校生になって、さらに本格的にやって、あの家に住んでみたい! と思う人もいるはず。

 だけど高校生だからこそできることとできないこともあって、そのバランスなども見事だった。

 できれば多くの人に見て欲しい作品だよ

 

 

 

 

最後に

 

カエル「というわけで今回は洋画の3作品についてレビューしました。

 後日邦画作品についてまとめてレビューする予定もあるけれど、それがいつになるかはまだ言及できないので、楽しみにしていてね! とも言いづらいんだけれど……」

主「今回レビューした3作品はどれも見て損はないよ。

 もちろん、相性はあるし癖もある。公開館数も少ないけれど、興味あるなぁ、と思ったらソフト化したときにでも見て欲しい。多分、この3作品はソフト化自体はすると思うので」

カエル「もちろん、お近くで公開していたら映画館でみてください!

 きっといい思い出ができるので……」

 

主「……初デートがこの3作のどれかだったら、そのカップルは応援したくなぁ」

カエル「そんな人がいたらちょっと嫌だけれどね……」

 

スタンド・バイ・ミー  (字幕版)

スタンド・バイ・ミー (字幕版)

 

 

遠い空の向こうに (字幕版)

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