カエルくん(以下カエル)
「いよいよ2017年のテレビアニメも終了となってきました。
その中でもボールルームは夏からの2クール続けの放送であり、そして総集編等もなく駆け抜けたことにお疲れ様でしたと、ありがとうございましたの言葉を言わせてください」
ブログ主(以下主)
「近年、分割2クールとか総集編を挟んだり、、あとはかなりイレギュラーだけれど、最終回だけ1時間で数ヶ月おいて放送したりなどということもある中で、作画的な問題もなく終えただけでも、評価するべきだと思っています」
カエル「特に、後述するけれど、ボールルームはかなり難しい部分もある作品で……
月マガを毎月読んでいるけれど、これをアニメ化するのは難しそうだなぁ……という思いもあったよね」
主「そもそも競技ダンスという地味であり、知名度はそこそこあるけれど馴染みはほとんどないような競技をテーマにした作品を作るというのは、博打ではあるよね。
まあ、この業界はそんな博打で成り立っているようなところはあるけれどさ。
『ユーリ on ICE』も似たような難しさはあるけれど、フィギュアスケートはこれからの時期には日本で最も注目される競技であって……その違いというのはある」
カエル「特に比べられるのは間違いないからね。既に企画が動いていて、どうしようもなかったとはいえ、スタッフ陣は色々と思ったんじゃないかな?」
主「でもユーリとはまた違ったアニメも魅力を見せてくれたんじゃないかな?
というわけで、アニメ版のボールルームへようこその全話感想を始めていきます」
1 本作と原作の関係性
カエル「では、まずは本作ってかなり特殊な作品でもあるという話でもあるけれど……」
主「というか、事情があって……本来は『四月は君の嘘』のように月刊連載と同じ結末を迎えることになっていて、連載自体は続くであろうということは決定していたようだった。
だけれど、作者の竹内友が体調の関係上、休載が結構多くて、載っていないこともザラだった……
月マガとしたら四月は君の嘘の後だし、同じようなやり方でも十分連載とアニメの両立ができると踏んでいたんだろうけれど、その試みは失敗したんだよね」
カエル「こればっかりはどうしようもないけれど……」
主「これって結構効いたと思う。
そもそもシリーズ構成ができないし、どのような配分でやればいいかも難しい。漫画原作だったら最初にどこまでやるかが大事になるだろうけれど、それが構成できないわけだ。
その影響ってやっぱりあったと思うんだよね」
カエル「この最終回前の話である23話ってそこまで話が動かなくて、ちょっと過去の回想が多かったよね」
主「ラストに関しては竹内友から聞いていたという話だけれど、それでも簡単なものではないでしょう。特に最終回なんて1番力を入れなければいけない所で、そこをスカスカにするわけにはいかないし。
そんな中でスタッフ陣は相当に考えて製作したんだな、というのが伝わってくるね」
テレビアニメの難しさ
カエル「そして今作が特別に抱えるポイントとしてあげるのが、このアニメとしての難しさだけれど……」
主「アニメーションの魅力ってどこにありますか? と聞かれたらも、もちろんキャラクターや物語にあるというのもわかる。だけれど、やはり1番は『絵が動く』ということ、つまり動きの美学である。
アクションパートの動き、細かい動作、表情の変化……外連味だけではなく、様々なアニメ独自の動きによって、受け手の想像力を増幅したり、また独特の快楽性を伴うというのがその売りである」
カエル「だけれど……テレビアニメって劇場アニメと比べると動かないよねぇ」
主「そもそも、日本のテレビアニメのレベルが高すぎるから勘違いするけれど、本来アニメってそんなに大量生産に向いているコンテンツじゃないわけ。背景を描いて、人物を描いて、その動きを描いて……人でも予算もたくさんかかるし、手間がかかる。
だけれど、日本は独特の進化を果たして……つまりリミテッドアニメとしてコマ打ちを変えたり、動きを制限することで成立させている。
で、当たり前だけれど、ダンスアニメっていうのは動かしてナンボなわけ。ダンスシーンが動きません、じゃ魅力があまりない」
カエル「その意味でも本作をアニメ化するというのは無謀なことなんだね」
主「無謀というか、まあハードルはあるよね。
で、そのために本作が選んだのは『静と動』のメリハリである」
『動かないアニメ』
カエル「今作の中盤頃かなぁ……全く動かないことに対して、Twitterとかで若干文句があったんだよね。特に有名アニメーターが演出などを務めた回は、特に動かなかった印象があるかなぁ」
主「テレビアニメで何でもかんでも動かそうとすると、やはり無理があるからね。
だから本作はその辺りをしっかりと計算して、止め絵でもカッコよくなるように描かれている。それで動かない絵と動く絵を作り出し、メリハリを生むのと同時に、作画枚数の制限をしている。
かなり、計算して物語を構築している。
見ていると結構思うのは、動かないシーンをどうそう思わせないように工夫するのか、またおそらく同じ絵を使いまわしていると思われるシーンでは、それを気づかせないようにどうするのか。カメラのバンなどで動かしたりとか、その工夫に満ちている。
そしてその分動かなさないといけない大切な話ではきちんと動かす。演出も派手にする。
そのメリハリがしっかりと出来ているから、最後まで破綻なく駆け抜けている」
カエル「単純なようだけれど、長いテレビシリーズを最後まで描く上では大切でとても難しい計算だよね……スタッフとしては目の前の1話に対してすごく動かしたくなってしまうものだし、クリエイターとして色々と最後までなるべく動かすようにしたいのもわかるし……」
主「その鬱憤を吐き出すように動かすシーンではきちんと動かす。
最終話の圧巻のダンスであったり、それから前半の見せ場である11話のダンスシーンなどはカメラも使って視聴者を引き込む。
それが『動く』というダンス競技の特徴と合致している。動かないシーンは作中の観客やダンサーも心が動いておらず、一気にグリグリと動く時はダンサーも観客も納得の動きが出来ているという最大の説得力につながっている」
カエル「音楽なども演出もあって、動くシーンは結構楽しめるよね」
主「アニメというと『動くものが素晴らしい』という価値観ってあると思うんだよ。1つの評価基準になっているというか。
それはそうかもしれないけれど、でも必ずしもそうじゃない。
『動かないシーンをどのように見せるのか?』ということもまた、アニメの1つの工夫だよね。
本作はその工夫がしっかりと出来ていたし、それが『競技ダンス』という作品とも合致していた。だから評価される作品に仕上がっている」
2 キャラクターの魅力
カエル「そして次に語るのがキャラクターについてだけれど……」
主「これが原作からそうだけれど、特に女性陣のキャラクター設定がうまいよね。
正統派美人であり、ダンサーとしてもバランスがいい雫。
妹系であり、ずっと健気な女の子で引っ込み思案な真子。
そして勝気で暴れ馬な千夏。
この3人のキャラクターが立っている。それは男性陣も同じで、正統派のクールなイケメンの兵藤に、イケイケな賀寿、そして気弱で誰にでも合わせてしまう多々良という組み合わせになっている」
カエル「性格的なカップルバランスもすごくいいよね。
正統派美人・イケメンでクールな組み合わせの清春、雫組。
お互いの欠点を補いあうような赤城兄妹。
そして赤城カップルとは逆の立ち位置になる多々良と千夏ということだね」
ドレスの色で表現
主「そしてアニメでは女性が着るドレスの色にも注目してほしい。
最初の公式戦で多々良が眺める中で雫が来ているのは白いドレス。そこにはこれから多々良が入る競技ダンスの世界への憧れや、雫に対する憧憬の思いが込められている。
一方で天平杯での雫は紫色(黒)の服を着る。これは最後の試合で民絵が黒い服を着ているのと同じように、多々良たちが乗り越えなければいけない壁(敵役)であり、大人の……ベーシックな魅力に溢れたダンスをすることを示している」
カエル「雫が紫なのは、やはりまだ黒に徹しきれていない……少しは憧れ(白)が混じっているってことなのかなぁ?」
主「そうだろうね。
一方の真子は黄色いドレスを着ていて、本来黄色というのは行動的、明るい色とされている。引っ込み思案だったけれど、その後にすごく積極的になって真子が輝くのは、このドレスの色が黄色というのも大きいんだよ。
そして千夏の赤は、もう情熱の色だよね。千夏らしい色であり、多少荒々しくても人を惹きつける色である。
このように、それぞれのイメージカラーやその時の立場、状況、性格、何よりもダンスの性質によって女性陣のドレスの色が変わっていく。
これはマンガでもカラーイラストでは力を発揮するかもしれないけれど、アニメになった時はさらに力を発揮するよね」
カエル「色の力と動きの力かぁ……」
主「例えば周囲の色を黒くして、多々良のシャツの白と千夏の赤が映えるように演出していたりするよね。
こういった1つ1つをしっかりと計算することによって、動いた時の快楽性、動かない時でも惹きつける魅力が備わっている作品に仕上がっているわけだ」
この先、原作に期待すること
カエル「では、そう言ったアニメとしてのうまさとか、そういうのを抜いた時の感想としてはどうだった?」
主「自分は毎月原作を読んでいるから、この先どうなるんだろう? というドキドキ感はあまりなかったけれど……でも最後は鳥肌がたったし、綺麗にまとまったんじゃないかな?
それから『なぜこの競技を続けているのか?』という問いに関しては、やはり多くのダンサーのみならず、クリエイターにも刺さる言葉であって……釘宮さんが帰ってきたことというのは、例えば事故にあって腕が動かなくなった漫画家とかさ、そう言った様々な困難にぶち当たっても戻ってくるという気概に対して、多々良の尊敬するという言葉は正しくその通りだと実感した」
カエル「この手の作品って『たった1年で10年の経験者を超えられるわけがない』って思いがどうしてもつきまとうけれど、説得力があったもんね」
主「アニメはこれでおしまいだし、原作ストックもないからここで続編も期待できないだろうけれど……この先も見てみたい! と思わせる出来だったんじゃないかな?
まだ多々良の父親にダンスを見てもらったりとか、色々とやるべきことも残っているし」
カエル「この先、もしかしたらラストの展開も原作と変えてきそうだけれど、そこも含めて楽しみにしています!
体調に気をつけながらまた連載再開をお願いします!」
最後に
カエル「月マガのアニメって『四月は君の嘘』とか、結構恵まれている印象があるよね。他にも『ましろの音』とか、傑作もあるからアニメ化してほしいけれど……」
主「ましろは三味線とか色々あって難しいのかもなぁ……音楽ものって独特の難しさがあるらしいし。
でもテレビシリーズでもただ動かすだけじゃなくて、止めることがどれだけ威力を発揮するのか? ということがよく分かるシリーズになったんじゃないかな?」
カエル「アニメ好きの中でも結構話題だよね」
主「まあ、すごく売れる作品ってわけではないだろうけれど……でも半年間すごく楽しませてもらいました。
ありがとうございました」