物語る亀

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物語愛好者の雑文

冬目景作品集 空中庭園の人々 

 今日取り上げる作品はこちら。

冬目景作品集 空中庭園の人々 (バーズコミックス)

冬目景作品集 空中庭園の人々 (バーズコミックス)

 

  こちらは1巻完結どころか、短編集となっているため、すぐにでも手にとってその世界観を堪能できる1作となっている。

 今回はこの作品の魅力について、少し語っていきたい。

 

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 1 冬目景という漫画家について

 冬目景の漫画家としての知名度って一体どれほどなのだろうか……

 もちろん、漫画が好きであれば知っている人も多いだろうし、何かしらの作品を読んだことがあるという方もいるだろう。一般的には代表作といえるのはやはり『羊のうた』になるのだろう。

 こちらの作品は映画化も小栗旬主演でされているのだが、映画好きの間でも羊のうたの話をしているところを見たことがない。(私も未見)

 一応アニメ化はしているものの、OVAなのでどれほどの知名度があるかというと、よくわからないというのが本音である。

 

 漫画好きの中では非常に人気の高い作家でもあり、矛盾しているようではあるが、マイナーのメジャーというか、アングラ界では有名人、みたいな扱いになるのではないだろうか。

 

 ちなみに遅筆であることも有名であり、本人の気分が乗らなければ書かない主義らしい。ただし、遅いなりにも作品は完結させるので、そこは心配することはない。

 

 

2 収録されている短編の紹介

 この短編集には月刊コミックバーズにて掲載された短編が6話収録されているが、そのうち前半の5話が2011年から2013年の間に掲載された作品となっている。最後の『青蜜花』だけが2016年に掲載された作品であるためか、この作品だけ少しテイストの違う作品に仕上がっている。

 

 ELEMENT7

 宇宙人と大学生の交流を描いた作品。テイストとしてはバトルのない寄生獣といったところだろうか。

 途中ちょっとだけシリアスになるが、基本的にコメディーな作りになっている。

 主役のユーコ孤高なようでありながらも、割と適当で感情表現がはっきりとしているタイプで、個人的に結構好み(どうでもいいわ)

 

 コビト事情

 やはり冬目景と言ったらレトロな建物と和服でしょう! ということで、この作品では小さいおかっば頭の女の子が小人として登場する。

 意外と小人を見たことがある人は多いようで、私の周りでも学生時代に一人だけいたものの、だからなんだと云う話で終わってしまった。

 

Apartment of the Dead

 こんな物騒なタイトルであり、しかもアパートに来るのがゾンビという設定にもかかわらず、実は一番コメディ色が強い作品。

 特に登場するゾンビが非常に色っぽくて、こんなゾンビならば私も是非とも会ってみたいものだ。多分本当に会ったら逃げ出すけれど。

 

夕闇古書市

 私などは古本屋が舞台というだけ、なんとなく幻想的な予感がしてしまうものだが、そこにいるのが大正時代にいるような浴衣姿の男だとしたら、それだけで物語が始まってしまうだろう。

 この作品はコメディー控えめのシリアスな作品になっている。やはりこう言ったレトロな雰囲気を描かせたら、非常にうまい作家だよなぁと感心してしまう。

 

天国のドア

 状況だけで言ったらヒラコーの『ドリフターズ』みたいな作品で、死んで起き上がったらグラサン男がお出迎え系の作品。

 生きているうちに後悔した場面を振り返させるというが、私だったら何になるのだろうか? と少し考え込むものの、特に思い出すことがなかった。後悔がないのではなく、そもそも過去のことを覚えていないだけなのだが。

 

青蜜花

 これだけ2016年と最近掲載された作品らしいが、あとがきにもある通り一番初期作に近い雰囲気を感じる。私はこの話が一番好き。

 このお姉ちゃんのように悪女なのだけれども、目が離すことができない女性というのは時々いるものの、私などは相手にもされずに去っていくのが、当然というかなんというか……

 こんな雰囲気の女性を描ける作家は少ないので、是非とも冬目景にはこの路線をまた書いて欲しい。今の言葉ではヤンデレという言葉が一番近いのか?

 

 

 

 この6編が収録されているのだが、他の5編がコメディータッチだったこともあるのだろう、特にラストの青蜜花はこちらも息を呑むような作品となっていた。冷静に考えるとお姉ちゃんの最後の賭けというのも、本当に万が一に賭けた分の悪すぎるものだったが、お互いの愛情が妙な形ですれ違ってしまい、共依存に陥った先のカップルの末路としては、語りすぎないところに考察を入れる余地があるので、余韻も残るいい作品に仕上がっている。

 

 冬目景の独特な絵の魅力も味わえる作品集となっているので、オススメしたい漫画だ。

 

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